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32話 ネオヒューマンとは


「特務大尉殿はネオヒューマンを、どの様にお考えですか?」



 リリィ少尉に、いきなり禅問答のように問われたけど、私も返答に困りますってば。そういう類いの話は坊主相手にして下さいな。


 私は坊主でも尼でもない、煩悩万歳な人間なんだから。そもそも私欲を煩悩を抑えてストイックに生きて、なにが楽しいのか分かりませんし。

 社会に害にならない程度には、欲望を発散させるのは人の営みに不可欠でしょうに。そうでなければ、人類はここまで発展してこなかったと思います。


 ほら、ハヤテも言ってたじゃん、



『人類は戦い続けて歴史を作ってきた。それがなければ人類は滅んでいたさ』



 うん、これはハヤテの中で一番の名言だと私は思いますね。戦いは害でもあるけど、発展の助けでもあるんだよね。

 っと話が逸れた。


 まあ、仕方がないからリリィの問いに答えてあげるけどさ。



「うーん…… 戦争の道具、かな?」



 絶対に、人の革新とは答えてあげません。


 ネオヒューマン自体はキチガイじゃないけど、ネオヒューマン思想はキチガイ思想だなんて言えないよなぁ。

 まあ、ネオヒューマンの中にはキチ入ってる人の割合が多そうだけど。主に、セシルとかセシルとか。クェスとかクェスとか。


 逆に考えれば、もともとキチの素質がある人間が、ネオヒューマンの素質も持ち合わせているのかも知れませんね。

 うん、これはこれで論文が一本書けそうなお題ではありますね。



「そう、ですか……」



 そんな悲しそうな顔をされても私も困りますよ。



「リリィ少尉は否定して欲しかったんだろうけどさ、現実はちゃんと認識しないと。事実、リリィ少尉はシャネルに乗って多大なる戦果を挙げているでしょ?」


「それは否定しませんけど」


「ロスチャイルド機関だって、ネオヒューマンの軍事利用が目的で怪しい研究を続けているみたいだしね。あなたも、そこの被験者の一人なんでしょ?」



 マッドサイエンティストどもの巣窟、それがロスチャイルド機関。そんなに研究がしたいのなら他人の身体じゃなくて、自分の身体を切り刻めつーの!

 ほら、別の世界では自分を人造人間に改造した科学者もいたことなんだしさ。まあ、あれはあれで恐ろしいから止めて欲しいですが。



「はい。でも、本来のネオヒューマンは殺し合いの道具ではないのです」


「それは、ネオヒューマンじゃなくて普通の人でもおなじだよ」


「それはそうですね」



 ネオヒューマンは殺し合いの道具じゃない。リリィの名言をここで聞けるとは、ちょっと感動ものです。でも、



「リリィ少尉に一つ言っておくけど、ネオヒューマンを特別な人間だと思ってたら火傷するわよ」


「それはどういう意味で……」


「これは前にもネオヒューマンの子に諭したんだけどさ、人は自分と違うモノを嫌い怖がるのよ。マイノリティが迫害されてきた歴史を見れば一目瞭然でしょ?」


「それは分かります」



 人の本質は集団、群れを作る生き物だと私は思うんです。集団とは、秩序で成り立っているのです。その秩序を乱そうとする者に待っているのは集団からの追放でしかありません。

 マイノリティが生きていけるのはマジョリティの寛容さで生かされているという、謙虚な心をマイノリティは忘れてはいけないと思うのです。


 意気軒昂に声を張り上げて、マイノリティの権利云々の御託を並べる輩を見ると虫唾が走りますね。もっと謙虚になれ、と。

 私も謙虚さは皆無だと自覚してますけど、集団に対しては従いますよ? なんせ前世は小市民の日本人でしたから。日本人は集団が好きな民族なのです。

 集団の中では個を殺す。これが処世術でもありますしね。


 まあ、声を張り上げないと大勢の中に埋没するから、それが怖くて声を張り上げているのかも知れませんけども。でも、普通に一小市民として生きる分には、声を張り上げなくても生きていけると思うんですけどねぇ。

