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果てしない世界  作者: さんぼんせんろっく
第2章 異質な屋敷
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第4話 屋敷

 翌日の昼前、相も変わらず薬草採りに精を出すボサボサ頭の男がいる。昨日のこともあるのであまり森の奥には入らないように注意はし、装備も昨日よりしっかりと。


 双剣もハイゴブリンのせいで使えなくなってしまい新しく購入したものだった。しかし、グレードは上げず前まで使っていたものと似たような物。

 投げナイフも1つ新調し、煙玉、あと狼煙玉。昨日のような事が立て続けにあっては精神が持たないが念の為に道具も充実させた。怪我人用の採取目的ではない薬草もしっかりと。


 あくまでも戦う目的ではなく支援にサポート、退散することに重要度を上げて。ゴブリン2〜3匹ならザック1人で余裕だ。


 薬草を採取しながら昨日のことを振り返る。あれから解散ではなかった。全体解散の合図だっただけで、各部隊同士での作戦会議が残っていた。

 援護部隊長とは作戦会議を共同でする事も多く話は順調に事が進んだ。



――――



「屋敷の内部が分からないことに加え何があるのか分からない。だから、とりあえずは俺、ザック、リチャードで突入する。これは先ほど説明した通りだ。建物の構造上2階建てというのは分かっている。リチャード、お前には2階を頼みたい」


「オーケー、ボス」


「ザック、お前は俺と1階だ。と言いたいところだが人身売買の噂を信じるなら、多分地下があるのではないかと俺は睨んでいる。ザック、お前は地下を見つけて探ってくれ。無ければ無いで良い」


「了解」


「屋敷への潜入ルートだが…人がいないにしても夜には火が灯る部屋もあると言っていた。なので、前回と変わらず勝手口から侵入しようと思う。窓の開閉がしっかり出来るのか、窓の鍵はどのようなタイプなのか分からないしな…勝手口があるのは確認済みだ」


 ザックとリチャードは同時に頷く。


「あと、憶測で申し訳ないのだが…」


 ボスが重い口を開く。


「先程のザックが言ったハイゴブリンの件。もしかしたら…もしかしたらだが、屋敷のやつが召喚などしているのかもしれない…」


 皆一様に目を見開き驚愕の声をあげる。


「いや…ボス…それは流石に…魔道士が何かを召喚するなんて聞いたことがねぇよ…」


 エドが声を震わせて尋ねる。


「もしかしたら…の話だ。俺だって聞いたことはねぇ。ただ、ここら辺りでハイゴブリンが出るとか俺は生まれてこのかた一度も聞いたことはねぇし、遭遇したことだってねぇよ。だからだ。だからこそ、それぐらい慎重に事を運ばないといけねぇ。俺だって信じたくはねぇがな…」


 ここで誰もザックを疑わないのは彼への信頼がある所以であろうか。


「でっ話を戻そう。内部にモンスターがいる可能性もある…無いとは思うのだが絶対はない。リチャード、ザック。しっかりと注意してくれ」


 一気にのしかかった不安を胸に二人は頷く。


「ここから援護部隊との話になるが、ここに視察部隊からもらった屋敷周辺の見取り図がある。援護部隊はココとココとココに待機してもらって、ここからこう動いて…」


 とボスが援護部隊へと指示を出していく。



――――



 薬草を採る手を止め深く深呼吸を1つ。今日の夜に決行する作戦の事を考えては身震いする。

 突如、後ろから草を掻き分ける音が聞こえ腰袋に入れてあった煙玉を持ち身構えるザック。昨日の今日、そして今日の夜は潜入がある。精神的にも肉体的にもここで戦闘するより退散した方が良いと判断した。


 もし、ハイゴブリンなどのモンスターであった場合は村に戻って冒険者に知らせる算段。昨日の件で冒険者組合にも話がいっており、かつ村でもハイゴブリンの話は広まっている。


 段々と音が近づき、手に足に力を入れるザック。だが、草むらから姿を表したのはモンスターではなかった。


 木漏れ日により艶やかに光る褐色の肌。きめ細やかになびくミディアムな黒髪。透き通るような青い瞳。上下をセパレートにして、白を基調としながら赤いラインが所々に、肌を露出した服。しかし、遠くから旅でもしてきたのだろうか…白色は酷く汚れており、所々破れている。


