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29話 聴こえる声


「メッサー曹長とハルトマン曹長の戦死は確実か。それで救助されたのがムタグチ曹長と。彼は、悪運が強いよね」



 コ・ホコウ・クーのSフィールドにある基地に帰投した私たち02小隊は、モックスへの補給の合い間に僅かな休憩を取ってます。

 モックスと同様に、それを操縦する人間にも補給と休憩が必要なのは当たり前のことですよね。


 どこぞの旧世紀の軍隊は精神論で乗り越えようとしてましたけど、無茶苦茶な話だと思います。



「隊長、それを言うのなら彼は運が良いか、強運の持ち主じゃないですか?」


「うーん、なんとなく悪運のほうがイメージ的に、ね?」


「確かに脱出ポッドを一番有効的に活用しているのが、彼なのは否定はしませんけど」



 それで、私たちMOX増強中隊の現状は、非撃墜×4 メッサー、ハルトマン、フクドメの三名は戦死。ムタグチは救助。


 増強中隊にある18機のモックス中、4機も失っています。損耗率でいえば、22%です。部隊としては半壊していると言っても過言ではありません。

 いままでの戦闘の中でも一番の損害です。艦隊の守備に就いていた予備機も1機を失いました。


 私の感覚では、ラバウルの時の方が厳しかった気がしないでもありませんが、数字だけを見れば今回の戦闘の方が激しいのは一目瞭然ですね。

 どうやら、私の感覚が狂っているみたいです。


 しかし幸いにも、この基地がある場所のSフィールドの防衛は、ほぼ成功していると思っても差し支えはないでしょう。

 まあ、苦戦をしていたのなら、こうやってのんびりと休憩して駄弁っている暇もないですしね。


 ちなみに、シーマ艦隊はリリー・マルレーンをはじめ全艦艇が無事です。これは運が良かったと思います。



「マリア、他のエリアの戦況はどうなっているの?」


「全てのフィールドで我が軍の方が優勢よ。ここ、コ・ホコウ・クーを落とすには連邦軍は数が足りなかったみたいね」



 ハヤテも実戦をくぐり抜けて、一端の戦士の面構えに近づいたみたいだね。ちょっとカッコイイかも。

 うん、認めよう。私は完全に二つの意味でハヤテに、やられちゃっているんだ、と。


 ここにきて、あらかじめソーラ・レイで削っておいた事とラバウルで善戦した事とが、連邦にボディブローのように効いているのだ。

 ラバウルから戦略的に撤退した事が、結果的に成功したみたいですね。私が総司令官だったらソロモンに固執して、こうは行かなかったでしょうね。



「そっか、これで僕も連邦から追われずに済みそうだね」


「追われたら追われたで、私が最後まで付き合うから心配しないで」



 そう、私がハヤテを巻き込んだのだから、私が最後まで責任を持って面倒をみるのが、私の人として最低限の矜恃だと思う。

 それも既に建前になってしまってるのかも知れませんけど。これって、完璧に脳味噌が女のお花畑になっている自覚があるわ。



「マリアっ!」


「こらこら、まだ戦闘は終わってないわよ」



 ハヤテが私の名を呼んで抱き付いてきたので、それを私は受け止めて背中をポンポンを軽く叩いて窘めさせた。ちょっと苦しいです。うん、前言撤回。


 まだ、ハヤテは戦士の顔よりも子供の顔の方が大きいですね。小さい頃から母親と離れて宇宙に移民してきたんだし、もうちょっと自立心があると思ったんだけど、

 強制的に乳離れをさせられた弊害なのかな? というか、この子は甘え上手だわ。キュンキュンきちゃうではないですか。


 なんだか、ハヤテの母親代わりをさせられてる気分です。見た目は私の方が年下なのになぁ。



「ハヤテ特務曹長の腕立て伏せと腹筋が、天文学的に加算されて行きますね~」


「うげぇ」


「ふふ、レイチェル少尉も手加減してあげて下さいね」



 ニヤニヤといいますか、半目の半笑いなんて器用で怖い顔をしながら言うレイチェル少尉に、これから先もハヤテはイジられるのが確定した気がしました。



「ちゃんと公私の分別が出来るのなら、考えてもいいですけど」


「き、気を付けます!」



 ハヤテ、頑張って生きろ! 私は応援しているぞ。心の中でしか応援しないけどね。この件については、私は傍観者に徹して被害を受けないようにしないとね。



「さて、補給が済んだら応援に行くわよ!」



 私はパンパンと手を叩いて二人を促してモックスに戻っていった。これからの戦いは、味方の薄い場所に駆けつけて敵を排除するのが私たちの任務だ。

 戦場を俯瞰するように見渡して、味方が不利な場所を見定めて横槍を入れる。あるいは、あと一押しさえあれば敵が崩れる場所に横槍を入れるのもそうですね。

 これが本来の独立遊撃部隊の仕事なのです。


 まあ、いままでそんな臨機応変に動けた試しは、ほとんどないんですけどね。大抵の場合は、はじめから横槍を入れる時と場所を指定されてたりしますし。

 でも、防衛戦では特に臨機応変に対応する事が求められるのです。




「こちらメドゥーサ04。コ・ホコウ・クー管制応答せよ」


「こちら管制。メドゥーサ04どうぞ」


「味方が苦戦しているエリアを教えて下さい」


「コ・ホコウ・クー管制からメドゥーサ04へ。全体的に味方が押していますので、特に苦戦しているエリアはありません」



 なんですと? 味方が有利なのは分かってましたけど、苦戦しているエリアすらないとは。これは勝ちましたね。



「メドゥーサ04了解。では、メドゥーサの独自指揮権に基づいて戦場を巡回します。オーバー」


「コ・ホコウ・クー管制、了解。グッドラック」



「04より05、06へ。戦場を偵察がてら、あぶれた敵を狩ってくわよ」


「06、ハヤテ了解!」


「05了解。掃討戦も間近ですね」


「それでも一応は気を引き締めないとね」



 自分で気を引き締めろって言ったけど、これは余裕ですね。余裕のよっちゃんとはこのことか。うふふふ、正義は勝つ!


