8 冒険者ギルド
大幅編集。
「わおおおおおおおん!」
ウェアリムの町。昨夜は宿に直行したため、よく見れていなかった街並みが目に入り、今更感動が押し寄せてくる。何と言うか、素晴らしい。言葉にできないほどの感動を感じている。思わず、遠吠えをしてしまうほどだ。
「アオオオオオン、ワオオオオオオン!!!」
久しぶりの文明の香り。計算された建造物の配置に、効率的な売り上げを出すための店舗の配置。道の端には街路樹が並び、シンプルでいて美しい、落ち着いた黒の街路灯が町を静かに引き立てている。大通りにはギルドが立ち並び、大通りに並ぶ店は活気にあふれている。そんな活気にあふれた発展している町を見た俺は、感激の叫び声を抑えられないで叫んでしまうのも無理はないことだ。
「もごごっ!ふぶぐぐむっ!!!」
「抑えられない気持ちはわかりますけど、黙ってください!町を追い出されちゃいますよっ!」
「もごごっ!!もぶぶぐぐっっ!!!!もごっぶぶぐ!!!」
「本当に黙ってくれませんか!?怪訝な目で見られてるから!!!」
胸の奥に本当に熱を感じているからのようだ。その衝動に押され、叫ぶことを抑えられない。抑えられない感動を抑圧するなんて、間違っていると言えるのではないだろうか?いや、間違っている。俺は断言しよう。この感動の気持ちはだれにも邪魔することはできない。
「むもおおおおお!ももぼもっ・・・・!あががが・・・・!」
「しーっ!しーっ!何でそこまでかたくななんですか!?」
『おい、あいつら大丈夫か?』
『あれって魔獣じゃ・・・・』
『さすがにテイマーだろ?だよな・・・・?』
『だけどテイマーが魔獣を御せないことあるか?もしかしたら、テイマーじゃないんじゃ』
『違法従魔・・・』
「怪しまれてるって!テイマーじゃないかもとか言われてるから本当に静かにして!」
「あががが・・・・あがががが・・・・」
誰にも邪魔させ・・・・邪魔されてる!邪魔されてまーす!あ、口に手を突っ込まないで!く、苦しい!や、やめっ!く、苦しいっ!苦しいからっ!分かったって!分かったってば!
「あがっが!あがっががが!あがっがっが!」
「ちょ、静かにしろって言ってるでしょ!」
「あがっがっが!おぅえ”っ・・・・わがったって!」
「はやくどこか行きましょう!すみませーん!そこ、通してくださーい!テイムしたてなんで、うまくコントロールできないんですうーっ!こっ、この子、お腹空かしてますーっ!」
『お、おい・・・・腹減ってるって言ってねぇかっ!?』
『逃げた方がいいかもしれねぇぞこれ!』
『うああ、殺される!?』
『ちょ、押すなって!』
『く、食われる!』
『道を開けてやれ!お、おい!道開けろって!』
『ひ、ひいっ!』
周りの人たちから完全に怪しまれてしまった。ネリエルに引きずられつつ平静を取り戻していく俺の胸中は、ハテナマークで埋め尽くされていた。あれ、なんで俺こんなことしてんだ?自分からこの町に居づらくするなんて、ただの大馬鹿野郎だ。
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「なんであんな馬鹿なマネしたんですか!!!」
「馬鹿なマネってなかなか聞かないよね」
「うるさいっ!んっとに!んっとにもう、バカ!早速私は変わり者扱いですよ!」
「いいじゃんか。どうせ、この町あと数日で出てっちゃうんだろ?」
「バカ!もう本当にバカ!この近くに初心者にちょうどいい感じのダンジョンがあるから、オオカミさんと一緒にレベル上げしようと思ってたんですよ!」
