39 悪夢払いの宣告者
最近、作業で疲れて寝てしまうということが多く、更新頻度が減ってしまいました。友人との約束も、疲れて寝過ごしたせいですっぽかしてしまい、大目玉でした。
眠気が覚める魔法のクスリってどこかにないかなぁ・・・・
「・・・ックはぁっ!?」
不気味な殺気と悪寒を感じて、俺は体を跳ね起こした。木造りの屋根に、やはりオオカミな俺・・・・。どういうことなのだろうか。さっぱり今置かれた状況が理解できない。さっきまで、俺はオフィスに・・・・?いや、そもそもなんでいきなりオフィスに居た?
「ここ・・・は?」
「起きたか」
「・・・ログウェルド」
ログウェルドだ。俺の瞳にヤツの姿をとらえた瞬間、自然と目に憎しみの色が燃え上がり、砕けそうになるほどに歯を軋ませる。もうなんで憎しみを感じるのかは定かではない。しかし、感じる憎しみに身を焼きそうなほどに、憎しみを感じてしまう
「・・・まだ抜けきっていないか」
「なにをごちゃごちゃと」
ぼそっと何かをつぶやいたログウェルドに対し、俺は因縁をつけ、吐き捨てるように絡む。
「もう、いい。しばらく寝てろ」
「な、ぐぶぁッ!?」
驚く暇もなく・・・・いや、実際には一瞬だけ驚く余裕はあった。しかし、一瞬しか驚愕することを許さないスピードで打ち込まれた拳を、俺の腹に強く打ちつける。肺から一気に空気が出されるような感覚とともに、意識が急に真っ白になっていく。意識を手放す寸前に見たログウェルドの目は、何かに失望したような、残念に思うようなそんな目をしていたように思う。
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「・・・・が、ぁッ」
「コルくん、起きたんだ」
「・・・・ネリエル」
とんでもない頭痛と、舌に残る最悪な味に意識を覚醒させられ、ベッドから飛び起きる。変わらず、ここは木製の屋根。どうやら、変な世界は脱したようだった。あの状態になっているときは気づかなかったが、おそらくそういうことなんだろう。あれは、幻覚で、今が現実。それ以上でも以下でもないんだろうが・・・・
しかし、今はそんなことを認知することはできない。起きて早々頭痛の波に襲われ、更にはクソマズイ味が舌に残っている。おまけに、自分がとんでもないことをやらかした可能性大な人が、ベッドに腰かけてきているときたもんだ。かつて、起きた瞬間にここまでマズイ状況に陥ったことがあるだろうか。いや、ない。俺は、断言できるだろうな。
この状況で俺が喋った言葉は「ネリエル」だけだ。それも無理ないよな?だって、自分の記憶が飛んでいる間に何かをしたってことは変えようのない事実で、しかもそれが原因でネリエルは泣いていたんだぜ。おまけに、今は何かを悟ったかのような優しい目と言うか、諦めの入った目と言うか、諦観を感じさせられるというか・・・・。
「コルくん。コルくんは悪くないよ」
「いや・・・・」
ヤバイ。本当にヤバいよ。自分が圧倒的に悪いってわかってる状態での「お前は悪くない」って、本当になんて返事したらいいか分からない。だって、俺が100%悪いんだもの。俺がいちばん悪くないとして、じゃあ今回誰が一番悪かったんだ、ってことになるが・・・・俺だよ。ね?みんなも思ったよね。コルくんだな。コルダムだな。犬だな。って。俺は犬じゃねぇけど・・・・。
「あれはさ、合成麻薬だったんだって。私たちがしようとしてることの、完全逆バージョン。効果を高めて、依存度を高めて、効果もいろいろついちゃってって。」
「合成麻薬・・・・?」
俺は短く気になった単語を口に出すと、ネリエルがゆっくりと首肯する。合成麻薬。麻薬っていうのは、ログウェルドから聞いてた。だけど、合成麻薬・・・・?ってなんだ。すげぇバカな質問かもしれないけど、全く知らん。
でも、この世界基準で分かりやすく想像すると・・・・依存性のある植物とかを、色々ごちゃ混ぜにした・・・・って感じかも?もしかしたら人間に対してよりも効き目が強かったとかかも。魔物に対してはより効果的、みたいな。だとしたら、それを思いっきり吸ってしまった俺はどうなってしまっていたんだろうか?全く、記憶がない。何か、とんでもないようなことがあったような気もするけど、記憶がかすみがかっていてほぼ覚えていない。
・・・・そうだ。俺は、今こうして無事だが。アリスフィアは?アイツは、人間だ。もしアレが人間に対して効果的な麻薬だったのだとしたら、アリスフィアはいったいどうなってしまうんだろうか。俺よりも、明らかに吸っていただろう。もしかしたら、あの時の「たすけて」は本当に苦しくて、助けてほしかったのかもしれない。自分が意図して投げたと思ったものが、実は違うもので、苦しくて、助けを求めた。その時点で、取り返しのつかない状態にまでなっていたのかもしれない。
