27話 またギャンバイン
「アムンゼンタイプの撃沈を確認。敵のモックス部隊が発進したようです」
「うむ。さてダラス、うまくやれよ」
「アメリア様が戻られました」
「遅かったな」
「申し訳ありません。グレートグスタフ、どこに配備されたのです? イオンズム・シティですか?」
「ああ、港でフジツボ掃除でもして無卿を託っているのだろう。それがどうした?」
「いえ、言わなければならない気がしましたので……」
「そうか、私も悪寒がしたのだが、なにか良からぬ事でも考えてはおるまいな? アメリア」
「お戯れを。イオングを使います」
「あの未完成品をか?」
「少しでもネオヒューマンと思える者をぶつける以外、連邦は倒せません」
「あまりネオヒューマンにこだわり過ぎるな。あのマリアでさえ、ネオヒューマンの適性はなかったのだろう?」
「はい、あの子は不思議な子です。既存の範疇では納まる器ではありません」
「では、そういうことだ。フフフフフッ、圧倒的じゃないか、我が軍は」
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「さて、見せてもらおうか、赤いギャンバインと青いギャンバインの性能とやらを」
こっちに注意を引きつける為の牽制射撃を一連射する。本当は無駄な弾なんだけどね。でも、これで敵は罠に掛かるのだから人間の心理って単純ですよね。
戦場とは謀が多い方が勝ち、謀が少ない方が負けるって孫子か誰かが言っていましたけど、これは宇宙世紀でも不変な真理みたいです。
『あのマッティーニは魔女か?』
『いくら宇宙の魔女だろうと、ギャンバインの性能さえあれば!』
『おい、ファルド待て!』
ふーん、この私に反航戦を挑んでくるとはね。だが、甘いです。パイロットとは熱くなりながらも、常に冷静でなければならないのです。
私は被弾面積を少なくする為に、頭から突っ込む形でクルクルと回りながら、赤いギャンバインの放つガトリングガンを避けながら、赤いギャンバインに接近する。
『な、なぜ当たらないんだ!』
「そんな見え透いた弾道に私が当たるわけがないでしょ」
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるともいいますけど、私に当てるには弾幕が薄すぎましたね。
『ファルド迂闊だぞ!』
「私に挑んだ勇気は認めますけど、もう少し腕を磨くべきですね」
そう、迂闊にも私に挑んだのが間違いなのです。
どうやら、ギャンバインの色とおなじで赤い方が瞬間湯沸かし器で、青い方が冷静みたいですね。それならば、
「やりようは、いくらでもあるのです」
私は赤いギャンバインとのすれ違いざま、相手の背中に蹴りを入れて斜めに跳躍して、一気に青いギャンバインとの距離を詰める。
『うわっ! 俺を踏み台にしただと!?』
『ちぃ!』
ハヤテが見ているんだから、ハヤテの技を見せてあげないとね! 宇宙でも踏み台は可能なのです。
そういえば、ダキアさんって今どこで何をしているんだろ? グレナダかな? あの人も腕の確かな武人だから、この決戦には参加したかっただろうね。
マ・カベ中将やキマイラ隊とかは、こっちの決戦に参加しているとは聞いているけど。でも、グレナダを守ることも重要な任務ですよね。
「少しは反応できるみたいですね。だが、遅い!」
既に抜き身のビームサーベルを振りかざすと見せ掛けて、私はビームサーベルをランスのように使って刺突させる。狙いはもちろん青いギャンバインのコクピットです。
「もらった! っ!?」
その瞬間に、私のマッティーニ・イェーガーと青いギャンバインの僅かな隙間を一筋のビームが走った。私はビームを避けるために瞬時に体勢を崩しながらも、
刺突させようとしていたビームサーベルを横に払って、ギャンバインの右腕だけを切断した。
相手を殺る瞬間は自分の無防備に近くなる。その僅かな瞬間を狙ったのか? 邪魔をしたヤツはどこのどいつだ?
私はビームを撃ってきた方向を視認した。ダークグレーの増加装甲を身に纏ったソレは、
「また、ギャンバインかい?」
あれは……? チョバムアーマー装備のギャンバインアレックス? バービィがラウム6で壊してくれたんじゃなかったの?
いや、現実を直視しろ。理由はどうあれ、現に今ここに居るのはまぎれもない事実なのだ。
どうやら私は、よほどギャンバインと縁があるらしい。これで遭遇したギャンバインは、ラウム7でのハヤテから合わせて五機目だ。
これって、もしかして戦場に出ているギャンバイン、そのほとんどと戦闘している事になるのかな?
