7話 ドナウ戦役
「汚物は消毒です!」
「04突然どうしたんだい?」
「04よりローレライ01へ。怪電波を受信してました」
「いつもの病気ね。あいあい、01了解」
フロンティア作戦が作戦継続の為に、コールサインも継続です。どうやら独り言が漏れていたみたいですね。恥ずかしいです。
っと、どうやら、敵の哨戒機に見つかったみたいですね。敵さんは慌てて逃げ出して行きました。
「04より01、魚がこちらに気づきました。強襲になります!」
「こちらでも確認した。01より各機、バズーカ持ちは艦隊外周部からで構わない。敵の尻にぶっといのをお見舞いしてあげな! 護衛は臨機応変に対応!」
「04了解! 突っ込みます!」
「13(メルダース)了解!」
「16(クリス・アルフォンス)了解しました」
各小隊ごとに纏まって散開しながら、敵艦隊の後方下部から、私たちは襲い掛かる。
艦隊後方を守る魚は20数機。しかし、先ほどの哨戒機からエマジェンシーが届いたのだろう。ネルソンの腹の中から魚が出てきそうだ。
更に、敵防衛ラインの二枚目から、反転して迎撃に向かってくる魚の数。これが、想像以上に多い。
これは、バズーカ持ちは取り付くまでに、魚に喰われるかも知れませんね。それを阻止するのが護衛の役目なのですが。うん、厳しそうだ。私以外の他の小隊が。
「04より05、06へ。私が魚を排除するからあとに続いて! 06は05の援護!」
「05了解! エクレア頼んだわよ!」
「06了解ー! レイチェルは泥舟に乗ったつもりで安心してね!」
それ、安心できませんから。素で言ってるのでしょうか? それともブラックジョークですかね? 判断に迷ういますね……
はっ! 私の判断を迷わせるとは、エクレアは獅子身中の虫だったのか!? そうなのか? それならば、
「ひっ! いま、隊長から殺気が感じられました…… 私なにかしましたか?」
「あははは、ごめんごめん、エクレア准尉が泥舟なんてアホなことを言ったから、悩んでしまって、つい漏れてしまったのかな?」
「戦場で隊長を悩ますことを言う、エクレアが悪い」
「私なにも悪いこと言ってませんよー」
「お喋りはここまでです! 魚が来るわよ!」
sideレイチェル
隊長が私を通り越して、更に後ろのエクレアに向かって殺気を放っただと!?
ディアソン艦隊との戦闘での縦横無尽の活躍といい、イオン軍で一番の操縦技術でモックスの指導教官を務めていた事といい、本当に隊長は何者なのだろう?
ヘス家の親戚という噂は聞いたことがあるけど、本当に11歳の女の子なの? 信じられないね。まるで、少女の外見をした熟練したなにか。
そう、操縦している中身が実は中年のおっさん、ベテランのパイロットと言われても信じてしまいそうになる、なにかが、副中隊長殿のマリア隊長にはある。
纏っているオーラが違うのだ。まるで、中世ヨーロッパの死神の鎌を持った魔女?
現にいまも、サーベルフィッシュの群れを鎧袖一触で屠っているのだから。モックスがまるで自分の手足のように動いているし、敵があらかじめそこに来るのが分かっているかのように、なにも無い空間に銃弾を放つと、
敵は吸い寄せられるように、自ら銃弾に突っ込んで行くのだ。完全に人間技では無い気がする。
予測射撃とか見越し射撃は教わったし、一応は私も出来るけど、隊長の射撃はそれ以上だ。
それに、いくらチューンアップしているCS型に乗っているとはいえ、あの動きは変態すぎる。私がCSに乗って同じ動きが出来るかといえば、答えはノーだ。
私には隊長のような動きは無理だ。
蝶のように舞い蜂のように刺す。まるで、宇宙空間で華麗なダンスを踊っているみたいだ。そう、宙に舞う菫色の蝶。
まあ、連邦からしてみれば、蝶なんて優雅なものには見えないでしょうけど。毒蛾とか死神? それとも魔女が正解かな?
隊長のモックス一機で完全に戦場を支配している。あるいは、戦場を操っている。こっちが正解なのかも知れない。これがエースと言われる人なのか?
いや、普通のエースでは、ここまでの事は出来ないだろう。エース以上、まさしく隊長はジョーカー!
さて、私は隊長が空けた穴から、おこぼれを貰いに行きますか!
sideマリア
「くしゅん! むむ、誰かマリアさんは可愛いですねって、私の噂をしているわね」
あれから私は、30mmバルカンとミサイルの雨の中に突っ込んで行った。しかし、遅いのです! 私には銃弾もミサイルもスローモーションに見えるのです。
こんなんでは、アドレナリンも出ませんよ。私には自機に当たる予定の弾が何故だか分かるので、その弾だけ避けるようにMSを軽く動かすのです。傍から見ていると、弾が私を避けているように見えるのかも知れませんね。
ネオヒューマン能力は落第だったのに、ネオヒューマンと同じようなことができるなんて不思議です。
ギャンバインセカンドに敵役で出てくるカザンみたいな野生の感とも、また違うみたいですし。私は本当に、戦争機械なのかも知れないですね……
それでも、お腹は空くし眠たくもなりますし排泄だってありますから、人間を止めているわけではありませんよ?