この周辺にいい感じのダンジョンがあるのか。どうでもいいことなんだが、ダンジョンって聞くとアレを思い出す。不思議のダンジョン。ガラケーにはいってたっけ、ヤヌガスのヤツ。タルネコのやつだっけ?う~む、懐かしいなあ。
「つ、つまり?」
「あと一か月近くはこの町にいるつもりだった、ってことですよ!もう、ほんっっっとうに馬鹿!」
「バカバカ言わないでくれ・・・・申し訳ない気分になってくるから。」
「逆に今までどんな気持ちだったんですか!?申し訳なくなかったんですか!?」
「いや、まあ・・・・」
「何ですか、その無能な新入社員が先輩に怒られてる時のふてくされてる感!!!」
「いや・・・・っつに・・・んなんじゃないっすけどぉ・・・・」
「マネしなくていいんですよ!」
そういうと、ネリエルは疲れたようにため息を吐き、宿屋のソファに身を投げ出すようにドカッと座る。・・・・それ、あまり丈夫な作りになってないみたいだから、もっと優しく扱ってあげなよ。という視線を向けると、キッとした表情でにらみつけてくる。そ、そんなクズ男に頬を張られた女の人みたいな顔しなくても・・・・。
「んとにもう・・・・、どうすればいいんですか」
「もう、甘んじて受け入れるしかなくね?」
「・・・・腹立つなあ」
「んー、俺も平常心だったような気がするんだけどなあ・・・・」
「あの状態を見て平常心という人がいたとしたら、その人は目が腐ってるか、耳が腐ってるか。それか、両方腐ってるかですよ。」
「いや、分かってるよ。だから不思議なんだよなあ。なんか、無理やり心の蓋をこじ開けられたみたいな?予想はしてたのに、なぜか爆発したみたいな」
感動はあったが、叫ぶほどの事ではなかったように思う。この世界に来てから六か月。言ってしまえば、文明から離れた生活はまだ六か月しかしていない。しかも、ゴリマッチョ商人の人にも、最寄りの町はどれくらい発展しているのかを聞いていた。それなのに、今回爆発してしまった。なんでだろうなあ。そこまで、人間の生活に飢えてたっけかなあ。俺の生活が自分の想像以上にキツかったんだろうか?
「まあ、それは良いや。ところで、今は朝8:00くらい・・・・だね。じゃあ、そのダンジョン行ってみようよ」
「・・・・この!なぁにが”それはいいや”ですか!ホントに!」
「ちょ、暴力反対!レベル上げないと、安全に次の町にも行けないでしょ!?」
「・・・・まぁ旅はキケンって言いますしね」
「じゃあ、早く行こうか!善は急げっていうしさ!」
「・・・・納得いかないんですけど」
俺は、ぶつぶつと不満を漏らすようにつぶやくネリエルを背に、わくわくとした様子で飛び跳ねる。ダンジョン!ダンジョンだぞ!宝箱に眠る財宝!強い魔物を潜り抜けた先の報酬!素材!隠し扉!そんなものが現実に存在する、ダンジョンという不思議建造物!もちろん、ワクワクするに決まっている!そして、そこに入るには身分証が必要になる・・・当然、俺のも。ということは・・・・
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「うん、そろそろ着きますよー」
「おう!」
「そういえば、オオカミさんは私の犬扱いで良いですか?」
「え、ペット?」
今、信じられない単語を聞いた気がする。ペット。確かにそういったよな。おいおいおいおい、もしかして、昨日の宿の主人は俺が大きなペットだとでも思ったのか!?大人しかったから問題ないと?なんか、従魔とかそういう風に思われていたのではないのか!?
