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24話 纏わりつく不快感


 SC 179.12.30



「第08哨戒艇より通信。ラビルが率いる本体の位置が判明しました。詳細を回します」



「うむ、コ・ホコウ・クーのアドルフ・ヘスである。ソーラ・システム最終目標を伝える。照射方位角、チグタリア照準にて発射せよ。ソーラ・レイ、スタンバイ」


「了解。ソーラ・レイ、スタンバイ」






~~~~~~~~~~




「メドゥーサ04から06へ。ハヤテ、その機体、ガリバルディの調子はどう?」


「こちら06。操縦しやすくて良い機体だよ。量産機の割には性能が良すぎる気もするけど」



 私たちシーマ艦隊は、受け持ち予定区域のコ・ホコウ・クー、Sフィールドの近くで哨戒名目での最後の訓練と調整をしています。


 今度の作戦では、私の小隊の三番機はハヤテ・フォウ特務曹長です。私が半ば無理矢理に戦場に引っ張り出したんだから、ちゃんと面倒をみてあげないとね。

 丁度いいタイミングで、モビルファイターに敵性のあった03小隊のクルト中尉が、MFピグロに乗ることになって、代わりの小隊長を私の隊から、エクレア中尉を出したのです。その穴埋めに、ハヤテを入れたわけです。


 エクレア中尉より、レイチェル少尉の方が小隊長向きなのは内緒ですけど、軍隊ってヤツは階級優先なんですよ。

 といいますか、ぶっつけ本番でピグロに乗るクルト中尉は大丈夫なんですかね? まともな訓練って昨日と今日だけですよ?


 っと話が逸れた。



「カスタマイズしてあるから、余計にそう感じるのかもね」


「マリアのマッティーニ・イェーガーさまさまだよ」



 そう、私の愛機に搭載している学習型OSをフィードバックしたのを、ハヤテが乗っているガリバルディには劣化させずにインストールしているのです。

 それに合わせてハヤテの機体も調整してあるので、一般兵が乗るガリバルディよりも三割近くは性能が上がっているのだ。



「ふふ、おだててもなにも出ないわよ?」


「からかうなよ」



 MOX-17Aガリバルディ。ハヤテの腕と最新鋭の機体、これなら実質的に初陣に近いハヤテでも大丈夫でしょう。


 さらに、すぐ弾切れを起こすビームライフルではなくて、私とおなじビームマシンガンを装備させてます。モックス相手ならビームマシンガンの一連射でも十分なのですから。ビームライフルの威力はオーバーキルすぎるのですよね。

 威力絶大な18発よりも、威力は小さめだけど連射できる60発。経戦能力の安心感が違います。予備に、SSP-80マシンガンもお尻に装備していますしね。


 私は安堵して、大きく息を吐き出した。

 うん、きっと大丈夫だ。生き残れる。






