最終話 敗北
「他人事だと思ってるなら、ヨシュア少佐、あなたも巻き込むわよ?」
さて、ここからは意趣返しと行かせてもらいましょうか。アンタが私を巻き込むなら、私もアンタを利用させてもらいましょうかね!
「それはまた、穏やかでない」
「というか、ヨシュア少佐曰く政治的思想に染まってないらしい私に、こんな子供に、ナニをさせたいのかな?」
「戦後のイオンの在り方についてです。先程、教官殿も仰ったように、このままではイオンは持たない」
「それはそうね。でも、私はヘス家の親戚です。私からヘス家を裏切るような真似はできないわよ?」
アドルフとかアメリアとかは大人だからどうでもいいのです。大人なんだから自分の尻ぐらい自分で拭けるでしょうし、拭いてもらわなければ困ります。
でも、オットーやエリーゼはまだ子供なんです。エリーゼとシャルロッテなんて、まだ赤ちゃんですし、子供に罪はありません。
これまでお姉ちゃんの縁で私も少しは特権は享受してきたのだから、多少はヘス家に思い入れも義理もあります。後ろ足で砂を蹴る行為など言語道断であります。
私はそこまで落ちぶれていないし人間を止めてもいません。甥っ子姪っ子たちの為にも私は裏切りません。赤の他人より身内が大事なんです。
「それは理解してます」
「そう。それじゃあ、ヨシュア少佐が何をするのかは知りませんけど、それに協力するか最低限それを黙認しろとでも言いたいのかな?」
話の内容次第では、ここでヨシュアを拘束させてもらいましょうか。親衛隊の看板は伊達ではないのだよ!
「話が早くて助かります。協力して頂けたら幸いですな」
「私が、お姉ちゃんやアドルフ総帥にチクらないと思ってるのかな?」
「いえ、ヘス家と敵対する訳ではありませんので、セシリア殿の耳に入っても問題ありません」
おろ? じゃあヨシュアは何がしたいんですかね? ヘス家に復讐したかったんじゃないの? これは別の角度からねっちょり深く掘り下げる必要がありますね。
いい加減その鬱陶しい下品な仮面を脱いでもらいましょうかね。本人は似合ってるとでも思っているのでしょうか? 謎ですね。
「ふーん、それで話は微妙にズレるけど、戦争が終わったらヨシュア少佐はどうするんですか?」
「どうするとは?」
「お姉さんを探すの? そういう意味です。それともお姉さんを捨てたのかな?」
「いや、私には姉などいませんよ。なにやら教官殿は勘違いをなさっておいでだ」
ヨシュア少佐よ、眉が動きましたね。人は嘘を吐く時には大抵の人は顔に出るのです。出ないように訓練している人も不自然なまでにポーカーフェイスですし。
これが天性の詐欺師とか自分で嘘を嘘とも思わないような非人ならば、ニコニコ笑って人を騙す事もできるんでしょうけども。でも、そんな人間は精神異常者だ。
まあ、マスクのおかげで眉の動きなんか分かんないんですけどね! そのマスクを剥ぎ取ってやる!
「ねえ、ヨシュア少佐。そろそろ、そのマスクを外してもいいんじゃない?」
「これは強い光を防ぐ為にも必、」
面倒ですから最後まで喋らせないよ。会話の主導権は私が握っているのですから。
「言い訳は聞き飽きたわ。セーラ・モス。この名前を知らないとでも?」
「……どこまで、ご存知なので?」
「少佐……?」
うん、ヨシュアの動揺が手に取るように分かるわ。リリィも詳しい事は教えてもらってなかったみたいですね。
「全部。恐らくアドルフさんとアメリアさんは知っているわね。ゴリラ顔の筋肉馬鹿と地球にいる坊やは知らないと思うけどさ」
「ハンス閣下が筋肉馬鹿でヨハンが坊やとは、教官殿も手厳しいですな」
そっちに喰い付きますか。というか、他愛ない会話で時間を稼いで、その間に脳味噌をフル回転させて考えてるんだろうね。でも、言い訳を考える暇は与えませんよ。
追い込むときは、とことん追い込むのが狩りの基本ですから。まあ、開き直られて逆ギレされるのも困りますので、ほんの少しだけ逃げ道を残してあげるけどさ。
「私ね、ずっと不思議だったのよ」
「何がですか?」
考える時間が欲しいから乗ってきましたね。
