18話 狩人
「ヨシュア少佐、あなた下げチンなの?」
「さ、下げチンとは……?」
「ちょっと小耳に挟んだんだけどね、一部の兵たちには、そう噂されているみたいよ。女を不幸にするのが下げチン野郎なんですって」
「それはまた、誰がそんな根も葉もない噂を。教官殿も真に受けないで下さい」
「女を不幸にするなら、あなたとの付き合い方も考えないとね。ほら、私も一応は女なんだしさ」
「私は、いままで女を不幸にしたことなんてありませんよ。それで、誰が言ったのか分かりますか?」
「私はポ・ギャン少尉から聞いたわ」
「彼ですか。ふむ、今度お礼をしておこう。ふふふっ、フレンチ系にはカエルと蝸牛が丁度良いか」
ポ・ギャン逃げたほうがいいみたいだよ? アステロイドベルトまで逃げるんだ!
「ところで、ヨシュア少佐」
「なんでしょうか?」
「下げチンってなんですか?」
上げマン下げマンの男バージョンですかね? 知ってて聞いている私も性質が悪いのは自覚していますよ?
「教官殿には、まだ早いかと……」
SC 179.12
お元気ですか?
イオン公国のメガアイドルことマリア・アインブルクです。
先月末には、イオン中東方面軍がシャバカタンガを攻撃して、連邦軍シャバカタンガ基地の半分近くを破壊しました。
我が軍も半数近くのモックスが撃破されて撤退を余儀なくされ、最終的にはシャバカタンガ攻略は失敗に終わりました。
ハヤテwithギャンバインがいないのに、ここまで史実をトレースしなくてもいいのに。そう思うのですけど……
しかし、シャバカタンガの地下にある、モックス生産工場を半壊させたので、連邦のモックス生産能力も多少は落ちたことでしょう。
これは、史実にはなかったことのはずです。クロハナには拍手を送りたいですね! パチパチパチ。
まあ、数か月で元通りの水準まで、いや、それ以上の水準にまで復活するのでしょうけど。
1ヶ月や2ヶ月の生産の遅れなんて、連邦にとっては誤差の範囲なんでしょうね。
本当に、国力の差が実感できると嫌になりますよね。
それで、シャバカタンガを発進した連邦艦隊はルナツリーに集結中であります。連邦の次の攻撃目標が、ラバウルの可能性が極めて高いことが判明しました。
宇宙艦隊400隻とか、バカなのアホなの? これだから物量チートってヤツは……
まあ、我がイオンも200隻を揃えたんですけどね。
戦時国債を乱発して、ハイパーインフレが発生しないんでしょうかね? 心配です。統制経済なら大丈夫なのでしょうか?
シャハトさんに期待しましょうか? というか、そんな人はいなかった!
まあ、アドルフ総帥がなんとかするんでしょうけど。彼のIQは240らしいですから。
戦力比は単純に、1対2だと思ったそこのあなた、あまいです。ホットケーキにメイプルシロップを掛けて、その上からさらに、チョコレートを溶かしたのと練乳を掛けたくらいに甘いですよ!
そんなホートケーキは、食べたくはありませんけど。
イオンは、ラバウル、コ・ホコウ・クー、グレナダ、ラウム3などに、戦力を分散させて配置しなけらばならないのです。
それを考えれば戦力比は、1対8になってしまいます。単純計算ですけどね。
いくら、連邦の攻撃目標がラバウルだと分かっていたとしても、他の場所に陽動がないとは言い切れません。そこに戦力を置いてなければ、敵に落とされてしまいかねません。
ですので、精々グレナダと本国から2割か3割程度の増援をラバウルに送ることしかできないのです。
私が大将ならば、7割は増援に送っちゃいますけど。
まあ、連邦もラバウルに全戦力を送ることはないでしょうから、戦力比は、1対3か1対4ぐらいなのかも知れませんが。
これなら案外いける? いけそうに思えなくもないですね。
そんなこんなで、
我がイオンは現在、モックスのOSの書き換えしている最中なのです。ギャンバインの学習型OSにフィードバックしたデータを、他のモックスに移植しているのです。
モックス一機づつに、独自に学習型OSを搭載しているわけではありませんが。これは、下手な動きで上書きするのを防止する為ですかね?