 利権ですか? そうですか? あーやだやだ。人間って醜いわー。


 っと、またまた話が脱線してしまった。でも、反省はしない。



「教官殿の知り合いにもネオヒューマンが?」



 ヨシュアさんよ、そこに喰い付きますか。



「ええ、まあ、知り合いといえば知り合いですかね」



 ちょっと口が滑ったみたいですね。失敗した。それに、知り合い以上の関係になってます。なんて言えないしね。

 ネオヒューマンの素質を持ったのが、おなじ部隊の同僚に四、五人いますのよ。オホホホホ。ヨシュアに取られるなんて恐ろしいから言わないけどね。

 リリィにハヤテを会わせると、ハヤテを取られそうで怖いですし。


 ここは話の矛先を変える意味でも、揺さぶりを掛けてみますか。



「しかし、ヨシュア少佐も人が悪いですね」


「はて? なんのことやら?」


「リリィ少尉を使わなくても自分の言葉でおっしゃればいいのに。べつに私は聞かれたら大抵のことには正直に答えますよ?」



 さっきから、なんだか宗教の勧誘みたいな感じがするんだよね。宗教の勧誘は二人ペアが大原則なのです。

 ネオヒューマン教なんか作ってどうするんだろ? ヨシュアを教祖としたハーレムですかね? まあ、私の妄想なんですけどね。



「いや、教官殿には分かってましたか。しかし、リリィ少尉が教官殿に興味があって会いたいと言ってたのは本当の事です」


「まあ、それはそうなんでしょうね。それで本題は? 私がネオヒューマンじゃないと分かったから、話す前からもう終わっちゃったのかな?」


「これは手厳しいですな。教官殿がネオヒューマンではないのは確かに残念ではありますが、話の本質はそこではないですよ」


「ふーん、なんだか密談っぽくてドキドキするわね」



 すみません、嘘です。まったくドキドキもワクワクもしません。

 こちとら、宗教の勧誘と訪問販売の押し売りを玄関で、愛想笑いしながら嫌々ながら応対している気分なんですよ。



「教官殿はイオンの現状を、どうお考えか?」


「ぶぅ!」


「特務大尉殿、大丈夫ですか?」



 ビビった。思わず紅茶を噴き出してしまったではないか! フキン、フキン。あ、リリィ少尉すみません。拭いてくれてありがとうございます。

 あれ? さっきも似たような事があった気がしないでもないですね。



「あ、リリィ少尉ありがとう。それとヨシュア少佐、えらいストレートな質問ですね。それを私に聞きますかね?」


「先程、教官殿は自分の言葉で喋ろと仰ったので、お言葉に甘えて。それに教官殿には変化球は通用しなさそうですので」


「私の所為にしますか、まあいいですけど。ヨシュア少佐も知っての通り、これでも私は一応ヘス家の親戚筋にあたる人間ですよ?」


「それは承知していますよ。しかし、教官殿には色が付いてません」


「色ねぇ~、アドルフ派にアメリア派やハンス派とか、派閥の政治色ですかぁ」



 あと、グスタフ派にクンダイ派と…… ヨハン派? ヨハンはハンスかアメリアが飼い馴らすのかな? あとは、ガルシア首相とかも派閥があるのかも知れませんね。


 私はといいますと、ハヤテ色には既に昨日と一昨日で、あんなこんなで染められちゃったんですけどね。あ、思い出したら……



「ふふっ」



 げっ! リリィに気づかれてるじゃないですか! 仕方ない、ウィンクして誤魔化しておきましょう。



「ん? リリィどうかしたのか?」


「いえ、特務大尉殿が可愛くて、つい」



 まあ、確かに私は金髪碧眼で背中の中ほどまでの少し長めのストレートヘアで、おめめもパッチリしていて、まるでお人形さんみたいに可愛いですよ!

 でも、人形みたいな女性が実際にいたら、それはそれで怖いかも。私の目標は歳を取らない人です。目指せ、イザベル・アジャーニです! そうじゃなくて、



「ヨシュア少佐。でも、私は派閥でいったらアドルフ派ですよ? 私自身は親衛隊所属ですし、お姉ちゃんがアドルフ総帥の秘書ですから」


「確かにそうですな。私が申し上げたいのは、教官殿が政治的思想に染まってないという意味での、色です」


「そうですかね? 私は一応イオニストだと自分では思いますよ? まあ、エゴニズムやコンタリズムはどうでもいいんですけど」



 エゴニズムなんて特に過激ですしね。僻み根性丸出しでみっともないですし。人は自分が持ってないモノを僻み妬むんですよね。

 まあ、人間らしいといえば人間らしい思想とも言えますけど。



「その二つを、どうでもいいと仰る時点で教官殿はイオニストではありませんよ」


「ありゃ、そうなの? 難しいことは考えを放棄する主義なので良く分かりませんね。でも、私はイオン公国の国民でイオンがラウム3が好きだよ」



 なんということでしょうか、どうやら私はイオニストの定義を間違えていたみたいです。知らなかった。恥ずかしいです……

 イオン大好き、ゼナ大好き、ヘス家の支配でも良いって人はイオニストとは言わないのね。じゃあ、私はヘスニストかゼナニストですかね?



