表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/35

19話 多い日でも安心


 バリバリバリッ!



「くぅ、こうも数が多いと間に合わない!」



 いま、私がなにをしているのかというと、大型シールドを前面に押し出して鏡を割っています。そう、ソーラーシステムのミラーパネルです。

 このミラーをできるだけ数多く割らないと。ラバウルの被害が増えてしまうのです。


 なんで、こんな事態になっているかというと、




 SC 179.12.22



「ソーラーシステム?」


「そうだ。ラウム1の暗礁宙域の手前に設置して、ラバウルを焼くつもりらしい」



 シーマ様の話を聞いている私は、遠い昔の前世で見たアニメの映像を、記憶を底から手繰り寄せる作業をしています。


 やってしまった……


 ラバウルはビグゼムのイメージが強すぎて、ソーラーシステムのことが頭から抜け落ちてた。私の中ではソーラーといえば、ソーラレイだったし。



「太陽の光を集約して虫メガネみたいにですか?」


「反射させる点が違うけど、似たようなモノだな」


「ミラーの数を揃えれば、核兵器より性質が悪そうですね」


「一応はグリーンランド条約には抵触しないからねぇ」



 皮肉げな笑みを浮かべながら、シーマ様が言いましたけど、言うことは正論ではあるのです。そう、条約違反ではない。違反ではないのだが、ルールの網の目を掻い潜ったみたいな兵器の使用ではあると思う。


 けれども、



「戦争なんて、ルールがあってないようなものですからね」



 戦争にルールがあること、それ自体が馬鹿らしいと思うのです。なにをやってもいいのが戦争です。ルールを作って戦争なんてするなら、はじめから戦争なんてしなければいいんです。

 勝つ為には、なにをやっても許される。これが戦争なんです。


 もちろん、負けた場合には戦争中の行為に対して、行為の正当さいかんに拘らず報復措置は取られますけど。

 歴史は勝者が作るのだから。敗者には、その権利すら与えられないのが戦争です。


 まったくもって、度し難い愚かな行為だとは思いますけど。



「既に、そのミラーを輸送する船団を何度か襲撃しているのだが、輸送船の数が多いうえに護衛も大量に付いているから、」


「戦果が芳しくなかったと?」



 情報の共有ができてないから、今頃になって、ようやく私たちの耳に入るのだ。


 陸海軍相争い余力をもって米英と戦う。


 本当に、これと似たシチュエーションがイオンでも起こり得るとは…… 本当に笑えない冗談ですよ。

 宇宙攻撃軍も突撃機動軍も、一体全体なにやってんだか。メンツの為にイオンが負けてたら意味ないでしょーが!



