13話 ご対面
「ずんぐりむっくりしてる艦だな」
「私は曲線が可愛いと思うけどな。セイレーン04よりルシファー01へ。着艦許可を願う」
「こちらルシファー01、着艦を許可します。マリア様お帰りなさい、大手柄ですね!」
「マリア様?」
「べつに、お姫様ってわけじゃないわよ? あとでまた、いろいろとお話ししましょ?」
ふぅー、無事に帰還できて、リリー・マルレーンも戦場離脱できたし、ギャンバインも捕獲できて良かった良かった。
ロレンツ・ドアン准尉のゼナが、メガ粒子砲で膝から下を吹き飛ばされて大破したけど、本人はピンピンしているから大丈夫でしょう。間一髪だったけどね。
それはそうと、ハヤテを連れてきてしまったことで、完全に原作から脱線してしまったってことだ。これで、私のアドバンテージは無くなってしまったけどね。
だけれど、それを差し引いても、ギャンバインを捕獲したのと、ハヤテを捕らえたのは大きいと思いたい。少なくとも、連邦の白い悪魔と呼ばれるパイロットの誕生は防げたのだから。
ギャンバイン一機の働きで、戦争に勝てるというほど甘いものではないって、誰かがいってたけど、連邦のMOXの性能は、ギャンバイン延いてはハヤテの活躍って大きかったと、私は思うんだよね。
ギャンバインの戦闘データを、フィードバックした学習型OSの存在がなければ、ゲムの動きは洗練されなかったんだから。
あの殺られ役で、雑魚のゲムの動きが洗練されていたとは思えないけどさ。本当に、あの動きでギャンバインの戦闘データをインストールしてたのか?
疑問ではあるけど、あれでもインストールしてあったんだろうね。
逆に考えれば、ハヤテwithギャンバインのデータをインストールされてないゲムの動きは、更に緩慢になるということです。
連邦の他のエースパイロットと言われる面々がギャンバインを操縦しても、ハヤテ以上に乗りこなすことは無理でしょ?
学習型OSが学習不足になるのは、イオンにとって有利になるね。
新兵や戦闘機からの機種転換訓練の時間も延びてくれるかな? それに、学習型OSのアシストが減るから、その分、操縦者自身の技量が問われるのです。
それでも、連邦の物量が脅威なのには変わりないのだけどね。こっちがゼナ一機作る間に、連邦はゲムを最低でも五機は作れそうだもんね。
アドルフ曰く、イオンと地球連邦の国力比は、一対三十とか言ってましたね。だから、ゲム三十機が正解か? さすがにそれはないと信じたいけど、物量チート怖いです。
うん、まさに戦いは数だね! 自分で言ってて虚しくなってきた……
それはさておき、
リリー・マルレーンのモックスデッキに着艦して、ギャンバインから降りてきたハヤテとご対面。
うん、ほぼ想像通りの感じかな。
「初めまして、ハヤテ・フォウ。マリア・アインブルクよ」
「き、君がマリア……」
「うん? もしかして想像していた私と違ったかな?」
ハヤテ君、ボーっとしてますよ? 顔が赤いですよ。もしかして私に惚れたとか? アンタにはハイジがいるでしょ? セーラさんはやらん!
ハイジは良い子やでぇ。彼女は健気で尽くすタイプだよね。ちゃんと一本筋が通っているし。でも、彼女は顔に似合わず薄幸そうなんだよね……
いや、原作のイメージだけで、実際には見たことはないけどさ。
ハヤテには振り向いてもらえないし、マックで妥協したらマックは死んじゃうし、養子にしたバカはデブリに突っ込むし。
イメージだけなら、セーラさんの方が薄幸そうなんだけどね。美人薄命? 違った、これじゃ短命でセーラさんが死んじゃう。
「ああ、僕と同じくらいか、僕より1つか2つ年上だと思ってたよ」
「私は67年生まれの12歳だよ。女の子はおませさんだから、声だけでは間違えても無理はないのかもね」
まあ、前世を含めたら既に40後半に入るしね。ハヤテが年上と間違えるのも仕方ないか。
それに、ハヤテの年頃の男の子は年上の女性に憧れる子が多いしね。マルガリータさんマルガリータさんって慟哭してたもんね。
あと、金髪さんか…… ハヤテ、モゲろ。
それに、その歳で小学生の女の子が好きとかだったら、病気だしね。いや、もっと大人になってからでも病気だけどさ。
ヨシュアとかヨシュアとかヨシュアとかさ。
そう考えれば、ハヤテは十分健全な中学生か高校生の男の子だね。ちょっとマザコンは入ってるみたいだけど、男はみんなマザコンともいうしね。
彼は母性本能をくすぐるタイプなのかな? ハヤテが頼りなく見えて、周囲の女がほっておかないわけだ。ハイジにセーラさんでしょ、ブリジットにチャーミン……
ノゾミさんだって、ハヤテは恋愛では対象外だったみたいだけど世話は焼いてたみたいだし。
クラウディアさんも、敵と分かっていながら、ハヤテみたいな子がほしいなんていってたもんね。その夜はハッスルして、ガルは搾り取られたのかな?