「いまは、それで十分だと思いますよ。それで、イオンの現状はどのようにお考えで?」


「現状ねー。連邦との戦争の落としどころは私では想像しかできないし、それをするのは政治だしね。私としては戦争が早く終わってくれれば、それでいいかな」



 強い相手と戦えなくなるのは少し、ほんの少しだけ残念だとは思いますけど、それは乙女の秘密です。やっぱ平和が一番なのに変わりはありませんから。



「戦争の終結には、そう時間は掛からないでしょう」


「でも、ヨシュア少佐が私に聞きたいのは、そんな事じゃないんだよね?」


「はい」


「そんなに子供の私の口から言わせたいの?」



 私は、まどろっこしいのは嫌いなのに。ヨシュアも子供じゃないんだから、言いたい事があるなら自分で言えって。なんだかイライラしてきた。



「教官殿を子供とは思ってませんよ。子供と侮って過去に痛い目に遭いましたしね」


「はぁ~、これでも私は親衛隊所属なのになぁ。仕方ないですね、高く付くわよ」



 あとで、たっぷりと仕返ししてやるから待ってなさい。



「出来れば安くお願いしたいですな」


「私としては権力側の人間なんだし、現状でも一応は満足なんだけどさ。でも、ヘス家の独裁体制は長くは続かないと思うわ」



 そう、現体制では、イオンは恐らく持たない。仮に持ったとしても、それは暴力が支配する恐怖政治だ。今でもおなじかも知れないですけど、それはそれって事で。



「それは、どうしてそう思われるか?」


「ヨシュア少佐は現状よりも、戦後を、イオンの今後を考えてるんじゃないの?」


「お見通しでしたか」


「サルじゃなければ、子供でも分かるでしょ。そんな誘導の仕方では」


「仰る通りですな」



 なんだか、馬鹿にされいてる気がして不愉快ですね。利子を多めに加算しときましょうかね。



「それで、ヘス家の独裁だけれども、独裁国家って常に外に敵を作らないと国内が治まらないのは歴史が証明しているわ」



 ナチスドイツも、ソビエト連邦も、共産中国も、北朝鮮も、そして、前世の私の故郷に昔あった大日本帝国も、また然り。

 まあ、民主国家であっても、国内の不満を逸らす為に外国に矛先を向けさせるのは常套手段ですけどね!



「なるほど、連邦との戦争が終わると外の敵がいなくなる、と」


「まあ、連邦が仮想敵国のまま残ってはいると思うけど。でも、戦争が終わって連邦を仮想敵国として残したままにして国民を煽っても、それだけでは無理ね」


「ほう、それはまた何故?」



 なんで私はヨシュアと、こんな問答をせにゃならんのだ。こういうのは学生の本分でしょ? これは、どっちが先生で生徒か分からない問答ですけど。


 というか、私も学生でしたね。それもまだ、たったの中学一年生ですよ。

 なにが悲しゅうて軍人なんかやっているんでしょうかね…… キャッキャウフフな女子中学生活はドコですか?


 私の青春は色々な意味で汗と血にまみれてます。 全部、連邦が、戦争が悪いんや。グスン。



「戦争が終わるからよ。この戦争にイオンが勝つのか引き分けるのか知らないけど、戦争の為といって我慢させて、半ば無理矢理に一致団結させてたでしょ?」


「なるほど、その反動が来るということですか」


「そういうこと。それを完全に力で押さえ付けるだなんて無理よ」



 押さえ付ければ押さえ付けるほど、抑圧された民衆の怒りは増幅するのだ。空気を圧縮するのと似ているかも知れませんね。だから、ガス抜きが必要なのです。

 でも、そのガス抜きに外国を使えないとなれば?



「暴動が頻発する、と」


「もし、そんな事になったら私はベルナー・ブラウンかラウム6にでも逃げるわ。恐怖政治の片棒担いで政権が転覆したら吊るされるだなんて、真っ平ごめんだわ」



 そう、ガス抜きができなければ、その民衆の不満と憎悪は現政権に及ぶのです。ヘス家に近い私は凌辱されてから殺される可能性が極めて高いのです。

 ほぼ確実といっても過言ではないでしょうね。クソったれな話ですが。


 うん、ヤバくなったら、お父さんとお母さんとお姉ちゃんとオットーとエリーゼを連れて逃げよう。シャルロッテは一緒に連れて行くのは無理かなぁ。

 エナさんとは、あまり親しくないから無理っぽいかな? あ、べつにエナさんが苦手とかいうわけじゃないですよ? 時間的に会う機会が少なかっただけですから。



「ふむ、なかなかに過激な話ですな」


「他人事だと思ってるなら、ヨシュア少佐、あなたも巻き込むわよ?」



 というか、私を巻き込むな! 私は穏やかに暮らしたいんだ!

 こんちくちょーめ!



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