「どうしてヨシュア少佐が私に対して、初対面の他人の振りをするのが不思議だったのよ」
「それは、どういう意味で……?」
「あら? 私とヨシュア少佐は、6、7年前に二度ほど会っていますよ? ラウム5の西部開拓コロニーで」
そういえば、西部開拓コロニーはノゾミさんのお父さんの会社の持ち物だったっけ? ノゾミさんは元気かな? まあ、会ったことないけどさ。
「っ!」
ヨシュア少佐、まだ慌てるような時間じゃない。ですよ? メインディッシュはこれからです。
「少佐と特務大尉殿は、昔から知り合いだったのですか?」
「リリィ少尉は知らなくても当然なんだけどね。知り合いというか、正確には私とヨシュア少佐は親戚よ。ちょっと遠いけどね」
「親戚? そうだったのですか。少佐は教えて下さいませんでした」
「ええ、私の母方の家名が、マルセイユよ。ヨシュア少佐のお父さんと私のお母さんが従兄妹同士なの。だから私たちは、"はとこ"になるのかな? 彼が本物ならね」
私もそれを知ったのは5歳の時でしたけどね。はじめは少し珍しい名字だけど、フランス系なら他にもマルセイユは普通にいるし、南仏最大の都市名もマルセイユだし、そのぐらいに思ってたんだけどね。
「本物なら……?」
リリィさん、眉間に皺を寄せると後が残っちゃいますよ。
「思い出したよ。君はあの時の……」
「ふふ、やっと思い出してくれましたか。エドワード・モス。いいえ、キャズラル・クンダイと呼びましょうか? ヨシュア少佐殿?」
呪われた憐れな子……
それが私の抱いた、ヨシュア・マルセイユに対しての第一印象でした。でも、あの時はエドワード・モスでしたね。
まあ、一言二言の挨拶しただけで直ぐにエドワードとは別れたから、ヨシュアが私のことを覚えていなかったのも仕方がないのかも知れませんね。
ヤツがペドでもない限りにおいて。
あー、エドワードがヨシュアでヨシュアがエドワードでエドワードが、、、ややこしい!
「クンダイ……?」
「そう、イオン・クンダイの息子がキャズラル・クンダイ。ヨシュア少佐はイオン・クンダイの息子よ」
「教官殿には参りましたな。降参です」
「少佐がイオンの息子……」
うむ、手の平だけ上に向けて降参のポーズですか。ヨシュアは、なにをやっても"さま"になりますね。キザっぽいけど。
リリィが事態を飲み込めないのも無理はないか。これでネオヒューマンもエスパーじゃないことが証明できましたね。人には言葉が必要ということです。
「そういう事だから、さっさとマスクを外しなさい。それに、そのマスクは死んだムラタには悪いけど、ダサいし」
「ムラタの事もご存知でしたか」
「名前だけね。エナさんに聞いたのよ」
嘘です。でも、半分は本当かな。漫画版での印象が深かったのと士官学校の名簿を調べてから、エナさんに裏を取りました。
「ああ、彼女も同期だったな。なるほど」
観念したらしいヨシュアはマスクを外した。そして、現れた瞳の色は、
「ふーん、6年振りのご対面ね。青い瞳はキャズラルというかエドワードだったわね。顔はそっくりだけどヨシュアは鳶色だったもんね」
6年振りに見たヨシュアの素顔は、少年から大人に変わっていてハンサムでした。まあ、6年前もハンサムではあったんですけどね。
ハンサムではあるけども、私的にはキュンとくるハンサムではないんだよなぁ。きっと、触れば斬られる鋭利な刃物みたいなのが私のタイプじゃないんでしょうね。
どうしても、ハヤテと比べちゃうしね。あの子は捨てられた子犬みたいで可愛いのだ。
「そうでしたね。本物のヨシュアは鳶色の瞳をしていました」
「それで、キャズラル…… えー面倒くさいから、いままで通りヨシュア少佐って呼ぶわ」
「はい。取り敢えずは、いままでの通りにヨシュアと呼んで下さい」
「ヨシュア少佐はヘス家への復讐は諦めたの? そっちが諦めてないんだったら、私にも本当のヨシュアの為に、あなたに復讐をする権利があると思うけど?」
そう、私がヨシュアに聞きたかった事は、これに尽きる。こっちも平穏無事な生活が掛かってますしね。もっとも、本物のヨシュアの復讐ってのは脅しだけですよ?