マリア・アインブルクwithギャンバインが、ブン乗り回した記憶をインストールしているのです。
これで、新兵でも自動である程度はベテランの動きができるのです!
私って、なにげに凄くね? 私=イオンのモックスの基本戦闘行動ですよ!
これはもう、ボーナスで1000万$ぐらい貰ってもいい気がしてきました。くれないかな~? くれないんだろうな…… しょぼん。
これが、MOX-06R-2Sの戦闘データだったのなら、さらに優秀な結果が出たんですけれども、それは言わぬが花ですかね?
それはさておき、
私にも遂に、新型が回ってきましたよ!
MOX-14JGs、マッティーニ・イェーガー マリア・アインブルク専用機です!
ギャンバインの学習型OSをコピーしたOSを搭載しています。これで、私の実戦データをフィードバックして戦力の底上げができますね!
次に、一般兵が乗る機体のOSの更新は、このイェーガーでのデータを更新に使えますね。
多少、モルモット気分なのは秘密ですけど。
ギャンバインはお役御免です。というか、乗りたい人もいないのです。まあ、鹵獲機ですし、イオンと操縦系統が違いますし、予備の部品もありませんしね。
データ取りの犠牲になったのだ、ギャンバイン君は。
当初の予定では、私が乗る機体は、MOX-18E、ケンプファーの予定だったのですが、増設プロペラントタンクを設置する場合の塩梅が悪いらしくて、イェーガーになったそうです。
まあ、ケンプファーは強襲型の特殊な局地戦用の機体みたいだし、稼働時間がネックになるから、仕方ないのかな。
でも、ケンプファーも乗ってみたかったなぁ。マッティーニが騎士としたら、ケンプファーはまさしく闘士そのもののフォルム、厳しい武人。
まあ、この子はイェーガー、狩人ですけどね。ふふふ、何人たりとも私の得物からは逃げきれない獲物なのだ!
ちなみに、イェーガーのプログラムは、ハヤテ君が頑張ってくれました! 数字とアルファベットの羅列をイジッているだけなので、イオンに協力しているって、実感が湧かないのがミソですね!
彼曰く、
「夜に寝るときに目を瞑っても、瞼の裏で数字が動いているんですよ。ヘロにも『ハヤテ、ノウハレベル、ミダレテル』って言われてしまいました」
だそうです。
うん、ハヤテは頑張ったね。今度、彼にはご褒美をあげないといけませんね。
落雁じゃ可哀想かな~? うーん、ご褒美は、わ・た・し?
うん、想像したけど、いまは無理。それにまだ私は子供だしね。TS転生の弊害を思い知らされました。
身体は女で、心は? 心はどっちなんだろう……?
そのまえに、私は硬派なギャンバインの主役を目指して、この戦争を戦っていたはずなのだ。硬派なTS戦記とはなんぞ? という突っ込みは受け付けないです。
うん、この問題は戦争が終わるまで先送りにしましょうかね!
そんなこんなで、
MOX-14JGs、マッティーニ・イェーガーのスペックはというと、
ジェネレーター出力 1490kw 推力 178,500kg
武装は、ビームマシンガン、腕部ビームスポットガン×2、ビームサーベル、40mm頭部バルカン、臀部に予備でMMP-80マシンガン
増設プロペラントタンクは4基装備
姿勢制御バーニアも24基付いてます。
盾は? 大型シールドはないんですか? 機動性が落ちてもいいので、盾を下さい! 盾は安心感の保険なんですよ!
ほら、こんな幼気な少女を酷使しているんだから、盾ぐらい装備させてもらっても罰は当たりませんよ? イオンのスーパーアイドルを危険な目に遭わせるんですか?
いざという時には、盾を放棄すれば機動性も戻りますし。
そんな感じで、私が必死に訴えた結果、
大型シールド
オプション装備を勝ち取りました! パチパチパチ。
それにしても、ジェネレーター出力と推力の相関関係は謎です。私の頭では分かりません。まあ、機動性と運動性が良くなったから良しとしましょう!
