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1話 大人たちの私を見る目が少し怖いです


 SC 177年



 キンクリして、あれから5年が過ぎました。私も今年で10歳です。ティーンですよティーン! あれもこないだきました。

 あれとはなにか? とは聞くな。 日系ではないので、お赤飯でのお祝いはありませんでした。


 それはさておき、


 今日はアドルフ総帥とお姉ちゃんと一緒に、イオニック社の工場に来ています。MOX-06C。愛称、ゼナⅡ。この人型宇宙兵器モービルウェポン、通称、モックスのロールアウトの記念式典です。

 式典とはいっても、関係者以外は立ち入り禁止みたいですが。ハンスさんとアメリアさんの姿も見えます。ちなみに、ヨハンはお留守番みたいです。ざまぁ。


 なぜ、子供の私が記念式典に呼ばれているのかって? ふふ、姉のセシリアがアドルフ総帥の秘書なのをいいことに、MOXに脱出ポッドを取り入れさせたのが私なのだ!


 えへん。


 MOX-05、旧ゼナでは装備されてなかったこの機構があれば、パイロットの生存性が飛躍的に高まるのです。水と携帯食料と酸素が10日分あるから、その間に救助されれば助かるって寸法ですね。

 まあ、その期間をすぎれば南無なわけですけど…… でも、救難信号と簡易スラスターも付いてるから、月やコロニーの方向に流されるように調整できるのだから、助かると信じたいですね。


 この提案をしたご褒美に呼ばれて、記念式典に出席しているのです。それで、私の最大のお目当ては、MOXシミュレーター。やっぱり、ギャンバインの世界に生まれたのなら、モックスは操縦したいよね!

 やっぱ、MOXには漢のロマンが詰まってるよ! まあ、今世の私は女なんですけどね! てへっ


 イオニックの技術者から説明を聞いて、シートに浅く座って更に15cmかさ上げしたロンドンブーツを履いて、いざチャレンジです。



 まず最初は、デブリを回避しつつ馴らし運転。それからバーニアを吹かして高速でのデブリ回避。最後に大きめのデブリを右脚で蹴って再加速させようとして、



「ビィビィー!」



 おろ? 右脚が小破判定とな? どうやら、モックスがデブリに衝突したと勘違いされたみたいでしたね。


 デブリを抜けたら、連邦のトリアエズ戦闘機もどきが見えたので、これを105mmマシンガンをセミオートで一発撃って撃墜。


 あれ?


 なんで私は、こんなにも簡単にMSを操縦できて、こんなにも簡単に戦闘機を撃墜できたのだろう?


 まあいっか。迎撃に向かってくるトリアエズとサーベルフィッシュの群れを難なく排除して、アムンゼンもどきと、ヴァスコダガマもどきに接近。

 これらの対空機銃が火を噴く中、対空機銃の死角から取り付いて、アムンゼンの艦橋に向かってゼナマシンガンを連射。それから、艦の後方上部からエンジン部分にも一撃。これで、アムンゼンは中破判定。


 しかし、うーん…… やはり、105mmでは火力不足は否めないみたいですね。


 返す刀で、ヴァスコダガマの艦橋にも一撃をお見舞いして、艦橋を左脚で蹴って、もう一隻のヴァスコダガマに向かおうとしたら、



「ビィビィー!」



 おーのー、またもや衝突判定で左脚が中破しました。このシミュレーターには蹴るって行動がインプットされてないのね。

 仕方ないので、ヴァスコダガマの主砲に向かってマシンガンを連射連射。誘爆するまで連射。こんなに撃ってジャムらないのか心配です。

 誘爆した爆風を利用して加速しようとしたけれども反応は無し。赤い流星ごっこが出来ないのでフラストレーションが溜まってきますね。


 でも、よくよく考えてみれば、宇宙には空気がありませんので、爆風は発生しないのだったかな? 純粋なエネルギーによる破壊力の衝撃のみが伝わるのかも知れませんね。

 まあ、そこらへんの詳しいメカニズムは、子供の私には分からないのですよ。前世でも高等教育は受けてませんので……


 それでも、


 残った無傷のヴァスコダガマから撃沈させて、中破したアムンゼンと大破したヴァスコダガマに止めを刺して、帰還の途につきました。帰るまでが遠足は、お約束ですしね!


 迎撃機を上げてきた、ネルソン輸送艦は見逃してあげちゃいました。無抵抗な敵を撃つのは趣味じゃないのです。私は淑女ですから!


 トリガーハッピーして、弾切れしちゃったともいいますけど……



 基地に帰還をして、シミュレーターが終了してから、シミュレーターの筐体の扉を開けると、周囲の大人達の表情が、私を奇妙な生き物でも見るような目に変わってました。


 ……もしかして、やり過ぎちゃった?