「そういうことだ。それでも二割は沈めたらしいがな」


「それで、我々はソーラーシステムの照射を妨害するのが、任務ということですね」


「うむ、全部を破壊するのは無理でも部分的にでも破壊出来れば、その分ラバウルの被害は減るからね」



 それで、私たちシーマ艦隊は宇宙攻撃軍と共同で、ラウム1宙域のソーラーシステムの破壊任務に繰り出したわけなのです。






 SC 179.12.24



 持ってて良かった大型シールド。ミラーが多い日でも安心。



『ミラーを割らせるかよ!』


「私の邪魔をするな!」



 ソーラーシステムを警護しているゲムが無謀にも邪魔をしてきたので、私はゲムに向けてビームマシンガンを一連射した。

 その行動をしつつも、ミラーを割るのは止めない。


 直撃を受けて爆散するゲム。


 勇敢と無謀を履き違えた愚か者めが。

 まあ、心意気だけは認めてあげなくもないけれども。でも、自分の命が大切なら、臆病さがないと生き残れないのです。


 その点について私はどうなんだろう? 自問自答しても答えは出そうにありません。細心の注意は払っているつもりではありますけど。

 "つもり"なだけかも知れませんし。死にたくはありませんが、戦争をしているのですから、命に対しての絶対の保障はありません。


 命が惜しければ戦争なんかに出ないで、ラウム3で大人しく少女として過ごしているのが、正解だったのかも知れませんけれども。

 まあ、考えるのは止めましょう。それよりも、目の前の戦場を生き残ることに集中しなければ。



「そこ、どこを向いている!」



 他のモックスに気を取られていたゲムを撃ち抜く。爆風とゲムの残骸で周囲のミラーが割れる。案外と効率は良いかも知れない。


 雑魚ども、もっと掛かってこい。


 連邦も熱量兵器とは姑息な真似を、といいたいですが、我がイオンは、それ以上の熱量兵器ソーラ・レイ、コロニーレーザーを準備中ですので、文句は言えません。

 既に、シーマ様の出身コロニーである、マルハでは強制疎開が始まっているみたいです。



『鶏冠付きの薄紫だと!? 宇宙の魔女の新型だ、逃げろー!』


「私から逃げるのは正解だけど、ちょっと遅かったみたいだね」



 私に背を向けて逃げるゲムに向けて一連射をかます。逃げる敵を撃つのは趣味じゃないけど、その逃げた敵は、また別の場所で味方に銃を向けるのだ。

 だから私は、躊躇なく引き鉄を弾く。



「16から04へ。ミラーが微調整を始めました!」


「コントロール艦を殺って! ネルソンの中のどれかよ!」



 最初からミラーを割らずに、コントロール艦のみに狙いを絞れば良かったのか? いや、ネルソンの数も多すぎて撃ち漏らす可能性が高いか。

 コントロール艦は区画ごとにいるはずだ。



「16了解しました。しかし、ネルソンも数が多いです」


「クリス大尉ならできるでしょ! 感じるのよ!」



 私には、クリス・アルフォンス大尉みたいな、ネオヒューマンの能力がないから、こういう時は不便だ。私も、なんとなく勘で分かるけど、それは、あくまでも勘だ。

 ネオヒューマンのように人の感情までは読めないのだから。



「ご存知でしたか。分かりました、やってみます」


「下卑た笑みを浮かべているヤツが本命のはずよ!」



 間に合え。



「16から04へ。ビンゴみたいでした」


「04了解と、いいたいけど、まだ制御されているね。潰せたのは一部分のみか? ……あれもか!」



 間に合え、間に合え。


 私はバーニアをフル加速させてネルソンに接近する。Gがベルト越しに肩へと掛かる。地上では完全に失神モノのGだ。178,500kgの推力は伊達ではないのだ。



「墜ちろ!」



 チュドンッ!



 ビームマシンガンの連射で、コントロール艦と思しきネルソンは撃沈した。



「ミラーが!」



 間に合え、間に合え、間に合えー!


 私はビームマシンガンを腰のスカートに引っ掛け、瞬時にビームサーベルに持ち替え、迎撃にくるゲムに向かって、



「私の邪魔をするなぁー!」



 横一閃、ビームサーベルを振りぬいた。


 あっけなく爆散するゲム。その場には私は既にいない、通り過ぎたあとなのだ。

 遅い、遅すぎる。ゲムの改良型とはいえ、所詮はゲムでしかなかったみたいですね。あれが、ゲムコマンドだったのかしら?



『ば、化け物だ! 相手にするな逃げろ!』


「逃げるなら、はじめから出てくるな!」



 立て続けに、6機のゲムを撫で斬りにして残骸に変えて、コントロール艦に接近する。再度ビームマシンガンに持ち替え連射して、ネルソンは轟沈する。

 この子は、イェーガーなのだから、中距離から狙撃しても良かったのかも? そう、思わないこともないが。


 私が、さらにもう一隻のコントロール艦を沈めた時に、ミラーが白い熱を帯び始めた。



「01から各機へ。時間切れだ! ミラーの裏に退避しつつ後退せよ!」


「くっ、連邦のウジ虫どもめ……」



 私は、ラバウルがソーラーシステムの照射で焼かれていくのを見ながら、この戦争が始まってから初めて無力感を覚えた。

 ハヤテがいようといまいと、連邦の物量の恐ろしさの一旦を目の前で見せつけられているのだから。


 私一人の力なんて、たかが知れていると。


 あの言葉を言ったのは誰だったかな? マルガリータさんの婚約者の人だったかな? 生きているのだろうか…… って!

 いまもラバウルで味方が蒸発しているのに、敵に同情するなんて私は馬鹿だ。


 もう、史実やら原作の登場人物やらを考えるのはヤメだ。そんな考えでは、死んでいった味方の兵が浮かばれないし、失礼だ。

 セーラさんもノゾミさんもハイジも敵として会ったのならば、それ即ち敵だ。



「ラ、ラバウルが!」


「ラバウルが焼かれていく……」


「とんだクリスマス・イヴになっちまったねぇ。 各機、周囲の警戒を怠るな!」



 周囲の警戒をしつつも、私はラバウルが焼かれていく光景を目に焼き付けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