「一つ言い訳をさせて頂くと、私はヨシュアを殺してはいませんよ」
「未必の故意って言葉くらい知ってるでしょ? それでも十二分にアウトなんだから。それが例え、手を下したのがアメリア機関だとしてもね」
そう考えると、アメリアってキチ入ってるよね。ヨシュア一人の為に、無辜の乗客を数百人巻き添えにして爆殺してるんだから。紫ババァ怖いです。
「背後関係までご存知でしたか」
「ええ、あなたが西部開拓コロニーで大人しくしてさえいれば、誰も不幸になる事はなかったはずよ。まあ、もう過ぎた話ではあるけどさ」
ヨシュアに、あることないこと吹き込んだタンバ・ガルは許せないけどね。墓を暴いて晒してやりたい気分ですよ。まったく。
エゴニズムなんてウンコですよウンコ。はしたないとか言って目を吊り上げた、お姉ちゃんの拳骨が飛んできそうだから声に出しては言わないけどね。
「確かに既に過去の出来事ですな」
「えらく他人事のように言うわね。あなたがタンバ・ガルの妄言を信じなければ良かっただけの話でしょ? まあ、あなたに多少は同情もしますけど」
「妄言とは手厳しい」
さて、そろそろ狩りの時間も終わりにしますか。きっちりと止めを刺しますよ。
「あなたが子供の時に、ガルに何を吹き込まれたのかは想像でしかないけど分かるわよ。イオン・クンダイはヘス家に暗殺されたとかそんな程度でしょ」
「流石にそれは、そんな程度とは聞き捨てなりませんな」
「だって事実、ヘス家はイオンを暗殺なんかしてないから。考えてもみなさい、あんな心身の衰弱したイオンを暗殺してどうするの?」
私はお姉ちゃんのコネで調べてみました。もっとも、コネなんかなくても分かる人には簡単に分かる、その程度の重要度でしかない資料で結果は判明したけど。
「なっ!」
「あの当時のイオンは、ほっといても数か月後には死んでたわよ。クンダイ派を敵に回してまで、そんなイオンを暗殺するメリットがグスタフやアドルフにあったと思う?」
「それは……」
「まあ、信じる信じないは、あなたの勝手だけどさ。死因に関する証拠、捏造されてない客観的な資料もちゃんと残っているわよ。あなたは自分で調べなかったの?」
やましい事がなければ隠す必要もないしね。
それにしても解せないのは、そこそこ簡単にイオン・クンダイの死因は調べれるのに、ヨシュアが調べてなさそうな点だ。足が付くと思って調べなかったのか、
それとも、タンバ・ガルの狂信的な妄言を妄信していたのか? 人は見たいモノしか見ない、ということなのかも知れませんね。
どちらにせよ、ヨシュアが真実を知らなかったのは態度を見れば事実みたいですけど。
「少佐……」
ショックを受けて固まってしまったヨシュアに寄り添うリリィ…… うーん、絵になるね。ヨシュアにはリリィは、もったいないぐらいですね。
「ヨシュア少佐も頭の整理が追い付かないかも知れないけど、でも、お互いに水に流せるならそれが一番なのだから、私はそれがいいと思うけど?」
「少佐……」
「復讐をするなら棺桶を二つ用意しろ。旧世紀の格言に、こんな言葉もあったわね」
復讐の虚しさを言い表すのに、昔の賢人は上手いことを言いましたね。
「……リリィに出会って私は救われました。それが答えです」
リリィは私の母になってくれるかも云々ですね。そうですね、わかります。
「そう、彼女はイイ女ですもんね。リリィ少尉、彼を救ってくれて私からも礼を言うわ。ありがとう。これでラウム3の分裂は避けれそうね」
「いえ、私は私を救ってくれた少佐の傍にいるだけで、特に何もしてません」
「ふふ、傍にいるだけ。それが大事なんじゃないかしら。というか、やっぱりヨシュア少佐はマザコンだったのね」
「少佐、後でお話しましょうか?」
「リ、リリィ?」
「少佐は色々と私に隠し事をしていたみたいですので、じっくりと聞かせて頂きますから!」
うん、リリィさん目が座ってますよ、怖いです。彼女でも怒ることがあったんですね。知りませんでした。メモっとこ。
「それで、結局のところヨシュア少佐は、戦争が終わったら何がしたかったんですか?」
「ああ、ネオヒューマンは人の革新。その人類の未来を見たくなった。それを私はリリィを通じて教えてもらった」
はい、人の革新きましたね。しかし、私は保守なのです。平穏に暮らしていれば大多数の人間は急激な変化を望まないのです。もちろん私もその中の一人です。
それと、ヨシュアは復讐を、とうの昔に捨てていたってわけ? それじゃあ、これまでの会話はなんだったのよ! 茶番ですか? そうなんですか?
