38 夢か現かその間か
ちょっと遅れてしまいましたね。8分の遅刻です。もうしわけない!
※今回は、とてもとても不愉快な描写が多いです。気を付けてください。
「コルくん!」
「ネリエル、お前はなんとも思わないのか?このジジイのせいで、俺たちは死にかけたし、アリスフィアは今も生死の境をさまよっているんだぞ」
「それは・・・・」
ネリエルはログウェルドの方をチラリと見て、視線を伏せる。ネリエルにも思うところあったのだろう。俺を窘めても、内心今回のことはちょっとダメだとか思ってるのかもしれない。それは違う。全部悪い。ちょっとダメとか、そんな可愛いもんじゃない。
俺達だったから、今回は生き残れた。ネリエルに特別な魔石を授かった俺で、ネリエルが謎の魔法を打てたから。偶然。そんな、不確かなぶっ壊れた天秤のようなものの上に立った、勝利だったんだ。どっちに傾くかは、ただの運だ。あれほどの魔法が、うまく作動してたかも分からない。アリスフィアは即死だったかもしれない。アリスフィアが謎の薬品を撒いてなければ、俺も死んでた。今回はうまくはまっただけだ。
「うっ、ぐすっ・・・・」
「・・・・」
気付いたら、ネリエルが床に崩れるように座り、泣いていた。俺は、何をしたんだ・・・?あまり記憶がはっきりとしない。だけど、これははっきりと言える。俺は、どこかおかしい。今までずっと・・・だったのかは知らないが、今の俺は明らかに何かがおかしい。
「・・・ちょっと外出てくる」
「・・・」
背中に無言の圧力を感じ、なぜだか居心地の悪さを感じた。気まずいというか、何というか。俺は、痛む頭と熱くなった顔を冷ますために、隠し扉に魔力を流し、外に出た。
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「・・・なんだ、これ。おかしいだろ」
『』
さっきから、妙に視界がかすむし、手が震える。なんだ、なんなんだ。解らん。一体、俺の体に何が起こってるんだ?
「ぬぅあああああ!!!」
「ギギァ!?」
かすむ視界と意識を無理やりたたき起こして、近寄ってきたゴブリンを壁にたたきつける。・・・・明らかに俺の体に異常が起こっている。目は霞む。眠い。頭が痛い。吐き気。手が震える。腹が減る。・・・何かが猛烈に欲しい。怪力は解らん。でも、これって・・・・麻薬の禁断症状なんじゃないのか。
さっきも、気付いたらネリエルが座り込んで、泣いていた。ログウェルドは俺に軽蔑の視線を向けていたように感じた。もしかしたら、俺がその時に何かをした・・・・?ネリエルがガチ泣きするようなことを?もしかしたら、俺がネリエルを襲った・・・・?いや、ネリエルに欲情したことは無いし、人間に欲情することは今後もないだろう。もう、本能的に欲情出来無いのだ。
・・・・でも、もしそうだとしたら、ネリエルもログウェルも、俺を恨んでいるだろうし、軽蔑しただろうな。アリスフィアも、きっと俺のことを疎んでいるだろう。表面上は仲良くしているが、いつかは俺を殺すつもりかもしれない。
『』
「いや、待て。俺は何を考えているんだ」
アリスフィアがそんなことを考えるわけないじゃないか。もう、解んねぇ!!!何が起こってるんだ、本当に!!!考えられるとしたら、ネリエルがあの時に撒いた薬・・・・あれのせいとしか考えられない。アレが撒かれてから、すべてヘンになったんだ。ジェネラル達は苦しみだすし、俺はオカシくなるし・・・・。・・・・今度は、妙に頭がすっきりしている気がする。わけが分からない。多分、地球のドラッグとは比べ物にならない。これ、覚せい剤とか一つの効果じゃないだろ。何個か、効果が混じってる。
『』
「やめろ!!!さっきから頭の中でうるせぇよ!!!」
頭の中で知らないヤツの声が聞こえる。・・・・いや、これは知ってる声だ。これは。
「あれ、鈴木先輩?どーしたんスか、こんなかわいい姿になっちゃって(笑)」
「だ、大丈夫ですか?」
「ま、松島?なんでお前こんなところに」
目の前に現れたのは、細い傷だらけでくすんだ、使い込まれたような皮鎧を着た、松島だった。その装備の様子から、かなり長い間冒険者をやっていることが分かる。
「・・・お前、こんな世界に来てたのか。小林さんまで」
「あ、そーだ。先輩、俺、報告することがあるんスよ」
「なんだ?」
「俺、A級冒険者になっちゃいました!」
「は?」
おどけたような口調で報告する松島に、軽く殺意を覚える。いけないいけない。今日の俺は、ちょっとキレ安くなってしまってるからな。良く分かんないけど、頭も痛いし・・・・?あれ?なにか忘れてるような。
「ま、まァおめでとう」
「あ、あと小林さんと付き合ってます!」
