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5話 高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応する


 SC 179.01.11



 お元気ですか?


 イオン公国のみんなのアイドルこと、マリア・アインブルクです。


 メガ粒子やらビームが、亜光速じゃなくて良かったと、実戦を経験して思える今日この頃です。ロマノフスキー粒子さまさまですよね。


 結果から言ってしまえば、コロニー落としは失敗に終わりました。

 私たちによって、帰る母艦を沈められた敵のサーベルフィッシュの群れが、死にもの狂いで特攻を仕掛けてきて、コロニーとリュックサックを背負った、可愛いゼナに損害を与えたらしいのです。


 ちなみに、私たちの部隊からは遠くて、援護には間に合わないのと、敵を追いかける形になるので、味方の弾が当たるとの理由で、戦闘参加は断念せざるを得ませんでした。

 というのは建前でして、本当はコロニーの状況がそこまで酷かったとは思ってもいませんでしたし、味方が苦戦していると分からなかったのですよ。


 だって、私たちが、あれだけの打撃をディアソン艦隊に与えたのですから、普通は大丈夫だと思うでしょ? ロマノフスキー粒子のおかげで救援の通信が届いた時には、私たちは既に戦場から離脱していたのです。

 ロマノフスキー粒子は敵味方の関係なく通信を遮断しますから、ロマノフスキー粒子も万能ではないということです。


 他の部隊もちゃんと仕事しろよ。そう私が思っても悪くはないはずであります。サボっていた訳ではないのは分かりますけど。もうちょっと、ね?

 うん。私たちは悪くない。誰からも文句を付けられないぐらいに、ちゃんと一番仕事したって結果も出していますしね。よって、自己弁護は終了。


 こういう時には、独立遊撃艦隊って肩書はとても便利なんですよね。なんといっても、指揮系統が独立していますからね!

 私たちに命令できるのは、アドルフ総帥とデリーズのハゲ親父だけなんですよ。あと、なぜだか、私のお姉ちゃんも命令できるらしいですけど。なぜ?


 そして、歴史通りに南米のアルゼンチンの近郊に、コロニーの前半分は落下しました。これが、歴史の修正力なのかも知れません。


 しかし、ここからが歴史と少し違っていました。


 崩壊したコロニーの一部が、大西洋を渡って、昔でいうところのアフリカのナミビアの辺りに落ちたのです。

 私の記憶が正しければ、連邦軍本拠地があるシャバカタンガは、コンゴの山奥からアフリカの大地の裂け目である、中央断裂帯の辺りだったはずなのです。ですので、シャバカタンガからは微妙に外れてしまいましたね。


 残念無念。


 しかし、アフリカはコンゴは地球の酸素の一割を供給していたはずですので、コンゴのジャングルを破壊しなくて、結果的には良かったのかな?

 衝撃波で多少は破壊しましたけど、落下した部分が小さかったので、それ以上の被害は防げたみたいですね。ギャンバインの歴史って結構適当だから、私が知らなかっただけで、史実のアフリカにもコロニーの一部は落ちていたのかな?


 いまさらですけど、自分が地球を破壊するのに手を貸していたんだと実感しました。でも、罪悪感は不思議と感じません。これはおそらく、映画のワンシーンを見ていたような感覚に陥っていたからなのかも知れませんね。



 それはともかく、


 今度は、ラウム5。通称、ドナウに向かって明日にでも出航です。せっかくラウム3に帰ってきたのに、直ぐにトンボ返りで宇宙に逆戻りですよ。

 え? 「ここも宇宙だろ?」とかいう野暮な突っ込みは無しの方向でお願いします。私たちユニバースノイドにとっては、コロニーが母なる大地なのですから。


 しかし、次はドナウですか…… まあ、ドナウ戦役が十中八九起こるということは、前世の記憶で私には分かっていましたけどさ。でも、軍人を含めた知識人は全員といってもいいほど、次の戦場はドナウになるって分かっていたと思いますよ?

 元々ラウム5は反イオン親連邦の気風でしたしね。ラウム1とラウム4を潰したのは、私としては残念な気持ちになりますけど、アドルフがアホなことをしたと思っておこう。思うだけはタダなんだし。


 もうドナウのことは、どうでもいいや。



 今度の作戦は、前回とは比べ物にならないくらいの激戦が予想されます。前回の作戦は、ほぼ完全に近い形で側面からの奇襲みたいなモノでしたしね。


 私たちの親衛隊第一独立遊撃艦隊も、長ったらしいから、これからはシーマ艦隊と呼ぼう。おおっ! シーマ艦隊! 良い響きです。パチパチパチ。

 私たちのシーマ艦隊も、前回の戦死者はつじーん一人でしたけど、今回は相当数の被害を覚悟しなくてはいけないのかも知れません。


 MOX隊の何割かは撃墜されるでしょうし、その中には私が含まれる可能性も当然あります。まあ、私自身は多分、大丈夫な気はしますけど。

 前回はかすり傷一つ負わなかった艦隊も、撃沈される艦が出る可能性は十二分にあります。しかし、戦艦のメガ粒子砲を避けるのは容易ではありません。


 誰かが言っていましたけど、当たらなければ、どうとでもないんですけどね。ええ、当たらなければ、ですけども。艦船は避けるのが難しいだけです。


 前回の作戦で積んだ功績での昇進は見送りです。前回も今回も含めて『フロンティア作戦』みたいですので。バタバタしていて、昇進を判断している暇はないというのが、本当のところだと思いますけど。

 失敗した作戦を糊塗する為に、継続した作戦って言ってるように聞こえるのは、私だけですかね?


