7 むしさされてんごく。
そういえばね、この間親戚の家に行ったんですよ。刈った雑草を、片付けようと思ってね。で、完全装備して散乱している雑草の上を歩くわけです。
「あークモの巣上に張ってたけど、なんかなくなってんなー」
とか思いながら。
そしたら、足元で何か動いてるのに気づいてしまったんですよ。わさわさぁって。ん?まっくろくろすけかな?なんて思って、かがんでよく見てみると・・・・
数えきれないほどのちっちゃいクモが、足元を這ってたんですよね。一分で帰宅準備を整えましたね。つまり何が言いたいかっていうと、「クモって気持ち悪いよね。」ってことです。
「・・・・カミさん!?オオカミさん!?」
大音量の爆音。俺を呼ぶ声。飛び交う魔法。弾ける地面。舞い散る赤い霧と肉片。鳴り響く破砕音。消える命の灯。精神をかき乱す断末魔。何をそんなに慌ててるんだ?目に涙をいっぱい貯めて、俺の名前を呼んで。
「ネリ・・・・エル?」
「オオカミさん!起きて!起きてください!」
「あ・・・・?あ、あ」
無理だ。眠い。もう、起きてられない。なんか、瞼が重い。目を・・・・開けてられない。
「助けるって!絶対に助けるって言ってたじゃないですか!助けてやるって言ってくれたじゃないですか!全部助けるって!」
「助・・・・ける?」
何を・・・・?助ける?俺は確か、昨日夜空の星を見て眠ってから・・・・起きたらここで。助けるなんて一言も言ってない・・・・。
「助けてやるって言ったじゃないですかぁ」
「・・・・」
そんな顔したら、助けずには居られないよな。全く、俺は今、めちゃくちゃ眠いっていうのに。仕方ない。もう一仕事、全速力で片づけてから、寝るとするか!一体、コイツはどこまで迷惑かけれ――――――――
「オオカミさん、オオカミさんってば!」
しつこいなっ!今起きようとしてるところだろ!かっこいいとこじゃん!もうちょっと待ってよ!もうちょっとだけいい思いさせてよ!あ、待って!遠ざかる!待ってぇ!
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「あ、起きた」
「・・・・おはよう」
「おはようございます!」
「・・・・何、してんの」
「え?朝ですし、起きないと」
「あぁ、ありざいっす・・・・」
まだ寝ぼけてサボタージュしている脳を無理やりたたき起こす。あ~職務放棄はダメですよ~。起きてくださーい。勤務時間でーす。
「なんか、妙に不機嫌ですね。寝起き悪いんですか?」
「それもあるけど・・・・」
「もしかして、魔石の副作用とかあったりします?」
「んー・・・・大丈夫だと思う」
まぁ、不機嫌な理由が夢で俺が活躍しそうないい場面で起こされたからなんて、ふざけたこと言えないよな。うん。でも、仕方ないと思うんだ。健全な男がこんな状況に置かれたら、ちょっとワクワクするくらい、正常なんだよね。
しかし、ただワクワクするってだけじゃやってらんないな、コレは。自分自身が魔物になったことによって、それが分かる。今の俺はネリエルからすると、「強くなっている」とのことらしいが、それは恐らく、元から比べるとという話だ。油断せずに、慢心せずに。そうやっていかないと、身が持たないだろう。
「今日はどうします?」
「まず、ギルドに行って報告しなくちゃな。昨日は色々あったせいで疲れ果てて、着いて早々寝てしまったわけだし」
「ですねー」
昨日は門が閉まる直前、本当にぎりぎりのタイミングでこの町に着いた。色々と衝撃的な出来事があったせいか、宿を探してすぐ泥のように寝てしまったのだ。しかし、値段の割に良心的な宿で助かった。・・・宿の主人、俺の事をみてギョっとしていたな。入ってしまって大丈夫だったのだろうか?
