11話 マリアVSギャンバイン
SC 179.09.18
宇宙戦士ギャンバイン 1話 ギャンバイン大地に立てなかった ~完~
そうなると思っていた時期が私にもありました。
……どうしてこうなった?
あ、ありのまま、いま起こっていることを話すぜ! 私たちは木馬を追い詰めていたと思ったら、いつの間にか追い詰められていた。
な、なにを言っているのか分からないと思うが、私もなんでこうなったのか分からないわ……
頭が破裂しそうで、どうにかなりそうだよ…… 催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてない。
もっと恐ろしいものの片鱗を、現在進行形で味わっているぜ……
つまり、どういうことかといいますと、
なんで、ルナツリーから艦隊が出てくるのよー! 史実では、あんたたち引き籠もっていたじゃないの!
現在、私たちリリー・マルレーンは支援任務終了後に補給を受けて、シーマ艦隊から分離して単独で先行してラウム7宙域にきています。
ちなみに、補給の関係でムサシ級の四隻は連れてこれませんでした。みんな真面目に支援任務しすぎですね。
本命はラウム7だったのにとは、ボロが出そうなので言えませんけど。
そして、ルナツーから出てきた、ホワイトアーク救援の艦隊から攻撃を受けているのです。
遡ること30分前~
sideホワイトアーク
「また攻撃のようです」
「オペレーター、敵は?」
「接近する物体が二つあります。モックスのようです」
「なんだ、ゼナか?」
「一機のゼナは通常よりも、三割増しのスピードで接近して来ます!」
「ヨ、ヨシュアだ! あ、赤い流星だ!」
「は? 艦長、何か?」
「ドナウ戦役で五隻の戦艦が、ヨシュア一人の為に撃破された。に、逃げろ!」
「つ、続いて右後方からも多数接近してきます! こちらは、さらに速いです! 最大望遠出ます!」
「薄紫色のゼナだと!?」
「う、宇宙の魔女だ! ディアソン提督の艦隊がヤツの小隊だけで壊滅した。ドナウでも撹乱された後方は半壊した。に、逃げろー!」
「さらに多数の艦艇らしき物体も確認! こ、これは援軍です! ルナツリーからの援軍です!」
「ギャンバインを呼び戻せ!」
「無理です! ゼナと戦闘中です!」
sideマリア
「ふっ、見せてもらおうか、連邦のモックスの性能とやらを」
「教官殿には、私の独り言が聞こえていたのですか?」
「あら、久しぶりですね。ヨシュア少佐殿。立派に出世して、私も指導した甲斐がありましたね」
「お戯れを。教官殿こそ、特務大尉殿ではありませんか」
「ふふ、独り言は聞こえてないけど、やっぱりヨシュア少佐も言ってたんだ。誰だって気になるでしょ? 連邦の新型の性能は」
「誰もが気になるのは確かですな。てっきり、私の独り言が聞こえていたのかと焦りました」
独り言が聞こえてないのは確かですよ。独り言はね。でも、ちゃんとトレースしているんだ。ちょっと感動かも。
「独り言をオープンチャンネルで聞かれたら恥ずかしいよね」
「それは確かに。教官殿、敵はゼナマシンガンの直撃にも耐える装甲と、戦艦並のビーム砲を使いますので、気をつけて下さい」
「ゼナが爆散したところを見ていたよ。でも、撃てる回数が限られているのは、我が軍の試作ビームライフルと同じはずでしょ?」
我がイオンも、連邦に遅れること2か月、この前ようやくエネルギーCAP技術を確立して、ビーム兵器の小型化に成功したのです。
まだ、不具合が出ているみたいで、量産化は来月以降にずれ込む予定みたいですが。
それで、ギャンバイン大地に立つ。これには間に合わなくて、既にギーンとコットンのゼナは殺られていて、先ほどグラマスのゼナも、ギャンバインのビームライフルに貫かれて撃墜された。
一足遅れてしまいましたけど、私たちも支援任務から継続しての行動だから補給が必要だったので、こればかりは仕方ありません。リリー・マルレーンだけでも、間に合って良かったと思いましょう。
「なるほど」
「私は連邦の新型とじゃれてみるけど、ヨシュア少佐あなたはどうする? 一度後退しても文句は言わないわよ」
「では、マシンガンの残弾が僅かですので後退させてもらいます」
「貸してあげようか? あー、ごめん、そっちは120mmだったね。小口径でも90mmの方が性能いいのに、まだそのオンボロ使ってるんだ」
性能の良い装備は親衛隊に優先配備されて、まだ、SSP-80は一般の軍にはあまり回ってないみたいですね。縦割り組織の弊害なのかも知れないけど。
「そういうことです。お気持ちだけ頂いておきます。イオンは貧乏ですから仕方ありませんが、教官殿からも一言言ってやって下さい」
「多分無理でしょ、私は親衛隊であなたは宇宙攻撃軍。所属も違うし子供の戯言と一蹴されるのがオチだわ」
「正しい意見に大人も子供も所属も関係と思いたいものですな。それでは御武運を!」
そう言ってヨシュアは、へんちくりん頭のキンメルに後退して行った。あれ? 史実でもそうだったっけ? もう既に昔のこと過ぎて記憶が曖昧だなぁ。
でも、もう史実は関係ない。私がギャンバインだ! 私が、私の歴史を作るのです! ハヤテよさらば!