 ザックの第一印象はどこか神秘的な…気軽に触れてはいけないようなそんな感じを受けた。服も儀式をする為に作られたような…そのように感じた。


 その、透き通るような青い瞳がザックを捉える。


「きっ君…は…」


 声を振り絞り出すが続く言葉が出てこない。少女はザックを瞬きもせずに見ている。少し驚いているような目をしていた。

 ようやく続く言葉が出てきて話しかけるザック。


「あまり…見かけない顔だけど、君はどこから来たの?それより…ここは危ないよ…?」


 話しかけるも身体が動かせない。変な術にかかっているとかではない。モンスターが出てくると思ったら少女だったという不意打もさることながら、見惚れてしまったのだ。あまりにも神秘的な雰囲気を出す少女に。


 しかし、少女は口を開かない。目を細めて何か考え込むような顔をする。しかし、口が開くことはなく踵を返して森の中へ戻って行く。


「ちょっちょっと…!最近はモンスターも多く、森の中は危険だよ!」


 ザックは大声で呼び掛けるが反応もなく少女は森の中へ入り込んで行った。ややあってようやく身体が動き、少女の戻っていったであろう方向へ行くが少女の姿は既にどこにもなかった。



――――



「おい。ザック。…おい、ザック!」


 ペシっと頭を叩かれてザックは意識を戻す。


「おいおいザック…大丈夫か?」


 ザックの左から柔らかい声が聞こえてくる。左を見ると金色の短髪。サイドは刈り上げられた男が立っていた。リチャードだ。どこか心配な顔をしてザックを見下ろしていた。


「ザック、何をボウっとしている。お前らしくないぞ。」


 右からは野太い声。眼帯をしたボスが立っていた。二人とも黒装束に身を包んでいる。


「すみません。ちょっと、考え事をしていて…ちゃんと気持ちを切り替えます」


 そう言うと口にマスクを当てた。


「おぉ?女か?女の事を考えていたな?おいおい、誰だよ〜?」


 リチャードが茶化すように言ってくるがボスがそれを遮る。


「ふざけるのは後にしろ。今は集中するんだ」


「へい、ボス!」


 そう、今は件の屋敷の近くにいる。もちろん、ザックも黒装束に身を包み暗闇に紛れていた。昼前のことを振り払うように頭を振るザック。屋敷の件と少女の件と緊張とは相反する出来事のアンバランスさがザックから緊張を取り払っていた。

 集中しよう。いつも通り動けば良いだけだ。そう意識を持つザック。


 そこへ改めて視察に出ていたカスガが戻ってくる。


「ボス、やはり人はいないみたいだ。あと火が灯ることもなく屋敷内は真っ暗のはず。十分に注意してくれ」


「カスガ、ありがとう。あとはこちらが引き継ぐ。事前の打ち合わせ通り中間地点にて待機しててくれ」


「了解」


 そう言うとカスガは走り去る。


 一呼吸置いてボスが実行部隊、援護部隊全員に向けて口を開いた。


「よし、お前ら。準備は出来たか。今回は本当に何があるのか分からねぇ。何も無ければ何もないで良いんだ。ただ、人身売買の噂は我らエロイカにとっては黙ってはおけねぇ。しっかり噂の真相を突き止めるぞ。散開!」


 ボス、リチャード、ザックを残し他の部隊は持ち場へと散って行く。辺りは静まり返り、心臓の音が身体に響き渡る。

 数分後、懐中時計を見るボス。


「よし、5分経ったな。リチャード、ザック…行くぞ!」


 ボスの言葉に緊張が含まれていた。いつもとは違う仕事。何かあるのかもしれないと言う不安を抱えて3人は飛び出す。


 カスガの言う通り、人の気配がなく火が灯されているような感じもなく難なく屋敷の裏側にある勝手口に辿り着く。

 左に部屋があるであろう大きな窓が1つ。勝手口を挟み右には窓が5つ大きな窓がある。見るからになかなかの大きさの屋敷であり、調べるだけでも時間が掛かりそうだった。


 先日の簡易的な見取り図で確認したが屋敷は横に長く縦に短い。縦には3つ程の部屋があるように見える。内部はシンメトリーな形だとすると一番右側は部屋、2つ目は廊下の突き当たりの窓、残り3つは部屋がいくつかあるのだろう。

