17話 宇宙では自分の立ち位置を見失うのが怖いらしい
「まるでバスケットボールのスコアですね。ボールを棺桶とは、よく言ったものです」
実際のバスケットボールの試合みたいに、90点とか入っているわけじゃありませんけどね。バスケなら相手も85点とか取れちゃいますし。
そんな戦闘があったのなら、両軍の戦力がすぐに枯渇してしまいますよ。
それで、国力に劣っているイオンが回復できないで終了です。
「ムロフシ投げまーす!」
ボールのキャノン砲を掴んでハンマー投げの要領で、ボールを振り回して投擲する。あそこまで、ブンブン振り回したわけではないですけど。
『ひ、ひぃー、目がー!』
クルクルと回りながら後方にいたゲムに当たって、ゲムもろとも爆散しました。
「ムロフシ金メダル確定です!」
これは戦場のストレス解消には丁度いいですね!
「マリア特務大尉、遊んでばかりいないで、ちゃんと仕事して下さい」
「ちゃんと仕事はしていますってば! ちょっと、ふざけただけです」
クリス大尉に窘められてしまった。今度、彼女にも落雁をプレゼントしよう。うん、そうしよう。ネオヒューマンは脳を酷使しそうだからね。
「特務大尉殿の、おふざけで殺られる敵に同情します」
「それは私もルーデル中尉に同感ですね」
「二人ともヒドい!」
クリス大尉とルーデル中尉に呆れられてしまいました。私は、真面目にふざけただけなのに。
といいますか、これでも一応は、真剣に周囲を見てやっているんですよ? ただ、ムロフシごっこができるくらいに、連邦が素人すぎるのが悪いのです!
弾の節約にもなって一石二鳥の優れた戦術だと思うんだけどなぁ。周囲の目には遊んでいるようにしか見えなみたいで残念です。トホホ。
まあ、こんな戦い方は教本にも載っていませんし、仕方ないのかも知れませんけど。
それで、冗談で棺桶っていっているんじゃなくて、本当に棺桶に入ったままお陀仏にしかなってませんから。はっきしいって、ボールよりもサーベルフィッシュの方が危険度でいったら上の気がしますね。
連邦は、なんでボールを量産したんだろう? あれか? 中距離からの一方的な射撃が目的ってことか?
そのコンセプトなら、理解したくないけど棺桶でも十分に役に立つことは立つ。本当に理解したくはないけどね。
つまり、敵に接近されたら悪いけど死ぬ確率が非常に高いけど、ごめんね。てへっ というヤツだ。運が良ければ助かるだろうレベルの代物なのです。
作業用ポッドの生産ラインを流用できて生産性が高いから、取り敢えず作ってみました。これが、正解なのかも知れない。
その取り敢えず作った棺桶で、取り敢えず死んでこいだなんて、連邦兵に同情してしまいそうになります。
それでも、アウトレンジから一方的に攻撃できるメリットは大きい。数さえ揃えればだけれど。
その数を揃えれるのが連邦ということだから、理に適っているのか? 兵の人命を軽視さえすれば。
ボールを粗方片づけたら、ゲムが出張ってきました。連携も戦術もお粗末すぎますね。
というか、ボールを後ろから督戦していた鉄のおじさんの国の政治将校に見えなくもない。その政治将校こと、ゲムがようやく撃ってきましたよ。
お、あれが、ゲムのビームスプレーガンか。
あれでは、ビームコーティングしている機体には、ダメージ与えられそうにありませんね。
まあ、この子にはビームコーティングなんて高級な塗装は施してませんけどね。
マッティーニにはバイタルエリアと盾に、ビームコーティングが施されています。史実では、盾だけだったような? イオンは人命尊重主義なのです。
人命重視のイオン軍に、あなたも就職しませんか? 笑顔が溢れるアットホームな職場です!
昇給年一回、賞与年二回、各種手当あり、戦功に応じて昇進あり、戦功に応じて臨時賞与あり、各種福利厚生あり、退職金あり、有給休暇取得あり。
アットホームな職場って美味しいんですかね? もっと他にアピールするところはないんですか?
それはさておき、
「04から14、16へ。敵のモックスは、威力は弱いがビームを使うから注意しろ!」
「14了解! ギャンバインに似ていますけど、顔が違いますね」
「16了解。数もそこそこいますし、ギャンバインの量産機じゃないですか?」
「ギャンバインの劣化バージョンだろうね。でも、油断は禁物です!」
劣化も劣化、姿を消していたアイドルやタレントを、数年ぶりにテレビで見たよりも劣化していますよ。あれはあれで、恐ろしいモノをみた恐怖を感じますけどね。
特に、二十代後半から三十代に入る前後の劣化は酷いです。
まあ、テレビはスポーツとニュース以外は、ほとんどみないんですが。
は! 今世の私は白人だ。白人の劣化は凄まじいのです…… でも、お姉ちゃんをみていると大丈夫そうですけど。
けど、用心のために、これからはヒアルロン酸とコラーゲンでお手入れしようかな? プラセンタも有効かな?
イザベル・アジャーニみたいなのは、神の祝福を受けている以外のなにものでもないですね!
そうじゃなくて、
『薄紫のゼナ? 宇宙の魔女だ!』
『ば、化け物だ!』
『くるなくるなくるなー』
私はビームライフルを撃って、立て続けに5機のゲムを墜とした。
ターキーシュート美味しいです。
「遅い、遅すぎる。しょせんは劣化ギャンバインか」
ゲムという名前はまだ判明してないから、ポロっと口を滑らさないようにするのに苦労しますね。
遅いというか、完全に棒立ちです。独立戦争記を彷彿させるくらいの棒立ちでした。宇宙なのに直立不動する意味が分かりません。みなさん揃って、地球のN極を上にして立っています。
まあ、宇宙だから足下はないんですけどね。宇宙では地球の大地みたいにはいかないのです。逆さでも斜めでも構わないのですよ?