あ! クリス、クリス・アルフォンスもそうだった! 彼女には、このリア充を会わさないようにしなければ!
そうなると、リリィもか? まあ、彼女はどこにいるのか分からないけどさ。インドか? それとも、もう既にヨシュアが身請けしているのかな?
うん、埒が明かないから考えるのは止めよう。
それにしても、コイツ女が途切れたことないんじゃね? 爆発してしまえ!
それはそうと、この身体に生まれ変わってから大分経つけど、精神年齢が下がった気がするなぁ。これが、肉体に魂が引っ張られるってヤツなのかな?
もともとの精神年齢が低いとか、子供っぽいとかは言わせない! がるるる。
「うん、マリアさんは落ち着いてみえるから、僕より3つ下には見えないよ」
「"さん"は、いらないわよ。それで、いろいろと質問されると思うけど、聞かれたことには素直に答えなさい。嘘を吐いたら殴られるわよ?」
「やっぱり殴るんだ。親父にも打たれたことないのに!」
ありゃ? ここで、その台詞がくるんだ。ちょっと新鮮かも。
「素直に話せば殴られないわよ。ううん、私もできるだけ立ち会うから、私が殴らせないわ」
「マリアが僕を庇ってくれるってことなのか?」
「こうみえても、ハヤテを庇うくらいは私にでもできますから。でも、正直に話せばだからね? 嘘を吐いたら庇いきれないわよ」
「嘘か嘘じゃないかなんて、どう判断するんだよ?」
「その道のプロに掛かれば、簡単に分かるみたいよ。ハヤテは民間人なんだし、軍事機密なんて知らないのだから、心配しなくても大丈夫よ」
まあ、ギャンバイン、ソレ自体が軍事機密の塊ではあるのだけどね。そのギャンバインを操縦していたのが、民間人の少年。諜報部はどう判断するのかな?
ハヤテにネオヒューマンの素質があるって見抜かれる可能性は極めて高いか? でも、アメリアの手に渡すのは可哀想だな。
捕らえたのが私だから、私からお姉ちゃんに手を回してもらって、親衛隊預かりにしてもらうのがベストかな?
捕まえて、あとは知りません、諜報部に任せますでは、さすがに薄情だしね。
ハヤテの恨みを買うわけには行かないのは、私しか知らない秘密です。その計算を抜きにしても、リア充のハヤテを守ってあげないと、私が人間として終わる気がする。
もう既に、終わっている気がしないでもないけど。それに、リア充は関係なかった。
でも、私の立場では民間人の少年一人すら、お姉ちゃんに頼らないと保護できないんだよね。私も保護される立場の人間なのだから。
その、保護される立場の幼気な少女の割には、扱き使われている気がしないでもないのは、なぜですかね?
「それはそうと、ハヤテはヘロを持っていたよね?」
「持っていたけど、ホワイトアークに置いてきぼりだよ」
「それなら、私のヘロ一つあげるから、私のヘロも改造してくれるかな?」
「マリアはヘロを二つ持っているの?」
「三つ持っているよ。布教用と観賞用と実用とね!」
「そ、そう。布教用と観賞用の意味がいまいち分かんないけど、僕に出来る事だから、部品とPCを手配してくれれば改造は出来るよ」
「それは良かった。ラウム3に着いたら、お願いするね」
ハヤテみたいな子は、自分の好きなことに没頭させた方が精神の安定には良いはずだしね! それに、ハヤテの組んだプログラムは応用できるはずなのです。
天才少年でネオヒューマンって、ハヤテはどんだけチートなのやら。天才的な頭脳は、さすがはギャンバインを開発したアダム・フォウの息子ってことかしら?
「マリアちゃん、この人が連邦の新型のパイロットですか?」
「ええ、そうよ。ハヤテ・フォウ君。ハヤテ、こちらは整備主任のビアンカ・カービン技術中尉よ。ふふ、あなたたちは多分、話が合うはずだよ」
「よ、よろしくお願いします?」
「こ、こちらこそ?」
二人とも、なぜゆえ疑問系なのですかね?
「マリア特務大尉殿、まだ尋問も終わっていませんので、敵と仲良くするのは如何なものかと?」
「ごめんなさい。でも、もう彼は敵じゃないわよ」
士官の一人に窘められてしまった。正論だから反論しづらいではないか。この、しゃちほこばった杓子定規な士官には、あとで落雁をプレゼントしてあげた。
うん、良いことをしたあとは気分もいいね! 一日一善、昔の人は良いことを言いましたね。