「04より05と06へ。敵は木馬に後退しようとしているが逃がすな! 05は魚もどきを殺れ! 06は援護を!」
「05了解!」
「06了解ー!」
ちなみに、シーマ様たちは木馬に向かっています。できれば拿捕したいですね。セーラさんクンカクンカしてみたいし。
「ふふっ、モックスの性能の差が、戦力の決定的な差ではないということを、教えて差し上げます!」
遠目から、ヨシュアのゼナとの戦闘をチラっと見れたけど、動きがド素人だったよハヤテ君。まあ、この時点で、ド素人なのは当たり前なのだけどね。
これから、僅か1か月か2か月の短期間で、連邦の白い悪魔なんて呼ばれるようになるとは、信じられないくらいのド素人振りです。
逆にいえば、僅かな期間でエースパイロット以上の化け物になるともいうのだが。ネオヒューマンって怖いですね。
それはさておき、私の腕とこの子の性能で殺れるかな?
まずは、逃げに入るギャンバインに対して、私はバーニアをフルに加速させて接近する。どうやら、加速性能はMOX-06R-2Sの方が上みたいですね。この子って案外凄いのかも。
それで、ギャンバインの後退先に牽制の射撃を加えて、逃げ道を塞いで誘導して、さらに接近する。
ふふふ、いまのハヤテなら怖くはないですね。鴨ですよ!
あ、コアセプターが墜ちた。乗っていたのは、リョウだったっけ? 南無三。
でも、死ぬのが1か月くらい早まっただけだから、べつにいいよね? 彼には思い入れなかったし、敵なんだし。
不謹慎でごめんなさい。
「05から04へ。魚の排除完了」
「04了解。できれば敵の新型を捕まえたい。新型と木馬との間を遮断しろ。木馬からのビーム砲に注意しろ」
まあ、木馬からビームはこないと思うけどね。あっちはあっちでシーマ様にボコられる寸前だし。
「05了解」
『リョ、リョウさん!』
ほう? コアセプターが墜ちたのが目に入りましたか。ド素人のこの時点ですら、視野が広かったんだ。というか、ハヤテ君、オープンチャンネルになってるよ。
ギャンバインからビームライフルが飛んできたけど、二発で打ち止めだったみたいですね。ヨシュアとの戦闘で撃ち過ぎたのでしょう。
そして、私はギャンバイン目掛けてSSP-80、90mmマシンガンを連射した。
しかし、さすがは、ルナチタンなのかギャンバリウム合金なのか知らないけれど、硬いです。表面が多少は凹みましたけど、それだけです。
120mmよりは効いてる感じはするのですがね。まあ、メインカメラは壊しましたので、それで良しとしましょうかね。壊れたよね?
ハヤテが怯んだ隙に、接近してチャンバラゾーンに入る。
私はヒートサーベルを振り下ろしながら、
「怯えろ! 竦め! モックスの性能を活かせぬまま死んでゆけ!」
『く、くるな、くるな、くるなー!』
本当に殺しはしませんよ? 捕まえる予定ですから。
振り下ろしたヒートサーベルが、ギャンバインの右腕を間接から切断する。
『ひぃ!』
「脆い脆すぎる。鎧袖一触とはこのことか」
いくらギャンバインとはいえ、ヒートサーベルで間接を狙ったら一刀両断できるのね。
本当の意味での返す刀で、今度は下から上へとヒートサーベルを振り上げて左腕も切断。
これでギャンバインはあっけなく無力化した。
チョロかった。あっけなさすぎましたよ。覚醒する前のハヤテだったのが大きいのかも知れないけどさ。
戦闘前は、ギャンバインのネームバリューに気後れしすぎていたのかしら?
