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不遇の錬金術師  作者: 秀一
最終章 大戦編
103/146

103話 セラVSエルマー


 正直それは意外……、というより、完全に埒外の行動だった。

 

 何しろ敵は完全武装の重装騎兵の群れ。その中に、単身、普段着で飛び降りたのだ。エルフの女性が。

 

 おかしいだろう。

 

 実際、彼女が飛び降りたことにパラディンたちも面食らっていた。が、すぐに笑い始めた。

 

「ぎゃははははははは!」

「こ、こいつおかしいぞ!」

「笑えるううううう! ぎゃははははは!」

 馬鹿笑いするパラディンたち。

 

 その気持ちはわからないでもない。城壁の上に居ては手が届かない相手も、今や目の前にいる。千載一遇の好機だ。

 

「ははは! 剣聖殿は、よほどの馬鹿でいらっしゃるらしい」

 エルマーもそう言った。

 

 当の本人は、剣の柄に手をかけていた。抜刀しようか迷っているようだ。いや、もう余裕があるとは思えない。敵のど真ん中にいるのだ。

 

「ひいい! フェ、フェイさん!? どうしましょう!?」

 混乱しているエドウィン君。当然だろう。

「エドウィン、すぐさまカランに戻り、生徒たちに武装させて援軍として戻ってこい」

 僕は命じた。

「わ、わかりました。先生は!?」

 そう聞くエドウィン君。

「僕はセラさんの戦いを見届ける」

 僕はそう言った。それぐらいの責任は果たしたい。

 

 エドウィン君は走って行った。それにしてもだ。セラさんは何を考えているのか。正気とは思えない。

 

 この城壁を壁にすれば時間は稼げたはずだ。ハイランドの防備は十分とは言えないだろうが、数カ月は持つ。わざわざ城壁の外に出るなんてどうかしている。だがもう、どうにもならない。彼女に任せるしかない。

 

「それで剣聖殿、降伏してくださるのかな?」

 そう聞くエルマー。

「……? 何故私が降伏せねばならん」

 そう聞くセラさん。

 

 笑うエルマー。

 

「いやいや。まああんたは目が見えないのかもしれんが、この状況、どう考えても降伏か死かしかありえねえぜ。もっとも、アルパ王国では異種族は奴隷か死と決まったんだ。あんたもロクな目には会わねえだろうがなあ!」

 そういうエルマー。

 

「狂っているな。どうしてそんな国に従う?」

 そう聞くセラさん。

 

「ああん?」

 そう言うエルマー。

 

「今や世界は開けている。色んな人が集い、協力し合ってこそ未来は開けるのだ。他種族を排除しても意味は無いだろう」

 そういうセラさん。

 

「ケッ! そんな御託は要らねえんだよ。おい野郎共、このゴミを片付けろ!」

 叫ぶエルマー。

「了解! 死ね!」

 セラさんに剣を突き出す兵士。

「ミスティコ!」

 抜刀するセラさん。剣から緑色の光が放たれた。

「うっ!?」

 目がくらむパラディンたち。

 

「ぎゃああああ!」

 叫ぶ兵士。鎧の隙間を刺され、絶命した。

 

「上等だ! 抜刀!」

 叫ぶエルマー。騎士たちが剣を抜いた。

「突撃! 踏みつぶせ!」

 ドドドドドドドドド、と重装騎兵の突撃がセラさんに襲い掛かる。3騎!

 

 その一人目の突撃を華麗にかわし、馬を横から突き刺す。ヒヒーン! と叫んで倒れる馬。二人目の攻撃、三人目の攻撃もかわした。

 

 ひらりと木の葉のようにかわすセラさん。騎士たちの目にも警戒の色が戻る。

 

「なめるな!」

 剣を振り、襲い掛かる騎士。だがその剣を弾き、目を切り裂いた。

「うぎゃあああ!」

 叫ぶ騎士。逆方向から襲い掛かるもう一人の攻撃をかわし、背後に一撃を加える。

「があっ……」

 倒れる二人。

 

 剣聖。その伝説。

 