まぁ、もう入ってしまっているのだからどうしようもないし、面食らいながらも宿の主人が何も言わなかったということは、大丈夫ということだ。このことを考えるのはもうやめよう。そんなことより、今後の事を二人で話し合わなければ。
「多少報告の時間が前後したところで大した問題じゃないだろうし、飯を食ってからでもいいと思う」
「うーん」
「どうした?」
「私の仲間が無事なのかって少し・・・(ポリポリ」
「気になったか」
「まぁ、今回限りの即席パーティーですけど、少しの間一緒に居ましたから・・・」
「そうか。じゃ、まずはギルドに行こう。報告のついでに確認すれば、それもはっきりするだろう。・・・しかし、さっきから気になっていたんだが」
先ほどからシリアスな雰囲気だというのに、一つ視界の端に移り、雰囲気をぶち壊している物がある。シリアスなのに、それのせいで何処か不真面目と言うか、ギャグっぽい雰囲気になってしまっている。
「ん?(ポリポリ」
「どうした、その赤い点々は」
「あ、ああ。これは毒虫ですよ」
「ど、毒?」
「血と魔力を吸う虫ですよ。おまけに毒液を注入してきます。」
ど、毒液?そんな危ない虫が普通に居るのか、この世界は。しかも、ネリエルもそれに慣れている様子だ・・・。ネリエルが言っていることが本当なら、いまキミは毒を盛られている状況にあるワケなんだが、何故そうも平然としていられる?
「だ、大丈夫なのか、それは」
「ん?ああ。毒と言っても、痒くなる程度ですよ(ポリポリ」
「あまり掻かないほうが良いんじゃないのか?痕になるかもしれんぞ」
「なったらポーションぶっ掛ければ治るからだいじょーぶ(ポリポリ」
「ああ、そう・・・」
ポリポリと目の前でずっと掻かれると、なんかこちらまでつられて痒くなってくる気がする。しかし、こちらの世界にも蚊のような虫がいたんだな。・・・他の害虫とかも居るのだろうか。Gとか、GEJIとか。
「まぁ、ポーション以前に痒みに良く効く薬があるんでさっさと掛ければいいんですけど」
「なんだ、じゃあ刺されることなんて気にしないで毎回それを掛ければいいんじゃないのか」
「・・・・ふっ。脚がうじゃうじゃついててうねうね動いてても?五センチくらいの全長で、長細くて素早いの。それでも、大丈夫って言えますか?」
・・・・背筋がぞわっとなり、全身の肌が粟だった気がした。といっても、オオカミになっている今、どういう仕組みで鳥肌が立ってるのか、もしくは立ってるような気がするかはわからん。
「・・・は、羽虫じゃないのか。それは流石にキモいな」
「でしょう!?」
良く考えてみればさ、毒を持ってるクモなんて早々いないのに、女子はクモが大嫌いだ。毒があるかもしれないからなんて、答えるやつはいないだろう。答えは単純。それは、姿かたちが本能的に嫌悪感を掻き立てるからだ。っていうかね、俺もクモ大嫌いなんだよね。元結構がっしりした体格の大男だっていうのに。Yシャツもまくってるし。・・・・それは関係ないか。
「まぁ、そんなこと言ってても仕方ないかー」
「まぁ、そうだな。こんなことしている間にまた時間がたちすぎても困る。早めに出発するとするか」
「早速出発しましょう!」
そわそわしているネリエルをみると、やはりこちらも釣られてそわそわしてしまう。よく考えたら、今まで異世界っぽいことはあまりしていない。俺が触れた数少ない異世界要素、『冒険者』と『ゴブリン』くらいだ。街並みや美食、ケモっ娘やエルフ!そして、もちろん冒険者ギルド!なかなかワクワクしてきたぞ。
「くふふ・・・・」
「え、どうしたんですか?お腹痛いんですか?」
「・・・・」
癇癪をおこして教室で暴れた小学生みたいな扱いをされてしまった。なんだこれは。なんか、納得できないものがあるな。まぁいいか。ワクワクな俺の前にネリエルの小言なんて無意味だ。
因みに、作者は虫全般ダメです。羽虫もダメです。ハエもダメです。蚊もダメです。カブトムシも無理です。