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30話 ギャンバインもどき


「私から先手を奪うとは、少しはやるわね」


『……』



 私は敵が撃ってきたビームライフルを躱しながらも相手を称賛した。そう、私が牽制の射撃をする前に相手が撃ってきたのだ。

 相手に強制的に後手を取らされたのは、はじめてかも知れない。私は敵の危険度を一段階引き上げる事にした。


 この宙域には、私のマッティーニ・イェーガーとエグザエム搭載のブルージャスティス…… 何号機だっけ? まあいいか。ギャンバインもどき、この二機だけだ。

 ブルーじゃなくてホワイトがメインなのに、ブルージャスティスとは、これ如何に? そう思わなくもないが。


 まるで私たちの戦いを邪魔しないように、不自然なくらい周りには敵も味方のモックスもいない。ネオヒューマンの思念が、この宙域から人を遠ざけているみたいにも感じる。



「次はこっちの番よ!」



 そういって私はバーニアを加速させて相手に接近する。が、相手は乗ってこない……。

 多少は距離は詰まっているけど、相手は私を中心に見て円を描くように後退しているのだ。戦場からの後退ではなく、様子見の後退ということです。相手に戦う意志はあるのだ。



「ふーん、面白いね」



 私は相手の後退する行き先にビームマシンガンを連射して、行き脚を鈍らせて行き先を限定させる。こういう時には本当にビームマシンガンって便利だよね。

 弾数の少ないビームライフルでは牽制射撃にも気を遣うからね。相手は一回しか応戦してこなかった、これなかったし。



「でも、円を描くように後退するのならば」



 そう、円を描くような後退の仕方ならば、私から一直線に後退するのに比べて、



「回り込もうとする先を潰せば、距離は詰められるのです!」



 三度相手の行き先を牽制射撃で潰している間に、私は相手との距離を詰めていく。弾がもったいないじゃないですか! まったく。

 これは追いかけっこの変則バージョンみたいなもんですかね?


 なにやら相手のペースに乗せられ、誘われている気がしないでもないのだが、相手が完全には逃げ出さないので、それも仕方なしと割り切りましょう。

 虎穴に入らずんば虎子を得ずともいいますしね!



「無駄弾を撃たせられたお礼は、きっちりと利子を付けて払ってもらいましょうか!」



 法定金利など私には馬の耳に念仏なのですから。私が接近戦に持ち込もうとギャンバインもどきに接近した時、背筋に悪寒が走った。



「ちっ!」



 私は舌打ちをしながらも、咄嗟にシールドを構えてモックス本体を守りながら機体を横に滑らした。やはり誘いだったか。



「フルバーストだと!」



 ギャンバインもどきは、頭部バルカン、胸部バルカン、腹部の小型ミサイルランチャーと、ビームライフルから持ち替えていたマシンガンを、私目掛けて連射してきたのだ。


 バルカンの何発かがシールドに当たって弾かれる。シールドとはいえ、敵が自らの意志で私に命中させたのはコイツがはじめてだ。

 この戦争が始まってから私は、はじめて命の危険を感じたと認識した。相手が強くなるたびに、私の"はじめて"は増えていく。


 というか、実弾系のフルバースト? まるでシャルルみたいじゃないですか! じゃなくて、このギャンバインもどきって陸戦型ギャンバインがベースだったのね。



「ゾクゾクするね!」



 はじめて感じたこの感覚に私は、自分の精神が高揚しているのを自覚した。うん、そろそろ認めようか。私は戦闘に興奮と快感を覚える性質なのだと。


 いわゆる、バトルジャンキー、戦闘狂の類いである、と。 マイルドに言っても、トリガーハッピーってね。


 ああ、だからなのか、アレックスのパイロットに親近感みたいな感情を覚えたのは。なるほど、そういうことだったのね。

 私はヤツと同類、おなじ人種だったのか。うん、ストンと腑に落ちてスッキリした。


 でも、言い訳をさせてもらうと、べつに普段から人を殺したいとか思っている訳ではないんですよ? それでは、ただの精神異常者とおなじになってしまいますから。

 まあ、戦闘狂も似たようなモノなのかも知れませんけれども。でも、戦争だからといって積極的に人を殺したいとも思いませんし。


 どっちかというと、戦闘の結果で人を殺してしまった。これが正解のような気がしますね。戦争が人を殺戮マシーンに変えるのです。

 うん、私は悪くないし、いたって正常な思考と嗜好の持ち主です。よって自己弁護完了。ついでに妄想終了。



「だがしかし、このマッティーニ・イェーガーは、私の専用機は伊達ではないのです!」



 横に滑らした機体を姿勢制御バーニアを使って相手から見て半円を描くように、相手の斜め後ろに回り込むような位置へと機体を滑らせ持っていく。

 さすがにエグザエム搭載機といえども、この動きには反応が遅れたみたいですね。まあ、エグザエム自身の性能なのか、モックス本体の性能が追い付かなかったのかは、私が知る由はないですけど。



「陸戦型と宇宙専用との違いを見せてあげます」



 そう、このブルーじゃないブルージャスティスは、陸戦型ギャンバインがベースなのだから、元々はGX-78みたいな汎用機ですらないのです。その機体設計の差異が宇宙では影響するのです。

