2 逞しすぎだよ凜華さん
現在大幅編修中。登場人物変更、内容の変更が大きくされる可能性が高いです。
「しかし、本当に何もない……」
「右手も左手も、前も後ろも鬱蒼とした森。……これ、森を出られずに餓死ENDっていう可能性もあるんじゃ」
「頼むから縁起でもないこと言わないでくれ」
あの魔法陣で起きてから数時間。俺達は、森の中から抜け出せないでいた。どころか、人の痕跡一つ見つからない。凜華にはああいったが、俺も悪い想像をせずには居られない。
「はあ。もしかしたら、何もかも勘違いで、俺達はもう死んでるとかないよな。死ぬ前に夢を見てる的な」
「……よっぽど博のほうが縁起でもないこと言ってるよ」
あの足の傷、ほうっておいたら間違いなく危険なほどに血が出ていた。もし、もし仮に精神だけの転移だとしたら、俺の体は死んでいるんじゃないだろうか。凜華も、本体は餓死してしまうかもしれない。
「……今は、生きることだけ考えよう」
「そうだな。分からないことだらけなんだ、考えても仕方な」
「静かに。なにか聞こえる」
俺の言葉に割り込む形で、凜華が口に指を当て、警戒をする。俺は全く気づかなかったが、何かの気配を感じ取ったらしい。……危険な野生動物か、魔物か、野盗か。いや、ただの無害な動物の可能性はあるか。
カサ、カササ
「うさぎだ。」
「ツノウサギとかじゃなくて、ふつーのだね」
……まさか、マジで異世界転移じゃなくて地球説あるか。もし、異世界転移などしていなくて、ここが地球なんだとしたら、かなりまずい。何故か。凜華はケモミミ、俺は喋る狼だ。人体実験、待ったなしなんじゃないのか。
「おりゃ」
ギピーッ!?
「えーっ!?」
俺が冷や汗かいてフリーズしてる間に、凜華が短剣でグッサリうさぎを仕留めた。こちとら都会っ子なんで、急なハンティングにびっくりして叫び声を上げてしまった。
「り、凜華さん。なぜ」
「食料。ここが未開である可能性があるなら、生きるか死ぬかなんだよ。食うか食われるか、弱肉強食なんだよ」
「順応早すぎでしょ!?まだ、起床から4時間ほどだよ!?」
「食料が問題だ、って行ったのは博でしょ。ほら、お腹すいたから火を起こそう」
そうだった。凜華はキャンパーだった。ガチサバイバルをしたことはないと思うが、趣味はキャンプ、釣りなどのアウトドア。例の件から俺はインドア派に、凜華はバリバリのアウトドア派に変貌を遂げた。俺がアウトドアに踏み切れないのは、ネットを触っていると、羆によるキャンパー襲撃やら、鉄砲水でレジャー中の人がながされたりとか、クラゲとか、滑落とか……怖い話ばっかりで、挑戦する気概がないからだ。
「あ、狼だから火は起こせないか。じゃ、私がやるから、大人しく待ってて」
「あ、ハイ」
情けねえ。このぷにぷにの肉球が、愛らしい肉球が恨めしいよ。こうなったら、肉球が取れてもいいから、摩擦で火起こしを……冗談だ。暇だ。
「火起こしにはね、弓切り式、きりもみ式とかの、摩擦式。火打ち石とかを使う、火花式、虫眼鏡とかの光学式、ファイアピストンとかの圧縮ポンプ式がある。メジャーで小学校の実験とかでやるのは光学式だろうけど、ファイアピストン、摩擦、火花のほうが昔から使われてるんじゃないかな。キャンプでは、メタルマッチとかが便利で『ぽい』から、オススメだよ」
「へー、色々あるんだなぁ」
「サバイバルなんかでは、透明な瓶に水を入れて着火を試みたりするらしいね。Y◯utubeで見た」
「便利だよね、あの動画サイト」
「今回は、道具があまりないからきりもみにチャレンジします」
「おお」
そう言うと、手際よく薪になる小枝や、着火に使う頑丈そうな枝、柔らかめな木などをテキパキと集めていく、凜華。……やけに饒舌なのは、俺が毎回アウトドアに誘われるたびに断っていたのが関係するかもしれない。いつか、行こうと思って鍛えてた側面もあるんだよね、うん。
「んじゃ、いくよ。んっ!」
「おお!」