なんだか、シューティングゲームの超イージーモードで遊んでいるみたいな感覚で、現実感も緊張感もありません。本当は多分、これではダメなんですけどね。
これは、モニターがリアルじゃなくて、ある程度アニメチックにデフォルメされているのが、多少は影響しているのかも知れませんね。
リアルの描写だと、宇宙空間では人間の精神が持たないみたいで、モニターの描写がデフォルメされているみたいなのです。
そんなこんなで、私にとってサーベルフィッシュは鴨同然なんですよね。食べて下さいとばかりに、鴨が葱を背負って、さらに鍋とガスコンロに調味料まで持っているのですから、美味しすぎますよね。
もう既に、何十機の敵機を撃墜したのか分からない、数えるのが面倒なくらいの数の敵を墜としてます。
戦闘開始前の杞憂も、どこかに行ってしまいました。私って、やっぱりトリガーパッピーというか、どこか壊れているのかも知れませんね。
「05より04へ。バズーカ全弾撃ち終わりました」
「04より05へ。戦果は?」
「ヴァスコダガマ1隻撃沈確実とネルソン2隻です」
「上出来よ! 04より01へ。任務完了。これより味方の援護に入ります」
「01了解! 01より各小隊長機へ、被害状況を知らせよ」
「04、こちら被害なし」
「こちら13、15が被弾小破。戦闘には支障ありません」
「16、おなじく18が被弾中破。退避行動に入らせてます」
「01了解した。01より各機、04の小隊は16の援護に入れ。任務完了しだい順次後退。 帰るまでが遠足だよ。気を抜くんじゃないよ!」
「04了解!」
「13了解!」
「16了解しました」
ふぅ、いまのところ被弾している機はあっても、撃墜された機がないのは良いことですね。さて、私はクリス少尉の援護に回りますか!
「04より05、06へ。18と合流して後退しろ。私は16、17の援護に入る」
「05了解!」
「06了解ー!」
クリス少尉は私が援護に入ってから動きが良くなって、アムンゼン級戦艦を二隻も沈めやがりましたよ!
「半分は特務少尉のおかげです」
なんて、クリス少尉は謙遜しちゃってるけど、私には分かります。私が援護に入らなくても、最低でもアムンゼン一隻は撃沈できていたことを。
やっぱり、本物のネオヒューマンは違うわ。
それはさておき、途中から、なぜか敵機がこちらに向かってこなくなったので、撤退はスムーズに運びました。私が動くと敵が射程圏外に逃げるんですよね。
オープンチャンネル回線で、
『ば、化け物だー』とか、『ま、魔女だー』とか、『死神だ逃げろ!』とか、酷くないですか?
魔女って、私が女性ってよく分かりましたよね? 機体の色ですかそうですか。量産機の緑に塗り直してもらおうかな?
ムカついたので、撃ち墜としたかったのですが、さすがに射程圏外の敵は私でも撃墜できません。まあ、残りの弾も少なかったのですけどね。
それで、母艦に帰ってみると、こちらの方が私たちよりも被害が大きかったのでした。
ニーベンルグが中破していますし、04小隊の三番機が敵の流れ弾の直撃で撃墜されていました。三番機のパイロットの名前はトミナガ伍長でしたっけ?
名前からしたら、盲腸か胃潰瘍にでもなって、後方に搬送されるのかとも思いましたけど、なにもしないうちに戦死しちゃいましたね。
変な行動をされて、味方の被害が増えるよりも、戦死してくれて良かったのかな? 台詞の一つもなしに死んでしまって、彼は何しに出てきたんだろう?
モブだから仕方がないのかな? あまり登場人物が増えると、中の人の処理能力が追い付かなくてパンクするみたいだから、台詞が無かったのかな?
メタでしたね……
同じモックス中隊の同僚に対して、薄情なのかもとは思いはしますけど、無能な働き者は味方を殺すともいうしね。
ちなみに、むっちーの乗機も中破していました。04小隊は損害率が高いですね。まるで、なにかに呪われているみたいです。
それでも、今回の戦闘でのモックスの非撃墜は、トミナガ伍長の一機のみでしたので、想定していた被害よりも、ずっと少ない被害で済んで良かったと思います。ニーベンルグの乗員も二十名ほど戦死していますが。
しかし、これは戦争なんだから仕方ないと、割り切らないといけません。
さて、私たちの役割も果たしましたし、ラウム3に帰還することにしますか!
休暇も貰えるだろうし、積み置きしていた小説でも読んで、妄想の世界に入り浸るのも悪くはないですね!
ラウム3に着くまで、惰眠を貪ることにしよう、そうしよう。
それでは、おやすみなさい。