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23話 覚悟

※この物語はTS小説です。


 SC 179.12.29



「ハヤテ、決心はついたようね」


「決心もなにも、こうするしか道はないのだろう?」


「そうね。私があなたを捕まえてしまったばかりに、あなたには苦労をさせる事になって悪いと思ってるわ」


「それは仕方ないさ。あの時に死ぬのと比べたら、ずっとマシなんだから」


「ありがとう。そう言ってもらうと気が楽になるわ」


「ああ、だから」


「ふふ、その言葉の続きは戦争が終わってからよ」



 さて、ハヤテがなんの決心をしたかといいますと、話は今月の初旬に戻ります。






 SC 179.12



「ハヤテお疲れさま」


「ん、ああ、ありがとう」



 私は、マッティーニ・イェーガー、マリア・アインブルク専用機の、プログラムの最終調整を行っていたハヤテにドリンクを差し入れた。



「調整はどんな感じかな?」


「ゼナでのマリアの動きも取り入れてみたけど、動きがピーキーすぎて、これをそのままフィードバックして一般機に入れるには問題が残るね」



 私がこれまで乗っていた愛機、MS-06R-2Sのデータをイェーガーに移植しているのです。



「というと?」


「モックス自体は、マリアの動きをほぼ真似できるけど、今度は一般兵の視神経が追い付かないってことだよ」


「なるほど」



 スポーツドリンクがハヤテの喉仏を通過する動きが色っぽいですね。っ!? 私はなにを考えているんだ。いかんいかん!