「は、はぁ!?」
「もう、籍も入れました!親父さんとこへの挨拶、大変だったなぁ。横っ面をビンタされてさ。普通、脳天にゲンコツなんじゃねーのって」
「は、はぁあ!?」
またもふざけた様子で大事なことを報告する松島。俺は、コイツのこういうところが大嫌いだ。大切な報告は真剣に、報告すべきだろう。でないと、素直に祝福できない。
「あとは、センパイに朗報ですよ」
「な、なんだよ」
この流れで『朗報』。嫌な予感しかしなかった。もしかして、コイツも俺を殺しに来たのか?松島、お前は俺を車道に突き飛ばしたことがあったもんなぁ。俺が居酒屋で反省会をした後、軽く俺に説教されたお前が、腹を立てて、俺を突き飛ばしたことがあったよな。
「センパイ、凛華さんが見つかったんデスヨ!!!オメデトウ!!!」
「・・・・は?はァ?」
俺の明らかに不服そうな態度を無視して、またも大事な報告を、おどけた様子でする。ぱちぱちと手をたたくその様子は、こちらを敢えて怒らせるように仕向けているとしか思えない。そして、凛華も凛華だ。なんで、こんなどうしようもない男にホイホイ着いて行ってしまったのか。見損なったぞ。尻軽め・・・・。
「こうた、私・・・・あやとについて行くことにしたの。」
「・・・・」
「あやとはカッコいいし、強いし、A級冒険者だし・・・・デバッグの時にあまり文句を言わないし」
「・・・・まいう事じゃねだろ」
綾斗を褒めて、俺に対してはどうでもいいことを敢えてあげ、貶めるような言い方にプツッと来た。ダメだと思ったけど、もう遅かった。ノドまで出かかった言葉は、おかしな気分が加速させたのか、口から勢いよく飛び出す。
「え?」
「今いう事じゃねぇだろ!?デバッグの事とかどうでもいいわ!!!大体、俺がプログラム組んでんだから文句言ったっていいだろうが!!!お前は、何がしたいんだよ!!!」
「・・・・そういうところ、いつも一緒にいて嫌だった。疲れるから。でも、綾斗の横なら私は笑顔で入れる。女でいられる・・・・こうたとは、遊園地一緒に行ったことなかったもんね」
「あるよ・・・・子供の時」
「私は、今も遊園地行きたいんだよ?」
ワケが分からない。訳が分からない。わかが分からない。ワケが分からない。訳が分からない。わかが分からない。ワケが分からない。訳が分からない。わかが分からない。ワケが分からない。訳が分からない。わかが分からない。そんなくだらない理由で俺は貶められてるのか、このクズ共に。
「なんだ。モテちゃってるっすね、自分。もしかして・・・・フラれちゃったんすか?」
「なんだ、お前ら。そういうことか。そういうことなんだな。」
「え?」
「も、いいから」
臨界点に達した俺は、咄嗟に綾斗の腰の剣を抜き、切り払う。さすがはA級冒険者の剣。なんの抵抗もなく、バッサリと切れた。
やった。やったぞ。A級冒険者を、俺が殺してやった。じゃあ、俺はA級冒険者になってもいいってことだよなぁ?
「あ・・・?」
剣を持つ自分に違和感を感じ、手元を見ると、そこには手があった。当たり前のことのようだが、当たり前じゃない。人間の手だ。戻っている。足、手、腕、髪、顔。全てが元通りだ。
「元に戻ってる。手も、足も。全部俺のだ」
言いようのない満足感と、感動を覚える。このまま、どこまでも気分が高まって、涙まで出てきてしまいそうだ。うれしい。うれしい・・・・。俺の、懐かしい手足。これがあれば、色々なことが出来る。仕事から解放された俺には、なんだって出来るんだ。どんな可能性だってある。俺には、無限の可能性が――――――
ジジジッ
世界がブレた。柔い芝生がテクスチャのバグみたいにブレたかと思えば、下が均一に整え、模様がつけられた地面へと変化した。夢のような浮遊感を感じるも、なぜか意識ははっきりとしてきた。ここは・・・・俺の、かつての職場か。ここで、俺はプログラミングをしていた。みんなで、ここで働いてた。
見覚えのある、景色。しかし、俺の目の前でPCを打っているコイツ。コイツの後姿は見たことがない。なぜだか、前には回り込めないので、顔を見ることもかなわない。
一段落したので、デスクを立ち、他のデスクへと行くその男。どこか、その行動に既視感を覚える。自分の石じゃ全く動かなかった足が、その男の少し後ろを追従しているかのように、追っていく。男は、松島のデスク、小林さんのデスク、そして・・・・凛華のデスクへと順に訪れては、目の前で止まっていく。居ない。誰も、居ない。そうか、俺が殺したんだ。俺が・・・。瞬間、俺の視界は目の前の男と同化し、世界が赤く染まる。
「自業自得だ俺をバカにしやがって」
一応言っとくけど、何か嫌なことがあったわけじゃないよ!本当だよ!