もったいぶった言い方をして結論はそれだけかよ! 私の貴重な時間を返して下さい!
しゃちほこばって損した気分です。トホホ。
SC 180.01.03
我がイオンは連邦から空き家と同然のラバウルを奪還した。
SC 180.01.05
イオン軍がルナツリー宙域に進出した時点で、地球圏における全戦線での停戦条約が発効。
これには、連邦軍の強行派であった戦争屋のラビル将軍が、ソーラ・レイの照射によって戦死していた事が大いに影響していた。
ラビルの死によって穏健派、早期に戦争終結を望む勢力が息を吹き返したのです。
イオンにも連邦にも、これ以上の戦争を継続する体力もなく、また、これ以上の犠牲も無意味と判断されて、事実上の戦争終結となった。
地球に残っていたイオン支配圏からは3月末までに撤退をする事で合意。グリーンランド条約は継続され、それにソーラーシステムの禁止が付け加えられた。
両陣営とも、破壊力がありすぎるソーラーシステムの撃ち合いを恐れたのだろう。
ラウム6とベルナー・ブラウンの中立は継続。グレナダはイオンの自治都市として再出発することになった。
そして、イオン公国の独立は承認された。
こうして開戦から一年と二日で、イオン独立戦争は終結したのであった。
「ふぅ、長かったようで短くもあり、短かったようで長くもあった一年の戦争だったわね」
現在、私はリリー・マルレーンの自室でくつろいでます。
なぜだか、私の隣には赤毛で天然パーマの男の子がいますが。それも全裸で。まあ、当然の如く私も全裸なんですけどね。
「そうだね。僕にとっては密度が濃すぎる一年だったと思うよ。マリアと出会った日からは、特にそう感じられたね」
「ふふ、ねぇハヤテはこれからどうする? ううん、どうしたいが正解かな?」
ハヤテが私の髪に指を絡めて手櫛で梳きながら答えを探している。こんな些細なことが私には幸せに感じられる。
もう既に私の中にあった元男の男性的な部分は、ハヤテによって完全に女に塗り替えられてしまったみたいだ。
「どうするとか、どうしたいって言われても直ぐには分かんないよ」
「ハヤテさえ良ければ、このまま私の家に居てもいいのよ?」
そう、ハヤテが愛おしい。ハヤテと一緒にいたい。きっとこれが、人を愛するという感情なのでしょうね。最初は打算だったのにね。
好きになる前にやることをやっちゃったけど。やった後から人を好きになっても、それはそれでいいよね? 多分、順序は逆なんだろうけどさ。
「そ、そう? じゃあ、まずはマリアの中に居させて欲しいな!」
「もう、ハヤテは盛りのついたエロザルなんだから。既に5回は私の中に入ったでしょ!」
せっかく私がロマンチックに浸ってたのをぶち壊しやがりましたよ。このサルは!
「それはマリアの誤解だよ」
「ここでオヤジギャグをかましますか……」
でも、こんなちょっとお馬鹿なところも含めてハヤテが愛おしいのです。ダメな子ほど可愛いという気持ちと、似ているのかも知れないですね。
おっと、内線だ。
「はい、マリアです」
『ああ、マリア。セシリア殿から通信でラウム3に帰投したら、ハヤテと二人で総統府に出頭せよって命令があったぞ』
なんか嫌な予感がしますね。
「シーマさんは、お姉ちゃんから命令の内容を聞いてますか?」
『いや、聞いてないけど恐らくは、いまマリアの隣にいる坊やとの不純異性交遊の件についてのお説教だろうさ』
「あばばばば、な、なんでバレてるんですかー」
ピンチです。マリアさん人生で一番の大ピンチであります!
『そりゃ、マリアが好き好きオーラを隠しもしないのだから、バレるだろうねぇ。まあ、ラウム3に着くまでは乳繰り合ってなさい』
「ジーザス……」
なんということでしょうか、自分の身から出た錆びもとい、ピンクオーラが犯人だったとは!
今次戦争で私は負けなしだったはずなのに、最後の最後で私自身に敗北したのでした。というか、これってハヤテに負けたってことなのかな?
でもまあ、こんな敗北ならば負けてもいいよね!
宇宙戦士ギャンバイン ~ 宇宙の魔女 ~
完
サクっと終わらせましたー!
ここまで読んでくれた読者のみなさんに感謝ですm(_ _)m




