掌編小説 其之伍
高く高く高く―――――――――――――
一羽の鳥が空を羽ばたいていた。
鳥はただ、ひたすらに空高く上へ、上へと飛んでいく。
この空の上には、きっと、何かがあるのだと、そう信じて、ただ、ひたすらに――――――――――
ずいぶん前に別れた仲間たちを思い出す。
仲間たちは言った。
何の意味があるのかと
くだらない、危険だ、やめておけと。
それは彼を心配し出てくる言葉だったが、彼は自身を否定されているかのように感じたのであった。
仲間たちが自分を心配して言ってくれたのはわかっていた。
それでも―――――
低く浮かぶ雲を突き抜け、さらに上へと腕を動かす。
風が強く、空気が薄い。寒い。
自分の心臓がバクバクと動き、息が上がる。苦しい。
体がもう動かなくなる、自分の持つ力を全て振り絞り羽ばたいたとき、
最後の雲を抜けた。
厚い雲の海をくぐり抜け、その目に映ったのは、
銀と黒
月の光に照らされ、淡く光る雲の絨毯。
周りの闇は、小さな光を抱きながらやさしく包んでいる。
幻想的な光景
今、このときだけは時間と苦しみを忘れてしまう
それほどまでに美しかった。
もっと、もっと、少しでも長く……
そんな想いを嘲笑うかのように、体は重力に従い落ちてゆく。
腕はピクリとも動かない。
酸欠で意識が朦朧とし、視界が狭まった中、もう一度、それを見る。
決して忘れないために。
あぁ、綺麗だ
銀と黒の世界に、小さな呟きをのこして
鳥は大空の舞台から降りていった……