10 からかうつもりが結構な事態になっちゃった件
子供の時、少しからかわれただけなのに、憤慨して遊んでる途中にどっかいっちゃう。みたいな経験をしたことありませんか?私はあります。からかっちゃった側です。翌々日に先生に報告され、倍返しされました。逞しい!
「くぅん、くん、くぅ~ん」
「えー?何言ってるかわかりませんよぉ。ちゃんとした言葉でしゃべってください、コルくん」
「むかっ」
このどや顔がクソ腹立ったので、足ごと服をちょい強めの力で噛んで連れてく。
「あで、あでで。痛いです、コルくん」
「うるさい。ちょっとこっち来い」
「自分の足で行きますから!ちょっ、痛い痛い!」
「信じられんな。もうちょっと強くしてやる」
「イデデデ、イダイイダイ!本当に痛いですから!」
「痛くしてるんだもん。」
俺は、そういうとそこそこ強い力で足にかみつく。そして、心配そうにこちらを向いている少女を背に、もう少し奥にネリエルを連れていく。
「おい、これからどうすんだよ。あの名前も知らない少女、どうするつもりだ?」
「どうするって言っても・・・・コルさんはどうするつもりですか?」
「コルダムって名前はもう確定なのね・・・・いや、どうしようもないだろ。まあ、俺たちがレベル上げを終えるまでは一緒に行動してもいいかなと思ってるんだが、そっからは別々に行動、ってわけにもいかないだろう」
「まあ、そうですよね」
「で、ネリエルはどう考えてるんだ?」
「私は、別にいいんじゃないかって思います。」
「・・・・なんで?」
「あの人、盗賊ですよ?いろいろ、便利なスキルを持ってるんですよ?」
「技量ねえ・・・・。」
「ちょっと一緒にレベル上げて、深層まで同行してもらいましょうよ」
「死んでも、俺たちに責任は負えないんだぞ」
「死なないように助け合えばいいんですよ」
「助けるだけにならないと良いんだけどね・・・・」
「どうかしたんですか?」
「ああ、コルくんがお腹すいちゃったみたいで。」
「・・・・もう、後を尾行したりしないです。ごめんなさい」
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。ここ、ダンジョンですよ?一人で行動してたら、フィールドボスに遭遇したときとかどうするつもりですか?」
「それは・・・・」
「一緒に行動しましょう!」
「い、いいんですか!?」
「私たちも、さびしいし・・・・ついでにレベル上げちゃったらどうですか」
「そ、そこまでしてくれるなんて!」
恩を売って、何を要求するつもりなのか。コイツ、さっきから、この少女なーんか怪しい視線を向けてるんだよなあ。なんか、気持ち悪い視線。嘗め回すような、というか。値踏みするようなというか。
「ダンジョンなんて、命の危険と隣り合わせなんだから、助け合わなきゃ。」
「そ、そうですよね!」
「くるるぅん・・・・」
俺、一体どうしたらいいの?怖がらないように馬鹿みたいに高い声出さないといけないから、すっげえ喉痛いんだけど。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そういえば、まだ名前を聞いていませんでしたね。名前なんて言うんですか?」
「わ、私の名前はアリスフィアって言います。」
「可愛い名前!私の名前は、ネリエルって言います!」
「ネリエルさん、ですね」
「よろしくお願いします!」
「こ、こちらこそよろしく、お願いします・・・・」
よろしく、とガッチと握手を交わしあう二人。・・・・どうしよう、俺、ずっとこのままキャンキャンやってなきゃいけないの?まじかよ・・・・。
「ところで、アリスフィアさんのレベルって今いくつなんですか?」
「私ですか?私は・・・・いま、レベル2です・・・・」
「るるる・・・・」
自分のレベルに自信がないのか、声が尻すぼみに小さくなっていく。恥ずかしがることないんじゃないのかな?俺たちだって、レベル4なわけだし。
「レベル2ですか。うーん、まあそれくらいなら勝手にレベルアップしてくでしょう!」
「え、ええ・・・・そんなんでいいんしょうか・・・・?」
「くるるるぅ・・・・」
ネリエルって、しっかりしてるっぽく見えるけど、案外おおざっぱで全然しっかりしてないんだよなあ。俺を毛布代わりに使って寝た時も、寝ぼけて俺でよだれ吹いてたってことがあるし、ちょっと臭くなってたから、こっそり川で洗ったってこともあるからな・・・・。
「いいんじゃない?コル君もこう言ってることですし。ね、コルくん!よーしよしよしよし」
「きゅぅう~んくう~ん」
「・・・・わぁ」
あ~きもちいい~。この、首の周りをワシワシされるヤツ、まじで気持ちいい。みんなも、犬になる機会があったら是非誰かにやってもらうと良いよ。うん。俺犬じゃないけど。なんか、このマッサージされると、甘えた子犬みたいな声が出ちゃうんだよなあ。あの、風呂に入った時にでてしまう「あ”あ”~」に似たところがある。なぜだか、声が出ちゃうみたいな。俺、甘えた犬じゃないけど。
「ん?どうしたんですか、アリスさん。これ、撫でてみたいんですか?」
「え?あ、はい!」
そういうと、そろ~っと手を近づけてくる、アリスフィア。てか、ちゃっかりアリスって愛称で呼んでるんじゃないよ!羨ましい!それを嬉しそうに受け入れているアリスフィアにもカチンときたから、ちょっと驚かしてやる。
「わぁ~」
今更ながら俺のもふもふの魅力に気付いたのか、目をキラキラと輝かせながら手を近づけてくる、アリスフィア。む、そろそろいいかな?アリスフィアが、ギリギリ俺に触れない位置まで手を伸ばしたことを確認すると、俺は、体をビクッと震わせた。
「きゃあっ!?」
「あっ!」
ビクッと震えたからだは、当然、触れようとしていたアリスフィアの手にふれる。ふれた拍子にびっくりしてしまったアリスフィアは、尻もちをついてしまった。何が言いたいかというと、結果的に、とんでもない汚物を尻の下に敷いてしまうこととなったということだ。おそらく、それはこの一階層に多く存在する、ゴブリンの大べ―――――――――――――
「ああっ!!!」
「う、ううっ・・・・」
よろめきながら立ち上がったアリスフィアの腰辺りを見て、ひときわ大きな叫び声をあげる、ネリエル。俺のせいで気が小さくなってしまっているのか、その声にも驚いて、小さく肩を震わせるアリスフィア。そのまま、ゆらゆらと不確かな足取りで、ダンジョンの奥の方へ歩いて行ってしまった。・・・・うん、あー、うん。これ、もしかしなくてもやっちゃったんじゃない?
「どうするつもりですか」
「ええ・・・・まじでどうしようか」
「マジでじゃないですよ。マジで」
「むしゃくしゃしてやった」
「犯罪者のいいわけじゃないんだから!」
「いやあ、まさかちょっと驚かせようとしただけなのになあ」
「ちょっとで済むわけないでしょうが!もし、奥の方でアリスさんが死んでたら、どうするつもりなんですか!?」
「・・・・ど、どうしよう」
ありゃー、やっちゃったかあ。なんて、軽く考えていたけれど、想像以上に状況はまずくなってしまっているということに気づく。そういえば、ここってダンジョンだよ。ダンジョンって、迷路みたいになってるよね。ってことは、今から後を追っても手遅れになってる可能性も・・・・。
「急ごう」
「ったく、出たら高いケーキおごってもらいますよ!」
「おごるって、資金管理俺がするの・・・・?」
「知りませんよ!!!」
「わかった、奢りますよー!」
「よーし全速力でアリスさんのもとに!」
「アイアイサー!」




