31 魔法、万能説
魔法って、なんだか便利そうですよね。ルーラとか使えたら、どんなに便利なことか・・・・。今日は短めです。かなり。背景や情景を創造しながら、ゆるりと小説の世界に浸かっていただけると幸いです。
「おいおい、本当にこのおじいちゃん何者だよ・・・・」
「俺も、実は気になってた」
「絶対ただものじゃないだろ」
「・・・・。」
俺たちの目の前には、きちんと整理され、耕された畑があった。しまも、周りには綺麗な白い石柵が建てられている。なんだこりゃ。しかも、俺たちが座っているこの綺麗な椅子。お洒落なカフェのバルコニー席においてあるものみたいな、椅子。金属でできてるやつ。あれにそっくりなお洒落な椅子と、おしゃれなテーブル。そして、おしゃれな陶器製っぽい紅茶のカップと受け皿。一体何者なんだ、この老人は。
「なんか、あれだな。こういうお洒落な椅子とかに座ってお洒落なカップで紅茶飲んでると、優雅な気分になってくるな・・・・。私、こんな気分になったの初めてだ・・・・」
「金持ちが余裕な態度をとっているのが分かる気がする・・・・お金の余裕って、心の余裕なんだなぁ」
あの心が現れるような気分は、多分お金があると錯覚したための余裕だったんだろうな。なんか、楽しくなってくる。フフフ。
「隠し部屋ってこんなんだっけ?」
「いや、これはもはやただの家だよな」
「こんな家、住んでみたかったんだよなあ」
茶色のごつごつしていた地面はもはやなく、程よく地面が砕かれ、草原にあるちょっとした丘のような柔らかい土になっている。おまけに、柔らかくなった土には芝生まで生えている。なんだこれ。しかも、その傍らには立派な家が建っている。一階建ての、二人ほどで暮らすには十分な広さの、理想のマイホームといったところか。この家は白一色と言う訳ではなく、様々な色が使われている。
「家の横に畑があるってのが、こう、家庭菜園っぽくていいよな~」
「分かるー!広すぎるけどね。この白い柵が木の柵みたいになってるのも良いよねー」
この木の柵のエンピツみたいにとがっているタイプ、好きなんだよなあ。牧場っていうか、何て言うか。のどかなイメージがわくというか。好きだわ~。
「ほわぁ・・・・なんだか、幸せ」
「幸せだわ」
迷宮を案内させるためなのか、本省の言動とは裏腹にだいぶかわいい恰好をしていたアリスフィア。戦闘には影響がない程度に可愛いわけなんだが、それがまた優雅なこの空間にマッチしている。その傍らに居る純白の毛並みをしているオオカミ。さぞ、絵になることだろうな。うん。『理想の余生』作 コルダム。良き。
「こら、ほわほわ幸せそうな顔してないで、さっさと手伝ってよ!」
「あ、はぁーい」
「ほーい」
俺たちがいったん帰ってきたり山に行っていたりしている間に、アリスフィアが薬屋の店主さんに頼み込んで譲ってもらった薬草の束を、ネリエルが植えているのだ。こんかい使う薬草を、かなりの量譲ってもらった。借金額はとんでもない額になってしまっているらしい。悲しい。
「よいしょ、よいしょ。でも、よくこんなに譲ってくれたよね」
「それなりに借金の額もふえたけどな・・・・」
「アリスフィア、泣かなくていいんだぞ。これが成功した時は、借金文なんて余裕で返せて、お釣りが帰ってくるんだから・・・・」
「そ、そうだな。結局、借金が返せなさそうなのは気のせいだよな」
「き、気のせいだと思うぞ。うん。」
実は、残り期日が五ヶ月くらいなら、もう借金なんて返済しいる余裕なんて全くないなんて言えない・・・・全部薬草を追加注文することになるだろうなんて言えない。アリスフィア、なあ、アリスフィア。借金完済ができない以上、俺たちとは長い付き合いになりそうだな。
「いくら成長が早い薬草って言っても、育ち切るまでには一か月以上かかるだろうなあ」
「まあ、そうだろうな」
「どうするつもりなんだ?」
「うーん」
成長が早いとは言っても、最低一か月はかかる。それは、植物なんだから仕方はないだろう。でも・・・・どうしたものか。なるだけお金は集められるに越したことはない。それを用いて傭兵を雇ったり、それをもって犯罪組織を打倒するために協力を仰ぐこともできる。だから、どうにかしたい問題なんだけど・・・・。
