3 成長したから狩りをする。
結構一気に投稿しますよー
※現在大幅加筆修正中です。ちょーっと色々変わるかもしれません。(新キャラの登場しかた等)
こうして、俺はオオカミになった。最初は食生活に慣れることが大変だったが、味覚も何もかも人間だったころとは違う。直ぐになれた。というか、順応するしかなかった。慣れなきゃ餓死するだけだ。慣れれば意外に生肉もうまい。・・・この世界のオオカミは想像以上にファンタジーだったし。
「全く、お前さんは。生まれて3月も経つというに、どうして狩りが巧くならん」
「生まれて3ヶ月で狩りに出る方がおかしいんじゃぁ・・・」
「喝!五月蝿いわ!若いもんは口ばかり達者で・・・・お前の母も悲しんでいたぞ」
俺が目覚めた時、真っ先に見たデカ狼。このオオカミが、長老だ。すっごくデカくて強いらしいが、性別はメス。なんていうか、親方というかなんというか。ベテランの兵士10人相手に楽勝と言っていたのは半信半疑だが、頼れるのは間違いない。
「それは・・・・私も、狩りはしたいのですが。どうしても地形とか足場に慣れなくて」
「ま、それについては仕方あるまい。前世とは体の動かし方も大分違うだろう」
「最初は歩行すらまともに出来ませんでしたからね」
「実は、その辺りから怪しいと思っていた」
そう。前世の記憶については、長老に話している。と言っても、自分から進んで話したわけではない。俺の微妙に不自然な様子を感じ、何か隠し事をしているということを見抜いてしまったのだ。長い間生きているだけあって、そういうところの気の周りは化物級だ。
「そ、そうでしたか・・・」
「そう気を落とすな。儂は正直、お主の前世が人間だと聞いた時ビックリしたぞ。人間と我等の食は随分と違いがあるからの。食の違いに適応できたということ自体、凄いことなのだと思うぞ」
「私はオオカミが仲間同士で話せるということに驚いていますよ」
「なんじゃ。そんなの普通じゃろ。人間だって話をするではないか」
「それはそうですが・・・・」
俺は、オオカミが話せるという事実を未だに受け入れきれないでいる。前世でのオオカミ同士のコミュニケーションといえば、ボディランゲージ。表情の動きや、声などで意思疎通をするというのが通説だったはずだ。これは、凛華がストーリーを考えるための資料集めに付き合わされた時に知った知識なのだが・・・・この世界には通説が通用しないらしい。もしくは、オオカミはボディランゲージなんて使っていないか。ともかく、その知識をもとにまともに動けるようになって初めて、ボディランゲージで長老とコミュニケーションを取ろうとしたのだ。そうしたら・・・・
『何やっとんのじゃ、お主』
と、言われたのだ。あまりにびっくりしたので、はぇ?と言ってしまったのを覚えている。・・・・もしかしたらそういう奇行の積み重なりが隠し事の判明に至った理由なのかもしれない。というか、恐らくほぼ間違いないだろう。
「ほかの生物が何をしゃべっているか、知る方法なんてありませんでしたから。喋っているのか、威嚇しているのか」
「ふむ。難儀な・・・まぁ、良かろう。魔力が馴染んだおかげで言葉も翻訳されておる。それに、今は前世にいるわけではない」
「心は前世に置いてきてしまいました」
「・・・ふむ。お主は、まだリンカという娘のことが気になっているのか」
「はい。私の知り合いですから」
「この世は生きるか死ぬか。何処に居るとも知れない、他人の事を気に掛けて死んだら、面白くないだろう」
「不安なんです。二つの記憶を共有してしまってるので、他に話し、共感できる人物がいないと・・・・」
「ふむ?」
「ただの自分の都合ですが、いつか心が壊れてしまいそうで」
もしかしたら、凛華を見つけたいというのは、俺のせいで凛華を失いそうになったという事を紛らわせたいからなのかもしれない。いや、違う。出来るだけ無事でいてほしい。ただ単に、知り合いの安否が心配なだけだ。今は、そう思っておこう。
「なるほどの」
「もしかすると、前の世界の想いを引きずってるのかもしれません」
「ほう。それは、面白いな。だが、ならぬ」
「・・・・何故ですか?」
俺の話に興味深そうに耳を傾けていた長老だったが、表情を硬くして、一転主張を切り替える。好印象を感じていたため、その反応があまりにも意外に感じる。
「周りに説明できる材料がそろっていないからだ。お前が何かを探したいと言って、周りの者たちは納得し大手を振って送ってくれるか?それは難しいだろう。儂以外に前世のことについて知ってる者はおらん」
「それは・・・」
「・・・今はまだ待て。待つのじゃ。儂も外の世界を歩いていた時期がある。だから解るのだが、人間は恐ろしい。あやつらは人知を超えた者や、話の通じぬものは全く受け入れようとせぬ。これをみぃ。この儂の傷・・・これは、人間に付けられた物だ」
長老の左目を縦に走る傷跡。ずっと気になってはいたが、まさかそれが人間にやられたものだったとは。・・・たしかに、これは少し考えた方がいいかもしれないな。どう人間に溶け込むか。犬に変装でもして、信頼できる人間にペットとして連れてもらう?・・・人間が信用できないって話をしたのに?
