20話 お説教
ソーラーシステム破壊任務での戦闘で、04小隊の三番機のゲンダ伍長が戦死しました。いまのところ、私たちのMOX増強中隊での戦死者は04小隊ばかりから出ていますから、04小隊は被害担当小隊とも揶揄されています。
だけども、これからの戦闘で他の小隊から犠牲者が出ないとは、言い切れないのが戦争だ。
「ハンスさん、こんなトコでなにしてるんですか! エネルギー切れのビグゼムなんて、ただの大きい的ですよ!」
「マリアか? いや、推進剤が切れてな?」
「だったら援護しますから、そこら辺にいるムサシにでも曳航してもらいなさい! 死にますよ!」
「お、おう」
ラウム1宙域から、大急ぎでラバウル宙域に戻ってきてみれば、ラバウルでは激戦が繰り広げられていたのです。
私たちが善戦したおかげで、ソーラーシステムの照射能力が低下したみたいで、ラバウル内部までは被害が及ばなかったらしく、史実みたいにラバウルの放棄をする必要がなかったみたいです。
しかし、連邦のモックスがラバウル周辺とラバウル本体に取り付いて、そこらじゅうでモックス同士の戦闘が起こっています。
こんな乱戦では、中隊単位でのモックスの指揮系統は成り立ちませんので、各小隊ごとに近くにいる敵を殴るだけです。
そんな中で、ハンス中将のビグゼムが戦場で突っ立っていましたので、駆け寄って叱ったところです。
エネルギーと推進剤が切れるまで戦うアホだったとは…… 猪突猛進は顔だけにして下さい。
「そこのムサシ! マグネットワイヤーを射出してビグゼムをラバウル内部まで曳航して下さい!」
「こちらグワメル。了解した!」
「貴艦の援護は私がします!」
「コスモスの蝶の援護なら心強いですな」
「こんな激戦では気休めですけどね! 04から05、06へ。周囲の警戒を怠るな! 近寄る敵は排除せよ!」
「05了解!」
「06了解ー!」
こうして、ビグゼムを曳航したムサシと共に、一時ラバウル内部へと撤退を始めたとき、
「グワメル! 取り舵10°上げ5°はやく!」
「え? は、はい! 取り舵10°上げ5°よーそろー」
よーそろーじゃねえよ! さっさとやれ!
私が毒付いた直後に、ムサシの艦首真下をメガ粒子砲が通っていった。ふぅ、ギリギリセーフ。
「こちらグワメル。助かった、感謝する!」
「対空監視、もっとしっかりなさい!」
グワメルの危機は、一番の原因はハンスだな。アイツに首輪を付けないと、多くの部下が巻き添えになって戦死しちゃいますね。
「ラバウル管制、聞こえますか? こちら、親衛隊第一独立遊撃艦隊所属、マリア・アインブルク特務大尉です」
「こちらラバウル管制。特務大尉殿、どうぞ」
「ラゴック大佐に繋いでちょうだい」
「少々お待ち下さい」
「ラゴックだ。マリア殿、どうしたのかね?」
「あのバ、じゃなくて、ハンス中将に首輪を付けて司令室で指揮を執らせて下さい」
「私も出撃は止めたのだがね……」
「アレが戦場に出ると、」
「マリア聞こえているぞ! バカって言おうとしただろ!」
誰だ? 気を回してハンスに転送した馬鹿は。まあ、この際だからはっきりといってしまえばいいか。
「聞こえていたのでしたら丁度いいです、ビグゼムから降りたら、今度はゼナにでも乗って出撃しようだなんて、考えてませんよね? 閣下?」
「そのつもりだったが、なぜ分かった?」
「06! 7時の下! ……閣下が戦場に出る必要はないでしょ? 指揮所で戦場全体の指揮を執って下さい」
エクレア機の下方から接近するゲムがいたので、危険と判断して伝える。連邦軍も多少は宇宙でのモックスの使い方を覚えてきたみたいだ。
さすがに歴戦のエクレア中尉でも、この戦場は激戦で少し厳しいみたいですね。
「しかしだなマリア、兵の士気を上げる為にも俺が前線に出る意味も、」
『こちら06、隊長、助かりましたー!』
「06、気を付けて! ……しかしも、かかしもないです! はっきりといいますけど、ハンスさん、あなたが戦場に出ると護衛の部下が巻き添えで多く失われます!」
「む、むう……」
「あなたが一兵卒なら勝手に死ぬのは止めませんけど、大将が前線で戦死でもしたなら、それこそ士気はガタ落ちになりますよ? そこんトコを考えなさい!」
「わ、分かったから、そう怒るな」
「怒ってません、叱っているのです。ハンスさんが死ねば、エナさんとシャルロッテも悲しみますから、大人しくしていて下さい」
止めの一撃は、エナさんとシャルロッテちゃんです。愛妻家のハンスには、この言葉は効果覿面でしょう。でも、愛妻家のわりには、クロエのお姉ちゃんも囲っているんですけどね! モゲなさい。
「りょ、了解した……」
「分かればよろしいのです。分かれば」
まあ、前線に出て士気を上げるのは有効ではあるんですけどね。でも、それも時と場合によりますし。
「マリア殿、感謝します。助かりました」
「ふふ、ラゴック大佐も、大きな子供のお守りは大変ですね」
「はぁ、返答に窮しますな……」
彼の立場では、答えられない難問でしたかね? お詫びに、今度彼にも落雁をプレゼントしよう。
といいいますか、私は特務大尉の立場で、中将閣下に命令しちゃった? これって不味くないですかね……?
