34 ひらめきは宝物
ひらめきは発明の元ですが、そんなひらめきはどうやったら降りてくるんでしょうか?
「ふんふふんふふーん♪」
普段は少し落ち着き気味のアリスフィアにしては、珍しくテンションが高いと言えるだろう。それもこれも、普段アリスフィアに対しては当たりが強い、店主に褒められたことが大きくかかわっているだろう。普段から小言やダメ出しばかりを受けていたアリスフィアからすると、多少褒められたことさえ筆舌に尽くしがたいものがあるのだろう。
「いやあ、褒められちゃったかぁ~ヌフフ。『お前にしては良い目の付け所だな』だってさ。ヌフフ」
それはもう、褒められているとは言えないのではないだろうか?もはや、けなされているような・・・・しかし、普段からけなされているアリスフィアにとっては、文面にすこしでも褒めるような内容があれば、それは褒められているということなんだろう。
「ほとんど、変わらないって。むふふ。誤差の範囲内・・・か。ムフ。いやぁ、天才かもな、私ぃ!!!」
意識して抑え込もうとしても、勝手に表情が出てきてしまう。よく言えば笑みが浮かび上がってくる。悪く言えば、ニヤニヤしている。そんな表情だった。また、別の言い方をするならば・・・・とてもエロおやじのような顔、という言い方が当てはまるだろう。
「いやー。いやぁ。いやあ。おっと!」
何回『いやぁ』と言っただろうか?もう、覚えていることすら不可能という領域に丁度踏み込んだ時、それは起こった。浮かれていた気分だったからだろう。通行人とぶつかってしまったのだ。
「す、すみません」
「構わないよ。良いことでもあったんだろう?笑みが抑えられないほど、嬉しいことがあったなら、喜ばしいことだよ。笑顔は守らなきゃならないからね」
「は、はぁ」
「じゃ、失礼するよ」
急に笑顔について語りだした青年に、とまどうアリスフィア。そんなアリスフィアを置いて、青年は足早に遠ざかっていく。何か忙しい予定でもあったのだろうか?
「なんなんだ、アイツ」
自分からぶつかったというのに、そのことなんてもう頭の中から消え去ってしまっているかのような言いぐさだ。アリスフィアの中では、人にぶつかったことよりも、あの不審な動きをする青年の方が気になっているのだろう。
「まあ、いっか。それよりも、早くネリエルたちに報告しなきゃ!」
今度は、青年の事を頭から追いやる。自分の思いついた素晴らしい案を、ネリエルたちに聞いてほしいから。そして、褒めてほしいから。ネリエルにとっては、人とぶつかったことよりも、怪しい青年にあったことよりも、褒められることの方が重要なのである。
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「たっだいまーっ!あれ・・・・?」
勢いよく隠し扉から部屋に入ったものの、気配がしない。あの家の中に入っているのだろうか?それにしては、ログウェルドも畑で作業をしていない。あの時分にキビしそうな老人が、作業をサボることは考えにくいだろう。なんとなく、嫌な予感を肌で感じる。
「・・・・ネリエル?コルくん。・・・・おかしい」
やはり、気配が全くしない。今の時間は家のそとで作業しているはずだ。それなのに、庭にはだれの気配もしないのだ。絶対にサボらないログウェルドさえも。ネリエル達はさぼることもあるだろう。だけど、ログウェルド。ログウェルドが居ないということで、より一層違和感が強くなる。
「おじゃましまーす・・・」
家にゆっくりと入っていく、ネリエル。すると、とんでもない光景を目にすることになった。
「んご?」
「むぐぐ・・・・」
「ふむ」
家の中には、ショートケーキを食べ、紅茶を飲んでいる三人の姿があったのだ。いつもと変わらない三人の姿に、張り詰めていた緊張感がほぐれていく。
「ほっ。なーんだ」
そして、緊張感がほぐれると、先ほどまでは無かった感情が唐突に湧き上がってくる。そう、自分に内緒でケーキを食べていたということに対する、嫉妬とずるいという感情だ。ケーキなんて、めったに食べたことのないアリスフィアにとっては、結構重要なことなのである。
「なんで、私がいないときにこっそりケーキ食べてるんだよー!」
「わわ、ごめんごめん!アリスの分も取ってあるから!」
「そそ、そうだぞ!ちゃーんと残してあるぞ!」
「うむ、慌てると損だぞ。」
「なーんだ。私の分もあるのか・・・ぁ。」
安心してケーキの入った箱を開けた瞬間、アリスフィアの表情が凍り付いた。明らかに半分になっていた。縦半分にバレないように切ったのではない。雑に横に切られ、上から見ると三角形のはずのケーキの形が台形のようになっていたのだ。
「誤魔化すつもり皆無かぁ!この、この!」
「あははは!あははははは!私じゃ、私じゃないから!あ、あははは!!!」
「なに!?じゃあ、コルくんか!この、この!よーしよしよしよし(?)」