 ザックは今までの経験則から憶測を立てる。


 腰袋から針金を出しドアの鍵穴へ差し込む。しばらくガチャガチャすると開錠する音が聞こえる。ドアノブを掴み開けようとするのだが…


 ガツッという音と共にドアは開かない。3人は顔を見合わせる。最初から鍵は開いていたのだ。

 もう一度、針金を使いドアを開ける。


 そっと扉を開いた向こう側は仄暗く、そして人が生きていたような雰囲気さえない。月夜に照らされ見えるのは所々に張った蜘蛛の巣。少し朽ち果てている壁に廊下。


「おい…扉は開いておけ。いつでも逃げれるように…」


 緊張を更にました声色でボスが口を開いた。


「了解…」


 リチャードも口を開くが今にも帰りたい。そんな雰囲気を含んでいる。


 気配を殺しながら廊下を少しずつ歩いて行く3人。月明かりが届かない場所まで来ると、もう先が見えない。分かるのは左右にいくつか扉があるということ。

 少しずつ歩くと玄関のあるホールに辿り着く。玄関に対面する形で2階に通じる大き目の階段があり、突き当りから左右に別れている。


 3人は目を合わせて頷く。リチャードは2階へ。ボスは親指で背面を指す。ボスは反対側の通路を調べるのだろう。

 ザックは頷くと来た道へと引き返す。


 突き当たったところのドアをそっと開けて中を覗き込む。ボロボロに朽ち果てたソファがあるだけであとは月明かりに照らされているだけ。短剣を手にし中に入る。


 壁に少しの絵画が掛けられているのみで本当にソファがあるのみ。ここには地下室への道なんてないだろう。そう思い扉は開けたままにして2つ目の部屋に向かい歩き出そうとした瞬間、部屋の上を何かが通り過ぎるようなものを感じる。


 バッと上を見るものの何もない。照明器具さえない。ザックの頬を一筋、汗が垂れる。言いようのない恐怖感。殺されるとかモンスターがとかではなく目に見えない何かがいるかもしれないという恐怖感。


――幽霊


 ザックの脳裏に言葉がよぎるが、すぐさま左右に頭を振り先ほどの言葉をかき消す。しかし、2つ目の部屋へ向かおうとする足が震えてた。


 2つ目の扉を開くが半分まで開いたところで何かに当たり開ききれない。顔を覗き込むようにして見ると、どうやら書斎のようだった。本棚は倒れ本が散らばっている。前回の書斎のように本で作動するようなギミックはないだろうと思い、その場を後にする。


 3つ目の扉を恐る恐る開く…。机にベッドが配置されているのみで何もない。突き当たりと左側にある窓から月明かりが照らされているのみ。カーテンすらない。短剣を掴んだままなのだが手汗で熱を持っているのが分かる。


 部屋に入り辺りを見渡したが何もないのを確認し後にしようとするが、ガタッという音と共に身体がビクつく。

 固まった身体を強引に動かすようにして後ろを振り返ると机の上にあった本が倒れたようだった。月明かりに照らされ埃が舞っているのが分かる。


 深呼吸を1つして心を落ち着かせるザック。大丈夫…大丈夫だ…そう言い聞かせるものの全身に変な汗をかき黒装束が肌にピッタリと張り付いている。


 振り返り部屋を出て今度は目の前にある扉を開く。がザックは気付かなかった。振り返った瞬間、窓の外で誰かが走り去るような気配があったことを。


 扉を開くと大きな机があるのだが倒れており辺りには朽ちた椅子に割れた皿に欠けたグラスなどが散乱していた。だが、異様なものが1つ大きく口を開けていた。

 あった――地下への道だ。部屋の中に入り調べようとしたところ不意に向こう側にある扉が開いた。


 一歩大きく飛び下がり短剣を構えるが姿を現したのはボスの姿。ボスは両手を上げて俺だと表明する。それを見て短剣をしまい、またもや深呼吸。



 二人揃って地下へ通じているであろう大きな口へ並び立つ。


「あったな…」


 いつも凛としているボスにも精神的な疲れが見てとれた。


「ありましたね…」


 小声で返すザック。地下から感じるムワッとした空気感。それを目に興味本位で入ろうとする者はいるのだろうか…俺なら絶対に入りたくない…と思うザックだが入らなければならない。人身売買の噂を確認する為にも1つ1つ確認していかなくてはならないのだ。


「ザック、地下は打ち合わせ通り頼む。俺はリチャードのところへ行ってみる」


「…了解…」


 ボスが出て行くのを見届け、地下へ目をやる。そして気持ち悪く感じる暗闇の穴へ足を一歩踏み入れるのだった。

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