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始まりは鐘の音と共に

小説を初めて投稿します

自己満足以上の何かを作りたいです

 今日の宇宙の現象をほぼ説明する相対性理論は、それが予言した事象の存在が証明されたことで磐石のものとなった。


西洋で発達した一連の文化としての科学は、筆舌に尽くしがたい功害を生み出して、尚も茎を伸ばし続ける。


人間に根付く神秘への憧憬を原動力として、それ自体は神秘の居場所を狭め続けている。


日本には勿論、地球のどこを探しても、悲しいかな、魔術呪術の法が支配する不思議な世界はなくなってしまった。


魔法使いや勇者の伝説も、今や子供にとってもおとぎ話、あるいは厨病だ。



科学で非科学を語れるか、否である。


科学で語れないものを科学の社会で論じることはまず無意味だ。


他方、「お化けはこの世にいない」と断じるのと、「いるかもしれない」と夢を持つのと、より科学的なのは後者だという。


宇宙人はいないと断じるより、いるかもしれないと夢を持つ方が、科学的なのだと説明されると、何となく解る。


しかし、決してその存在に神秘あるとは言えない。



ところで、今はないものが昔あってこれから甦る、そんなこともある。


温暖化の一途を辿るこの地球に、かつては氷河期があったように、この疲弊した社会に、名もない辺境の思想宗教が前触れなくもたらされることがあるように。アインシュタインが理論の辻褄合わせのために導入して、後に自ら最大の過ちとして撤回した「宇宙項」が、後世にて再び注目されるように。



どんな奇跡が起こったとき、人は頭をたれ、神の恵みとして享受し、それをして魔法と呼ぶのだろうか。

魔法のような科学技術に慣れ過ぎた現代人が、自然に対しそんな謙虚な姿勢を見せうるだろうか。


森羅万象の隅々までに奇跡の起こる余地がないほど予測に沿ったこんな社会だからか、人の望みが大きくなり過ぎたせいなのか。

とにかく、奇跡は今日、ほとんど起こらない。

成熟した世界は、人に神秘を忘れさせ、罪深い勘違いを強いた。


理科教育推進の政策は、あくまで未知の探求心を養うもの。

それ自体は無害、その一定の努力を考慮に入れれば、神秘主義に対しての科学の台頭は不可抗力であり、人間の、生物の、それたる所以かとも思う。

厳格さをを求める倫理観は広く.強く根付いた。


時に、それに対抗したくもなる。 科学にではなく、社会に。


ここに今、俺がいる。


顔を上げると有象無象、目を閉じれば混沌の楽園、目を落とせば揺がない現実。


一週間前実施された、数学の答案、赤点マイナス1点である。



赤点、マイナス1点である。



 平均点、赤点、最高点最低点を淡々と黒板に書き付ける数学教師。 死神か悪魔の姿に見えるのは、しかしあまりにも身勝手だ。


うっかりを越えたケアレスミスという概念さえ同情するあり得ない不幸。


採点者は驚きあきれたことだろう。

まさか、大問の4、二項定理だけは完璧に用いた回答、そこだけ完璧に成し遂げて赤点を回避するかどうかの瀬戸際、最後の大詰めである。そこで二桁どうしの足し算で繰り上げミスをする生徒が、高校2年にもなって、大真面目にテストを受けていたとは。


我ながら信じがたい。 今回は自信があっただけに、なおさらだ。


あの死神もとうとう僕の無能さを知ることになっただろう。


まだおまえの死期は遠いと言われるのも、そのときは辛いし苦しいし迷惑としか感じないものだが、さすがにあの死神も延命をあきらめるかもしれない。


あの死神の眼差し・・・・・・間違いない。しかしそんなことはどうでもいい。


感想も懺悔も、点数を上げる一助たり得ないのだから。


赤点者の救済措置として、補習の上追試験が課せられる。

そして今回はとうとう学年中で赤点なし達成かと思われた期末試験だったのだ。


いやはや、新年度の教科担任入れ替えから赤点者の頭数を確実に減らしていった死神の手腕には脱帽するばかりだ。頬がこけ、目は落ちくぼみ、首が曲がった亡霊のような様相で壇上に現れた時は生徒のみならず職員からも軽い悲鳴が上がった。それが今や、絶望の学年を救った風雲児であるから世界は広いと認めざるを得ない。


その黒く妖しく光る個性をもってして弱冠26歳らしいというのを信じているものはいない、そう思っている。


今や時の人たる死神と職員室のその期待が高まりは、上下学年にも及ぶほどである。それだけならまだしも、何故か事情通のOBOGも事態を注視していたらしく、この高校の制服と認めたるや否や駆け寄って励まされたのは先週の下校中である。


その期待を自分ただ独りで潰した。これにはさすがに申し訳なさを禁じ得ない。しかし補講を受けたいとは思えない。


チャイムが鳴る。すぐに死神を労いにいく。


さっき思ったことそのままに軽口を叩いたら、想像を僅かに上回る落ち込みを見せた死神に対し、口を突いてでたでたらめな慰めが死神の琴線に触れ、数学教師らしい論理的で直接的、扇情的でなくあくまで即物的な、しかし確実に精神にきりきりと食い込む皮肉を浴びせたその口で、放課後の補習が改めて通告された。マンツーマン指導である。


昼休み、いつも通り部活は休むと部長に伝え、いつも通りバカだなあと蔑まれ、そしていつも通りの放課後がいつも通りにいつも通りの変化を遂げると思った。


そうなる筈だった。


その日、隕石が落ちてこなければ。

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