25 剣呑な雰囲気?
剣呑な雰囲気に遭遇した時って、どうしたらいいかわかりませんよね。特に両方が知り合いだった場合。あれは、混乱します。
「・・・・ふう。」
「こんなもんですかね」
俺たちの目の前には、高く積みあがった土嚢?いや、土の詰まった袋がある。なんだろうか、作業中に感じていた不安や焦燥感が一時的とはいえ薄まっている気がする。これが、達成感ってやつなんだろうな。心地いい。
「あとは、これを運ぶわけですが・・・・」
「うん?」
そんなことを言って怪訝そうな、というか心配そうな表情をしているネリエルに、俺は問いかける。
「・・・・これ、ようはオオカミさんが運ぶんですよね。私も背に載せたうえで」
「・・・・」
「もしかして、気づいてなかったんですか」
「・・・・いや、まー・・・・」
待て待て。一袋仮に10kgだとしよう。で、それが100袋・・・・おかしいなあ。俺、算数できなくなったかもしれない。え?1000kg?1t?いやいや、おかしくね?むりじゃん。てか、よく考えたら100袋冒険者に運ばせるって無理じゃね?最大で10人に依頼できるとして、一人10袋・・・・一人100kg・・・・。
「おいおいおいおい。・・・・どうする?」
「いや、『どうする』じゃねーよ。何考えてんすか、アンタは。」
「だって」
「だってじゃねーよ!どーすんだよ、この土袋の山は!!!」
「だって、無理じゃんそんなの!クロサイだよ!?サイだよサイ!背中にサイ背負えっての!?」
「サイ!?」
「農耕馬と同じくらいだよ!?」
「農耕馬!!!」
なんで、こんなに動物の重さに詳しいのかって?・・・・ゲームの開発をしてたとき、凛華が『〇キみたいなはでかっちょいいコマみたいな演出したい。範〇勇次〇的なワケワカんないくらいの強さのキャラをさ・・・・』とかワケわからんこといいだして、動物の重量を調べさせられたのだ。どういう描写にしたかったかって聞いたら、ドデカイ馬が倒れてくるんだけど、人差し指一本で支える・・・・とかいうシーンをつかいたかったらしい。どんなゲームならそんなシーン使うんだよ。
「っと、とにかく積んでみよう。ネリエル、た、たのむ」
「は、はい!」
「慎重にな、ゆっくり・・・・」
ネリエルは、プリーストだ。回復専門と言ってもいい職なんだが・・・・なぜだか肉弾戦がつよい。俺が素早さ!って感じの戦い方なら、ネリエルは、パワーーーー!!!!って感じの戦い方だろう。ショルダータックルとか低空タックルをし始めた時は本当にプリーストか疑ったくらいだ。お前、レスラーだろ。
「むっ・・・・余裕余裕。もっとこい!」
「お、いいっすね~!それじゃあジャンジャン行っちゃいますよ!!!」
「バッチコーイ!!」
「よっ」
「むっ」
「ほっ」
リズムよく『ほっ』なんて言いながら俺の背中に土嚢を乗せていくネリエル。丁寧に置けって言ったんだけど・・・・まあいいか!てか、予想以上におもくね!?
「むっ」
「よっ」
「むっ!た、タンマ!!ちょっとまって!!!」
「ええ?」
なぜだかがっかりしたような表情を浮かべるネリエル。いや、想像以上に重いぞ、これ。多分、10キロと言わずに20キロはある。間違いない。なのに、これをあと96コ!?は、はは。てか、ネリエルも乗るんだぞ?だいたいネリエルが45kgだと仮定するなら、もう既に145kg行ってることになるんですが!?乗せれてもこれぐらいが限界じゃね!?背中の広さ的にも!!!
