18 なあ、これってロマンだよな?ダンジョンのロマンがいっぱいな件!
二人の楽しそうな女子トークがひと段落ついてから、アリスフィアは黙って歩いている。何を考えているかわからないので、こちらとしても、後をついていくしかない。しかし、なんていうか一抹の不安が残るんだよなあ。多分、アリスフィアは天然だ。・・・・なんだ、このチーム天然しかいないのか。
「・・・・なあその、目的地はまだなのか?いい加減不安になってきたんだけど」
「まあ待ってろって。もうすぐで、すっげえビックリすることになるからさ!」
「なんだか、アリスさんの張り切ってる時って、あまりいいことが起きないような気がするんですけど、なんでですかね?」
「それを身をもって知ってるからじゃないか?」
「え?どういう意味ですか」
分かんないかあ。アリスフィアとネリエルは、似てるって言ってるんだよ(ニコッ)。天然が張り切ると、良からぬことが起こるっていうのは、前から言われていることだからなあ。
「世の中にはな、知らん方がいいこともあるんだよ(ニッコリ)」
「何ですか、気持ち悪い。てか、どうやって笑ってんですか。表情筋発達してるんですか?」
「え、俺そんなに笑えてる?」
「気持ち悪いくらい笑ってますよ」
「なんだよ、もっと違う言い方あるだろ。『笑顔が素敵ですよ』とかさあ」
「ぷっ」
「なんだよ!笑うなって!」
「待て、ここだ。」
バカな話をしていた俺たちを制止して、ダンジョンの壁を指さすアリスフィア。ここは、ダンジョン一階層の、西の端の通路。おそらく、ダンジョン一回の外周だろう。アリスフィアは、何も存在しない・・・・いや、強いて言えば、苔と灰色のレンガとツタだけはある。それを指さしていた。
「・・・・何が?」
「何もないですよね」
「いや、ある。」
「あー、ネリエル。嫌な予感が的中した罰として、なんとかアリスフィアを正気に戻してくれないか?」
「え、私でも何もないところに何かがあるなんて、痛いこと言いませんよ」
「バカ!幽霊がいるって言ってるわけじゃないんだから!」
でもまあ、ネリエルが言いたいこともわかる。俺が小学生だった時も、『ああ、悪意の波動が見える・・・悲しみと怒りが、渦巻いている・・・・ああ、止めてび私の中に入らないで・・・・ッ!』なんて言ってる女子がいたなあ。幽霊が見えていた女の子は、今どうしてるんだろうなあ。霊媒師でもやってるかな?それとも、普通に働いて『なんであんなこと言ってたんだ、私はあぁっ!!!』なんて悶絶してるのかな。同窓会、来てるの見たことないな。元気かなあ。
「ち、ちがうわっ!この、石レンガの壁!何か、違和感を感じないか?」
「・・・・この1ブロックだけ、微妙に隙間が空いてるな。しかも、すこしこすれたような跡が」
「大正解。」
そういうと、アリスフィアは壁のレンガを押し込んだ。ガコンッ。そんなお約束的な音がして、レンガが少し引っ込んだ。しかし、しばらくたっても何も起きない。
「・・・・なんだ、少し緩くなってただけだな。」
ゴリゴリゴリゴリゴリッ。安心したのもつかの間、今度は重量のあるものを石畳にこすりつけたような音がする。一体、何の音なのだろうか。そう思って、俺が辺りを見渡すと。
「どこを見てるんだ」
「え?」
「オオカミさん、前・・・・」
注視しなければ気づかないほどにゆっくりとした速度で開いた壁は、まるで元々ここは壁なんてありませんでしたよ、なんて言いだしそうなほど自然な通路を。もし開いていたとしても、誰も気づかないだろう。
「これは・・・・」
「か、隠し通路?」
「そう。私が8歳の時、この隠し通路を見つけた。それ以来、この隠し部屋で色々なことをしてたんだ。読書とか勉強とかな」
「・・・・すげえな」
思わず、感嘆の声を漏らしていた。ダンジョンの奥、何もないと思っていた壁の一部を押すと、開かれる秘密の通路。中には誰も入った形跡はなく、ほこりっぽい空気は長らくここが閉ざされていたことを証明する。・・・・そんな状況に、俺はあこがれていた。誰かが入った形跡はあるものの、俺の胸中は得も言われぬ高揚感と、喜びに満ち溢れていた。シナリオチェックと修正をしている身として、様々なゲームやラノベを読んでいた。どうでもよかったゲームやダンジョンが、いつしか俺にとってかけがえのないものになっていたのかもしれない。
「だろ!?ロマンあるだろ!?初めてここを見つけた時には、心臓が破裂しそうだったよ。『一体、この奥に行ったら何が待ち受けているんだろう』ってね。でも、待ち受けていたのは大量の本と人が住んでた後だけだった。」
「いや、こんな通路を見つけるなんて、すげえよ。俺、今マジで感動してる。・・・・で、もうはいっていいの?」
「ああ、どうぞ」