「そんな目に見えて落ち込まなくても」
「でもなあ・・・・」
「まぁ、いいじゃないですか。従魔登録すれば、堂々と表を歩けますよ?」
「なに!?」
「わ!?やけに食いつきますね」
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冒険者ギルド!ここだよ、ここここ!ちっさいゲーム会社でストーリーの確認作業と微修正を行っていた俺は、ラノベ的な資料も読み漁っていた。元々ラノベというものは好きではなく、凛華にストーリー構成の参考になると勧められて、嫌々読み始めたものだった。だが、元々の印象なんて吹き飛び、信じられないほどにはまってしまった。、翌週には「異世界転移か・・・」なんて呟いてしまい、凛華に爆笑されたわけだが・・・まあそれは置いといて。
異世界転生、転移系の物語になくてはならないものって、なーんだ?そう、テンプレ。異世界転生系には、無くてはならないものがたっくさんある。その一つが、冒険者ギルド。そう、俺の目の前にすさまじい存在感を放ち、聳え立っている、これのことだ。
「うおお。これが冒険者ギルド・・・・すごいな」
「しっ。小声で喋ってくださいよ。さすがに、さっきのように騒ぎ出したらメイスで殴りますからね」
「メイサーなのか」
「私は、一応回復系の魔法とメイスは使えます。メイスは気休め程度ですが・・・・」
「ふーん」
「あ、今興味なさそうな返事したでしょ!この能力を買われて村から出稼ぎにきたんですからね!?」
「嫌な仕事押し付けられただけじゃね?」
「がーん」
肩をがっくり落としながら受付に行く、ネリエル。その歩幅は、驚くほど小さい。このゆっくりな足並みでカウンターに着くまでボーっとしてるのあれなので、周りを見渡してみる。
「ほほ・・・・ほ。ほ~ほほほ」
感心しすぎて変な声しか出ない。っていうか、「ほ」って口をすぼめなきゃ出ないと思うんだが、俺、今口全開だぞ。どうやって出してんだ?まあいいか。
「すげえな、こりゃ」
ともかく、感想がすべて「ほ」になってしまうくらいにこのギルドの内装やらなんやらはすごかった。ザ、ギルドって感じ。何て言ったらいいかな。入り口入って右に、受付と換金所・・・・換金所と受付には、綺麗なギルド嬢のお姉さんが。左に目線をやると、そこはちょっとした食堂になっていて、食事と酒を楽しむことができる。その奥には掲示板と、それに張られた依頼用紙。かべにはよく分かんない絨毯的な何かがかかっていて、下にも良く分かんない絨毯。全体的に石造りっていうのもいい。っていうか、この町ほとんどの建造物がレンガだけど・・・・。俺の説明のせいで、魅力半減だな!?そんなくだらないことを考えていると、側頭部が壁にぶつかった。
ゴッ
「うっ」
壁かと思ったら、受付の台だったようだ。フラフラ歩いているうちに、右の受付台に頭をぶつけてしまったらしい。これではまるで、田舎から東京に出てきたおのぼりさんみたいじゃないか。は、はずかしいっ。
「あ、ワンちゃん大丈夫ですか?」
「こいつ、なんか間抜けなんですよ。でも大丈夫です。やわな育て方してませんから」
そうそう、小さいころから厳しく躾けられて、訓練までしてもらってね。お陰で身体が丈夫になって、生まれてこの方風邪もひいたことが・・・・って、おととい会ったばっかじゃねーか。思わずノリツッコミまでしてしまったじゃねーか。
「それで、今日はどんな御用ですか?」
「あ、実は、昨日の採取依頼の時に、このグレイウルフをテイムしたんです。それの登録をしに」
「え、昨日?やわな育て方って聞いたような・・・・」
「え?いいましたっけ、そんなこと。」
やっぱりそこを指摘されちゃってんじゃん。てか、すっとぼけんな。受付嬢のおねえさんすっごい困った顔してるぞ。
「え、ええ?ま、まあいいです・・・・。では、ギルドカードを確認しますね・・・。ネリエル・アルゲーダーさんですね」
「はい!こっちはテイムしたコルダムくんです!コルくんってよんでます!受付嬢さんもよんでもいいですよ!」
「わん!」
「ほら、この子ここをこうやって撫でてあげると喜ぶんですよ~。よーしよしよしよしいい子だぞ~よーしよしよしよし」
「くぅ~んくぅ~んはっはっはっ!」
「・・・は、はあ。そうですか。では、依頼達成手続きと従魔登録の手続きも行いますね。」
受付嬢さんは急に愛犬とじゃれだすネリエルに動じず、恐らくマニュアル通りに確認の手続きをこなしていく。つ、つよい。さすがは異世界。受付嬢さんですら強かだぞ!
「あ、依頼は達成できなくて。パーティーの仲間ともはぐれてしまったんです。」
「では、メンバーの名前を教えてください」
「はい、カイ・クリュー、メイザ・モリス、テューク・サージャです」
「ふむふむ。その三名なら問題なく帰ってきていますね」
ペラペラと何かの帳簿を捲りながら確認作業をする、受付嬢さん。うんうん、いいねなんか。でも、ちょっと厚めの本レベルで収まりきるのだろうか?ひょっとして、何かの魔道具的なあれだったりするのかな?