「一旦、これで帰るぞ・・・・マジで。荷馬車の荷台でも借りて来よう。」
「干し草を移動させるタイプの奴ですね」
「いや、普通の荷物も運ぶと思うけどな」
多分、イメージは二人とも会っているんだろう。田舎の牧場を営んでいる人が使っていそうな荷馬車だ。荷台部分の形状イメージは軽トラの荷台・・・・?に似ているかな。
「・・・・帰るぞ」
「はい・・・・」
なんだか、折角の達成感で色々とごまかしがきいてたのに、このハプニングのせいで余計に先が不安になった気がする。気のせいかな。気のせいだったらいいな。
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「ぶはっ、ぶはーっ、ぜ・・・・ェッ!」
「く、ぐぐ・・・・ぶぐっ・・・・」
た、大変だった。何が大変だったかっていうと、背中に固定されたこの土袋がドサドサ動くから、走るときにバランスが取れなくていろんな方向に振られるの。もう、無駄に力入れなきゃならないし、なんか無駄に体力消費したわ。うん。
「おぅっ・・・・」
「ッが、がま・・・・んしろ。俺も吐きそうだから」
「は、はい」
「「・・・・ふぅー」」
なんとか深呼吸をして落ち着いた俺たちは、地面に腰を下ろす。なんか周囲の人たちがこっちを見ているけど、そんなことどうでもいい。今は疲れすぎて頭が真っ白なんだ。はぁっ、はぁ・・・・つ、つかれたぁ。
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『お、おいアイツらって・・・・』
『そうだよね、こないだの』
『人を食おうとした魔獣とその使役者・・・・』
『ぶっ倒れて荒い息してるけど、何しやがったんだコイツラ』
『も、もしかしてさ』
『・・・・え?いや、ねーだろ。ねーだろ・・・・・。』
「何の騒ぎだ?」
ざわざわと騒ぎ出す周囲のやじ馬たち。この道の中央でぶっ倒れている人物一人と一匹は、冒険者と使役されてる魔獣らしい。ローブをかぶった謎の人物は、見える位置まで移動しようとやじ馬をかき分けると、二人の事をじっと見つめる。
(噂になっていた、『やべー魔獣と使役者のコンビ』『同レベル』とはこやつらの事なのだろうか。幸せな顔をしている・・・・)
石畳の地面に横たわった二人は、やけに気持ちのよさそうな笑みを浮かべていた。何故なのかは知らないが、よほど疲れたんだろう。全てを投げ出してもいいと言わんばかりの表情を浮かべている。
『お、おい。』
『ッな!?』
『こいつら、寝てね・・・・?』
(なんと。この人数に囲まれて眠りだすとは。噂にたがわぬ変人っぷり。なんじゃこいつらは・・・・む?これは・・・・。これも【導き手】の運命か・・・・)
「ふむ。このままここに置いておくわけにもいくまい。儂が預かろう」
「おい、あんた。衛兵任せたほうが良いんじゃ・・・・ッ!?」
「シーッ・・・・。内緒じゃ」
ビクッと急に体を硬直させたこわもての男をみやりフードの中でニヤりと笑った謎の人物は、二人(一人と一匹)を担ぐと、何処へともなく去っていった。心なしか足取りが軽くなっているようにも見えたとか、見えないとか。
「おい、どうしたんだよ」
「いや・・・・なんでもない」
「はぁ?」
「言ったら・・・・殺される」
「は、はぁ?」
がくがくと膝を震わせてふらふらと歩いていくこわもての男をみて、心底困惑したような表情をする男。それも当たり前なのかもしれない。
「なんだアイツ・・・・こないだランク上がってC級になったとか言ってたのに」
そう。C級冒険者と言えばもう中堅。対一般人で本気の殺し合いとなったら、一般人が束になっても勝てないだろう。その彼が、フードローブをかぶった老人におびえている。男には、その光景が異様に思えただろう。そして、男はある言葉を思い出す。
「未知に関わると道を閉ざす・・・・」
彼の有名な冒険者が女遊びをして女冒険者仲間にボコボコにされたときに放った言葉だという。そんなばからしい言葉なのだが、知り合いのC級冒険者が知らない老人におびえている今は、まさにその通りなのかもしれないと思ってしまうほどの重みを帯びた言葉に思えるのだった。
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「・・・・私は・・・・そんな・・・・!ちが・・・!」
「じじ・・・だ。実際・・、そう・・・・・・まって・・・・だろう」
「ちが・・・!そんなひど・・・・つもりじゃ・・・・」
「甘えるな!じじ・・・から目を・・・・現実逃避・・・。そんなことしても、・・・・ヤツ・・・・変えられん。・・・・運命・・・・・・・・。」
「まっ・・・!じぶ・・・・あと・・・から、まだ・・・・ないで!」
「それがお前の答えなら、良いだろう」
「うるせーなー。気持ちよく寝させてくれないの?」
あー・・・・。この羽毛布団が気持ちええんじゃ~。こんなの、転生してから一回も味わってないぞ・・・・。多分、日本に居た頃も・・・・。羽毛布団と羽根布団って違うんだよ・・・・。はっ!?
