9 ダンジョン薄暗すぎて早く帰りたい件・・・・
もう、ネリエルのキャラがぶっ壊れてきた。主人公のキャラもぶっ壊れてきた。いや、私的にはどっちも自暴自棄になりかけてるっていう設定なので。・・・・はい。
「ねえ、もう帰ろうよ~」
「・・・・心霊スポットに来たカップルの彼女みたいなこと言わないでください」
「ちーがーいーまーすー。ヘタレな彼氏です~。彼女からはすっごい冷ややかな目で見られてますー。」
「どっちでもいいっ。びっくりした。これほどまでにどっちでもいいことは初めてかもしれないですよ。っていうか、彼氏しっかりしろよ、彼女呆れちゃってるじゃん!」
「性別差別よくないよ」
俺は、ネリエルの目をじっと見る。性別差別はよくない。昔、凛華の家で勉強してたら大きめのクモが出た時も、「きゃあああっ!」って叫んじゃった俺を大爆笑してからかっていた凛華。その時から俺は男女差別をしないと決めた。さすがに、男女平等主義とか言ってドロップキックはかませないけどね。
「うっ・・・・!」
「どうすんの、それがもしヘタレな男に見える僕っ娘で、先導してる彼女っぽいのが強気な女の子に見える男の娘だったら」
「しらねーよ!アンタの性癖なんてどうでもいいわ!!!」
「せ、性癖ちゃうわ!俺はエッろいドSなお姉さんが好きだから!」
「しらねー!うわ、どうでもいい~!」
「それに、性癖ってその人の性質上の偏り、癖って意味だから!それを言いたいなら、性的嗜好だから!!!」
「その豆知識いらんわ!もう、緊張感ゼロじゃないですか!」
「緊張感なんていらないよ!警戒は大事だけど、緊張して体ががちがちになってたら、いざというときに体が動かないかもしれないでしょ?」
「確かにそうですけど、緊張感って、警戒しとけって意味でよく使うじゃないですか?」
「警戒のあまり、体が固まるみたいな意味じゃなかったっけ?」
「そんなのはどうでも」
「しっ!」
ダンジョンで、バカみたいな会話をしていた、俺と、ネリエル。楽しい楽しい大好きな論争の途中だけど、俺はネリエルの声を遮って制止をかけた。
「なに・・・・?」
「何か聞こえた」
小声で会話をする、俺たち。何かが、聞こえた。そう、小さい音だが、何かが聞こえた。それは間違いない。何かを引きずるような音。そう、ズル・・・・ズル・・・・みたいな音が。
「構えろ。絶対、何か来る」
「はい・・・・!」
ズルっズルっ
ゆっくりと角から姿を現したそれは、ぬらぬらとした半透明な粘液で構成される、魔物だった
「スライムだ」
「なあんだ」
「これは、普通の?」
「はい、そうです。ふつうのスライムなら、弱いです。だけど、物理的な攻撃があまり効かないので・・・・」
「え、まずくね?」
「ですね」
「溶かされたり?」
「・・・・ですね」
「「・・・・」」
「「にげようか」ましょう」
俺たちは、マラソンくらいのスピードで逃げた。スライムは敵を認識してから猛スピードで追っかけてくる・・・・なんていうこともなく、こちらを認識した後もゆっくりと近寄ってくるのみだった。気になるのは、こちらを認識していないのに、ゆっくりと近づいてきたということ。なにか、嫌な予感がする。
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嫌な予感なんて感じていたことも忘れ、俺たちは魔物を狩りまくった。
「そっち、ゴブリン行きましたよ!」
「ワン!(近くに冒険者がいる)」
「ああ、そっちにゴブリンメイジ!」
「キャウン!(まだいるんか、冒険者)」
「あ、そっちにゴブリンレンジャー」
「ワオン!(あの、冒険者さん)」
「そっちにビッグラビット!」
「グルルルルルゥッ・・・!(どこか行ってくれませんかねー!?)」
「す、スライムだー!?」
「キャウン、キャウン!(なんでついてくんの、この人!?怖すぎ!?)」
