8話 羊の皮を被ったナニか
SC 179.06
お元気ですか?
イオン公国のスーパーアイドルことマリア・アインブルクです。
私は現在、宇宙空間にいます。
なにをしているのかって?
MOXのテストをしているのですよ。新型ですよ新型!
「ゼナとは違うのだよ! ゼナとは!」
「いや、特務大尉。一応それゼナですから」
まあ、ゼナなんですけどね。てへっ
いま私が乗ってテストしている機体は、MOX-06R-2S。という機体です。
ドナウの戦いから5か月。いまは6月です。あれから、いろいろなことがありました。
まずは、ディアソン艦隊を壊滅させたのとドナウ戦役での功績により、私は二階級特進して特務大尉になりました。
もちろん、シーマ艦隊のみんなも昇進していますよ。残念ながら、シーマ様は二階級特進ならず中佐です。その前の少佐への昇進から、そんなに日が経ってなかったのが影響したみたいですね。
もっとも、シーマ様自身はそれで納得しているみたいなので、私がとやかく言える問題でもないのですけどね。ほかに、コカッセルは大尉に昇進。
えー、面倒なので二階級特進した人だけ抜粋すると、
エクレア・ガトウィック中尉 ティアンムの旗艦撃沈のご褒美ですね。
ルーデル中尉 二回の戦闘でアムンゼン×2 ヴァスコダガマ×3の戦果で特進。
クリス・アルフォンス大尉 おなじくアムンゼン×3 ヴァスコダガマ×3の戦果で特進。
この三名が特進組です。この三人に共通する事は、アムンゼン級戦艦の撃沈ですね。やっぱり、アムンゼンのネームバリューは大きいみたいですした。
クリス・アルフォンスは、流石にネオヒューマンってヤツですかね? ルーデルも名前負けしてませんし。というか、ルーデルって中身も、あの魔王ルーデルの生まれ変わりだったりして?
モブのはずなのに、ネオヒューマンと戦績がほぼ互角だなんて信じられません。まさかね?
エクレア中尉と仲が良い、06小隊のアリス・クローゼ少尉なんかは、
「ドナウの時に私もバズーカ持っていれば、特進できたのに」
なんて言って悔しがってました。まあ、確かにそうかも知れませんけど、アリス少尉の所属する06小隊では、クリス大尉の方が腕が良いので、こればかりは仕方ありませんよね。
それに、この特進組の共通点は、もう一つあります。一週間戦争の時点で、既にアムンゼンを撃沈していた点です。
参謀本部なのか人事局なのか知りませんけど、恐らくドナウよりも、ディアソン艦隊を壊滅させた時の戦功を重く受け止めたみたいな気がします。
だから、ドナウでバズーカを持っていても、アリス少尉の特進は無かったのかも知れません。彼女の一週間戦争での戦績は、ヴァスコダガマ級巡洋艦を二隻撃沈でしたから。
まあ、アムンゼンを二隻撃沈していれば、また話は別だったのかも知れませんけど。もっともそれは、タラレバですよね。
私の特進は、なんでかだって? イオンは独裁国家だから、ほら、身内贔屓みたいなモノじゃないかな?
ちなみに、ドナウでの私の戦績はネルソン撃沈×3とサーベルフィッシュ等×38みたいです。腹の中の魚は別ですよ?
そりゃ、敵も危険を感じて私から逃げる訳だわ。
それにしても、タラのレバーは不味そうです……
あと、私だけ即席教育で士官の勉強をさせられたりもしています。これはいまも、絶賛継続中なんですよね。頭がパンクしそうです。
私の頭の容量は、128Mしかないのですから、詰め込んでもフリーズしますから!
その合い間には、士官学校の生徒たちにモックスの操縦を指導したり、参謀本部で戦術面からの意見を言わされたり、教導大隊に出向いて八つ当たりしたり、
イオニック社とスィマッド社の技術者と意見交換したり、パーティーに出席して引き攣った愛想笑い浮かべたり、オットーにスカートを捲られたり、再度、教導大隊に出向いて八つ当たりしたり。
その合い間に、本業の小学校に行っている私って、多分、いや、世界で一番忙しい小学生だと自負しています。嬉しくともなんともありませんが。
どうしてこうなった?
全部、戦争が悪いんや! アドルフのバカー!
