24 なにやら周囲がやばいらしい
長らくお待たせ(?)してしまい、もうしわけございませんでした!全く言い訳をするつもりはなく、ただただ、早めの五津病が発症したというか・・・・(汗)とにかく、これからは毎日上げていくつもりで更新できるよう努力しますので、よろしくお願いします!
「――――――――で?どういう経緯でここにいるんだー?」
ミーナ、と呼ばれていた少女が作ったスープをすすりながら、幼い少年に見えるリーダーが尋ねる。まずは、そっちが自己紹介なりなんなりをするのが先だと思うのだが。というか、なんでこんなところに居るのかというのは俺たちの方からも聞きたい。こいつらは、なんでこんなところに居るんだ?
「わ、私たちは、あの・・・・その」
「・・・・」
俺が黙ってネリエルの足を鼻先で押すと、言い淀んでいたネリエルは、ハッとした様子で口をふさぐ。おいおい、ネリエルさんやい。そりゃあ、あまりにも分かりやすいってもんじゃあないんですかい?思わずため息をつきそうになり、慌てて気を引き締めなおす。
「ふーん。訳アリね。あやしーんだよなー。」
「訳アリはこっちも一緒でしょ。あまり人を疑ってると、私たちに返ってくるわよ」
「それは、エルフ族固有の考え方だろー?考え方をエルフに寄せてやるつもりは、毛頭ないなー」
「むしろ、ドワーフ族には当てはまらない、って言った方が正しいわね」
「あん?」
「なによ?」
目をらんらんと光らせて、睨みあう森の賢者と土の小人。もう、これは何と表現したらいいのか。種族的に相性が悪いのか、それともただ単にこの二人の相性が悪いのか。多分、どっちもなんだろうなあ。あはは。急に巻き込まれた身としては、ただ笑うことしかできない。もしかしたら、ドワーフが火の魔法を得意としていることに関係があるのかもしれない。エルフは森で住んでるから、燃えちゃう!みたいな・・・・?
睨みあって、ガンを付けあう二人。その距離がだんだん縮まって、あと数十秒したら唇同士がくっつくんじゃね?なんて、バラエティ番組に出てくる芸人のガチョウ倶楽部に影響されたことを考えていると、何かが、二人の間に突風と勘違いするような速さで割り込んできた。なんと、その突風の正体はネリエルだった。何を考えたのか、二人の言い争いの仲裁に割って入ったネリエルだが、硬直してしまっている。当たり前だな。慣れないことはするもんじゃない。危険だし。ほら、見ろよ。あのミーナとか言うエルフと、ドワーフ。お互い現れた障害をどう排除するかしか考えてなさそうだぞ。
「い、いやあ!エルフ族はみんなに優しくて、ドワーフ族は力全てみたいでかっこいいですね!!!!私も、ドワーフ族かエルフ族がよかったかもなー!なんてッ!!!!」
長い沈黙の後、一番最初に出た言葉だった。どっちにもつかず、お互いを褒める無難なやり方だろう。だけど、この二人に対してはちょっと対応が違ったかもなーなんて考える。まあ、仲がいい友達じゃないんだから、これが一番無難か。仲がいい友達だったら、この場を丸く収めることも可能なんだろうけどなあ。
「・・・・」
「・・・・」
しばらく無言で見つめあう二人。なんだろうな、この感じ。うーん、甘酸っぱい!?そんなことを考えていると、何を察知したのかドワーフとエルフの二人組がこちらをにらんでくる。や、やめてください。私は、善良なオオカミですよ。
「まー、少女の勇気に免じて許してやらないこともないなー」
「それはこっちのセリフ。それはともかく、ゴメンね、怖がらせちゃって。コイツ、どうしようもないリーダーなんだ。」
「あ、あはは」
ミーナの言葉を肯定するわけにもいかず、愛想笑いを浮かべる、ネリエル。あらら・・・・なれないことをしたせいだろうな、めっちゃ疲れた顔してる。気を使いすぎるなんてこと、中々ないだろう。でも、この世界だとこの年齢から冒険者なんて職業についてるわけだから、人とのコミュニケーションが結構大事だったりするのかな?