にこやかな表情で、両手を開いた通路に向けるアリスフィア。どうぞ、どうぞという仕草だ。・・・・きょうびそのしぐさ見ねえな。そのしぐさに対して、古いというツッコミを入れようか一瞬迷った物の、今はロマン優先だ。
「・・・・入るぞ」
「は、はい・・・・!」
ごくりと生唾を飲み込み、震える脚で秘密通路へと足を運んでいく。暗い道をすすんでいくにつれ、心拍数が上がっていくのが分かる。なんでだろうか?このダンジョンには、アリスフィアの報告を聞きに来たのと、今後どうするかを話し合おうという目的で来たのに。顔が二やついているのが分かる。勝手に、自分の意志とは関係なしに、笑っている。
すごいな、これ・・・・一体、だれが何のためにこんな空間を作ったんだ?アリスフィアが言うには、この先には居住空間があるらしい。誰かが住んでいた形跡もあるらしいし、誰かがこの部屋を作ったっていうのは間違いないと思う。
「・・・・」
「ここが、隠し部屋だ」
「暗いな・・・・」
「良く見えないですね。広そうなのは解るんですけど・・・・」
「アリスフィア、ランプか何かないか?」
俺がそう問いかけると、アリスフィアはスッと少しだけ離れ、何かをゴソゴソと探り始めた。明かりをつけるために、何かをしているんだろうか?と、思っていると、急に明かりがつく。手前から奥まで順に、ぱちっぱちっとついて行っている。
「うわあ、凄いですね、これ・・・・」
「すごすぎて言葉が出ないぞ、マジで・・・・」
「これ、何冊あるんですかね」
「さあ・・・・五百は超えるぞ、多分」
明かりがついて、良く見えるようになったその部屋は、大きな書斎のようになっていた。大きくくりぬかれたような大部屋に、本棚がいくつもある。入ってすぐ下りる階段があるのも、高さを考慮してだろう。なるだけ多く本を収蔵しようとしたのだろうか。
「なんだこれ・・・・しかも、この部屋は木も使われてるじゃないか」
「ほんとですね・・・・。階段も、本棚も。壁にも一部使われてますね」
「すごいな、これ。一体何年前に・・・・」
階段と言っても、一階層降りるための階段ではない。ローマの休日に登場するバルカッチャの噴水の広場の階段に似ていると言えばわかりやすいだろうか。横幅が長く、下の階に降りるためでなく、同じ階のまま高さに差をつけたり、ゆったりと降りるために用いられる階段。
「なあ、アリスフィア。8歳の時にここを見つけたっていうけど・・・・アリスフィア?」
「お、おぅ・・・・ぇあっ、げほ、げぇほっ!」
「・・・・どしたんですか」
「だ、大丈夫か?」
「あ、ふっ・・・・はぁ、はぁっ・・・・」
「と、とりあえずおちつこ、な?」
入ってきた場所からちょっと離れた場所で、アリスフィアがスライムのようにでろーんとした様子で、椅子に掛けている。一体、この数秒で何が起こったんだ・・・・。
「はぁっ・・・・電気付けたら、魔力大量に持ってかれて死ぬかと思った」
「はあ」
「へえ、魔力灯ですか。なかなか、豪華なんですね」
「ああ。私が初めて来たときには、もう魔力灯だったな」
「へえ、それ、すごいのか?」
「は?なにいってんだ、コルダム君は」
「あー・・・・っと、まあ、魔力灯は中々高価なんですよ。街中では街灯とかですかね。あとは、儲かってるお店の灯りとかが、それだったりします」
「一般人が出すには、ちょっと高い程度だな」
「あっ、そう」
「正直、一般常識だぞ」
もしかして、あれか?『高性能なPCって、高いのかなあ』って言ってる感じだった?だとしたら、相当あほだな。でも、この世界について良く知らないし、常識だって知らないんだ。それくらい、許してほしいもんだなあ。
「まあ、俺オオカミだし」
「そうだな・・・・。でも、なんか納得いかないんだよなあ・・・・」
「確かにオオカミさんはオオカミだし、この隠し部屋はすごいです。だけど、何のために集まったのかを再確認をしませんか」
「そうだな。じゃあ、アリスフィア。潜入の成果を教えてくれないか?」
「ああ、実はな・・・・」
ネリエルが何とか話をごまかし、ついでに話をもとに戻した。ようやく、話し合いが始まる。いやあ、なんで今回ここに来たんだろうな。別に、話し合うだけならただ単に人気の少ない場所とか、逆にうるさすぎて周囲がこちらの話声を聞けない場所とかでもよかった気がするが、アリスフィアが自慢出来てうれしそうな表情をしてるんだ。それなら、いいんじゃないかな。
因みに、作者はマジもんの隠し部屋を発見したことがあります。隠し部屋と言うか、元々地下収納庫だったらしいんですが、その家が取り壊しになった時地下室は埋められず、その上に雑木林ができて・・・・みたいな。子供の時、足元を掘ったら入り口が出てきたんでビックリしました。中には入っていないんですが、入ればよかったなあ・・・・。




