12話 お肌の触れ合い
「セン、セン・ゴシキだ」
「ぶぅーーーっ!!」
あるぇー? なんで、センがギャンバインに乗っているのよ!? ハヤテは? ハヤテはどこに行ったのよ?
どうしてこうなった?
「ブーはないだろ、ブーは。一応、日本の由緒ある名前みたいなんだぜ」
「ハヤテじゃないの?」
「ハヤテ? ああ、アイツなら多分、ギャンキャノンに乗っていたはずだぜ。君はハヤテを知っているのかい?」
「君なんて他人行儀じゃなくて、マリアでいいわよ。知っているといえば知ってるのかな? ラウム7で機械いじりが好きで有名じゃないの?」
「イオンのスパイが入ってたのか。確かにその筋では有名かもね。それとギャンバインに乗っていたのを結び付けるのは短絡的じゃないの? アイツも俺も民間人だぜ?」
スパイは私自身の記憶だけれどもね。それは最重要機密ってヤツです。
「ほら、我が軍の攻撃で正規兵は壊滅して、木馬に民間人が多数乗船したのは把握してたしね。動きが素人丸出しだし、操縦しているなら機械に強いハヤテかなって?」
「なるほど、確かに最初はアイツがこれ、ギャンバインって名前だけど、これを操縦していたのは正解だぜ。コロニー内でゼナを二機倒したのもアイツだしな」
「その新型はギャンバインっていうのね。それでなんで、センが操縦してたの?」
ギャンバイン知ってますとも、ええ。
「ハヤテがプライドってヤツと喧嘩して、ハヤテの代わりに作業用ポッドの免許を持っていた俺が乗せられたってわけさ。それで、このざまだ」
「ふふ、セン。あなたは運が良かったのかも知れないわね」
「まあ、君に殺されなかったのは運が良かったのかもね。死に掛けたけどさ」
「はじめから殺しはしない予定だったのよ? ギャンバインだっけ? この新型を捕獲するのが目的なんだから」
「そっか、それで、これから俺はどうなるんだ?」
「あなた民間人よね?」
「ああ、そうだけど?」
「ふふふ、民間人にはね、戦時条約が適用されないのよ」
「もっと分かりやすく説明してくれよ」
「軍に所属する兵士は捕虜になっても、その立場が保障されるのよ。でも、民間人にはその保障が適用されないから、あんなことやこんなこととか、ね?」
「マジかよ!」
「ふふ、冗談よ。センは私に捕まって本当に良かったと思うわよ? 私じゃなかったら、本当に拷問された可能性もあるのよ。冗談じゃなくてね」
「イオンはそこまでするのかよ……」
「あら、私が連邦に捕まったのなら、私に兵士の立場があっても、犯されると思うわよ?」
「連邦軍がそこまですると思うのか?」
「こんなに可愛い乙女を見て、それが敵なら襲わない方がどうかしているわよ。まあ、それはともかく、イオンは少しばかりやり過ぎたしね」
「自分で可愛い乙女って言っちゃたよ…… それに少しばかりじゃなくて、イオンはやり過ぎだ!」
「条約なんて、ただの紙切れにすぎないのよ。それに、やり過ぎは自覚しているわよ? でもね、連邦が宇宙移民を虐めた結果が、これなのも事実なのよ」
「それは言い訳だろ!」
「ええ、言い訳ですよ。人はエクスキューズをしないで生きれるほど強くはないと思いますし。あなたは言い訳をしないで、いままで生きてこられたの?」
「それは詭弁だ」
「ええ、詭弁だと思いますよ。ところで、ハイジはちゃんと木馬に乗れたの?」
「木馬? ああ、ホワイトアークの事か。ちゃんと乗ってるよ」
「そう、良かったわ」
「でもなんで、ハイジの事まで知っているんだ、君は?」
「あら、あなたの幼馴染でしょ?」
「それはそうだけど…… って!?」
「嘘を吐くのは良くないわよ。ハヤテ・フォウ?」
「な、なんで分かったんだ?」
「いま、ハヤテが自分でバラしたようなものでしょ? 危うく騙されるとこだったよハヤテ君」
グラマスのゼナを、センが簡単に墜とせるとは思わなかったので、カマを掛けてみたけど、ものの見事に引っ掛かってくれましたね!
まあ、ギャンバインから降りて顔を見れば分かるんだけどね。赤毛の天然パーマだったら、センのわけないしね。
「誘導尋問に引っ掛かったのか、僕は……」
「自分がハヤテなのは否定しないのね」
「もう君には僕の事バレているじゃん!」
「一人称が"僕"の方がハヤテには相応しいわね」
「子供のクセに僕を馬鹿にして!」
「馬鹿にはしてないわよ。背伸びしてない等身大のハヤテの"僕"って私は好きだけどな」
「からかわないで下さいよ、マリアさん」
「ふふ、初めて名前で呼んでくれたね。あなたとならイオンも連邦も関係なく友達になれそうだわ」
ハヤテを籠絡して飼い馴らさないと、こっちが将来的にヤバいですからね! でも、もう捕虜みたいなもんだから、飼い殺しでもいいのかな?
「イオンも連邦も関係なく……?」
「そうでしょ? こんなクソったれな戦争は続いても、精々あと一年程度で終わると思うの。そしたら、」
「そしたら?」
「ううん、戦争が終わるっていっても、イオンの勝利で終わる未来が見えなくてね……」
「イオンが負ける? いま宇宙を支配しているのがイオンなのに?」
「いくら宇宙の大半を支配してもダメなのよ」
「それは、また、なんで?」
「イオンの人口は精々5億しかいないのよ」
「あ……」
「ふふ、分かった? ハヤテは賢いね」
「また僕を子供扱いした! 君だって子供のクセに……」
「ごめんごめん、そうじゃなくて、イオンの人口を言っただけで、理解できたのは単純に凄いって褒めているのよ」
「そりゃあ、普通分かるだろ。国力の問題だろ?」
「それが分からない人が戦争を始めたと言ったらどうする? いや、分かってはいたけど戦争をせざるを得なかったが正解かな?」
「分かっていたけど戦争を始めるなんて、なんて無謀なんだ」
「それは多分ね、イオン共和国そしてイオン公国の生い立ちからして問題があったのかも知れないね」
「国の生い立ち?」
「そうよ、話せば長くなるわね。それはそうと、私の母艦に着くわよ。ハヤテ、リリー・マルレーンへようこそ!」
サブタイに偽りなし! 接触回線だから仕方ないよね。