21話
サブタイトルを話数にしました。
この3ヶ月でこの拠点は大きく変わった。
まず拠点の広さが以前よりもだいぶ大きくなった。
拠点内では俊が建設するのはもちろんのこと、簡単なものなら人々が独自で建設していた。たまたま人々の中に元建設従事者がいたため、彼らが率先して行ったのだ。俊もこれは人々の自立のための一歩だとむしろ歓迎していた。その他にも増え続ける人口に対応するため各施設の増築、ならびに各部門ごとの建物もつくった。これで日中は各部門で過ごすことが出来るだろう。
それと何より重要なのは畜産を始めたことだ。この北の地、北海道ではとても農業が盛んだ。そのため畜産を営んでいたものもいたため任せたのだ。
以前から調理部門の真鍋が肉が欲しいと嘆いていたため、俊が牛、豚、鶏を創造したのだ。
もちろんそれらを管理するための人手も日々増え続ける人たちによって充分足りている。
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「おはようございます太田さん」
「はいおはようございます。今日は何のご用件で?」
「いや特にないですね、俺はもうすることがだいぶなくなってきてますからね。」
「最初の頃の俊さんはとても働いていましたから今はしっかりと休むべきですよ」
「ならお言葉に甘えて。それより研究の方はどうなっていますか?」
「そうですね、まずゾンビは完全に死んでいますね。まだ動いている状態で解剖したのですが、血液は流れず、各臓器も機能してませんでした」
「脳の方はどうでしたか?奴ら脳が弱点です。きっと何かあると思うのですが」
「私も同感ですね。ですが特に何もなかったです。身体だけ動くということは神経系は機能しているので脳に何かあると思うんですけどね」
「この分野に関しては俺も素人ですし、魔法が効かないのでどうすることもできません。これからも太田さんに任せっきりになると思いますがお願いします」
「大丈夫ですよ、育成のほうも進んでいますから病院の運営もしっかりできてます。お陰で私も研究に専念できますし」
「早いですね、もう育成のほうも進んでいたんですね」
「はい、医療部門以外でも行ってると聞いてますよ」
「じゃあこれからもよろしくお願いします」
俊は礼を告げ自分の鍛錬に戻る。
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俊の鍛錬は基本的には魔法だ。
魔法は使えば使うほどその魔法に慣れ、消費魔力が減る。普段なら大して変わらない差でも戦いの場ではそれが命取りとなる。俊はそのため日々鍛錬を行なっている。
俊の特筆すべき点は創造の力だ。どんなものでもイメージさえ出来れば魔力で生み出すことができる。そのためまず俊はイメージトレーニングも行う。
「よし、前より速くなったな」
俊の前には沢山のマガジンがある。
俊は消耗品のマガジンを創造するのも一つの鍛錬としている。
俊は次の鍛錬を行うために壁へと向かう。
壁の前に来たら、軽々とジャンプで壁を越える。
これも魔法によって身体能力が向上しているためできるのだ。
もちろん壁を超えたはいいが、足元には当然壁に群がるゾンビたちがいる。
「グガアァァァ!」
しかし俊は動じない。
魔法で空中に足場を一瞬つくり、飛び、手を伸ばして来たゾンビを越えた。
そして振り向きざまに刀を一閃する。
ちなみこの刀は俊が創造したものだ。よって性能は化け物級だ。俊の魔法によって耐久力はもちろんのこと、切れ味も普通のものとは比べ物にならない。
さらに俊は刀のメンテナンスの仕方がわからないなら魔法でやればいいと自動修復の魔法もかけている。
たしかに魔法でもゾンビを倒されるがもし至近距離の場合、魔法でも倒せるがこちら側もダメージを受けるかもしれないし対応しにくい。
そのため俊は刀の方も鍛錬している。もちろん我流だが無駄のない太刀筋となっている。
「やっぱりこいつの切れ味はすごいな。ん?」
俊の頭上で鳴き声が聞こえる。俊が上を向くと複数のカラスが旋回していた。
「なんだ?なんか気味悪いな」
俊の目線にカラスが気づいたのだろうか。
カラスたちは逃げるようにどこかへ行ってしまった。
「なんか嫌な感じだな、まぁ鍛錬の続きでもするか。」
俊は先ほどのカラスのことは忘れ、周りにいるゾンビを次々と倒すのであった。
「ふー今日はここまでにするかな」
俊は周りにいるゾンビを倒し終え、拠点に戻ろうとしていた。
だかその時ビル陰に何かの気配を俊は感じた。
「………なんだこの気配は…」
俊は日頃の目にしているゾンビとは違う気配を感じたのだ。もちろん人ではないナニカだ。
俊は少しだけそのビルに近づこうと一歩進んだときだった。
ナニカが俊の顔めがけて飛び込んでくる。
あまりの速さに俊は対応に遅れ、腕でガードしか出来なかった。
「ガルルルル」
腕にはナニカが噛み付いていた。
俊はそれを腕を振り回すことで引き剥がす。
「ふー防具のおかげで大丈夫みたいだな」
防具は武装部門と同じ防具である。俊の魔法のおかけで噛み砕かれることもない。
そして、俊は改めてナニカをよく観察する。
「こいつは……犬か?」
それは犬だった。いや元犬だった。
今では生前ではありえないような動きをしている。
身体能力向上の魔法のをかけてある俊の目でも追いつかないのだ。
「こいつは少しややこしいことになったな。まさか人間以外もゾンビになるなんてな。じゃあさっきのカラスもゾンビなのか?」
俊が人間以外のゾンビについて考えを巡らしているとゾンビ犬はまたも襲って来た。
しかし俊に噛みつく手前でいつのまにかゾンビ犬は魔法の矢が刺さっていた。
「たしかにお前は速いが、所詮ゾンビだ。直線でくるのが分かったんだからあとはそこに矢を置いときゃ勝手に刺さるだけだ」
ゾンビ犬は既に動かなくなっていた。
「これはやばいな。多分車より速いぞこいつ。武装部門はしばらく外に出れないな。というかこれがまだいるならもう外には出せないな」
そんなことを考えているとあちこちからゾンビやゾンビ犬、さらには先ほどのカラスたちが現れる。
「数がすごいな。しかも犬とカラスもいる。カラスは何してくるか分からんしな。」
俊はとりあえず今までかけていた。身体能力向上の魔法を解く。
「これじゃあダメだ。もっとだ、もっと向上させないと。」
俊はイメージをより強く持つ。その目は光を捉え、その耳は全ての音を拾い、手は全てを器用に扱え、足は強靭な力を持つ。それはまるで世界を救う勇者のように。
それを俊は自分にかけた。
「これはすごいな脳の処理速度も上がってるのか?イメージがより鮮明に出来るな。けど魔力も結構もってかれたし要練習だな」
そんなことを言ってる間にもゾンビたちは近づいてくる。
「簡単に近寄れると思うなよ?」
その言葉と同時に俊の背後に数えられないくらいの矢が現れる。
「この矢の嵐を越えれるかな?」
その瞬間矢は一斉にゾンビたちに向かう。
彼らは防ぐ術もないため、どんどん倒れていく。
その弾幕の濃さにゾンビたちはついに最後の一体まで倒れてしまった。
「ふぅこの力はすごいな。改めてイメージの重要さが感じられる」
普段の俊は魔法の矢をあれだけの数を一瞬で創造できないが今の俊ならできる。
「とりあえず、今日は終わりにして原田さんと急いで話さないと」




