10話 二人のエルフ
僕はいよいよ旅を始めた。長い旅になるだろう。
西から東には、大河が流れている。この河をさかのぼるように僕は歩いていき、西部のベルクランドへと向かう。
距離は相当にあるはずだ。楽ではないだろう。
ギャアギャア、とカラスの声が聞こえる。不吉だ。
広い草原を僕と馬は歩いていく。何もない緑の草原だ。本当に広い。
「こんなところがあったんだな……」
そんなことを言う僕。僕はあまり街から出たことはない。危険だからだ。しかしもう引き返すわけにはいかない。
あたりを見回していると、突然美しい歌声が聞こえて来た。
聞いたことの無いような美しい声だが、言葉は聞き覚えがある。エルフの歌声だ。
歌が終わると、僕は近づいていった。
「こんにちは」
僕は話しかけた。
「ああ、こんにちは」
そう答えた、長身の男のエルフ。緑の髪と整った顔、男でも美しい。
「私達の歌声を聞いていたのですか? しかし人間ではわからないでしょう」
そういう女性のエルフ。緑色の髪だ。
「わかりますよ。師匠に教えてもらいましたからね」
僕はそう言って、一節をエルフの言葉で歌った。
「ははは、下手糞だな。しかしまあ、嬉しいよ」
笑う男のエルフ。
「しかしこんな所で何を? まだ子供のようですし、一人旅は危険ですよ」
そういう女性のエルフ。
「師匠の命で、旅に出ています。ベルクランドを目指しています」
僕は言った。
「ちなみにその師匠と言うのは?」
そう聞く男のエルフ。
「ブランカと言います」
僕は言った。
「ああ、あの錬金術師か。元気か?」
男のエルフはそう聞いた。
「もちろんです。ご存じで?」
そう聞く僕。
「ああ。凄腕だからな。我々エルフの間では、錬金術師の評価はとても高いのだよ」
そういう男のエルフ。
「そうなんですか。意外です。僕はいつも馬鹿にされて、いじめられてますので」
僕は言った。
「まあ……」
同情してくれる女性のエルフ。
「我々もちょうどベルクランドへと向かっている。どうだ? 共に行かないか」
そういう男のエルフ。
「ぜひ! 僕はフェイと言います。あなた方は?」
聞く僕。
「私はイルヴァと申します」
女性のエルフはそう言った。
「私は人間にはクリフと名乗っている。そう呼ぶがいい」
クリフさんはそう言った。