 でも、MOXパイロットなら、これぐらいの操縦は出来ても普通だよね? これぐらい出来ないと、圧倒的物量を誇る連邦には勝てないでしょ?


 まあ、私はパイロットではありませんけど。



「な、7分で3隻撃沈とは……」


「それも、サーベルフィッシュとかを含めての7分だ……」


「しかも、旧型のMOX-05での数字だぞ」



 なんだか、周囲の大人達がワイワイガヤガヤと騒がしいですね。



「いままでの最短は何分だ?」


「ダキア少尉の8分35秒です。それも新型のMOX-06でのタイムです」



 おー、ダキアといえば、青い三連星のダキアかな?



「MOX-05での最短は?」


「旧型ですと、マルセイユ准尉の9分47秒がいままでのベストタイムですね」



 マルセイユ? ヨシュアか! というか私より遅いタイムって…… それってどうなの? それでいいのか? 赤い流星よ。



「いままでのタイムより3分近くの時間短縮でクリアとは信じられん……」


「それもあんなブーツを履いてだぞ?」



 10歳の少女より弱いイオン軍だなんて…… こんなんでは、イオンの将来が心配です。


 それと、あんなブーツとか言うなや! 大人の背丈に合わせてあるコクピットでは、お子ちゃまの私では足が届かないから、仕方なしに履いただけなんだから!



「マリアお疲れさま」



 そう言って、姉のセシリアがパックのオレンジジュースをくれたので受け取った。お姉さまは気が利きますよね。ありがとうございます。



「お姉ちゃんありがとう」


「ところで、マリアがモックスを動かすのは、今日が初めてよね?」


「うん、そうだよ。いつも護衛のシーマ大尉と一緒なんだから、私が勝手に出歩くことなんてできないのは、お姉ちゃんも知ってるでしょ?」


「そうよね……」



 私はオレンジジュースを飲みながら答えたけど、お姉ちゃんは顎に手を当てたまま、考え込んでしまったみたいですね。


 やっぱり、調子に乗ってやり過ぎちゃった?



「くくくっ イオンのエースと言われる連中も形無しだな。セシリア、お前の妹はとんでもない掘り出し物だぞ」


「変わった子だとは思っていましたけど、まさかマリアに、こんな才能があるとは思いませんでした」



 私にもこんな才能があるとは、私自身でも知らなかったけど、ちょっとアドルフ総帥もお姉ちゃんもヒドくない? 人を物とか変人とかさ。


 まあ、声に出しては言わないけどさ。


 アドルフ総帥は愉快そうに笑ってるけど、アドルフってこんなにも饒舌な人だったっけ? お姉ちゃんは困ったように眉が下がってるし。

 前世の記憶持ちだから、ある意味では変人は正解なんだけどね。


 ちなみにシーマ大尉とは、あのシーマ・イソベ様です。私がセシリアの妹で、一応は、アドルフの義妹ってことなので、私には小さな頃から護衛が付いているのです。所謂、VIP待遇といいますか、要警護対象ってヤツであります。

 それで、偶然にも護衛として派遣されたのが、シーマ様だったという訳ですね。なんでも、護衛対象が小さな女の子だから、護衛も女性の方が良いだろうってことだったみたいです。


 それで、腕っぷしの良いシーマ様が、私の護衛役に選ばれたのです。シーマ様に出会えたのは、本当にただの偶然。もしかしなくても、私の存在自体で歴史が変わってるのかな?


 ちなみに、シーマ様の歳はお姉ちゃんより少し上かな? 三十路間近です。この前、「シーマさんってアラサーだよね?」って言ったら、

 拳骨でこめかみグリグリされて痛かったです。でも、シーマ様を助けられて良かった…… 偶然だけどね。


 私が、「シーマさんの仕事がやりやすいようにしてあげて」そう、お姉ちゃんにお願いして、シーマ様繋がりで、他のマルハの連中も多少なりとも親衛隊に入れたしね。


 このまま行けばもしかしたら、シーマ様の変わりに知らない誰かが、ラウム2に毒ガスを撒くのかも知れないけれども。私にはそれを止める力なんて無いし…… いくらお姉ちゃんがアドルフの内縁の妻でも、ね?

 偽善とは分かっているけど、やらない善よりやる偽善ってことで。知っている人が不幸になるのは、やっぱり目覚めが悪いじゃん。


 私にできることなんて、たかが知れてるけど、できるだけ明るい未来を目指そう。せめて、お父さんとお母さんとお姉ちゃんとオットーだけでも助けられたらいいな。

 オットーといえば、アイリーンとかの試験管ベビーってどうなってるんだろ? ギャンバインサードから逆算するならば、今年ぐらいには、既に生まれているのかな?


