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6話 意見具申


 SC 179.01.15



「派手なドンパチが始まったみたいだねぇ」


「シーマ司令、意見具申よろしいでしょうか?」



 最大望遠で僅かに見えるメガ粒子の光に、私は眼差しを細めてシーマ様に向き合った。今度の戦闘は前回のようにはいかないと思う。だから私は最善を尽くす。

 前回も手を抜いていたわけではないですけど、今回は五割増しで真面目です。


 だから、軍人言葉を無理矢理喋ってみます。この方が真剣味が増して、耳を傾けてくれる気がしますので。



「どうしたんだい? らしくなく真面目な顔で。よろしい、許可する」


「はい、今回の出撃では、バズーカ6機にマシンガン12機の編成が無難かと思われます」


「魚がウヨウヨと出しゃばってるからかい?」



 そうなのです。既にドナウ宙域には連邦艦隊が布陣していて、魚ことサーベルフィッシュも展開が完了しているのです。

 べつに我が部隊が出遅れたわけではなくて、元々が今回の作戦は、戦端が開いてから相手の様子を見つつ後方から叩くのが任務なのだ。


 魚が泳いでいるので、奇襲できる可能性は限りなく低いと見積もらなければならない。よって強襲になり、前回と同様の戦果は初めから期待できないのです。



「はい。我が艦隊は、あくまでも遊撃が主任務です。魚は単体では、それほど脅威には成り得ませんが、数が厄介です」


「戦果拡大を望むか、被害を最小限に止めるかの二択ってわけかい」



 バズーカ装備のゼナでは、魚が相手では不利なのです。マシンガン装備のゼナで弾幕を張らないと魚は撃ち落とせません。



「はい、それと今回は予備機もCSを除いた6機は艦隊防衛に出すべきかと」


「マリア特務少尉、6機の予備機で帰る場所を守れると思うか?」


「はっきりと言えば不安です。倍の12機は欲しいですね」



 前回の戦闘では、敵がコロニーに集中していたから、私たちの艦隊は安全圏からMOX隊を出撃させて、牽制射撃のみで一旦後方に下がっていたのです。

 その時に、艦隊防衛に出した予備機は3機でしたが、今回は出し惜しみするのは危険です。自殺行為とも言います。万が一にでも母艦が沈めば、敵中を突破して味方の艦隊まで辿り着かなければいけなくなるのです。

 敵のド真ん中で撃墜されるか、下手したら届かない可能性もあり得るのです。


 はっきり言って、艦隊全滅はMOX隊も死亡と同義なんですよね。


 宇宙って怖いです…… まあ、漂流しても10日以内なら、誰かが助けてくれる可能性は高いんですけどね。

 けど、その場合は連邦の捕虜かも知れませんし。いたいけな少女が連邦の憲兵に、あんなことやこんなことの辱めを受けるだなんて、ブルブル。


 薄い本を想像したヤツは、ちょっと前に出ろ。宇宙放出の刑です。確か、メソポターミアかなんかで、そんな刑があったよね?

 いかんいかん、ちょっと頭のネジが飛んでしまった。



「ふーむ…… カッセル、どう思う?」


「そりゃ護衛は多い方が安心できます。マリア様の意見に賛成です。魚が同時に20や30も向かってきたら、確実に喰われますぜ」


「ふむ、帰る場所を沈められたら元も子もないな。よし、03小隊と04小隊と予備機の6機を艦隊護衛に回す。遊撃部隊の各小隊のバズーカは1機づつだ」



 どうやら、遊撃部隊はバズーカ4機にマシンガン8機の編成で決まりみたいです。今回は敵艦撃沈が主目的じゃないから、これで良かった。

 部下の意見に耳を傾けるシーマ様は上官の鏡です。一生付いて行きますよシーマ様!


 あと、まだ問題というか懸念というか、母艦の安全を高める難題が残っているのだけど、こればかりは正解が分からないです。



「それと、これは私も判断に迷うのですが、」


「構わん、言ってみろ」


「では、艦隊の中心から50km程度の圏内の、ロマノフスキー粒子の濃度を下げてみてはいかがですか? もちろん、圏外は濃く散布しますが」


「その理由は?」


「敵の魚こと、サーベルフィッシュは、ロマノフスキー粒子が濃かろうが薄かろうが、目視でミサイルを撃てますけど、こちらの対空機銃は目視で当てることは困難です」



 そう、私が考えた艦隊防衛は、手動で対空機銃が当てれないなら、だったら昔みたいにレーダーに任せちゃえばいいのでは? そんな単純な発想なのです。

 もちろん、敵もレーダーが使えればミサイルを艦に当てやすくなりますけど、逆にこちらも敵のミサイルも本体の魚も撃墜しやすくなるのです。


 ロマノフスキー粒子下でレーダーが使えない場合は、目視の手動では難易度が跳ね上がるのです。相手の(まと)は小さい戦闘機と更に小さなミサイル。こっちは、大きな的で動きの鈍い戦艦。