もっとも、宇宙で自分の立ち位置、機位を見失うのは恐怖でもありますから、常に定めた二点の目標を見失わないようにしようとするから、棒立ちになるのですよね。
その恐怖を感じる気持ちは分からなくもありませんが、柔軟な思考で、モックスを操らないと死は直ぐにでも訪れてきます。
まあ、その恐怖は、私には関係ないことなので、本当は他の人がどう思っているのかまでは斟酌できないのですがね。
『鶏冠の付いた新型だ、こんなの聞いてないぞ!』
『ママ、助けて!』
『ジーザス』
『ア、アマーリエー!』
ん? 変なのが混ざってないかい?
最後の台詞は、大気圏で燃えてしまった若ハゲの人か? いまはまだ学生じゃなかったっけ? 別人のアマーリエさんを呼んだ別人だったのかな?
ルーデル中尉もクリス大尉も、それぞれ2機を撃墜している。残りのゲムは2機のみ。
MOX-14Fs、マッティーニ・シュッズスタフェル、カッコイイです! いいなー、私も欲しいなー。でも、イェーガーやケンプファーも捨てがたいんですよね。
まあ、この子はこの子で扱いやすくて良い機体なんですけどね!
やっぱり、イオンのモックスには漢の浪漫が詰まっているよね! 連邦のモックスなんて、敢えていうならカスですよカス。
「動きがまるで素人だ」
「そうですね。宇宙での操縦に慣れていないみたいです。04どうします、敵の新型を捕獲しますか?」
ハヤテwithギャンバインの戦闘データを、フィードバックした学習型OSを搭載していないから、ゲムの動きが素人でも仕方ないよね。こちらには好都合ですけど。
それでも、スペック的にはMOX-06Fよりも、性能的には上のはずなんだけどね。
もう既に、MOX-06Fも主力の座からは降りていて、ゼナⅡF2、ゼナⅡ改、リックダム、マッティーニとかが主力になっているから、いまさら感は否めませんが。
この程度の機体ならば、捕獲する意味もなさそうだし、残りの2機も血祭りにあげましょうかね。
「こちら04、我々の任務は友軍の救出だから、残りの敵も捕獲せずに撃破するよ」
「16了解しました。敵を撃破します」
残りのゲムはクリス大尉とルーデル中尉に譲って、私は周囲の警戒でもしていますか。
どうやら、シーマ様の方も終わったみたいですね。汚い花火だ。
たまやー
side クリス・アルフォンス
不思議で不気味な子。
私が最初にマリア・アインブルク特務大尉(当時は特務少尉)に感じた感想はソレだった。わずか11歳で、イオンで一番のモックスの乗り手だと言われた時には、
「なんの冗談だ?」そう思って鼻で笑ったのでした。幼い見た目からは、信じられないのは当然だったのです。
その甘い幻想は、模擬戦で木端微塵に吹き飛ばされてしまった。何度となく挑戦しても彼女には勝てないのです。これでも私のモックスの腕は上から
数えた方が早い、正確に言えばイオンでトップ10に入ると自負していたのですが、そのプライドも11歳の少女によって砕かれてしまった。
彼女曰く、
「ヨシュアよりも見込みはあるわね」
でした。
ヨシュア・マルセイユ中尉は、既に雨の海海戦でも活躍したイオンでも一二の腕を争うパイロットだ。その彼よりも見込みがあると言われて、あっけに取られるやら、それでも嬉しいやら、複雑な感情を抱いたものです。
そして、開戦後の彼女の活躍は実力通りに言うまでもなく、当たり前のように、他のモックスパイロットの何人分もの戦果を一人で上げてしまいました。
私には、他人の感情を少し感じることができる不思議な力があります。これが、イオン・クンダイの言っていたネオヒューマンなのかも知れません。
この力は、戦場で一番役に立ちました。敵の動きが読めるからです。もちろん味方の動きもです。
しかし、彼女の動きだけは読めないのです。普段、モックスに乗っていない時の彼女の感情は、ある程度は読めるのですが、これは普通に、みんなも相手の表情を見て出来るともいいますが。
彼女がモックスに乗ってしまうと、それが途端に読めなくなります。他の人の場合は装甲越しにでも感情を読めるのに、彼女の感情は読めないのです。不思議ですよね? まあ、私の力も不思議なのですが。
まるで、機械そのものみたいに感情の流れが見えない、感じられないのです。もちろん、回線を繋いで会話をしている時は読めるのですけど。
これが敵だったらと思った時には、背筋に冷たいものが走りました。
それでいて、彼女自身は敵の動きを完全に読めているのですから、はっきりいってズルいですよね。私の力なんて、ちっぽけなモノだと思い知らされます。
敵として戦場で、彼女には絶対に出会いたくはありません。味方で良かったです。
何が言いたいのか纏まりませんけれども、
たまに、いや、しょっちゅうかな? 可笑しな事を言ったりする不思議な子。今では不気味と思っていた感情は消え失せてしまいました。不思議ですよね。
そんな彼女は、今でも私の大事な同僚です。
side マリア
「04から01へ。敵の排除を完了しました」
「01了解。こっちも終わったから帰還する」
私たちの受け持ちの範囲での友軍の損害は、HLV一隻のみ。他の宙域でも7割は友軍を救出できているみたいです。
これで、あとは資源輸送船団を護衛して帰るだけです。
帰るまでが遠足ですから、気を引き締め直していきましょう!