 私がそんなことを考えていると、ハンスさんが話しかけてきました。見た目はごつくて怖いですけど、でも本当は、優しいってことを私は知ってますよ~。

 毎年、クリスマスと誕生日には、プレゼントくれる優しいおじさんです。まあ、ヘス家のみんなが、プレゼントをくれるのですけどね。ちなみに、私の誕生日はエイプリルフールと同じ日です。



「マリアが初めてモックスを操縦したのが本当ならば、なぜそんなにも動かせられるのだ?」


「うーん、『なぜ?』って聞かれると私も困るんですけど、イメージというかイマジネーションが大切なんじゃないですかね?」



 こればっかりは私にも説明が付かないしね。転生チートってヤツなのかな? それとも、私ってネオヒューマンってヤツでしょうか?



「なるほど。子供の柔軟な発想が、モックスを自由に動かせるということか」


「しかし、アメリア。子供をパイロットにして戦場に送るなんてことは、外道中の外道だぞ!」


「ハンス兄さんは先走りすぎです。早漏は嫌われますよ? 誰もそんなことは言ってません。しかし、研究だけはしてみる価値はあると思います」


「ネオヒューマンとかいうヤツか?」


「ええ、あくまでも、可能性ですが」



 サラッと毒を吐いてるアメリア姉さんマジパネェっす…… ハンスさんとアメリアさんが言い合っているけど、ここはスルーですよね。

 スルースキルは、世の中を上手く渡る処世術なのですから。作中での紫ババアは怖いイメージでしたしね! 君子危うきにナントカとか、昔の人も言ってますしね!



「お嬢さん、ちょっとよろしいですかな?」


「あ、はい」


「私は、このモックスゼナの技術主任をしているエリオット・ラームと申します」


「マリア・アインブルクです」



 髭を蓄えたダンディーなおじさまが、微笑みながら私に声を掛けてきました。この人の名前は覚えてるよ! 確か、高機動型ゼナを開発した人だったはずです。



「先ほどお嬢さんは、」


「マリアでかまいませんよ」


「では、マリアさんで。先ほどマリアさんは、ゼナの脚でデブリや戦艦の艦橋を蹴ってましたよね? あれは何故ですかな?」


「反動を利用して加速させようとしたのですけど、その行動がシミュレーターには入ってなかったみたいで、ゼナを壊しちゃいました」



 私は無意味だった蹴りが恥ずかしかったので、俯き気味にモジモジしながら答えた。



「なるほど、確かに理にかなっている……」


「モックスの脚は飾りじゃないんです。使えるものは利用しないと」



 言えない。ヨシュアの真似をして、赤い流星ごっこがしたかったなんて、口が裂けても言えない。



「ふむふむ。強度的には問題はないはずですから、シミュレーターのバージョンアップ時にでも取り入れましょう」


「それでしたら、爆風の反動も入れて下さい」


「爆風?」


「はい。ヴァスコダガマの主砲を誘爆させた時の爆風で後方に加速しようとしたんですけど、反応がありませんでした」


「失礼ながらマリアさん。宇宙空間には大気がありませんので、爆風は発生しないのですよ」


「そうだったんですか」



 あー、やっぱりそうだったんですね。私も過去に指摘を受けた気もしたのですけど、難しいことは考えない主義ですので忘れていました。



「しかし、外部への衝撃力が全くゼロになる訳でもない…… うーむ…… システム主任、外部へ波及する衝撃力の演算は可能ですか?」



 ラーム主任が同僚の眼鏡を掛けたオタクっぽい人に声を掛けた。うん、人を見かけで判断しちゃダメだね。



「簡易でよければ可能ですけど、完全に再現するのであれば、今のCPUだと処理が追いつかなくて、間違いなくラグりますね」


「設定できるのであれば簡易でもかまいません。モックスは、こんなことも出来るのだと理解させることが重要ですから」


「であるのならば、爆発のエネルギーの拡散が…… モックスの抵抗が、えーと……」



 うん、ブツブツ言ってて解らん。オタクさん自分の世界に入っちゃったよ。けど、頭は良いんだろうな。



「マリア、一言言っておきますけど、マシンガンを撃つ時に『ヒャッハー! 汚物は消毒だー!』これは下品だからやめなさい」


「き、気を付けます……」



 お姉ちゃんに小言を言われて、少し落ち込みました。まさか外に声が漏れていたとは。周囲の目が奇妙だったのはこれが原因だったのか。トホホ……


 あ、後日、バージョンアップされたシミュレーターで、タイムアタックをしたら、6分05秒でした。


 6分を切れなかったのは残念!



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