ネリエルがあっさり白状すると、こちょこちょの対象を素早く俺に切り替えた。恐るべし手さばき。俺じゃなきゃ、数秒でゲロっちゃうだろうな。
「なんでよしよしなんだよ!あ、くすぐったい!は、はははは!や、やめろー!俺だー!俺だから!許してー!」
「やっぱりコルくんか!!なんで犬なのにケーキ食ってんだよ!体に悪いんじゃないのか!?」
俺が数秒も経たず正直に白状すると、アリスフィアがくすぐる手を止める。そして、逆に心配そうにこちらを見やる。自分のケーキを半分食べられても、相手の体を心配するなんて、アリスフィアはいい子だなあ。ケーキ、あとで勝っといてあげるか。ホールで買ってみんなで食べよう。
「俺は犬じゃねえ、オオカミだ!体に悪いかは知らんけど、大丈夫だろ」
「大丈夫かなぁ」
「ネリエルのヒールもあるし。」
「うーん」
俺の言葉を聞いて、なお心配そうな表情は晴れない。何か、他にまだ気になることがあるような、表情。あ、もしかして。
「安心しろ。ケーキは後で俺が買ってきてあげるから」
「本当か!?」
「どでかいやつをな」
俺は、器用にウィンクをする。アリスフィアのはしゃぎっぷりを見ると、やはり元気がなかったのはケーキが半分食べられてしまったからだろうな。ホールケーキを買ったときには、アリスフィアに半分あげることにしよう。きっと、喜ぶだろう。
「それにしても、アリスフィアは何で店に行ったんだ?『店』って店主さんのところにってことだろ?」
「うん。ちょっと、聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいことって?」
ネリエルが問うと、待ってましたと言わんばかりに満面の笑みになる、アリスフィア。よほど聞いてほしかったらしい。もしかしたら、先ほどのクモッていた表情は聞いてほしかったというのもあるのかもしれない。
「実は・・・・」
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「なるほど。ハーブをすり潰して、液を抽出する、と」
「そうなんだ!そうすれば、葉っぱの状態よりもかさばらずに量産できるし、効果もほとんど変わらないって!」
「なるほど・・・・すごいね、アリスは。よく思いついたね」
「ログウェルドがハーブを詰め込んだ部屋を見て気付いたんだ。下らへんにあるハーブは、重みでつぶれて、少し液が出てたから」
そう、半ば照れながら発想に至るまでの説明をするアリスフィア。最初は自慢げだったけど、いざ真剣に褒められ始めると照れ臭いようさ。アリスフィアらしい。
「でも、問題は抽出の工程をどう行うかだよなぁ・・・・」
「ログウェルドに全部任せるわけにはいかないしな・・・・」
「おじいちゃんの魔力量なら全然問題ないと思うよ?」
「「え?」」
ネリエルがきょとんとした表情でいった言葉に、俺達は困惑してしまう。結構な魔力を使う『グロウ』の魔法に、栄養を与えるため大量に魔力を注ぎ込む。さらには、抽出の工程もこなす。それを全部含めて、『おじいちゃんの魔力量なら全然問題ない』の発言。一体、どれだけバケモノなんだ、ログウェルドよ。
「いやいや、流石にログウェルドもきついだろ?」
「うーむ。確かに」
「ほらぁ」
半ば勝ち誇ったようにアリスフィアが言うと、ログウェルドはすぐに口を開く。
「面倒くさいが、魔力量の点は問題ないだろうな」
「え?」
「いや、見栄を張りたい気持ちはわかるけど、孫の前だし。でも、無理は良くないよ!無理なら無理って言おう!」
「だから、楽勝だって。楽勝。」
アリスフィアの必死の説得を聞いて、ログウェルドが全然言わなそうな言葉を口にする。『楽勝。』絶対言わないと思ってた。地味に『だから』も。
「儂はこれでも魔法の達人だからな。じゃなきゃ、コルダムはもう死んでるわ。ッハッハッハッハ!」
「ヒェッ・・・」
「えぇ・・・・死にそうになったっていうのマジだったのかよ。なんで、目を離した数日間で死にかけたりしてんだ?」
「大量の土に押しつぶされて」
「もしかして、例の2tが・・・・?」
痛そうな傷を見るような目をして、俺を見るアリスフィア。やめてくれ、アリスフィア。そんな目で見られると・・・・恥ずかしいじゃない///
「体中ぐっちゃぐちゃだったらしいぞ。現場後で見たけど、血だまりと肉片が散乱してた。」
「おぇっ・・・・」
「おえって言うなよ。俺もヤバかったんだけど・・・・」
「自分ので吐き気催すなよ・・・・」
「自分のでもキモちわるいだろ」
「まあ・・・・」
なんか、微妙な雰囲気になっちゃったな・・・・。誰のせいだ?あ、俺が変なこと言ったからか。イヤ、ログウェルドが余計なこと言ったからだよ。そうだよ、ボクノセイジャナイヨ。
「とにかく、儂が居るから心配は要るまい。だから主らは気にせずレベル上げをするんだ。死ぬかもしれないから、慎重にな」
「はい」
「了解!」
「おっけー!」