「はぁ・・・・ぐるるぅ」
「えっ。結局いいの?もう、だったら最初からそう言ってよ・・・・」
「・・・・なに?どうかしたの」
リーダーである幼い容姿のドワーフが、勘弁してくれというように手をひらひらさせたため、人付き合いの得意そうなエルフのミーナに一任したようだ。これでいいのか、リーダーよ・・・・。
「じ、実は。事情をある程度話しちゃえってことらしいです。」
「あー・・・・そうなの。じゃあ、聞かせてもらってもいい?」
まるでスライムが垂れるような、どこかまだるっこしいやり取りで会話が進んでいく。ネリエルがまだ落ち着いていないこともあるだろうけど、それとは別の部分で何か慌てているような気がしてならない。うーん、冒険者としての奴なんだろうなあ。この人たち、めちゃ強そうだし。
「――――――――それで、ここには土を掘りに来たんです。」
「土が、その――――――――内容は言えないけど、大事なことに必要ってことね?なるほど・・・・でも、つちを食料っていうのは無理があるでしょ。」
「そ、そうですかね」
「うーん、何て言うか・・・・形状からしておかしいじゃない?触った感じ、これ食料かよみたいなところ、感じるとおもうわよ。で、最悪ギルドに報告される。粉状麻薬なんじゃないかって」
「粉状麻薬・・・・」
粉状麻薬と聞き、アリスフィアの事を思い出す。あの、持ってるだけでヤベーヤツ。あれも、加工すると粉状も麻薬になるんだろうか。それとも、乾燥させるやつ?まあ、それはどうでもいいのだが。聞いたところによると、まったく食料で通じないって。まあ、言葉通り食料で通すつもりなんて、元々なかった。食料とか適当なこと言って、何とかしようと思ってた。何とかなるなら、ぶっちゃけ何でもいいのだ。
「じゃ、じゃあ小麦粉とかは」
「あーいいんじゃない?一、二袋本物入れておけば、目くらましにもなるだろうし。」
「理由は、少人数で運搬してきた商人なので、預ける方法がない。だから、迷宮内に居る専属護衛を確認する時も小麦粉を持っていきたい。そのために雇った。で、良いのではないか?」
小麦粉の運搬という設定を聞き、「それ、いいんじゃね」と言わんばかりに会話に介入してくる人間の男。確かに、筋が通ってる。パーティー内で最年少っぽい(実年齢では)のに一番しっかりしてるっぽいだけの事はある。怪しまれたら、本物の小麦粉を二、三袋開けて見せてやればいいだけだし。
「それ、いいかも。じゃあ、そうしてみたら。私たちは弁えてるから、その目的っていうのを詳しく訊いたりはしないからさ」
「あ、ありがとうございます」
「俺は聞きたいんだけどなー理由」
「えと、その・・・・」
「あはは!こいつの言ってることは気にしないで。口から出るのは99%が戯言だから。ね、そうでしょ?クー?」
「あはは・・・・」
またもや、二人の間に剣呑な雰囲気が漂い、愛想笑いを浮かべるしかないネリエル。これはもう、治らない二人なりの付き合い方ってやつなんだろうなあ、なんて、感慨深げに思っているオオカミであった。人の仕草を見て悟ったような表情をしてるオオカミって、傍から見るとどういう風に見えるんだろうな、なんて、少し不安にもなってみる。
「そこらへんにしておいたらどうだ、ミーナ。ドラン殿もだ。ネリエル殿が困っているだろう。我々が説明をせずにふざけていたら、ネリエル殿たちはどうすればいいかわからず困惑してしまうだろう」
「・・・・まー、たしかに。ミーナのせーで怒られちったな。俺はそんなの分かり切ってたのにさー」
「今回は、どちらかというとドラン殿がわるいぞ・・・・。子供と言われるのが嫌なのならば、大人らしい振る舞いをするべきだと思うのだがな・・・・」
やれやれ、といった様子で肩をすくめる、人間の男性。なんていうか、苦労しているんだろうなあ。俺は、この姿になってから積極的に人間の交流を持とうとしたわけではないから、苦労を忘れかけていたのかもしれない。ネリエルと出会ってからまだ日も浅いし。
「まったく・・・・戸惑わせてしまって申し訳ない。改めて自己紹介をしよう。私が人種のイグン。イグとでも気軽に読んでくれ」
「私はフォレストエルフのミーナ。ただのミーナよ。よろしく」
「・・・・俺は、ドワーフのクゥプドラン。クーだのドランだの呼ばれてる。とりあえず、よろしくなー」
瞳に宿した警戒の色を隠そうともせず、こちらに自己紹介をする、ドラン。うーん、難儀な性格だなあ。この三人が一緒に行動してるってことは、別に人種とドワーフ間で戦争があるってわけじゃないんだろ?なのに、なんでこんなにこっちを警戒してくるんだ?
コルダムは失念していた。この世界は前世のように平和な世界ではないのだと。町中でさえも危険だということを。ましてや、外はもっと危険だということさえ。魔物のほかにも、この世界には脅威がある。それは、野盗。これに関しては、人間に限らず言えることだ。全ての種族に等しく存在してしまう、野盗。道を商人のキャラバンが通っていたら、大規模な野盗集団に襲われ、虐殺と強盗をされるという話も、珍しくない。
そのため、中級~上級冒険者には、護衛の任務で多く声がかかるという。冒険者にとって、護衛任務は重く責任がかかるため、簡単に受けられるものではないが、大手の商会を護衛したという実績があれば、名に箔が付くため、喜ばれることも多いという。
「私はネリエルです。こっちのグレイウルフの魔獣はコルダムくん。コルくんって呼んでます」
「ワン」
一応、俺も警戒を与えないような声であいさつしておく。う~ん、この人たちと行動してもいいものなのか。何て言うか、かなり心配なんだよね。ドランっていうリーダーにはすごい警戒されてるし・・・・。なぜに警戒されてるのかは謎だが。
「それで、ここに我々が居る理由を説明してなかったな。実は――――――――」
「いや、いい。俺から説明するわー」
「いいのか?」
「いいよ、別にー。どっちみち説明すんなら、リーダーの俺からの方がいいしなー。」
そう力を抜くように言うと、表情をキッと引き締める。直前の軽い雰囲気から一転して、張り詰めるような雰囲気を内包しているのが分かる。
「・・・・この辺りで見たことのない魔物が出現している。見た目は小さな鼬。だけど、ただの鼬じゃない。強いとも弱いとも言えない風魔法を使って、結構深めの切り傷を付けてくる。わざと急所を外してるのかは知らんが、結果的にそうなってる。」
「即死はしないとはいえ、結局大量出血で死亡者が結構でてA級有害指定されてるの。A級有害指定モンスターは『即時討伐対象』」
「即時討伐対象・・・・」
即時討伐対象。聞きなれないその言葉を聞いたネリエルは、オウムのように復唱してしまう。っていうか、なんで冒険者なのに知らないわけ?あなた、結構ドヤってましたよね?