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俺たちは、魔物をそこそこたおしたので、ダンジョンの行き止まりの場所で腰を下ろして休んでいた。ネリエルは壁に背中を付けて、足を投げ出す感じで。俺は、上半身はうつぶせだけど、下半身は横に向けて寝転んでるあの姿勢で休んでいる。もの〇け姫のモ〇と〇シタカが言い争ってた時、モ〇がその姿勢だった気がする。
「ふう、ふう。なかなか疲れましたね・・・・」
「キャうん。」
まだ後ろから冒険者が追跡してきているので、「キャウン」の「ウン」の部分を返事っぽく言って、意思疎通をする。
「どうしたんですか、さっきから」
「なんか、尾行けられてる見たいなんだけど」
「え?」
「冒険者に、後をつけられてる」
「本当ですか?」
「間違いない。」
「え、どうします?」
「俺に任せろ」
そう小声でいうと、俺はあのもののけ姫モロの体勢からゆっくりと起き上がる。威厳を感じるようなゆっくりとした、のったりとした動作で。そこで、何かに気づいたようにピクッと首をめぐらすと、一点を見つめる。
「グルルルルルゥッ・・・・!」
唸る。顔を歪めて、思い切り腹の底から唸る。そこに居る、何者かに向かって、唸る。
「ガゥルルルルルルルゥアァッッッ!!!!!」
「ヒィッ!」
「グルルルルゥァッ!」
ガブッ。ネリエルでも知り合いでもないので、容赦なく噛みつく。といっても、服の部分にかみついたわけだが。
「やめてください!ああっ!やめてぇ!」
「グルゥッ?(あ、女の子?)」
ブラウンの髪色に、肩までゆるいショートボブ。目は、若干黒の混じった茶色だろうか?・・・・どうやら、今回もまた女の子を泣かせてしまったらしい。・・・・まったく、まったくんもう!あたしってば罪つくりなおとこっ!使い方間違えてますね、ハイ。
「なんでこんなことするんですかぁ・・・・」
「そうですよ!私も、噛まれたんですよ頭を!あの時は、土下座して謝ったなぁ」
「ぐ、グルゥ・・・・」
そんなこと言われても・・・・という風に困った感じで鳴いてみる。オオカミの言語では全く違った意味になるのだが、怒られても嫌なので言うのは控えておく。意味は真逆とだけ言っておこう。
「ところで、なんで私たちをつけてたんですか?」
「えっ、いや、それは、そのぅ・・・・」
「がんばれっ!」
「じ、実は・・・・」
少女の話によると、薬屋で働いているのだが、ある日結構お高めのポーションを割ってしまったらしい。上級ポーションとかいう、結構な値のものらしいのだが・・・・それの弁償代を稼ぐために、店長には内緒でダンジョンまで来たらしい。それで、レベルが低くて魔物と戦うのが怖いこの子は、俺たちの後を隠密スキルでついてきたらしい。
「隠密スキル?って、便利ですね。ちなみに、職業の方は?」
「えと、盗賊っていう職業を取ってます。私にピッタリな地味なスキルばかりだったんで・・・・」
「盗賊っていうと、盗むとかトラップ解除とかアンロックとかのスキルがある職業ですよね?」
「はい、そうです」
「素敵なスキルじゃないですか!下層に行くと、鍵がかかってる宝箱とか、即死級の罠とかがあるので、重要な職業ですよ!」
「ええっ・・・・そんなこと言われても」
「って言ってもね。どうする、コルくん?」
「グルウルルル・・・・」
んなこと言われてもなあ。という意味を言葉に込める、俺。しかし、その唸り声が少女の心を刺激してしまったらしく、小さく「ひぃっ」という声を上げると、ネリエルの背中に隠れてガタガタし始めてしまった。
「ほら、この子怖がってるじゃないですか。もっと怖くないように」
「がう!?く、くぅ~ん」
俺の子犬の鳴きまねを聞いて、にやにやを抑えきれないネリエルを見た瞬間に沸き上がった感情は屈辱だった。この野郎。この少女と別れた後、覚えてろよ