 もちろんアルパ軍も、それぐらいの事は知っていた。が、知っているのと実際に見るのは違う。

 

 実際に、その剣が血肉を食らうのを見て、やはり実感するものがあったのだろう。パラディンたちにも、躊躇の色が浮かぶ。

 

「ひるむな! 突撃!」

 突撃を命じるエルマー。その命令は絶対だ。

 

「うわあああああ!」「死ねええええええええ!」「うがああああああ!」

 突撃する騎士たち。

 

 だがその攻撃はすべてかわされ、鋭い一撃を受け、倒れる騎士たち。

 

 まるで大人と子供。

 

 騎士たちも、アルパ王国で選抜され、厳しい訓練を積んできた。ゆえに自信はあったはずだ。それでも、遠い。恐るべき実力差。

 

 僕も感心していた。これほどか、と。

 

 いつしか、騎士たちは突撃をやめた。無駄だと気付いたのだろう。

 

「おい! 突撃を命じたはずだぞ!」

 叫ぶエルマー。

「し、しかし団長。あれには、とてもかないません……」

 騎士はそう答えた。

 

「冗談じゃねえ。冗談じゃねえよ……」

 エルマーはそう言って、剣を抜いた。

 

 動揺はしているはずだ……。しかし、彼の剣術も恐るべきものだった。魔法学校では完全に別格の実力者だった。

 

 その剣を構え、正眼の構え。セラさんは自然体だ。

「食らえ!」

 斬りかかるエルマー。受けるセラさん。ガキン! と火花が散り、押される。

「!」

 すっと下がるセラさん。しかしエルマーはそのまま前進し、強引に押し切る!

「ミスティコ!」

 叫ぶセラさん。魔剣の力で、間合いが取られた。

 

「やはり魔剣か」

 そういうエルマー。魔剣について、知っているのか。

 

「魔剣を手にした剣聖と戦って、怖くないのかな」

 そう言うセラさん。

「怖くなどない。もうその剣は見切った」

 そう言うエルマー。

「見切った?」

 そう聞くセラさん。

 

「そうだ。そのためにパラディンを何人か犠牲にしたからな」

 そう言って笑うエルマー。

「……腐っているね。やはりその剣、ここで断たせてもらう」

 セラさんは剣を構えた。初めてだ。

 

 その構えは、剣を前に突き出す構え。守備的な構えだ。大してエルマーは上段、力任せの攻撃構え。

 

 エルマーの方が、単純な筋力では上のはずだ。その点は危険。

 

「終わりだ!」

 斬りかかるエルマー。受けるセラさん。ガキン! と押されるセラさん。

「くっ」

 何とか剣を回し、いなすセラさん。しかしエルマーは逃がさない。

「はあ!」

 どご! と腹に蹴りを入れた。

「うぐ!」

 ダメージを受け、撤退するセラさん。再度、剣を構えた。

 

「行けるぜ隊長!」

「やっちまえ!」

 叫ぶ生き残りのパラディンたち。

 

「セラ様……」

「セラ様、負けないで!」

 ハイランドのエルフたちも、祈るように見つめている。

 

「残念だよ」

 セラさんはそう言った。

「? 何がだ?」

 そう聞くエルマー。

「君のような良い剣士を、殺さないといけない」

 セラさんはそう言った。

「上等!」

 斬りかかるエルマー。渾身の一撃だ。

「ジェイク!」

 セラさんは叫んだ。ガキン! と剣がぶつかる。

 

 ……?

 

 その時何が起こったのか、説明するのは難しい。

 

 ……。

 

 ただ、揺らめいた。何が? わからない……。

 

 考えてみれば、あの剣については、僕が詳しかった。事実、あの剣に斬られたのだ。どうやって? それはわからない。

 

 事実、エルマーにも意味不明だっただろう。

 

「うっ……? ????」

 エルマーは、全身をズタズタに切り刻まれていた。

 

 その事実に気づくまでが数秒。彼が絶命するのに十分すぎる時間だった。

「ぐはっ……」

 ブシュアアアアアアア! と鮮血を噴き出し、彼は倒れた。

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