青のギャンバインも蹴って、今度はデブっちょなギャンバインに向けて転進する。なんだか、青いギャンバインから悲鳴が聞こえた気もするけど、気にしません。
「マリア大丈夫か!」
「ええ、大丈夫よ。ハヤテ、心配してくれてありがとうね」
ハヤテに心配を掛ける戦い方をするなんて、私もまだまだという事ですね。この戦場での危険度を判定するならば、青いヤツと赤いヤツよりもアレックスの方が危険度は高い。
一歩間違えれば、フレンドリーファイヤにもなり兼ねない精密な射撃をしてきたのがアレックス、ヤツなのだから。
頭のネジが数本は緩んでいないと出来ない芸当をしてのけた、あんな射撃ができるヤツは危険だ。
青と赤と遊ぶのは後回しにして、私はアレックスを倒すのを優先する事にした。
「05から04へ。新たなギャンバインタイプは、これもラウム6でサイクロプス隊が交戦した機体です」
「04了解した。05、06は赤と青いギャンバインを適当に牽制しといて。私は先にコイツを殺る!」
先に弱い方のギャンバインを倒してからアレックスに向かった方が良いかも? 一瞬そう頭をよぎったけど、先ほどとおなじで邪魔をされるのは目に見えているから、
これで良いのでしょう。赤と青のギャンバインの実力なら、ハヤテとレイチェルの二人に任せても大丈夫ですしね。
これでも一応は考えて行動しているんですよ?
「05了解! 適当にじゃれときます」
「06、了解! マリアも気を付けて!」
うんうん、二人とも言いますね。これなら大丈夫でしょう。私の目下の敵はアレックス。赤いギャンバイン相手に撃たずにケチっていて良かったです。
弾薬を節約する癖をつけといて、はじめて良かったと思う場面に出くわしました。まずはチョバムアーマーを壊させてもらいますか!
私はアレックスに狙いを定めてビームマシンガンを三連射した。
「ほぅ、増加装甲を自らパージしましたか。少しは頭が回るようですね」
三連射したビームマシンガンを避けきれずにアレックスは被弾したのですけど、チョバムアーマーの一部を半壊させたのみでした。
相手のパイロットは、チョバムアーマーがデッドウェイトになっているとみるや、即座にパージして身軽になったのです。
「思い切りが良いヤツは危険ですね。ここで墜とさせてもらいます」
さらにビームマシンガンを三連射しつつ、私はアレックスに接近して行く。相手も回避しつつもビームライフルで応戦してくるけど私には当たらない。
「さすがに身軽になった分だけ避けられてしまいましたか。でも、仕留めるのはビームサーベルと決めているのです!」
……多分ですけど。
私は素早くビームサーベルに持ち替えてアレックスに斬り掛かる。が、相手もさる者で予期していたのか、ビームサーベルで受け止められてしまった。
コイツは、
「強い!」
少なくとも、ラバウルで戦ったG-3よりもかなり格上の相手だ。
乗っているのは誰だ? プレッシャーは感じないけど。まあ、私はネオヒューマンじゃないからプレッシャーなんて、はじめから感じられないんだけどね。
でも、戦場の空気みたいなのは感じるのです。上手く言い表せませんが、そういうものなんです。
本当は、『来たなプレッシャー!』こんなカッコイイ台詞を言ってみたいんですけどね! それが言えそうになくて残念です。
でも、この台詞を言った人の死に様は、惨めだったような気がしないでもありませんが。あと、好きな女の子にも相手にされてませんでしたね。
やった事といえば、サラダを作ってくれる人の彼女を握り潰したくらいでしょうか? 戦争って本当に残酷で嫌になりますよね。
それはさておき、
コイツからはプレッシャーは感じないけど、コイツから感じるのは、また別の種類のナニか。
そう、野生のライオンとか虎みたいなのを相手にしている感覚なのだ。まあ、野生のライオンなんて見たことも相手にしたことも無いけど。比喩的にね?
『宇宙の魔女さんに認めてもらえて嬉しいね』
「チャンバラごっこでも楽しみましょうか? 行くわよ!」
戦争は残酷で嫌になるといった傍から、私は言葉とは裏腹な行動をしているけど、それはそれ、これはこれなんです。
うん、やはり私はどこか壊れているんでしょうね。
『なんの!』
『ルースぅーーー!』
「やるー! それ!」
『むぅ!』
ビームサーベルを振り回しながら私と敵のパイロットは会話をする。既に三合斬り合いその全てを受け止めた相手。
はじめてだ。戦場でこんなにも高揚した気分にさせてくれた相手は、はじめてなのだ。
別のはじめては昨日のうちに体験したというのは内緒です。 あ、思い出したら……
なんか変な声が混じっていた気もしますけど、気にしないでおきましょうか。いまの私はアレックスと戦闘中なのですから。
『チャンバラしたいのはやまやまなんだが、』
「やまやまなんだが? その続きは?」
むぅ、気になるではないか。といいつつも、ビームサーベルを振り回すのは止めない。
『残念ながらお前さんとは、まともに相手にするなって命令がきているんでね』
なんですか? 人をデフコン2の警戒対象の病原菌みたいな扱い方をするのは?
「マリア! そいつとじゃれるな!」