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狼転移(仮題)  作者: 三軸走行男
一章 テロリスト退治編
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37 誰が為の声か




「う、うわあああああ!!!」

「ぎゃああああああ!!!」


ゴブリンジェネラルがにやりと笑い、手にした剣を大きく振りかぶる。もう終わりだ!俺はここで、なにも出来ずに死んでいくんだ~!・・・・?めをつぶってしばらくたったが、何も起こらない。痛みの一つさえも感じないし、剣が振り下ろされたら感じる筈の、強い鉄の匂いもしない。


「・・・・?」

「ぐ、ぐぼぁっ・・・・」


恐る恐る目を開け、松明の眩しさに顔をしかめる。思い切り目をつぶってしまったので、光に慣れるまで多少時間がいる。オオカミは、人間みたいに便利な生き物じゃない。多少目が慣れて、見渡してみると・・・・鈍色の重々しい鉄の塊が、少女の身体を圧し貫いていた。アリスフィアは、口から血を吐き出している。・・・・え?どういうことだ?


そんなバカなことがあるわけ・・・・俺は、目の前の現実が信じることが出来ないでいた。会ってから約3週間。けっこうアリスフィアとは仲良くやってきたつもりだ。この世界で二番目にできた、友達。早くも一人失ってしまうなんて。


「そ、そんな。うそだ!」


遅れて、鼻を突くような異臭が漂ってくる。アリスフィアの、血の匂いだ。この、酢のようなすっぱいにおい、間違いなく・・・・?酢のようなにおい?


「ゲロボァッ・・・・」

「ぐ、グボロッ・・・・」

「げ、ゲグル・・・・ボロァ・・・・」


視線を起こすと、三体のジェネラルも血・・・・ではなくゲロを吐き出していた。一体何が起こっているんだ。一瞬アリスフィアの安全を確信してほっとするも、すぐに困惑が頭を支配する。目の前で起きているこれは、まさしく混沌と言ってもいい物だろう。おえっ。


「あ、アリスフィア?」

「コルくん、たすけ・・・・ゲロゲロゲロ」

「きったね!」


よく見たら、剣は俺からみてアリスフィアの奥の地面を叩いていたみたいだ。硬質な音が聞こえたものの、直後にアリスフィアが吐いたので、混乱してしまっていたらしい。ふぅ。


「ってか、また自滅かよ・・・・」

「コルくん、コル・・・・ゲ、ゲェー」

「ちょちょちょ」

「私は良いから、今のうちに止めを・・・・」


そういわれて、ハッとしたようにアリスフィアの言葉を思い出す。『これさえ当たれば』的なことを言っていたはずだ。正確には思い出せないけど・・・・つまり、アリスフィアは我が身を犠牲にして俺に止めを刺させるために・・・・?なんてことだ、泣かせるじゃねぇか。


「く、そ。私の獲物」

「前言撤回して良いかな」


どうやら、自分でやる気満々だったらしい。まさか、自分でやるつもりで自信満々に投げつけたくせに、自滅して行動不能になるなんて・・・・アホかな?無限にあきれられていられるけど、アリスフィアに泣かれたりジェネラルが回復したりしたら嫌なので、止めを刺していく。


「くっ!無駄に硬ぇな・・・・【魔力操作《硬爪》】」


ちょっとログウェルドに教わった魔力操作を使い、爪を強化する。集中しなきゃ使えないから、まだまともな戦闘では使えない。こういう、ゆっくりな場でしか使えないので、要特訓だ。と、ウンウン唸りながら集中してギコギコやっていると、ようやく一匹が絶命したみたいだ。体の中に経験値が満ちるのを感じる。


「さてと。大人しくしてろよ・・・・ふんぬっ!」

「グゲッ!」


集中状態が途切れた者の、制御を失った魔力はすぐに消えるわけじゃない。思いっきり前足でパンチすれば、この通り。爪がモゲたかと思うほど痛いけど、殺すことはできる。痛いけど。