「だから一般機に入れる場合は、かなり動きを低下させないと使えないって事で、このままでは宝の持ち腐れになりそうだね」


「なるほど、なるほど」



 なんということでしょうか! 私の動きをトレースしても、中身の人が付いて行けないとは。学習型OSにも欠点があったのか……



「もちろん、エースパイロットと呼ばれる人達は対応できると思うけどね」


「いくら技術が進歩しても、結局のところ人頼みってわけね」


「人が乗って操縦する機械は、最終的には人の資質に依存せざるを得ないって事だね」



 そう、それが無人機でもない限りは人が操るのだから、最後は人間の質、性能に依存するのだ。



「ちなみに、ハヤテはどうだったの?」


「僕はデバックがてら、遊びで何十回も試したからマリアの動きに付いて行けたけど、それでも最初は苦労したよ」



 ほー、さすがはハヤテってことだね! 私がいない間にもシミュレーションでは、ちゃんと成長しているんだもんね。これなら……



「それでね、話は変わるけど真面目な話なんだけれど、ちょっといいかな」


「ああ、コイツの調整もほぼ終わったからいいよ。で、話って何かな?」


「非常に言い難いことなんだけどさ、ハヤテ、あなたの立場が微妙なのは自分でも分かっているよね?」


「元連邦市民でイオンに敵対したしね」


「それについては、もうイオンではハヤテに対してお咎めはないのよ」


「じゃあ、何が問題なんだい? こうして、マリアが乗るモックスのプログラムもして協力している訳だし」



 おう、一応は協力している自覚はあったのね。



「ええ、それは感謝してるわ。でも、問題は連邦なのよ」


「連邦? 地球連邦が僕に…… ってギャンバイン!?」



 うん、飲み込みと頭の回転が速くて助かります。



「そう、イオンが負けた場合のみだけど、ハヤテの立場は非常に不味くなるの」


「民間人の僕がギャンバインを操縦して、イオンと戦ってギャンバインごと捕虜になった事か……」


「最悪の場合は、あることないこと罪を着せられるわね。ギャンバインを奪ってイオンに投降したとか、ね」



 連邦なら本当にやりかねないから怖いのです。連邦って民主主義で人権擁護を標榜しているんじゃなかったのかと、問い詰めたい気持ちで一杯です。

 まあ、ユニバースノイドの弾圧なんて平気でするのを、デモクラシーとヒューマンライツというのならばですけれども。


 前世の記憶的に、アメリカと日本や西欧諸国の民主主義国家が中心になって成立した連邦が、こんな強権的な国家になるなんて想像もできなかったですね。

 あれかな? 19世紀の帝国主義的植民地政策に回帰したってことだったのかな? 宇宙植民地っていうくらいだしね。


 っと、妄想している場合じゃなかった。



「そ、そんな馬鹿!」


「自分のミスを他人に擦り付けるなんて古今東西、日常茶飯事でしょ? 損害の多さのスケープゴートにされる可能性もあるわね」



 そう、ギャンバインを奪われさえしなければ、ここまでの被害はなかった云々。



「確かに最初は勝手にギャンバインを操縦したけど、マリアと戦った時には、ちゃんとパウロ艦長やプライドって見習士官の許可で出撃したんだ!」


「そうね。確かにギャンバインのログは保管してあるから、それは証明できるわね。でも、真実がすべて正しいわけじゃないのよ?」



 重い話をして、会話を誘導して選択肢を狭めて相手の退路を塞いでいく。



「真実が正しいとは限らない……か。では、僕はどうすれば……」


「もう既にイェーガーのプログラムでイオンに協力しちゃってるんだから、このままイオン国民になっちゃえば?」



 今度は、一転して軽めに話題を振ってみせます。



「別にイオンに協力していたつもりはないよ」



 あれ? さっきは協力しているのを自覚していたのに。



「でも、結果的には協力していた事になるわよね?」


「それはマリアに頼まれたから!」



 私の所為ですか? うーん、ハヤテを巻き込んだ私が悪いんですね。毒を食らわば皿までともいうし、ここは、



「じゃあ、イオンに協力するのが嫌なら、私に協力してちょうだい。それが結果的にはハヤテ、あなた自身を助けることにもなるのよ」


「僕自身を助ける?」


「そう、初めて会った時というか、戦ったあとで私がギャンバインを抱えて帰還する時に言ったよね? イオンの勝利が浮かばないって」


「そういえば、そう言ってたね」


「イオンが負けない、いいえ、私の為にもハヤテの力が必要なの。それがハヤテの為にもなるのだから」



 ハヤテのネオヒューマンの力が、そのうちきっと私には必要になるのだから。まだ覚醒前だけれども、戦場で強引に覚醒させてやる。


 きっと私は利己的でズルくて酷い人間なんだろう。もし、死後の世界に地獄というのがあるとするならば、私はきっと地獄に堕ちるんだろうなぁ。

 まあ、その前に散々と人を殺しているから、地獄行きは確定事項みたいですけど。



「僕の為…… 確かに連邦が勝利したなら、僕の立場は苦しくなるよな……」


「そう、私ならばハヤテと一緒にいられるわ」



 私はハヤテの指に私の指を絡めてハヤテにもたれ掛かった。ちゃんと猫を被れてるかな? 女の武器を使うだなんて、最低ですね。

 自分で言っておいて自己嫌悪になりそうです。でも、少しでも確率を良くする為には悪魔にだって魂を売ってやる。利用できるモノは利用してやる。人は聖人君子になんて成れないのだから。


 それに言い訳じみているけど、ハヤテの立場が不味いのは本当のことなんだし。



「マリアと一緒?」


「ええ、ハヤテが私と共に戦ってくれるのなら、私の人生の半分をハヤテにあげる」



 うん、女は度胸。もうそろそろ覚悟を決めて、女として生きることを肯定しよう。



「全部じゃないのかい?」


「あら、全部あげたら、それは奴隷って言わなくて?」



 女は打算的でもあります。

 ハヤテの人生を左右させる掛けの、賞品の価値が私にはあるのかと問われれば自信はない。ないけど、私は既に自分をチップにしてハヤテにベットしたのだから。

 私の人生の保険はハヤテ。やけに分の悪そうな掛け、保険料が高そうなのは秘密です。



「それもそうか」


「今はまだ決めなくてもいいわよ。でも、クリスマスまでには考えておいてね」


「ああ、分かったよ」


「うん、じゃあこれは少しだけれど、先払いであげる」



 そう言って、私はハヤテに口づけをした。 ハイジ、ごめんね。


 女は計算高い生き物なんですから。

 なんだか、純粋な女性からも男性からも反感を買いそうで怖いです。私ってきっと嫌なタイプの人種なんだろうね。

 私は所詮まがい物ですから、ステレオタイプな行動しかできないのです。うん、キモイかも知れない。


 でも、これが私なんだから。



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