 それが僅かな差であろうとも。私ができる動きが相手にはできない。この差は大きいのです。


 相手はこっちの動きに対応できていない。私はギャンバインもどきの斜め後ろに回り込んで、ビームサーベルを振り下ろした。

 袈裟懸けに斬り掛けたビームサーベルを相手は必死に躱そうとするが、時すでに遅し。僅かに機体をずらせたのみで、一閃。左の肩口からズルリと腕が離れた。



「そんな、やっつけ仕事みたいな対応で宇宙用の機体に改修するから」



 私は距離を取ろうとする敵を逃がさないように相手の後ろを取り続ける機体制御をしながら、必死で振り向こうとする相手に対して、今度は小さな動きで一振り。

 ギャンバインもどきの右腕が肘から分離した。おまけでランドセルも爆発しない程度に壊します。



「いくらエグザエムを搭載していようと、こうなるのです」



 これで、バルカン以外の武装は無力化されました。私はギャンバインもどきを後ろから羽交い絞めにした。そう、聞きたいことがあるから、わざと墜とさなかったのです。

 マリリンの魂が戻る方法を教えてもらう為に。


 エグザエム搭載機を撃墜しました。でも、マリリンの魂は戻ってきませんでした。こうなる確率もあるのですから。それならば、操縦しているパイロットに聞けばいいのでは?

 うん、我ながら名案だと思いましたね!



「聞こえているか? 連邦のパイロット!」


『……』


「おまえが操縦しているモックスは、幼気な少女の魂を犠牲にして作ったキメラみたいな、バケモンなんだよ!」


『……』


「私は、おまえを倒して彼女の魂を取り戻す!」



 といいますか、教えて下さい。お願いします。でも、下手に出る訳にもいかないしなぁ。困ったなぁ……



『……』


「無口は設定じゃなくてデフォルトかよ! なんとか言ったらどうなんだ?」



 喋らないってことは乗っているのは、やっぱり、ユウ・カトリなのかな? このモックスを操縦するのは、youだ! このコンセプトでキャラの名前がユウなんだっけ?

 ゲームやった事ないですけどね。てへっ  でも、ここはゲームの中じゃないんだから、なんかしゃべれよ。











『…俺も死にたくはないのでな』


「わ! しゃべった!」



 あービックリした。もう、ちゃんと喋れるじゃないですか。



『頭だ。それ以外は反撃する』



 反撃するといってもねぇ。バルカン程度しか残ってないじゃないですかー。 オマケに私が羽交い絞めにしているから反撃は不可能ですよ?

 というか、あたま? オツム、ヘッド、テンプルの頭ですかね?



「あたま? 頭にエグザエムシステムは搭載しているのね?」


『そうだ。頭部のシステムさえ破壊すれば、彼女の精神も元の身体に戻る事が出来るはずだ』



 なんということでしょうか、エグザエムシステムは頭部に搭載されていたとは知りませんでした。てっきりコクピットにあるもんだとばかり思い込んでいましたから。

 そうと分かれば、



「そう、それじゃあサクっと終わらせましょうかね」



 私は羽交い絞めにしていたギャンバインもどきから離れると、瞬時に居合抜きの真似事みたいな格好で、横一閃。ギャンバインもどきの首を刎ねた。

 そして、止めとばかりに刎ねた首を真っ二つに切り裂いた。



「ふぅー、これで呪われた機械は死んだわね?」


『ああ、完全にエグザエムシステムは破壊された。宇宙の魔女よ、俺からも感謝する』



 感謝されるような事をしたとは思わないけど、感謝するぐらいだから素直に教えてくれたんだろうね。エグザエムシステムは疑似ネオヒューマンシステムのはずだから、

きっとパイロットの精神にマリリンの精神が干渉していたとか、そんな感じなのかも知れませんね。



「どういたしまして。それで、これからあなたはどうします? さすがの私も、これからあなたを殺すなんて鬼畜な事はできないわ」


『まだスラスターの一部は生きているから、近くの友軍に助けてもらうさ』


「そんな機体では死ぬわよ? それに近くには、もう既に連邦軍はいないみたいだし」



 そんなボロボロの機体だったら鴨ネギどころか、まな板の鯉ですやん。まあ、どちらも似たようなものだと思うけどさ。



『え?』


「連邦軍の撤退信号が見えなかったの? もう我が軍が、イオンが掃討戦に移行し始めてるわよ」


『なん…だ…と』



 私にフルボッコにされてる最中だったから見落としたのかな? そりゃ、あんなやられ方をすれば普通はビビったりあせったりするよね。私でもビビる。



「死にたくなかったら、戦争が終わるまで大人しく捕虜になるしかないわね」


『ああ、では、お言葉に甘えて捕虜にしてもらおうか』



 こうして私は、首なし腕なしのギャンバインもどきを抱えて、コ・ホコウ・クーのSフィールドの基地へと帰投したのだった。


 なんといいますか、なんだか消化不良で欲求不満気分です。最後は相手の不戦敗みたいなものでしたし。

 そう、いってみれば、イク寸前で止められてイケなかったような、寸止めされたような感じがしてモヤモヤします。


 でも、これでマリリンは助かったみたいだし、結果はこれで良かったのかも知れませんね!



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