うーん、なんだか欲求不満です。もっと、こうなんていうのかな、ゾクゾクすると思っていたんだけどなぁ。
まあ、楽に倒せたんだから、良しとしますか! わざわざ苦労して倒すよりはマシだしね。
「04から05、06へ。敵の新型を無力化した。これより捕獲して連行する。05は切断した新型の腕を回収してちょうだい。06はビームライフルをお願い」
「05了解しました」
「06了解ー!」
「っ! 散開しろ!」
「きゃあ!」
私はゾワっとした感じがして咄嗟に散開を命じた。その直後に、エクレア機が寸前までいた場所を戦艦のメガ粒子砲が通り過ぎて行った。
艦砲だと? ラウム7近辺に他の連邦大型艦がいたのか? いや、これは、
「リリー・マルレーンから撤退信号です。敵の援軍がきました! ルナツリーからです!」
「ルナツリーからだと!」
そして、冒頭の叫びとなったわけなのです。
「01から04へ。カッセルから撤退信号だ。ルナツリーから敵の増援だ! 撤退するよ!」
「こちら04、こっちでも確認しました! 05、06撤退を優先する! 06機体の損傷は?」
シーマ様から撤退命令が出ました。幸いにも、エクレア機は外見上は五体満足に見えます。表面は焼かれている部分があるから、パーツ交換は必要かな。
「なんとか大丈夫です!」
「こちら05、敵のライフルだけ回収できました」
「レイチェル上出来よ! 連邦のパイロット聞こえているか? 聞こえていたなら返事をしろ!」
私は両腕が損傷したギャンバインに後ろから抱き付いて、羽交い絞めにして"お肌の触れ合い会話"で、ギャンバインのパイロットに話しかけた。
『こ、子供の声? 女の子?』
「声からしたら自分も似たようなものでしょ! 味方のビームで死にたくなかったら暴れるんじゃないよ!」
『あ、ああ、わかった・・・』
脅したら、あっさりと大人しくなったあたりは、まだまだ未熟ってことだね。まあ、数時間前まではただの民間人の少年だしね。というか、いまも民間人か?
私はギャンバインを抱えたまま、艦砲射撃の中を掻い潜りながら、リリー・マルレーン目指して駆け抜ける。
リリー・マルレーンは回避行動中で無事だ。さすがはカッセル、落ち着いているね。
これでガイドビーコンさえ出さなければ大丈夫だろう。
「04より05と06へ。メガ粒子砲も当たらなければ、どうということはない。慌てずに落ち着いて対処しなさい」
「05了解!」
「06了解しましたけど、怖いです」
「エクレア中尉、装甲越しコクピット越しに、宇宙を、敵意を感じるんだ」
「な、なんとかやってみます」
「大丈夫、エクレアならできるわ」
「おだてないで下さい」
ん? 似たようなやり取りを、どっかで前に耳にしたような。デジャヴ感がするのですが……
『凄い、これがエースといわれるパイロットの技量なのか。流石は宇宙の魔女だ』
「ずいぶん余裕があるのね? 技量もなにも、ただ飛んでるだけでしょ。それと、魔女とは失礼ね。こうみえても、宇宙の蝶って呼ばれているのに」
ただ飛んでいるだけなのに、なぜだか尊敬されてしまったみたいです。死にたくないから直撃コースのは避けたけどさ。
『余裕はないけど、抱かかえられてるだけだし。蝶っていうより連邦では魔女以外には、アンタは毒蛾とか死神とかの呼び名もあったぜ』
「そう、酷い言われようね。あなた名前は? 私はマリア・アインブルク。それと、オープンチャンネル切りなさい。全部周りに聞こえていたわよ」
「うん? スイッチはこれか?」
「そそ、これで外には漏れないね。あなたの叫び声は丸聞こえだったのよ? それで名前はなんていうのかな?」
これで、お肌の触れ合い会話、接触回線で話している私とハヤテ以外には会話は聞かれない。さて、二人だけの時間に、いろいろと聞いてみようかな?
「情けない声が漏れていたのか…… ああ、名前ね」
まあ、名前は聞かなくても知っているんですけどね。
「セン、セン・ゴシキだ」