テンポよく、ゴリゴリと棒を板(太い枝をダガーで加工してた)にこすり付けていく。表情は真剣そのものだ。もしかしたら、きりもみ式は初チャレンジじゃないのかもしれない。でも「チャレンジ」と言っていた。もしかしたら、何度も挑戦はしているけど、成功したことがないのか。
「あの、よければ小川とか探してきてほしいかも」
「あ、ああ。飲み水は猶予が3日だしな」
「あ、首に切れ目入れといたから、うさぎ洗ってきて。血抜きしないと、生臭いから」
「わかった」
た、逞しい。逞しすぎるよ、凜華さん。気を使って、俺にも仕事を割り合ってくれるところとか、なぜ凜華が人気者なのか、理解できる。
「しかし、水源ね。どうやって探せば」
キョロキョロとあたりを見回すも、視界に映るのは、森、森、茂み、森、森、森。視界が人間と比べて低いのも相まって、一体どこを探せば小川の方向に出ることが出来るのか、全く見当もつかない。ここに居るのが凜華なら、経験やら観察眼やらである程度時間がかかれば、発見できるのだろうが……。
「だめだ。見当もつかん。このうさぎを運ぶのも大変だし……」
凜華に簡易的に持ち運べる仕組みを作ってもらったが、ツタはゴツゴツしててあんまり好きじゃない。首輪状になったツタから、うさぎをぶら下げている状態だ。首輪はかなりゆるくつけられているため、外そうと思えば、容易に外れる。後ろ向きにくぐり抜ければ良い。しかし、首にうさぎの重みが乗ってるのは、結構つらい。早く小川を探したい。
「疲れた。」
小休憩。10分ほど探したが、小川が見つかる気配がしない。どうすれば良いのかと途方に暮れていると、さっき来た道の方角から、何かが焦げるような匂いがしてきた。恐らく、焚き火だ。凜華が、火起こしに成功したんだろう。
「まて、匂いだ。そうか、俺は狼だ。視覚よりも、嗅覚のほうが鋭いに違いない。視線が低くなって、探しづらくなった視界よりも、嗅覚のほうが、探索に役立つに違いない!」
そうと決まれば、実行だ。周囲を歩きながら、鼻をスンスンと鳴らしていく。草の匂い、草の匂い、草の匂い……微量の獣臭。
「獣臭か。今の俺で、野生動物と遭遇したら、どうなるか……」
しかし、何と言うか不思議と言うか。立派かどうかはともかく、元は体格もそこそこな人間だって言うのに、鼻を地面スレスレまで近づけて、すんすんと鼻を鳴らしている。この状況、地球に居る親が見たらどんな反応をするか。間違いなく、笑うだろう。にこやかなんてものじゃなく、嘲るように。嘲笑。誤解してほしくないが、家族仲はそこそこいい。
ところで、小川の匂いってどんな匂いだろうか。繰り返すが、俺はインドア派だ。小川に遊びに行ったことも、幼い頃に1回だけ。匂いなんて、覚えていない。それに、色々な匂いが混ざって、よくわからない。土の匂い、雑草の匂い、獣の匂い(まさか、俺のか?)。
チョロ……
「チョロ?今の音って、まさか」
まさか、まさかまさか。犬って、耳も良いんだっけか?いや、聞いたことがない。だけど、アレは間違いなく。
「森の中で水音がしたら、それはもう」
段々と勢いをつけ、足取りを加速させていく。ぐん、ぐんぐんと、一段二弾三段とギアを入れ、土を掴み、正しく疾走する。
「小川でしょうがーい!ぃやっほーう!」
茂みに突っ込んで、抜けた先には、紛うことなき水源が広がっていた。俺はテンションに任せ、勢いのまま、小川に突っ込む。かなり小規模なチョロチョロな水源だが、間違いなく小川。水深15cmほどだから、溺れる心配もなさそうだ。
「気持ちー!」
「ただいまー」
「おかえ……どうしたの、それ?」
「ミッションコンプリート」
首輪によく洗って冷やしたうさぎを下げ、水浴びしたため、ビッショビショのまま、特殊部隊の隊員か、凄腕スパイの気分で任務完了を宣言する。今までは、情けなさなどでしょぼくれた老犬のような見た目だったろうが、今なら超一流の警察犬にも引けを取らないくらい格好良く見えるだろう(結局犬)。