「うお!どこやねん、ここ!」
気付いたら、知らない部屋に居た。しかも、ふかふかの布団にふかふかのベッド。もしかしたら、お高い宿に勝手に運ばれて、『お会計は160000円になります』とか言われるのでは!?ギャー!!!なんて一人で遊んでいると。
「む。起きたか。事情はすべて聞いているぞ。」
「あ、はい。いや、え?」
「先ほどまで街中に居たというのに、急に見慣れない部屋の中。混乱するのも無理はないか」
「いや、アナタなんですがね」
いや、アンタにびっくりしてんだよ。そんな心の本音が少し外に出て、失礼な言い方をしてしまった。老人はそんなことを歯牙にもかけず、フードを外すと俺の方を向いた。
「儂はログウェルド。知り合いが道に倒れていたので、ついでに従魔も回収したというところだが・・・・聞いていた通り、貴殿には知性が宿ってるようだな、コルダム殿」
「え・・・・あ、はい。もしかして、ネリエルから全部聞きました?」
「うむ。半ば強引に聞き出したといった方が正しいか・・・・」
半ば強引に聞き出した?もしかして、知り合いだから弱みを握ってるとか?知り合いなんだし、暴力的な面での”聞き出し”じゃないだろうし。
「うーん。で、さっきの怒鳴り声はいったい?」
「・・・・聞いていたのか。」
「あー、内容は聞こえてませんよ。なんせ、眠ってましたから」
「本当か?」
髭を立派に蓄えた白髪の老人は、その年齢にはそぐわない鋭い眼光を俺に向けてくる。この人には、絶対にうそをついちゃいけない。同じ以上の技量を持っていないと、絶対にうそを見破られる。俺の動物的な本能がそう告げていた。そのあまりの威圧に、殺気の言葉の中で誤解されかねない点があるかを必死に探す。
「いや、最後のは聞こえましたけどね。『それが、お前の答えなら、いいだろう』っていうのは。あれ、この部屋の扉の前で言ったでしょう。あれは聞こえちゃいますよ、流石に。」
「ふむ。嘘をついているわけではないようだな。」
「ちなみに、嘘をついたらどうなってたんです?」
できれば聞きたくはないけど、自分の好奇心に問いかけてみると、聞きたいと叫んでいたので、叫んでみることにした。
「嘘をついたら、か。それは、今後うそをつく可能性があるということかな?」
「・・・・まあ、やむを得ない場合があれば。それしかないって場合はごまかしますよ。例えば、俺の素素性をペラペラ話せませんし。」
「まあ
「儂も嘘はつくしな」
「え」
「ん?」
・・・・。いや、なんだこのおっさん。わかった。俺、確信したわ。このオッサン苦手だわ。他人にはそれを進めるのに、自分はそれをやらないとか俺が一番苦手なタイプ。っていうのは、現時点での印象。このジイサンが何者なのか、まだ深く理解していないからこその印象なんだろう。周りから見て性格の悪い人でも一定の理解者が居るものだ。
「はっはっは!いや、すまん。ネリエルが入れ込んでいる人物がどんなのか気になって、少し試させてもらった」
「は、はあ。」
まさか、昨日に引き続き今日も「試す」という言葉を聞くことになるとは、全く思っていなかった。え、なに。もしかして、俺ってば試練の神様にでも好かれちゃったりしてる?試練の加護とか入手しちゃったりしてるわけ?
「それはともかく、お主・・・・」
「な、なんでしょう・・・・?」
急にギロリと視線を厳しいものに変える、ログウェルド。その表情はまさしく歴戦の老兵といった雰囲気で、なにやらさっきのようなものも感じる・・・・気がする。すると
「小食じゃろ」
「え。いや、それなりに食いますが・・・・」
「ううむ・・・・一食肉のみ食うとすれば、何キロ食える?」
「うーん・・・・キロ!?」
今まで一色を食べる量をキロで示したことが無かったので、当たり前のように『何キロ』と問いかけてきた屈強そうな老人に面食らってしまった。そんな、『ワシは一食6キロは食うな』なんてフツーに言い出しそうな雰囲気で言われても・・・・一キロも食いませんが。
「えと、500グラムが限界でしょうね、多分。それだけ食べたら、恐らく動けないと思います」
「はぁー。なるほど」
どこか感心しているような、そんな声を出すログウェルド。ため息ではなく、「ほえ~」に近いような、「はぁー。」だ。しかし、当然のように『キロ』単位で質問してきた割には、ガッカリというよりは関心に近いような雰囲気なのが気になる。もしかして、自慢するための質問だからか。『へぇ~すごいね。ボクはおフランスの高級チョコレートを・・・・』みたいな感じで。
「その食事量で身にまとうその魔力。なるほど。 」
「はい?」
前半の言葉は聞こえたのだが、『なるほど』より後の言葉はボソッと呟かれた独り言のようなものだったので、全く聞き取れなかった。
「いやあ、大したものだと思ってな。食事量がそれだけで結構な魔力を身にまとっている。」
「って、もしかして食事量と魔力量って関係あるんですか?」
「うむ。しかも、魔法を使っていないと見た。ならば、その漏れ出る魔力を身の内に抑えれば、更なる高みに到達できるだろう」
「魔法は使いたいです!」
「・・・・おおぅ。急な食いつきにビックリした。中々儂をビックリさせる者はいないから、誇れるぞ」
そういうと、ログウェルドは豪快に笑いだす。なんか、このオッサン愉快な人だな。
「魔法・・・・俺、まともな魔法ってヒールとゴブリンの良く分かんないヤツしか見てないんですけど、習得できるんですかね!?」
「ふむ・・・・頑張ればすべての属性を習得することが可能だ。」
「おおっ!!」
「だが、一つ覚えるたびに次の属性を習得するのは困難になる。異なる属性は反発するからな」
「お、おおん・・・・」
ログウェルドの説明に、急上昇した俺のテンションは一気に水面に不時着した。もしかしたら、そのまま急降下しまくって海底油田を掘り当てたかもしれない。ヤッター。
「しかし、魔法があると無いとでは安全性が全く違う。人間と違って従魔は職業がない。修行すれば好きなようにステータスを分配できるのだから、自ら考えると良い」
「え?」
俺は、ログウェルドの言葉に思考能力が一時的にストップした。