~~~~~~~~~~






「ソーラ・レイ、発射!」






~~~~~~~~~~




 私がハヤテの動きに満足して一安心した直後に、大きな光の筋を、ソーラ・レイの発射を見たのでした。

 それは宇宙に一筋の長い光の帯が走って、とても綺麗に感じましたが、この数秒後には死者の怨嗟の声が聞こえてくるはずなのです。


 私は咄嗟の判断で叫んでいました。



「メドゥーサ04よりメドゥーサ各機へ。意識を強く持て! 死者の声を拒絶しろ! 引きずられるな!」



 ついにソーラ・レイが発射されました。私自身は死者の声なんて聞こえないんですけど、それでも纏わりつく嫌悪感みたいなのは感じましたので、ネオヒューマン能力がある人は、この感覚が増幅して感じられるなら、精神的に厳しいかも知れないですね。


 ちなみに、グレートグスタフは、チグタリア照準、ソーラ・レイの照射範囲にはいませんでした。大人しくラウム3でフジツボを取る作業をしています。

 ヨハンもハンスも死んでないから、グスタフ公王もボケなかったみたいですね。私の杞憂で終わって良かったのかな。



「こちらメドゥーサ01。04、マリア特務大尉なにがあったんだ?」


「シーマさん、あとで説明します!」



 いまは、シーマ様に詳しく説明しているよりも、味方の精神的ダメージの確認が先決だ。



「これが戦場の感覚……」


「メドゥーサ06、ハヤテ大丈夫?」


「ああ、なんだか不快感はあるけど、大丈夫だよ」


「そう、良かったわ」



 まだ、ハヤテは覚醒する前だから、そこまで精神的なダメージを受けなかったのかな?



「07(エクレア)です。こっちは良くありませんよ! マリア隊長これはキツイですよー! 精神攻撃の新兵器みたいなこれは、なんなんですか!」


「こちら05(レイチェル)。おなじく不愉快な気配が纏わりついて気持ち悪いです」


「17、アリスです。叫び声みたいなのが聞こえてきて、私も気分が悪いです」



 ありゃ? エクレア中尉もネオヒューマンの敵性があったのね。ディアソン旗艦撃沈も、その敵性のおかげもあったのかな? あと、レイチェル少尉とアリス少尉も感じてしまったか。

 ダメージ的には、エクレア>>アリス>レイチェル=ハヤテ>私って感じみたいですね。


 というか、エクレア中尉あなたも既に私とおなじ小隊長なんですよ? まだまだ自覚がないみたいですけど。



「メドゥ-サ16よりメドゥーサ07、エクレア中尉! 口唇を噛みなさい! 聞こえてくる声を無視するのよ!」


「07了解。な、なんとかやってみます」


「04から16へ。クリス大尉、あなたは大丈夫だったの?」


「こちら16。私はシャットダウンさせましたから大丈夫でした。気遣ってくれてありがとうございます」



 ふーん、そんな裏ワザがあったのね。精神コントロールというのか、意思の強さなのかも知れませんね。



「こちらメドゥーサ10(ナカガワ)だ。みんなどうしたってんだ?」


「なんだなんだ、なにが起こってるんだ?」


「メドゥーサ01より各機へ。みんな落ち着け! 訓練は中止する! 各機帰投せよ!」



 この混乱した状況では、訓練の中止も止むを得ないですよね。私たちは、Sフィールドにある基地へと帰投する事にしました。






「それでマリア、さっきの事をちゃんと説明してくれるんだろうね」


「はい。感受性が豊かといいますか、感受性が強い人は他者の思念を感じ取れるみたいなのです」



 ところ変わって、Sフィールドに駐留しているリリー・マルレーンのシーマ様の自室でお茶を飲んでいます。さすがに艦隊司令の部屋は広いですね。

 畳でいえば20畳ほどはあるでしょうか? 装飾もシンプルで落ち着ける感じがしてグッドです。この応接間の他に寝室とシャワートイレが別にあります。

 うん、艦隊司令の特権だね! その分、責任も重大なんですけどね。


 ちなみに、私の部屋は8畳ほどです。戦闘艦ですので8畳でも広いんですけどね。



「エスパーみたいなものか? いや、イオン・クンダイが言っていたネオヒューマンってヤツか?」


「はい。多分、ネオヒューマンで正解だと思います」


「なるほど、それで先ほどのソーラ・レイの発射で死んだ、大量の連邦軍人たちの声を聴いてしまったって訳か。私は鈍感で助かったって事だねぇ」


「私もネオヒューマンではありませんので、なんとなくしか感じませんでしたけど、ヤバそうな気がして警告しました」



 ヤバいとまでは感じなかったんだけどね。原作でハヤテが死者の怨念みたいなことを言ってたから、気になっていただなんて言えないし。

 本当はハヤテとクリス大尉に対して注意を促したつもりだったんだけど、まさかのエクレア中尉でした。



「しかし疑問なんだが、いままでだって大勢の人間が戦場では死んでいるのに、なんでまた今回に限ってこうなったんだ?」


「多分ですけど、一度に大量の人間が死んだことが理由ではないでしょうか?」


「感受性の容量を、キャパを超えてしまったという事か」


「恐らくは、それが正解だと思われます。レイチェル少尉とアリス少尉もそうですけど、特にエクレア中尉はキツそうですね」



 花粉症などのアレルギーとおなじく、抗体が異物を跳ね除けられる絶対数は決まっていると、考えるのが妥当なのかも知れない。通常の戦場では、一度に聴く死者の声は数十から多くて数百。

 これがソーラ・レイで、一度に数万以上の死者の声が聴こえたのならば、容量オーバーでパンクしてもおかしくはない。


 つまり、ネオヒューマンも万能ではないって事ですね。


 開戦当初のコロニー潰しの時の方が、ソーラ・レイよりも数百倍も怨嗟の声が聴こえていそうですけど、現場にいた人たちは大丈夫だったんですかね?

 そう考えると、クリス大尉の精神の強さには頭が下がる思いです。



「そういえば、彼女は悲鳴を上げてたな。そう考えると、エクレア中尉はネオヒューマンって事になるのか」


「いままで私も気が付きませんでしたけど、死者の声といいますか他者の思考を読み取れるのですから、ほぼ確定でしょうね」


「ディアソンの旗艦撃沈も、運だけじゃなかったって事になるのかねぇ」



 いや?あれはマグレの気がしないでもないんですが。でも、彼女は逃げの戦闘は上手いのです。天下一品といっても過言ではありません。

 模擬戦でも逃げるだけなら誰よりも上手くて、私からも逃げおおせた事があるくらいですから。



「エクレア中尉の過去の戦闘では、自機の生存本能には目を見張るものがありましたので、それがネオヒューマンの能力と考えるならば、合点がいきます」


「生存本能で、手っ取り早く艦隊司令を潰した……か」



 なるほど、そういう受け取り方もできるか。でも、あれは流れ弾だったような……? まあ、どっちでもいいか。



「それはそうと、明日は決戦だ。それまではマリアも体を休めておけ」


「はい、分かりました。お茶が終わりましたら下がらせてもらいます」






 それから、私はシーマ様と他愛もないお喋りをしてお茶を楽しんでから、シーマ様の部屋を後にした。


 そして、自分の部屋に戻ってみたら、ハヤテが私の部屋の前の通路の壁にもたれて、暇そうにしているのが目に入った。



「あら、ハヤテどうしたの? いまは第三種警戒態勢中よ」


「マリア、ちょっといいかい?」


『マリア、チョットイイカイ?』


「ええ、通路ではなんだから、私の部屋で良かったらどうぞ。あと、ヘロは真似しないの!」



 私はそういってハヤテとヘロを部屋に入れた。


 しかし、ヘロがいると和むね。ヘロはセラピストの才能があるのかも?



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