ビームマシンガン、これは、ビームライフルをズキュンと一発撃った時のビームの長さを、20分割したと考えて下さい。ビームライフルが15発撃てるとしたら、300発分ですね。つまり、ビームライフルの20倍ですよ。20倍!
まあ、これはセミオートで、一発一発チマチマと撃った場合ですけどね。それでも、一連射5発でもビームライフルの4倍の60発は撃てる計算になります。
その分、威力は低くなりますけど、ビームライフルのビーム自体がオーバーキルでしたので、一連射でも十分に威力はあります。
MOX-14F系の110mm速射砲の代わりに、ビームスポットガンが腕部に装備されています。これは接近戦の時にズドンってできそうですね。うふふ。
残念ながら、ギャンバインを参考にしたフィールドモーター駆動は、MOX-17ガリバルディまで持ち越しです。
まあ、イェーガーもマッティーニだしね。仕方ないよね。
マグネットコーティングは、MOX-11アクトゼナですかね? もう既に少数だけれども、この二種類のモックスはグレナダには配備され始めているみたいですね。
MOX-17ガリバルディ、別名は国民モックス。なんだか、壮大な負けフラグ臭がプンプンする愛称なんですけど……
He162ザラマンダー、別名は国民戦闘機フォルクスイェーガー。ナチスドイツの末期戦と、おなじ愛称の付け方なんてギャグでも笑えないよ。
でも、ガリバルディは一般兵向けの量産機の割には、既存のモックスの性能をほぼ全ての面で凌駕している、高性能の機体に仕上がっているという噂です。
私もまだ乗ったことがありませんので、なんともいえませんけど。そのガリバルディが、これからのイオンの主力になることは間違いなさそうですね。
イェーガーに乗り換えたばかりなのに、さらに新しいモックスに目がいっちゃうなんて、私は浮気性なんでしょうかね?
いえ、MOXは浪漫なんですよ。浪漫。
しかし、この子、MOX-14JGs、マッティーニ・イェーガーは良い機体ですね。宇宙空間に特化した機体に仕上げれば、ここまで動けるんですね。
マグネットコーティングなにそれ? 美味しいの食べれるの? こんな感じですよ。
ギャンバインよりも装甲以外の面では全てにおいて、この子の性能の方が上ですよ。もはや、ギャンバインなんて恐るるに足らず!
うふ、うふふふふ。
「地球連邦軍に如何ほどの戦力が残っていようと、それは既に形骸である。敢えて言おう、カスであると!」
いまなら、アドルフ総帥の演説の大言壮語も理解しちゃいますよ。このレベルのモックスは連邦では、5年後でも作れないでしょうね。
「マリア特務大尉、また独り言が漏れていますよ」
「げ! ラーム主任、聞かなかったことにして下さい」
どうやら、また回線が開いたままの状態で興奮して、独り言をしゃべってしまったようです。
「そう言われましても、既にお姉さんの、セシリア殿の額に青筋が……」
「マリア! あとで総統府まで出頭しなさい!」
「なんで、お姉ちゃんが聞いてるのよー!」
なんで、出頭しなくちゃいけないんですか、お姉さま!
「たまには私も視察しますよ」
「ふむ、その台詞は使えるな。今度、演説する時にでも借用させてもらおう」
「げぇ!」
いや、その台詞はあなたがオリジナルですから! とは、口が裂けても言えませんよね……
というのか、なんでアドルフまでいるのよー! まあ、秘書のお姉ちゃんがいれば、アドルフがいるのは当然かぁ。
「マリア、総帥に向かって『げぇ!』はないでしょ! 『げぇ!』は!」
「モックスのテスト中の回線に割り込んでくる、お姉ちゃんたちが悪いんでしょー!」
「ふむ、それもそうだな。マリアは操縦すると人格が変わるみたいだしな」
「私は戦闘狂ではありませんよ。多分だけど……」
アドルフも失礼なヤツだな~。さすがは、オットーの父親ってことだね!
その後に、お姉ちゃんの小言をグチグチと聞かされたのは言うまでもありません。主に、淑女の嗜みは~うんたらかんたらと小一時間。
今月のお小遣いもカットされてしまいました。なぜです!?