 ジーク・イオン! ジーク・ハイル! ハイル・イオン! イオン公国万歳!











 そう思っていた時期が、ついさっきまでありました。



 私たちがWフィールドの外周部で狩りじゃなくて偵察していた時に、突然にハヤテが、



「女の人の声が聴こえる? いや、女の子か?」


「女性の声?」



 私には聞こえない女性の声がハヤテには聴こえた? ハヤテが言った言葉に私が嫌なものを感じた直後、私は悪寒が走って叫んでいた。



「レイチェル回避ー!」


「きゃあ!」



 レイチェル少尉の機体、マッティーニ・シュッズスタフェルの右腕が肩から吹き飛んだ。


 撃ってきた方向を視認したその時、私の中で女性の声と嫌な予感とが繋がった。そう、ギャンバインタイプの機体が目に入ったのだ。



「ニクラス仕事しろよ!」



 思わず、ニクラス・シュターゼンを罵ってしまった。はしたないですね、反省します。


 なんで、エグザエムを搭載した機体がまだいるんだ?

 それとハヤテ。声が聴こえるって、ネオヒューマンに覚醒したのか? 戦場で強引に覚醒させる手法を取ったのは私だけど、それにしても早かったな。


 アドルフの野望的にいえば、ハヤテのネオヒューマンレベルが5だから、ランクDで覚醒するのと同じと思えばいいのかな?

 射撃20、格闘18、反応20にまで成長する化け物がハヤテです。うーん、マンガチックな想像ですね。


 私を当て嵌めると、どうなるのかって? 私は、ランクSで指揮11、魅力13、射撃25、格闘22、耐久7、反応30くらいじゃないですかね? 手前味噌ですが。

 限界値を楽に突破していますけど、気にしたら負けです。


 いや、それよりも今はレイチェル少尉が優先だ。



「04より05へ。レイチェル機、被害状況を知らせよ!」


「こちら05。右腕を完全に持っていかれました。誘爆の危険はありませんが、戦闘能力は半減しました」



 うん、外から見ても誘爆の危険はなさそうなのが、不幸中の幸いといったところですね。



「06は05を援護して後退せよ!」


「でも、それではマリアが一人に!」


「ハヤテ! これは命令よ! それとも私が損傷を受けた05よりも、役に立たないとでもいいますか?」


「06、ハヤテ了解しました……」



 ハヤテが私を心配してくれる気持ちは嬉しいけど、これは少し修正が必要みたいですね。少し甘やかしが過ぎましたかね?

 軍隊では私情を優先していては、部隊の崩壊に繋がりかねないのだから。


 もっとも、まともな軍隊教育を受けていないハヤテには酷なのかも知れませんが。でも、修正しないといけませんね。



「05から06へ。ハヤテ特務曹長、後退するぞ。援護を頼む」


「06了解。マリアも気を付けて、あの女の声の聴こえるギャンバインは危険だ!」


「ええ、分かってるわ。大丈夫だから心配しないで」



 捨てられた子犬のようなハヤテが、レイチェル少尉と後退して行った。しかし、瞬時に危険と判断できるのもネオヒューマンと疑似ネオヒューマンの共鳴ですかね?



 さて、ここからは真剣にやらないとちょっと不味そうですね。相手はエグザエムシステムという、オカルトチックな機械を搭載しているのだ。

 どうやったら人の精神とか魂とかを、機械に封じる事ができるのかは謎だけれど、そのサポートシステムは危険ですね。


 それにエグザエムを全部破壊しないと、確かマリリンは目を覚まさないんじゃなかったかな?


 べつに彼女と面識があるわけでもなく思い入れもないですけど、 ……まあ、彼女の存在を忘れていたという多少の後ろめたさはありますけど。

 それはそれとして、コイツを倒せば彼女の意識が戻るならば、倒すべきでしょう。それにコイツは敵なんだし。


 コイツは先のアレックスよりも、ヤバそうな気配がプンプンしますしね。


 紛い物とはいえ、疑似ネオヒューマンだ。覚醒前のハヤテと戦った時のようにはいかない。気を引き締めて掛からないと、間違いなく私がやられる。

 おなじ紛い物同士、どっちが上が試させてもらいましょうか。恐らくこの戦いは、対ネオヒューマン戦の試金石に成り得る戦闘になるはずなのだから。


 まあ、そんなネオヒューマンとの戦いが将来に訪れるなど、まっぴらごめんですがね。

 私はラウム3でぬくぬく暮らせれば、それで満足なのです! 身の丈に合わない野心は、己の身を滅ぼすともいいますしね。


 でも、目の前の敵は倒さねば、私に平穏は訪れません。だから私は戦う。それが紛い物であろうと、与えられた力を使って。



「さあ、行くわよ。ネオヒューマンもどき!」



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