 部隊の変更で言えば、つじーんことツジ伍長の戦死により、予備機のトミナガ伍長が繰り上がりで04小隊の三番機のパイロットになったくらいですかね。

 またぞろ、つじーん臭がする名前ですが……


 オマケでラウム6が中立を宣言しました。私は、てっきり開戦と同時に中立になっていたと勘違いしてました。どうでもいいことでしたね。


 しかし、フロンティア作戦と銘打ってはいますが、その実態は、地球にコロニーを落とす作戦だなんて、なんという皮肉でしょうかね? 英国紳士も青褪めるほどのブラックジョークの気がしないでもありません。






 SC 179.01.12



 そんなこんなで、ラウム3を出航して一路ラウム5ドナウ宙域へ。


 今回の作戦での私たちの役目は、連邦艦隊の後方へと回り込んで背後から奇襲するのが、シーマ艦隊に与えられた役割であります。


 アドルフ総帥から与えられた言葉は、



「高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応するのが貴官らに求められる役割である」



 なんていう、とても、とても素晴らしい、ありがたい、お言葉を賜りまして、喜びで涙が溢れんばかりであります。

 よりによって、こんな時に死亡フラグビンビンな言葉を言わなくてもって、エクレア准尉に八つ当たりした私は悪くないはずであります。


 アドルフのおっさん絶対に知ってて言っただろ、その言葉を! 死んでこいってか? 死んで欲しいなら死んでやるよ! こんちくしょーめ!!

 いや、死んでなんか絶対に死んでもしてあげないけどさ! もう支離滅裂です! もうアドルフなんて総帥でも義兄でもない! もう知りません!


 なんて発狂したけれども、少し冷静になって考えてみると、あの名言だか迷言だか知らないけど、あの言葉って、みんながケチョンケチョンに馬鹿にするほど悪い台詞でも無いと思うんだよね。

 それほど悪いことを言っている訳でもないのですよ。アンドリューさんは。


 行き当たりばったりなのは認めますけど、戦場なんて予定通りに事が運ぶ方が稀の気がするし。なんせ相手は機械じゃなくて人間なんだから、最初から最後まで、自分の思い通りに敵が動くなんて絶対にありえないと思うのです。

 そりゃあ、自分の都合の良いように相手を動かして、自分に有利な状況を作るのは戦の初歩だけども、相手も同じことを仕掛けてくる訳なので、結局の所は、千日手。手詰まりといいますか、膠着したりもするわけですよね?


 そこで、その現状を打破させる為に、必要な事はといえば、



「高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応する」



 これ、この言葉なんですよ! 名言、至言、金言とは、この言葉の為にあったのだと私は今日、確信しましたとも!

 真面目な話、遊撃が役割のシーマ艦隊には、ピッタリの言葉だと思うのですよね。遊撃の役割って、臨機応変に柔軟に対応する事ですから。


 なんで、この言葉が行き当たりばったりの無為無策って馬鹿にされ続けているのか? 私には、いま一つ理解できないんですよね。言葉だけが悪い方向に独り歩きしていると思うのは私だけかな?


 これはあれかな? ボロ負けしたからなのか? どんなに優れた言葉や作戦でも勝たなければ、絵に描いた餅、机上の空論、砂上の楼閣ってことなのか? バルバロッサやブラウとかミッドウェーもインパールもまた然り。

 うーん…… 実際のところ、私は原作を見てないから、この言葉を最初に聞いた時に感銘したのは、内緒です。


 最初に、要するに行き当たりばったりと看破した人は天才ですね。軍師、参謀の才能があると思います。


 なにが言いたいのか私にも分かんなくなってきちゃったから、この話はヤメヤメ。

 最後に言わせてもらうならば、アドルフ、おまえも最前線に出て戦え! こんちくしょーめ!!



「さっきからマリアは、なにをウンウン唸って百面相やってるんだい? また例の病気みたいだね」


「あははっ 今回の作戦について考えてました」


「作戦もなにも、要するに行き当たりばったりで対応しろってことだろう? 作戦もクソもありゃしないよ」


「あはははは、それもそうですね……」



 私は頬を引き攣らせて、乾いた笑みを浮かべることしかできませんでした。

 シーマ様マジパネェっす! あなたが神か! あなたに一生付いて行きます!



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