「アリスフィアは!?」
「・・・・アリスは、大丈夫。とりあえずは回復に向かってる」
「良かった」
それにしても、おかしな話だ。なにがおかしな話かって?・・・・まるで、タイミングをはかったようだ。これが、もしアリスフィアの故意的な行動ではなかったとしたら、アリスフィアの持ち物がすり替えられているという可能性が高い。というか、アリスフィアの様子もおかしかった。青ざめた様子で助けてって言ったり、一時回復した時も、何か釈然としないような様子だった。もしかしたら、何か疑問を感じていたのかも。自分が用意した者とは全く違た効果だったから、疑問に思った・・・・?でも、回復したからそれを口にはしなかった。
しかし、そうなった場合、明らかにおかしな点が浮かび上がってくる。気づかないだろうか『偽麻薬』を利用して、国家転覆を阻止するとともに、テロ組織などを芋づる式につぶそうとしているというこの状況で、『俺たちの知らない何者』かに、荷物を『高濃度で致死量に達する寸前の量の麻薬』にすり替えられた。偶然にしては、出来過ぎだろう。
そもそも、すり替えという時点で、個人の考えということはない。これは、全て俺の想像だ。アリスフィアが思っていた効果と違って、首をかしげたのかもしれない。思っていたよりもということは、日常でもそこそこあることだ。薪を入れ過ぎて思ったよりも火が強すぎた・・・・とか。しかし・・・・万が一。万が一俺の予想が正しかったとしたら。・・・・何か、組織的な動きがある。もしかしたら、俺達のこの行動は、すべて監視され、筒抜けているのかもしれない。
「・・・ログウェルドは」
「・・・おじいちゃんは、不届き物を炙りだすってどっかいっちゃった」
「そうか・・・・」
それきり、二人そろって口をつぐむ。何て言うか、とても気まずい。なにかを、したんだろう。間違いなく。それを、意識してしまうと・・・・いや、意識しなければまずいんだが。・・・・意識してしまうと、どうしてもどう償っていいか分からなくなってしまう。「コルくんは悪くないよ」なんて言われたものの、悪くないわけがない。幾らそれが薬のせいだったとしても、実際に動いたのは俺の身体だ。つまり、責任は俺にもあると言えるだろう。つまり、気まずい。どうしたものか・・・・。
「・・・・俺は、あのとき何をしたんだ」
「え?」
「お前、泣いてただろ?俺、あの時の記憶が飛び飛びで」
「ああ・・・・」
そういうと、視線を下に逸らし、何かを考え、こらえるような表情を浮かべる、ネリエル。やはり、それほどの事をしてしまったんだと罪悪感が胸を満たす。
「おじいちゃんに噛みついたの」
「え?」
「思い切り、肉が抉れるくらいの力で」
「噛んだ・・・・」
思い切り噛みついた。いや、殺す気で襲い掛かった。・・・・幾らログウェルドとはいえ、人間は人間。油断していて、魔力の鎧を解いていた時に、俺がかみついたらしい。自身の回復魔法ですぐ傷は治したらしいが、かなりの出血だったらしく、おじいちゃんの事が心配になったネリエルは、泣いてしまったのだろう。もしかしたら、意識を取り戻したきっかけは、ネリエルの声と血の味だったかもしれない。
「それはもう、殺すような勢いで。なんで、コルくんが急にそういうことをしだしたのかわからなかったし、おじいちゃんは血だらけだったから、怖くて」
「あ、ああ・・・・」
「でも、あの後すぐにコルくんが正気を取り戻して。それで、傷ついたような顔で出てっちゃったから、心配で見に行ったら、独り言をぶつぶつ喋ってるコルくんに遭遇したの。そのあとすぐにぶっ倒れちゃったけど。」
独り言でぶつぶつ・・・・だめだ。そこら辺の記憶が全くない。何か、重要なことがあったような気もする・・・・。独り言。だれかと、会話をしてた?それとも、してると思い込んでいた。幻覚か。もしかしたら、もう二度と帰ることはないだろうあの世界に想いを馳せていたのかもしれない。
「つまり、俺が幻覚をみて一人で暴れて、疲れて寝た」
「そういうこと」
「な、なるほど。それは何と言うか・・・・」
「微妙だね」
くすっと笑いながらこちらをからかってくる、ネリエル。すっかり、普段通りのテンションに戻ったようだ。よかった。いつまでも俺の事を恨んでいたらどうしようかと思った。
「しかし・・・・分からん。一体、なんで俺たちに?それに、こんな凶悪なモノを・・・・」
「私たち、短い時間で内部分裂しかけちゃったけどさ。もし、これが私たち以外だったらもっと取り返しのつかないことになっちゃってたと思わない?」
「・・・・まさか」
もし、今回の事がデモンストレーションだったら?俺たちを内部から切り崩すために、やった罠だとしたら?解散したことを確認して、それをデモンストレーション代わりにしようとしていたら?この町が危ない。早く、伝えなくちゃ・・・・!!