「そうですか・・・良かった」
「では、この書面に従魔登録のサインを。・・・・はい。これで大丈夫です。ギルドカードにも記載されていることを確認してください」
「これで大丈夫ですか?」
「では、従魔登録が終わったらカードを返却するので、しばらくお持ちください」
「・・・・はい。大丈夫です。ほかに御用はありませんか?」
「だいじょうぶでーす」
「では、クエストなどをご受注する際は、どうぞお声をお掛けくださいませ」
「はーい」
「ほら、心配する必要なかったんですよ」
「ああ、練習時間が無駄になったか・・・」
「またまた~そんなこと言って、ノリノリだったじゃないですか~」
「やめてくれ!」
『わ、やけに食いつきますね!』
『従魔!素敵な響き!オオカミの従魔だぞ。』
『はぁ。』
『ええ!?なんだその希薄なリアクションは。一流な魔法を使う美少女魔獣使いと、白銀の美しい毛並みを持つ最強の従魔。素晴らしくないか?』
『最高ですね!特に、美少女ってところが!』
『だろう!?いや、まてよ。従魔ってそんな簡単に出来る物なのか?もっと入念な準備とか必要になるのではないか』
『うーん、魔物の種類によりますね』
『依頼から帰ってきたら急に従魔が増えているっていうのは、なんか不自然じゃないか?』
『オホン。では、私が少し解説をしましょう。この世界には、魔物と、魔獣、そして、人類種がいます。魔物は言うまでもありませんが、魔獣は知性や知恵が多い獣に似たものだと思ってください。マーメイドとかも魔獣ですね。そして、人類種。人類種は、人間、エルフ、ドワーフ、ウェアウルフ、ウェアフォックスなどが有名ですね~あとはキャットピープルとかラビットピープルとか?』
『で?』
『それで、魔物は結構難しいんですけど、魔獣の場合は魔物よりは簡単なんですよ』
『・・・・なにが?』
『テイムすることが』
『・・・・つまり、俺がネリエルにテイムされたていで、演技するってことだな?』
『はい!』
『満面の笑みすんな。・・・・じゃあ、敬語も丁寧語も控えよう。テイムされた俺に対して敬語を使うっていうのはおかしいだろ』
『じゃあ、そうしましょうか』
『いや、待て。喋る従魔ってのはなかなかいないはずだ。咄嗟に言葉が出るかもしれんから、練習をしとかないと』
『・・・以外にノリノリじゃないですか』
『ウー、ワン!ワオーン!』
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「と、いうことで。」
「・・・なに」
バカハイテンションなゲーム実況者のような口調で、俺の方へ体を向けるネリエル。テンションと言葉通り、口角は意地悪な表情で固められている。ネリエルのこの顔はまだ見たことない顔だ。なんとなく、嫌な予感を感じる。
「じゃじゃーん!みて、みてこれ!」
「・・・・ああ、はい。なに?」
「バカか!ここですよ、ここ!ほら、ネリエル・アルゲーダー、魔獣使い、プリースト。使役魔獣、グレイウルフ!」
「・・・・で?」
「これ、あなたの事なんですよ!コルくん!」
「・・・・だから?」
「あ・な・た、私の使い魔ちゃんになっちゃったんですよ~?どうですか、元人間が人間の飼い犬ちゃんになっちゃった気分は!ふ、ふはははは!ざまあみさらせ!最初は可哀そうかなあなんて思ってた私がバカでした!公衆の面前であんな恥を私にさらさせて・・・・!ふはははは!我は良い気分ぞー!ふはははーっ!」
「・・・・ガブッ」
「ぎゃーーーっ!?!?」
ネリエルが姿勢を低くし、頭を俺の顔に近づけながら煽るのがあまりにもうるさくてうざかったためとりあえず頭をに噛みついてみた。そうしたら思った以上に驚かれ、ガチ泣きで謝られた。俺がちょっと焦って困ったことはナイショだ。あとで詫びよう。
自分用メモ 作内経過期日6ヶ月