「ちっ」

「コルくん、平気か?」


俺はアリスフィアが復活したところをみて、舌打ちをする。なにも、イジメようとしたわけじゃない。アリスフィアも一瞬傷ついたような表情をしたが、すぐに気付いて警戒し始める。


「ギュリヤアアアアアア!!!!」


そう、魔物よりも状態異常耐性が低い、人間のアリスフィアが回復したということは、ジェネラルはとっくに回復しているということだ。もしかしたら、俺が二番目に殺したヤツも回復していて、俺の隙を狙っていたのかもしれない。魔力が爪から拡散していくのを見て、こっちに来るのを待っていたというところだろう。


しかし、今回は予想をしていた。ふたりとも。だが、予想していたにもかかわらず、俺たちは一つも手を出せなかった。完璧に回復しきったと思っていたが、少し残っていたらしい。なんてことだ。策士策に溺れる。こういうことなのかな。策士は自滅しねぇだろ・・・・。


「ぐ、がぁぁあ!!!」

「げはっ・・・・!!!」


血走り気味の目を、強引にこじ開けているかの如く目を見開き、ヤケクソ気味に振るわれた斧がアリスフィアに襲い掛かる。まだ嘔吐薬で頭がぐわんぐわんしている俺は、アリスフィアを助けることが出来ない。というか、めまいの症状がだんだんひどくなってきている気がする。耳も聞こえなくなってきた。回復してきた気がするっていうのは何だったのか。


「ガァァァァァッ!!!!」

「ゲホッ・・・・」


くらくらした頭に喝を入れようとした瞬間、喉の奥から生暖かい空気が勝手に出ていくのを感じた。なんだ、これ。一瞬何が起きたか理解できなかったものの、次の瞬間理解した。というのも、少し遅れて焼けるような痛みを感じたからだ。


「ぐああああああ!!!!」


痛い。痛い痛い痛い痛い痛い!!!焼けるような痛みを感じるっ!しかも、体内から!もしかしたら、肋骨がイカれたかもしれない・・・・しかし、なんで俺は死んでいないんだ?俺は、くらくらする頭を必死に働かせて、ジェネラルの方へ視線を向ける。


「ぎ、ぐぎる・・・・?」


どうやら、まだ少し混乱していたようだ。おそらく、片刃斧の反対がわ、刃のついていない方でぶん殴られたんだろう。そんな幸運がかさなり、俺は無事だった。・・・・俺は。問題は、明らかに重症なアリスフィアだ。地球の時だったら、俺も十分重症なんだろうが・・・・アリスフィアは、その比じゃない。腕からどくどくと血を流し、意識はないようだ。壁に叩きつけられた様子なので、もしかしたら背中をやってしまってるかもしれない。


頭を勢いよく振ると、周りを見回しだすジェネラル。今の状況がよく把握できていないんだろう。記憶にまで影響を及ぼすなんて、よっぽどな薬だったんだな、さっきのは。痛みを紛らわすために、適当なことを頭に浮かべまくる、俺。しかし、そんな抵抗空しく、ジェネラルはこちらへ視線を向ける。


「ぐ、グルラ?グギャギャ・・・・」


そして、困惑したような表情を見せると、ニヤリと笑いながらこちらに歩いてくる。さながら、映画の悪役のようだ。クソ・・・・俺は、こんなところで死ぬのか。ネリエルに、強く主張しておけばよかった。『万が一のことを考えていかないべきだよ』とかなんとか。・・・・後悔しても遅いか。結局は過去の話。


俺をめざしてゆっくりと歩いてきたジェネラルが、ついに目的地に到着した。もちろん、俺の目の前だ。ヤツはニタニタといやらしい笑みを浮かべている。殺した後俺をどう料理するか考えていたのかもしれない。俺はそのじかんが出来るだけ長く続くように願ったけど、それはかなわなかった。ニヤニヤした笑みを隠そうともせず、ゆっくりと斧を頭の上まで振りかぶる。それ、お前たちの中ではやりなの?そんなくだらない思考を最後に、本格的に死を覚悟し、祈り始める。


