16話 静止衛星軌道上
SC 179.11.10
いま私たちがいる場所は、地球静止衛星軌道にほど近い宙域です。
武運拙くドネツクでの戦闘は、ほぼ史実通りにイオンは負けて、ドネツクを放棄することで終わりました。もっとも、連邦軍も相応の出血は強いられましたが。
増援に送ったダム2個大隊が縦横無尽の活躍をしたみたいです。史実よりは善戦したのかな?
しかし、当然ですけど、こちらも無傷では済みません。
青い三連星の一人、マラドナは戦死。ダム2個大隊も半数近くが撃破されて、残った部隊のうちドネツクから宇宙に脱出できたのは、僅かに12機のみでした。
残りのダムは、アフリカやアジアのイオン支配地域へと逃げ込んだみたいです。
まあ、ジブラルタル級やHLVの数が限られているから、全部のモックスを宇宙に逃がすことなんて不可能だしね。ダムを宇宙に戻して、リックダムに改修するよりも、地上で使用した方がメリットもあるから、北アフリカとかで頑張って下さいとしか言えません。
マッティーニがあればリックダムすら陳腐化しますしね。
私はダム系は、あまり好きじゃないですね。テストで乗ったけど、重く感じるんですよダムの動きって。
やっぱり所詮は地上用のダムを、急遽宇宙用に改造しただけなのかなぁ。まあ、地上でのホバーは、また別な話なのかも知れませんけど。
所詮、リックダムはマッティーニまでの繋ぎだしね。
ちなみに、青い三連星の生き残った二人、ダキアとトッシュは宇宙に戻れた組みたいです。ライジングストリームアタックは、どうするんだろ? 二人でやるとマヌケだよね?
それで、オデッサを脱出してきた艦艇の救出の為に、私たちも派遣されたわけです。
マ・カベが、
「イオンは、あと10年は戦える」
とかいった、ドネツクからの資源輸送船団の最終便の護衛と、ギャンバインの外伝の一つである、モックス戦記イゴーグで溺れていたモックスの救助と回収が作戦目的です。
資源輸送船団の護衛とモックスの救助。作戦目標が二つあります。この場合、どちらを優先すればいいのでしょうか?
参謀本部が下した答えは、
「どちらも救出しろ」
でした。おまえらいっぺん死んでこい!
二兎追うものは一兎も得ず。小学生でも知ってる格言ですよ?
一石二鳥ですかそうですか。一挙両得、濡れ手で粟を狙いますか。弘法も筆の誤り、これは違うか。
とにかく、虻蜂取らずにならなければいいのですけど。
どうもイオン軍上層部からは、旧日本軍臭がプンプンするんですよね……
それで、この場合の正解は、モックスの回収を優先するが正解だと思います。正確には、実戦を経験している熟練兵の回収です。優秀なパイロットは一朝一夕にはできないのです。
いくらシミュレーターで訓練できて、実機での訓練時間が短縮できるとはいっても、シミュレーターは所詮シミュレーターでしかないのですから。
実戦に勝る訓練はなし。
モックスは資源と部品と設備があれば簡単に作れますけど、兵を一から作るのには20年は掛かります。 ……これは人間を作る場合でしたね。
兵を養成して実戦で使い物にするにも数年は掛かります。モックスは破壊されても、また作ればいいけど、熟練兵が死ねば補充は容易ではありません。
資源の回収よりも、人的資源の回収です。
まあ、余裕があれば資源輸送船団も救出しましょうかね。それに私たちの艦隊だけが出向いているわけじゃないんだし。
それなら、各々に明確な目標を与えた方が確実なのに、参謀本部ときたら…… 机上の空論に強くても、ね?
攻撃は馬鹿でもできるけど、防衛は馬鹿には務まらないのです。
グチグチいっても始まらないので、さっさと味方を助けに行きますか!