「そう。B級冒険者パーティー以上は推奨。未確認魔物だから、報酬は結構高いよ。」
「鼬の魔物ですか。風魔法で・・・・」
「なんで止めを刺さないのかもわかっていないの。もしかしたら、魔力の節約的な狙いがあるのかもしれないけど・・・・」
「まー、それなら首を狙えばいい話だしなー。確実性ってやつかもしれんけどなー」
確実性という言葉を強調するドラン。・・・・なんだか、ミーナさんがドランをバカにしてしまう気持ちもわかるかもしれない。疑問を持ったとしたら、顔をのぞいてみよう。ほら!すっげえどや顔。この、ふふーんってかんじ!弟や!きんじょの小さいころからお世話になってるお姉ちゃんになでなでされる奴や!中学二年生ぐらいでもなでなでされて、恥ずかしいからやめろよとかいっちゃうやつだ!で、本当にされなくなって、がっかりしちゃうやつだ!そんなことをニヤニヤしながら考えていると、何かを察されたのかドランからギロリと睨まれてしまった。
「でも、その口ぶりだと遺体は見つかっているんですよね?」
「ああ、うん。食料としているなら見張っていると思うんだけど・・・・」
「他の魔物が寄ってきてしまうのかもしれんな。だから、多くの獲物を取り逃がす」
そこでネリエルは何を思い浮かべたのかは知らないが、どこか納得したような表情を見せる。俺は前世のハイエナとライオンの関係について考えていた。ライオンはメスが狩りを行う。しかし、ハイエナは自ら狩りを行うことはほとんどないとか。で、ライオンは多勢に無勢で追い払われてしまう場合もある・・・・ちょっとちがうか?
「でも、それって脅威なんですか?大勢で討伐隊を編成すれば、だいじょぶなんじゃ?」
「それが、相手の規模が分かっていないから簡単に人数を投入することが出来ないらしいの。」
「囲まれていっきにひがいがーなんてことになったら目もあてられねーからなー。」
「私は、ギルドが下手な言い訳をしているように聞こえるがな。囲まれる不安なら、編成方法に工夫を凝らせばいい。五人一組の即席チームを組み、散開して探せばいい。遭遇したら、各隊撃破で良いだろう。こんなこと、まともに指揮や作戦を立てたことのない私に分かるんだ。なにか、別の糸があると考えて間違いないだろうな」
「ちょっと、イグさん新人さんに向かって言うことじゃないですよ」
急に険しい表情でギルドに対しての疑念を話し始めるイグさんに、ミーナが少し厳しめな表情で注意する。なにか、聞かれたらまずい事だったんだろうか?いや、まずくなくても聞かれるべきではないんだろうな、ギルドに対しての不信感なんて。
「あー、まあ。大丈夫ですよ。私たちは長い間ここにとどまるわけじゃないので。ここから移動するんですよ。王都に」
「へー、王都に行くの。でも、最近は少し治安が悪いみたいよ?この国の都だっていうのに、衛兵は何を考えているんだか・・・・」
「・・・・仕方ないんですよ。上からの圧力がかかれば」
「え?」
「・・・・いえ、なんでもないです。じゃあ、私たちはこれで。スープ、おいしかったです」
「あ・・・・うん。また、縁があったらごちそうするよ。こんどは、おいしいお肉用意しとくね」
「・・・・楽しみに待ってます」
ニコっとミーナさんに向けて笑顔を向けるネリエル。その表情は、いつもとくらべるとどこか無理して作っているような気がした。あくまでも、女性の変化に疎い俺目線からではあるが。
「・・・・コルくん、どうすればいいかな?」
「どうって・・・・なるようにしかならないだろ。今はとにかく、集めた土を迷宮に運ぶぞ」
どうすれば良いかなんて、俺が知るわけないだろ。今はただ、これが正しいと信じて動くしかない。どこまであの組織が手を伸ばしているかわからない以上、騎士や衛兵に通報するのも意味がない。内部にまですでに手が回っているとすると、その一手は悪手というものだろう。
とにかく、動くしかない。先が見えない俺たちは、”何かをしていないと不安になる”そんな焦りと不安と無力感が入り混じった、良く分からない感情で動いていた。




