16 今日をいつか祝うために
もう、「~の件!」っていうタイトルが思いつかないんで、普通のタイトルにします。あとで修正するかもしれません。
「なるほど。つまりは、麻薬だと勘違いさせて、密売組織に売りつけるのね?」
「はい。高純度のカエデアサモドキだと勘違いさせます。」
「でも、依存性とか中毒性は?」
「いえ、基本的には良い効果を生む薬草をブレンドしてつくるので、問題ないです。中毒性も、健康被害もありません。唯一麻薬と共通する点は、『集中力が上がる』のと、『リラックス効果がある』という点だけです。あとは、安眠効果と二日酔いにも効きますし・・・・」
良いことしかない、とんでもない薬だ。実はもう、なにをどうどの分量でブレンドすればよいかは、決まっている。というのも、アリスフィアの働いている店の、店主さんにお願いして、教えてもらったのだ。運のいいことに、種も分けてくれるというので、栽培も試してみることになっている。
「いいことずくめじゃない!私も欲しいわね・・・・でも、そんなにいい薬なら、正規の貴族向けの商会にでも売ればよかったんじゃない?」
「今回は、麻薬組織などをつぶす目的もありますので。あとは、見せしめです。これが成功すれば、資金援助をしているであろういくつもの反乱組織や犯罪組織が、壊滅に追い込まれる筈。取引される他組織のアジトの場所も、調査員によって判明しますし、私たちも動きます。」
「芋づる式に一斉検挙しようってわけね」
「そういうわけです」
まじかー。特に、麻薬取引組織に売りつける理由は、特になかったんだけどなあ。理由をあげるとすれば、大手の商会よりも、麻薬取引をする組織の方が、簡単に売りつけられそうだなあと思う。信用って、あまり重視してないと思うんだよね、ああいう輩って。
「なるほどね・・・・でも、私にそれを許可する権限はないし・・・・」
「大丈夫です。黙認していただければ・・・・事後報告でも大丈夫だと思います。」
「分かりました。責任はすべて私が負いましょう。私の責任において、反乱組織に対する諜報活動、そして犯罪組織の検挙権利を緊急付与します。」
「助かります。もし責任を負って仕事を失ったときは、ウチに来てくださいね。まだ、席は余ってますので」
「あら、それは楽しそうね。・・・・もしダメだったら、よろしくね」
「じゃあ、私たちは報告を受け取りますね。調査員からの報告がそろそろありますので」
「分かりました。じゃあ、健闘を祈ります」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「・・・・なんとか、言いくるめられたかな?」
「もし、責任を取らされて辞めさせられたら、どうするつもりだ?」
「あの人の事ですか?」
「ああ」
「まあ、あれですよ。私が言ったことは、ほぼ本当ですよ。アリスフィアは潜入調査をしてるようなもんですし、調査組織を立ち上げたいなあっていうのはありますし。」
「で、もしもの時にあのお姉さんを招き入れるのも、本当ってか?」
「ええ。本当ですよ。元衛兵の人がいたら、何かと都合がつきやすいんじゃないですか。」
「確かにな。・・・・でだ。どうする?」
販売許可も、調査許可も手に入れた。口だけでなく、あの後にちゃんと書面でも貰った。これで、準備万端なのだが・・・・。問題は、偽麻薬だ。なにをどうブレンドするかは決まっているのだが、ブレンドする元のハーブ。それをどう大量入手するのか、それが問題なのだ。栽培も、難しそうだし・・・・。
「どうしましょうね。まあ、アリスさんの店主さん曰く、これらのハーブは気象や温度変化に強いから、楽に育てられるらしいです。魔獣などが食べるので、外では入手しにくいらしいですが」
「なんだそれ、最高じゃん。」
「アリスさん曰く、良い条件のを見繕ってもらったと。」
「へえ。気前がいい店主さんだね」
「借金が増えたとも言ってましたね」
「怖い店主さんだなあ」
でも、なんだかんだで種を大量に提供してくれたわけだから、味方としては、かなり心強い。
「とりあえず、話はアリスフィアが帰ってきてからにしよう。ネリエルが衛兵さんに話した計画の事も含めてな。どうせ、まとめて壊滅させるって言うのは、ブラフじゃないんだろ?」
「はい。本気で言ってます」
「だよな」
「日も暮れるし・・・・どうする?なんか食いに行くか」
「ですねー。適当に、どっかのレストランにでも行きましょう」
「そだなー」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「腹も膨れたことだし・・・・」
「待ち合わせ場所行きますか」
特に話すこともなく、スタスタと待ち合わせ場所に行く。アリスフィアとの待ち合わせ場所は、町に入った付近にある、怪しげなローブをかぶった魔導士の精巧な石像と決めてある。因みに、この石像の魔導士は、女性だ。一体何をした人なのか気になりだしたところで、目的地に着く。
「この石像の人って、なにした人なんだろうな」
「え、知らないんですか?この人は、通りがかりの魔導士ですよ。この町に魔物のスタンピードが爆走してきたときに、この魔導士の放った魔法が、魔物を全滅させたんですよ。」
「その魔物の大群は、どれぐらいの規模だったんだ?」
「結構大きめだって聞いてます。それを、一人で全滅させたんだからすごいですよねー」
「すげえな。でも、一発じゃないんだろ?」
「多分乱発ですよね。でも、それだけ魔力があることがすごいんじゃないですか?わからんけど」
「わからんて。正直想像つかんよなあ。魔物の暴走してる群れなんて、普通に考えて倒しきれないだろ。しかも、一人で。」
「私だったら、とっとと逃げちゃいますね」
「そうだなあ」
一体、その魔導士は何を思ってこの町を救ったんだろうか。圧倒的な魔力に自信があった?この町に、知り合いが住んでいて、助けた?魔物の群れに蹂躙されるであろう町を、哀れに思って助けた?
「・・・・なんにしても、俺たちには無理だ」
「オオカミさん・・・・気づいてますか?私たち、これからこの町とかそういう規模じゃなくて、この国を救おうとしてんですよ」
「偶然そうなっちゃっただけだ。俺は、俺たちはアリスフィアを助ける。ただ、それだけだろ」
「そうですね」
「つか遅いな、アリスフィア」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「・・・・っ」
ローブの魔導士像から少し離れた、噴水の裏。その後ろで、ゆるくウェーブのかかった髪型の少女は、泣いていた。その人物たちを、少し疑っていたのだ。実際のところ、私の監視係りなのではないかとまで思っていた。それが、自分のいないところで話していた。自分を、助けるためだと。
「ふっ・・・・、ううっ・・・・!」
情けなかった。私を助けるために、色々と手をまわしてくると言って何処かへ行った彼女たちを、信じることのできなかった自分が。恥ずかしかった。私の前であんなに作戦を話していた最中、怪しい動きをしないかとビクついていた自分が。
「うっ・・・・うあ・・あぁ・・・・っ」
泣きたくなんてなかった。でも、止まらなかった。安心してる涙なんかじゃない。でも、恐怖しているわけでもない。悔しい。自分の考え方が、生き方がこんなにも歪んで、汚れてしまっていることが。歪められてしまったことが。
「ぐぅっ・・・・うぅっ」
そして、決意した。涙を勢いよくぬぐって、決意した。絶対に屈することはできない。自分が犠牲になってもいい。だから、今回の企み、絶対に成功させなくてはと。メイガンを絶対に、救い出してやると。スラム時代の知り合いを、全員必ず救い出してやると。・・・・反乱軍を、残らずぶっ潰してやると。