 小学生でも答えが分かる簡単な計算ですよね? まあ、私も小学生なんですけどね。えへっ



「なるほど、どうせ魚相手にウドの大木が不利なら、せめてレーダー追尾で撃ち落とそうってことか?」


「はい、レーダーが、どこまで機能するかが未知数ですけど、目視よりはマシだと思います」


「機能しない場合に備えて、直ぐに手動でも迎撃できるように手配しておけば気休めにはなるか……」


「機能すれば、いままで通りのレーダー戦。機能しなければ、旧世紀の第二次世界大戦と同様の戦いということです」



 つまり、なにが言いたいのかというと、ロマノフスキー粒子下では、艦隊防御の方が攻撃側に比べたら圧倒的に不利なんです。

 まあ、だからこそ、イオンは攻撃兵器にモックスなんて人型機動兵器を作ったんでしょうけど。


 防御を考えたら、ロマノフスキー粒子は良し悪しですね。でも、直接に戦艦と戦艦の殴り合いなら数が多い連邦が圧勝しますから、ロマノフスキー粒子は必要ですし。

 うーん、ジレンマってヤツですか?


 私が、あまり賢くない頭で考えて言えることは、戦争って馬鹿らしいから、やらない方が利口って結論にしか辿り着けませんでした。



「しかし、マリアは一つ見落としていないかい?」


「見落としですか?」


「その作戦の場合だと、艦隊が移動しないのが前提じゃなのかい?」


「基本的に艦隊は動かさない予定で意見具申しました。50kmあれば艦隊の回避行動には十分ですよね?」



 うん? なんで艦隊を移動させる必要があるんだろう? まあ、敵艦隊が特攻でも仕掛けてくるのなら移動して逃げないといけないけどさ。

 単純に防御するだけなら、回避するだけの宙域があれば良いのでは? 一定の宙域に止まっているのがダメってことは無いよね? なにか見落としてたかな?



「デフ!」



 ありゃ、シーマ様が興奮して、他人行儀な真面目な仮面が剥がれちゃった。でも、シーマ艦隊はこうでなくっちゃね。



「姐さん、これは案外いけるかもしれやせんぜ。マリア様の考えは定石には無い、一見素人の考えだが、艦隊が動かないのがダメって理由は別に無いんだ」


「艦隊は動くのが当たり前って、考え方の盲点かねぇ」


「ああ、玄人は艦隊は動かすもんだって考えが染みついていやがる。その場で回避のみに専念するって発想は、玄人では絶対に出てこない発想だな」


「瓢箪から駒ってヤツかい」



 シーマ様、結果が出てはじめて、瓢箪から駒って言った気がしましたよ? まあ、意味は通じるし、あながち誤用とまでもいえないから、指摘するのは止めておこう。

 けして、シーマ様が怖くて指摘しないわけではないですよ? 私は空気が読める女を目指しているのです!


 それよりも、カッセル艦長が私の提案に乗り気です。本職の人に認められるというのは、なかなか嬉しいものがありますね。

 今度お礼に落雁一袋あげよう。うん、そうしよう。



「最悪の場合は後退すれば、安全圏は確保できるか。デフ、やれそうか?」


「常に逃げ場を確保しながらの戦闘は得意ですぜ!」


「よし! それならデフに任せる。私とマリアは、モックスデッキに行くから、あとは頼んだよ!」


「了解しやした!」



 うん、これなら今回も大丈夫そうだ。でも、油断は禁物です。誰かが言ってたけど、戦いは臆病なくらいが丁度良いのですから。

 考えて、考えて、考え抜いても不安が無くなることがないのが戦争だと思いますしね。慢心は身を滅ぼす元なのだから。


 戦争って嫌ですね。でも、私は戦うのをやめません。戦争は負ければ意味がないのですから。でも、この戦争がイオンにとって厳しいことを、私は前世の記憶で、歴史で知っているのです。

 いかに連邦に勝利するかではなく、いかに負けないで戦争を終わらすか? これを考えなくてはいけない気がしますね。


 まあ、それを考えるのは、アドルフ総帥とか偉い人たちなんですけどね。ちゃんと考えて戦争を始めたんだよね? 考えてなかったら、アドルフの頭はたいてやる!


 戦争は始めるのは簡単だけど、終わらすのは難しいって歴史が証明しているしね。

 あー! 戦争って本当に嫌だわー! 戦争は当事者になり初めて分かる虚しさよ 川柳にもなりゃしない。 あ~、戦争ってクソだわ~


 いかんいかん、思考が完全に敗北主義者に乗っ取られていました。戦場では余計な思考はいらないのです。戦場は悩んだり迷ったりした者から死神は鎌を振り下ろして、冥界に引きずり込むのです。

 自分を完全に戦争マシーン、機械の歯車の一部分ととらえて、殺戮兵器にならなければいけません。


 では、連邦のウジ虫どもを血祭りに上げる為にも、出撃しますか!



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