「ん、なんだ?何か困りごとでもあるか?」
「ログウェルドさん・・・・実は、ハーブが何とか速く育たないものかと思って」
「なんだ。儂にさっさと相談すればいいものを」
「あ、確かにおじいちゃんなら出来るよね」
「うむ。儂は天才だからな。」
そういうと、またも豪快に笑い声をあげる。しかし、成長速度をもなんとかできてしまうらしい。なんだ、この人。もはや、神なんじゃないか、マジで。俺は、ログウェルドさんが神様だって言われても、疑わないと思うぞ。
「でも、どうやって・・・・」
「知らんか?まあ、三人ともまだ魔法に触れてないから仕方ないか。【グロウ】という魔法を使えば、植物を強制的に成長させることが可能だ。」
「グロウって、植物を成長させる魔法の・・・・?」
「おお、アリスフィアは知っていたか。そう、その通り。その魔法だな」
「でも、あの魔法って植物を急成長させるから品質が悪くなるって・・・・」
「いや、あれは魔力量が少ない状態で成長してしまうからだ。植物版栄養失調のようなものだな。だから、ハーブに魔力を流しつつ、グロウを放てば、何ら問題はない」
何やら俺には全くついていけてない領域での会話だ。ネリエルはログウェルドの孫だし、簡単に理解しているんだろうな。
「ふぇ?何言ってんの?」
お前もか。お前もなのか。すっごいバカみたいな顔してるぞ、ネリエルよ。鼻水たらして指くわえている男の子のようになっているぞ。某人気テレビ番組のアイツみたいになってるぞ。『だじょ~』とか言い出しそうだぞ!
「でも、あれは土地の力を枯らすんじゃ」
「それを魔力で補えばいい。土地から力を奪わせるのでなく、その分を魔力で補えばな」
「マジか。おっさんそんなことが出来るのか。まだ、オッサン以外誰も知らないんじゃ」
「知っている者は居ようとも、誰も明かさないだけだろう。儂が知っているくらいだ。ほかにも知っている物が居ようとも、何も不思議ではない。どれ、見せてやろう。実際にやってみればわかるだろう」
ログウェルドはスッと椅子から立ちあがり、こちらに歩いてくる。畑の出来上がっている範囲は、すでには^部で埋め尽くされている。貰った薬草は全部植えきれるようにしたので、貰った薬草はもう余っていない。
「我が魔力を喰らい、成熟せよ【グロウ】」
「おおっ・・・・」
「これは」
「きれい」
ログウェルドが放った緑色の光・・・・グロウにより、ハーブがざわざわと成長していく。まるで、時を無理やりに早めたかのように錯覚してしまう。その様は、豊穣神があれた土地に降臨し、奇跡をもってその地を潤わせようとしているかのようだ。
「どうだ、儂のグロウ。すさまじいだろう」
「おいおい」
「凄まじいなんてものじゃねーだろ」
「すごい・・・・」
なんと、恐ろしいことに植えたハーブが完全以上に育っていた。それも、アリスフィアが言う、栄養が足りていない状態のハーブではなく、完璧な品質の、完全に栄養が足りている状態のものだ。青々とした葉が、美しい。青々って言っても赤いハーブとかもあるんだけどね。
「・・・・これ、もう収穫してもいいんじゃ」
「いや、完璧だよ。完璧だ・・・・」
「もしかして、これ追加注文とかじゃなくてここだけで生産できるんじゃ・・・・」
「出来る。間違いなく。グロウはあまり魔力量を消費しないからな」
「じゃあ、ドンドン育てちゃえば・・・・!」
目を輝かせて、ログウェルドに期待する羨望の眼差しを送るアリスフィア。
「完璧だ。そっちは儂がすべて請け負おう。だから、お主らは迷宮でレベル上げをしておくがいい。」
「ていうか、ログウェルドさんが居れば、今力をつけるために金稼ぎなんてしなくていいんじゃないか?」
「確かに・・・・」
「いや、儂が居ようとも多勢に無勢。攻め込まれたことで躍起になって、侵攻を早められても困る」
険しい顔でアリスフィアの提案を断る。確かに、大勢たら一度につぶすってことが出来ない。そうすると、討ち漏らしたやつらが道連れとばかりに、捨て身の特攻をしてこないとも限らない。残念そうな表情を浮かべるアリスフィア。それとは逆に、国家転覆を阻止するという無謀が現実味を帯びてきたことに、笑みがこぼれそうになる俺だった。