「ぐ、ぐぎ・・・・ぎ、が・・・・」

「【神による(セイクリッド)神のための秩序(ホーリーレギュラティ)】」


俺を圧し切ろうと振り上げた斧が、俺たちの前に大きな音を立てて落下する。そのジェネラルの腹には、巨大な穴が開いていた。そこには、何も刺さっていない。・・・・いや、わずかに何かが刺さているのが確認できる。ギリギリ。とてもよく注意しないと分からないので、恐ろしい魔法だと言えるだろう。しかし・・・・


「ネリエル、助かったよ」

「コルくん・・・・!大丈夫?」

「だ、大丈夫だ。俺はな」


急に心配そうに抱き着いてきたネリエルに、困惑しながらもそう答える。俺は、全く大丈夫だけど、アリスフィアは下手をすると本当にまずいことになる。


「頼む。アリスフィアを」

「・・・・分かった!」


たたたっと駆け足でアリスフィアの元へと向かう、ネリエル。大丈夫だろうか。絶対に、絶対に死んじゃダメだ。あの野郎、絶対に許さない。一回目は俺の気のせいだったけど、まさか次もあるなんて。地獄に落としてやる。絶対に。って、もう死んでるのか・・・・。


「あ、アリス!?あ、ああ・・・・ひ、ヒール!ヒール!ヒール!ダメ・・・・」

「え・・・?」

「コルくん、血が、血が止まらないよ!!」

「そ、そんな、アリスフィア・・・・」


目の前が真っ白になり、思考が停止する。俺が、俺があの攻撃を防げていたなら・・・・どうすれば良いんだ!貝吹う蝕のネリエルにも治せないケガが、他に誰に治せるって!?治せるわけがない・・・・でも、まだあきらめるわけにはいかない。・・・・まてよ。俺を、死の淵から救ってくれたログウェルドなら。ログウェルドなら、アリスフィアを救えるかもしれない。


「俺に【回復(ヒール)】を!二人を乗せてログウェルドのところまで運ぶ!!!」

「!・・・・分かった!!!」


死ぬな・・・・。絶対に死ぬなよ・・・・。アリスフィア、死んじゃダメだ。ようやく、見えてきたんだ。希望が、見えてきたんだ。友達を・・・・お前の友達を救うときに、お前がいなかったら救われないぞ!!!救えても、救われないんだぞ!!!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「た、ただいま」

「む。やっと帰ってきたか。少し、聞きたいことが・・・・」


そう言ったっきり、ポカンと口を開けるログウェルド。その視線の先は、やはりアリスフィアだった。吐血して口の周りは血だらけ。腹部と上椀部も、激しく裂傷している。


「ログウェルド、頼む」

「・・・・うむ。話は、後で聞かせてもらうぞ」

「ああ」


あとで詳しく話を聞く。そういって、アリスフィアをお姫様抱っこすると、隣の部屋へと運んでいった。たのむ。・・・・アリスフィア。どうか、生きてくれ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あ、22レベルになってる」

「・・・・」

「コルくんもだ」

「・・・・」


3レベル上がった一方で、俺の頭の中は別の事で一杯だった。隣の部屋でベッドに横になっている、アリスフィアの事だ。あの瞬間の映像が脳裏に焼き付いて離れない。俺の目の前で、斧で切り飛ばされるアリスフィア。ジェネラルはそれをみて、興奮しているようだった。目は血走り、よだれをたらしていた。その時に、斧を持つ手がずれた・・・・?それで、俺が生き残ってるのか。アリスフィアを見殺しにしようとした、俺が。


「・・・・きっとよくなるよ、コルくん」

「・・・・」

「大丈夫だから」


大丈夫なんて言う保証はない。なんで、そんなことが言えるのか。無責任じゃないのか。友達の命なんだぞ!?口を開くと、そういう『俺らしくない』暴言が口から出てきそうで、怖い。俺は、地面を見続けることを選択した。返事を返さない俺に、悲しそうな、寂しそうな・・・・複雑そうな表情を浮かべる、ネリエル。