「・・・・さて、この話は終わりだ。家でお前の母が待っているぞ」
「そう、ですよね。・・・・前世の事とか相談に乗っていただいて、有難うございます。では、失礼します」
「うむ」
この世界で、俺を最も理解してくれている存在、母狼。俺がこの世界で目を覚ました後、優しくなでてくれてからずっと、そばにいて支えてくれている。といっても、まだ3ヶ月なのだが。でも、幼児期と違って、はっきりと意識がある分、3ヶ月はとても長く感じる。その長く感じる間、支えてくれた母。心配をかけたくない。だけど、凛華・・・・凛華とは中学校からの付き合いだ。時間とかでどちらが大切かなんて決められない。だけど・・・・凛華・・・・。
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「ただいま」
「おかえりなさい。ご飯食べる?」
「うん」
「今日は、シカのお肉よ」
「うん」
「どうしたの?元気ないみたいだけど・・・・長老に、何か言われた?」
「まぁ、そんなとこ。じゃ、いただきます。・・・・うん、んまい!」
長老は、『今はまだ待て』そう言っていた。だったら、いつかはチャンスが巡ってくるかもしれないということだ。なら、その時まで、食べて、強くなって、準備をする。いつか、凛華を探しに行くために。今は、強くならなければ。
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「仕方ないかぁ」
俺は長老に怒られたくないという意地をあきらめて、ため息をつく。
今回の狩りは、オオカミを襲ってきた人間を狩るというものだった。もう人間に対して『人を殺してはいけない』なんて思っていない。忌避感はかなりあるが・・・・ここはあの世界とは違う。殺らなきゃ殺られる。人間を食べるわけじゃない、今回のは報復と、討伐隊の殲滅だ。殺されたのは近所のオオカミ。俺も何度も話していたし、狩りの仕方について教わったこともある。だから単純に恨んでもいた。
しかし、人間って本当に面倒くさいな。恐怖に駆られてパニックになった人間の考えが全く分からないのだ。どこに動こうとしているのか、何をしようと思っているのか。一人は自分でのどを掻っ切って自殺していたし。その点俺以外は・・・・
「何をしているんだ。お前が一番槍だったろう?」
「人間がどうしようとしているのか全く分からなくて。すみません」
「まぁ、確かに難しいが。パニックになった人間は、動きが単純になったりするのもいるし、バラバラになったりするのもいる。今回はバラバラだな。お前は、単純になる方は簡単に狩れるようになったんだから、複雑な方を狩る練習をしろ」
「はい」
あの決意から二年。俺は、少しは強くなった・・・・はずだ。パニックで直線的にしか動けなくなったやつを狩るのは、簡単だと感じるほどにはなれた。問題は、動き回るタイプだ。こっちは、成功率30パーセントくらいで狩れる。だけど、それじゃあまずいだろう。一人で旅をして、人を探そうとしているのだ。危険な道中なのに、そんな不確実だとすぐに死んでしまうだろう。はぁ。どうしたものか。
「何をそんなに悩んでいるか知らないが、俺たちは強さがすべてだ。その悩みも、力がなくちゃ解決できないぞ」
「そうですよね」
そう。この世界は、オオカミだけに限らず、力がいる。力があれば、できることは圧倒的に広がるのだ。魔物や盗賊などを気にせず、旅に出ることもできる。商人をしていれば、魔物にも、盗賊にも襲われる。だけど、高い護衛代を払わずとも、自分で守ることができる。そう考える商人もいるらしく、たまにごついおっさんが荷馬車を操りながら道を通るのを見る。いまのところ、三人しか見たことないけど。
とにもかくにも、この世界は力がないとやっていけない。そのためにも、今はただ日々狩りの技術を研鑽して、強さを身につけなければならないのだ。
すみません、没にした古い設定を引っ張り出してきました。この世界では、はるか昔に人間の賢者が使用した『世界級魔法』により、人間同士での会話は自動翻訳されるようになっています。世界級魔法は、世界そのものを変える魔法なので、効果は永続します。
それを模倣した各種族の賢者たちが、パクって自分の種族用に流用しています。