「おーっ、水源見つけられたんだ」
「ああ。ククク、慣れてきたぞ、この体に!」
「……厨二病的だな。で、慣れたっていうのは?」
「ああ、狼の能力を使えるようになってきた。『鼻』と『耳』、想像以上に便利だ。視界は低くなってるから、相応に不便だけど」
俺は、意気揚々と発見した能力について解説した。足手まとい感が強かったため、それはもう、イキイキと。鼻は遠くのあらゆる匂いを察知し、耳はあらゆる音を捉える。足は俊足スタミナも十分。鋭い牙に、強い顎。犬が俺達にとって身近だから、人間から犬になるというのはダウングレードしたように思ってしまっていたが、注視してみれば、アップグレードした部分も多い。
「……え。もしかして、気づいてなかったの?小川の匂いって言うから、狼の嗅覚で見つけられるかなーっていうアレで頼んだんだけど」
「え。気づくまでに十数分はかかったけど。」
「そか。……うさぎの調理、始めよっか」
「……そうだな!」
一瞬、凜華の目が気の毒そうに変わったような気がしたが、気のせいだろう。
「さて。うさぎを焼こっか。まともな調理器具も、まともな調味料もないし、串焼きにするよ。焚き火からちょっと遠目の位置に設置して、遠火でじっくりと焼く。近くで急いで焼こうとすると、生焼けな上に外側だけ黒焦げになっちゃうから」
「火力調整ができないからか」
「その通り!IHとかコンロとか、便利なものに慣れてると面倒くさいと感じるかもしれないけど、焚き火での調理っていうのも、中々乙なもんだよ。動画サイトで焚き火の映像が延々とあるくらい、見るだけでも癒やされるし、音も匂いも、心を落ち着かせてくれる。それに加えて、更に料理もできるっていうのはロマンじゃない?」
「なんか、良いな……!」
「あとは焼くだけだから、ただ待つのみ」
しかし、水源の発見、肉の入手、能力の発覚でテンションが上っていたが、うさぎ一匹じゃ明らかに足りないよな……。ホメオスタシスの効果によって、急激な体重減少は抑えられるはずだが、狼はどうなんだろう。俺にもプライドっていうものがあるし、「人間は最大3ヶ月まで何も食べなくて平気だからさ、それちょうだい」なんて言えないよな。
「って言うのは退屈だし、お腹も空いてきてるだろうから、ハイこれ」
「ベリー系の果物か」
「うん。博が返ってくるまでひまだったから、周囲を軽く見てたら見つけた。パッチテストでなんの反応もなかったから、無毒か、健康に害がない程度……超微毒だと思う。何より、地球のブラックベリーと似過ぎ。味も香りも、そっくり」
「ど、どれ。」
パッチテストって、毒物かどうかを判別するための簡単なテストだったよな、なんてアタマの中でぐるぐると考えが巡る。つまりは、凜華はこれが毒である可能性を考え、パッチテストをした。味もと言っていたから、舌に乗せて数分、飲み込んで数分とかもやったはず。た、逞しい。
「はふはふ……うまい。うまい!甘酸っぱくて、おいしー!」
「うん、良かったねえ。まだたくさんあるから、もっとお食べ」
起きてから食事を取らずに三時間(昨夜を含めると12時間ほど?)ぶっ続けであるき続けたわけだから、お腹はすきに空いていた。普通の人間なら、ハンガーノック(低血糖状態)担っていてもおかしくなかっただろう。だからこそ、糖分が体にしみる。体に、栄養が取り込まれていくのを感じる。
「ほら、凜華も食べよう」
「うん。……あー、美味しいねえ。最高」
疲れを見せないようにしていたみたいだが、さすがの凜華も疲労が溜まっているらしく、顔に余裕があまり見られなかったのだが、焚き火ができ、とりあえず食料も手に入れられて、美味しいベリーも食べたことにより、完全にリラックスできたようだ。
「
調べました。狼の能力って、想像以上にチートなんですよね。本来の能力なら、探索に出た瞬間に水源の匂いと音を察知して、クリアということになりかねません。まあ、狼になりたてなので、感覚に慣れていないっていうことで勘弁してください。