「・・・・れの」

「え?」

「・・・俺のせいだ」

「コルくん・・・」

「俺がもっとうまくやれてれば。俺のレベルがもう少しでも上だったら!意識がもうろうとすることもなかったはずだ!!!」

「違うよ!!!」


ネリエルの、強い否定の声に、ビックリしてしまう俺。その顔は、ひどくショックを受けて、傷ついてIつようにも見えた。


「私は、戦闘に参加してない。一人だけ戦闘に参加できずに、目の前でみんながピンチになるのをみてた。誰の為に、誰に向けた言葉なのか良く分からない言葉を、ずっと紡いでた。」

「それは・・・・仕方ないだろ。そのお陰で、俺は今ここに居る」

「でも、コルくんは精いっぱいやった!・・・・コルくんのせいだって言うなら、最初に何もできていなかった私はどうなっちゃうの?だから、そんなことを言うのはやめて。・・・・コルくんは、自分ができることをした。」


それきり、室内には微妙な空気が漂う。気まずい。明らかに、俺よりもネリエルのほうが 働きは大きいのに、ネリエルはそれを認めようとしない。・・・・あの斧の攻撃を食らっていたら、間違いなく即死だった。本人は認めていないようだったけど、ネリエルが長ったらしい詠唱をしていなければ、俺は即死していただろう。


ガチャ


「ふぅ。ひとまず、いのちの危機は脱した」

「よ、よかったぁ~」

「命の危機”は”か」


扉を開け、入室してきたログウェルドの第一声を聞き、安堵する、ネリエル。しかし、俺にはその言い方が妙に感じた。どう考えても、おかしい。


「そうだ。斬られた腕が問題でな。かなり深くまで切り裂かれていたから、儂でも直し切ることはできないかもしれん。一発完治とはいかないだろう」

「腕が・・・・」

「酷い・・・・」


腕や、手は、盗賊にとってとても重要だ。罠を解除し、宝箱をあけ、鍵穴を突破し、素早さでほんろうしながら、的確に短剣を相手の急所に食らわせる。その腕が完治しないとなれば、盗賊という職業はきついかもしれない。


「そして、中毒も特にひどい。麻薬中毒だ。しかもかなり重度だ。一気に大量の麻薬を吸ったんだろうな。良く死ななかったものだ。」

「ま、麻薬?」

「そうだ。今日出発した時には、こんな症状はなかったはずだが・・・・。話してくれるな?」

「あ、ああ」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「――――――ということがあって」

「はぁ・・・まさか、ボスをぶっ倒してこい何て言う冗談、本気で信じたとは」

「おじいちゃ――――」


バシィィッ


「・・・ぐっ」

「・・・一言くらい謝ったらどうなんだよ。勘違いして、死にかけたやつがいるんだぞ!?お前の発言で語弊を生んだなら、謝れよ!!!」

「こ、コルくん・・・」


ログウェルドが『冗談』と言った瞬間、俺は足に魔力を集中させ、【魔力操作《瞬脚》】を発動させる。強化された脚力を使って、勢いよくジャンプした俺は、勢いを殺さずにログウェルドの横っ面を殴る。


「悪かった。そう認めよう。しかし、ジョークが禁止など、カタい世になったな」

「ジョークじゃなくて、命に係わるレベルのをやめろっつってんだ」

「ほう?」


切れた口の端から流れ出る血を無視して、自らの考え、主張が間違っていないとあくまで主張するログウェルド。ピリピリと俺たちの間に広がる緊張感。今にも一触即発と言った様子だ。そんな情けない馬鹿どもを見る目が一つ。


「ね、ねえ。喧嘩はやめようよ。おじいちゃんもコルくんもさ」

「喧嘩じゃない。認識が間違っているということを、教えてやろうとしてるだけだ」

「儂もだ」

「あわわわあ・・・・」



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