「ケルベロス04より05と06へ。浮いているHLVから脱出してきたモックスをワイヤーに捕まらせろ。周囲の警戒は私がやる」
今回のコールサインは三つ首のわんこ、地獄の門番です。ブラックジョークにしても、溺れている彼らにとっては笑えないジョークだ。
それに、パーソナルカラーの機体が四機もいたらコールサインの意味もない気がするのだけど。
「05了解」
「06了解ー」
溺れている地上用のゼナやデュフやダムを、レイチェル機とエクレア機が捕まえてワイヤーに誘導する。
ワイヤーで曳航するのは各小隊の予備機のコ・パイたちです。
「た、助かった。ありがとう!」
「安心するのは、まだ早いですけど、安心して下さい」
「どっちなんだい、宇宙の蝶さんよ?」
「私たちシーマ艦隊にお任せ下さいってことです! ちゃんとプゾクまで送りますから」
「親衛隊の精鋭なら、安心だわな」
「はい、添乗員付きで、ラウム6、月経由のラウム3行きですよ」
私は地球から上がってきたモブABCと、それぞれに軽口を言い合う。あ、モブAは軽口じゃないか。
なんていうのかな? 保育園の引率の保母さんと園児の関係? それとも、ドナドナされてる牛かな?
そんな光景があちこちで繰り広げられるなか、私の視界の隅にチラリと動く物体が目に入ってきました。
「腐肉漁りがおいでなすったか、04から01へ。棺桶がきました。排除します」
「こちら01、確認した。護衛の各機はヤツらを本当の棺桶に入れてあげな!」
「04了解! でも、棺桶に入れれる死体は木端微塵になりますね」
「それじゃあ、あれがヤツらの棺桶そのものってヤツだねぇ」
「07了解! 敵さんは棺桶に入ったまま、お陀仏させましょうや」
おー、バルバラに殺られる予定のクルトさんが喋りましたよ。そういや、彼ってピグロにも乗っていたんだっけ?
史実では、シーマ艦隊にピグロが配備されてたのか? ピグロなんか乗せたらリリー・マルレーンの予備機のスペース全部なくなるよ。
予備機が身動き取れないだけで、搭載自体はそのままでも可能か? モックスって普段は格納庫の隅に立っているだけだしね。
ジブラルタルにコバンザメピグロはできないのかな?
「クルトは仏教に宗旨変えしたのかい?」
「こちら10了解。01、俺が話した事があって07が興味を持ったみたいですね」
「そういえば、ナカガワは日本人だったな」
「04から護衛各機、おしゃべりもここまでです!」
まあ、お喋りしていても、みんなちゃんと行動しているんだけどね。
「14(ルーデル)了解! ヤツらをヴァルハラへ案内してやります!」
「16(クリス)了解しました。それでは、私は敵の死体を岩に、暗礁に変えましょう」
「みんな今日は饒舌だねぇ」
05小隊からの護衛はメルダースじゃなくてルーデルです。専用機ですしね。ルーデルやったね! ついに台詞が付いたよ。モブ卒業だよ!
そうじゃなくて、私は、わらわらと湧き出た棺桶の群れの中に突撃したのです。少数ですけゲムもいます。
「味方は、やらせないよ!」
バーニアを加速させて、棺桶に接近してビームライフルを一撃。さらに接近して、
「ボールだけにボールのように蹴ってあげる! くらえ、オーバードライブシュート!」
ボールだけにボールのように、蹴り飛ばして、ピンボールかビリヤードのように他のボールに激突して、もろとも粉砕。
うん、駄洒落も冴えてるね! 自画自賛です。
「用途は正しく使わなきゃ!」
「特務大尉殿、それ、サッカーボールと違いますよ?」
ルーデル中尉に突っ込まれてしまった。なぜに?
ビームライフルを節約する為に、マシンガンに持ち替えてセミオートで連射。機動性、運動性が最悪な棺桶相手には、
「目を瞑っていても当てれます!」
「いや、それ、普通は無理でしょ? できるのはマリアだけだよ」
「私には、オーバードライブシュートの意味が分かりませんでした」
「あはは、言葉の綾ですってば」
回線が開いているから、シーマ様たちに私の戯言が聞こえてたみたいです。ちょっと恥ずかしかったですね。クリス・アルフォンスって突っ込み持ちだったの?
「04から01へ。雑魚は私が引き受けますので母艦とヴァスコダガマをお願いします!」
「あいよ、任せれた! 07と10は付いてきな! 13と16は04と共に棺桶を蹂躙しろ!」
「「「「了解!」」」」
こうして、一方的な殺戮が始まった。