あー、これは義理の身内が、身内に話したことにしておきますか! 私とハンスの関係って、なにになるんだろ? アドルフは義兄でしょ。義兄の弟だから義弟?
お姉ちゃんからすれば、ハンスは義弟だけれども…… もしかして、私とハンスは他人ですかね? もしかしなくても、血も繋がってないし、他人ですか?
ややこしいです!
そんなこんなで、
無事にビグゼムをラバウルに送り届けて、ハンス中将閣下は、ラゴック大佐の部下にドナドナされて司令室に直行です。
私たちのマッティーニも補給を受けて、ラバウルの防衛戦闘に再出撃です!
「ローレライ04よりローレライ01、聞こえますか? 戦線に復帰しました!」
コールサインは、一週間戦争とドナウ戦役で使ったコールサインの使いまわしで、ローレライです。そんなに名前なんて浮かばないしね。
「こちらローレライ01。NフィールドのSWに回ってくれ! 敵の数が多いから選り取り見取りだ!」
「ローレライ04了解。NフィールドのSWに向かいます!」
「マリアが来てくれたら、私たちの小隊は補給に戻らせてもらうよ」
04と呼ばないあたり相当、戦闘に神経を使ってたんだろうなぁ。シーマ様、いま行きますからね!
「01、お任せ下さい! 05、06行くわよ!」
「「了解!」」
NフィールドのSWポイントに辿り着くまでに、5機のゲムをサクっと片づけながら現場に急行した。うん、乱戦です。
「よりどりみどり、派手にドンパチ楽しもうじゃないか、掛かってきな!」
「その言葉は、私が小一時間前に此処で言った台詞だけど、マリアにも聞こえてたのかい?」
あちゃー、そういえば、シーマ様の台詞だったんだっけ?
「アハハハハ、アドレナリンが出ると、みんな似たような思考になるのです」
「ふーん、それもそうかもねぇ。私たちは、一旦下がらせてもらうよ」
「はい、お気を付け!? あぶない!」
私は咄嗟に、シーマ様の機体の前に立ちふさがってシールドを構えた。刹那、ビームライフルの衝撃がシールドから伝わる。が、
ビームコーティングが施してある、マッティーニの大型シールドは破壊するまでには、いたらない。まあ、コーティングは剥がれちゃったかも知れないけど。
どうやら私のバカな台詞で、シーマさんも気が抜けてしまっていたようだ。これは、私の所為ですよね?
危なかった。でも、結果オーライなのです。持ってて良かった大型シールド。
「ふぅ、助かったよ。油断大敵だねぇ」
「大丈夫ですか? シーマさんは補給に行って下さい」
「01了解した。マリアも油断しないように!」
「04了解です!」
そう、この淡い灰色の機体はギャンバインだ。それも、恐らくはマグネットコーティングを施された、G-3といわれる機体だ。
乗っているのは誰だ? いくら油断してたとはいえ、シーマさんに直撃コースの射撃の腕は確かだ。
「05から04へ。あのギャンバインは捕獲したギャンバインよりも動きが速いです! 三割はスピードが増してます!」
「アクト・ゼクに使っている、マグネットコーティングってヤツと、同じ原理なんだろうね」
セミ・モノコックにフィールドモーターにマグネットコーティング。イオンが苦労した技術が連邦にはあったのに、なぜ、ゲムみたいなカスを量産したのか謎ですね。
「05、06はコイツに構うな、コイツはエースだ! コイツは私の獲物だ!」
「05了解! 周囲の敵を排除してきます」
「06了解ー! 隊長の邪魔はしませんよ!」
二人とも、いい子ですね。彼女たちでもコイツを倒せるだろうけど、時間が掛かる。私なら時間を掛けずに一気に殺れるのです。
なぜなら、おじいさんにキャンディーを貰えた私は、特別な存在なのですから!
「さあ、ラウンドツーです。見せてもらおうか、改良したギャンバインの性能とやらを!」