それ以外にも、ドナウでの戦闘で捕虜にした連邦軍の将軍である、ラビルがお約束通りに脱走したりもしましたね。一応、お姉ちゃんにはそれとなく注意するように言ったんだけどなぁ。
まさか、連邦の特殊工作員が一度失敗したのに、二度目を仕掛けてくるとまでは予想してませんでした。
一度撃退したって聞いた時には、これでラビルの「イオンに兵なし」演説を潰せたと喜んだのが、ぬか喜びになるとは。これが、原作への回帰、歴足の修正力なのでしょうか?
それとも、一度目は囮で、安心した所で二度目の仕掛けという、初めから二段構えの作戦だったのかな?
原作なのかifなのか知らないけど、グスタフ公王が関与しているって説もあるけど、案外本当なのかも知れません。
といいいますか、ギャンバインの世界はパラレルワールドが多すぎて、なにを参考にすれば良いのか迷うんだよね。ここも、そのパラレルワールドの一つみたいですしね。
前に、ディアソン提督が戦死した時に、原作の筋書きで考えるのは止めた方がいいって決めたのに、いまだに私は原作に引きずられているなぁ。
原作を知っているのは便利な半面、邪魔な気もするのですよ。現に、ラビルが脱走するのを知っていたのに防げなかったんだし。原作に頼っちゃうのは悪い癖ですね。
私が子供じゃなくて権力のある大人だったなら、ラビルは捕虜にしないで殺したんだけどね。
ドナウで独断専行して、ラビルの旗艦であったアナトリアを沈めておけばよかったと後悔しちゃいます。
タラレバばかり出てきちゃうよ。はぁ……
こんな調子では、そのうち手痛いしっぺ返しがきそうで、下手に中途半端に知識があるのって、思わぬところで足元をすくわれかねなくて怖いです。
もう既に、ラビルの件で、足元をすくわれてるのかも知れないのですがね!
ええい! 私は、神(原作)なんかには、負けない!
そして、クソったれな戦争屋のラビルのちっぽけなプライドの為に、戦争は継続することになったのであります。グリーンランド条約も、多分史実と同じ内容で締結されたみたいなのです。
戦争が継続されたことによって、我がイオン公国は、地球侵攻作戦を発動して、ウクライナを中心とした東欧や中欧とかを占領。北米にも降下して、カルフォルニアやニューヨークも占領。
その他の地域も、多分史実通りには占領が出来た感じかな?
そこで、問題が発生。補給線が伸びきって兵站がカツカツになり、これ以上は占領地を広げられなくて戦線が膠着って……
もしかしなくても、これも史実通りなのか? なんだか、史実のドイツ軍や日本軍みたいになっているんですけど。
勝っているのに、まるで勝っている気がしないのが現状です。
それで、ラビルのクソったれの所為で、戦争が長期するのが確定したので、宇宙での戦力強化の為に、MOX-06Rの開発を始めたのです。
まあ、プランは元々あったみたいですけど。兵器でも機械でもそうですけど、一度開発に成功したら、次はもっと性能の良い物を作ろうってなりますから。
技術は日進月歩です。それに、現在は戦争中ですから、平時の数倍から数十倍の速さで技術革新が進みます。誰も負ける為に戦争をする人はいませんしね。
勝つ為に技術者も必死なんですよね。本当に彼らに足を向けて寝られません。
ラーム主任とビアンカ技術中尉に今度お礼に落雁一袋あげよう。うん、そうしよう。 脳を使うと甘い物が欲しくなるっていうしね。
そして、いま私が乗っている機体、MOX-06R-2S。正式名称は、"高機動型ゼナⅡ後期型マリア・アインブルク専用機"なのです!
ワンオフですよ! ワンオフ!
まあ、こんな高性能のワンオフ機を作るなら、リックダムを10機でも余分に作れとも言いたくもなりますけど、ってリックダムはスィマッドだから関係ないのでしたか。
それに、連邦の白い悪魔が出てきたら、リックダム12機が、3分で全滅するんだっけ? ネオヒューマンとワンオフ機の組み合わせって、凶悪を通り越して最悪ですよね。
そう考えたら、ワンオフ機も捨てたものでもないってことだね? 当然ですが、パイロットの腕も必要だけど、私ならば、ゲムが10機出てきても勝てるでしょ? 多分だけどさ。
ギャンバインが出てきたらどうするのかって? 乗っているのがギャンバイン主人公である、ハヤテなら当然ですけど逃げますよ? まだ私も死にたくなんてありませんしね。
敵前逃亡ですって? ふふっ、昔の人は良い言葉を残してくれてるのです!
「当初の目的をほぼ達成せり、よって戦略的に転進する」
ドヤっ!
これを戦場に当て嵌めてみますと、
「当初の任務をほぼ完了。よって戦術的に転進する」
こうなります。
まあ、ここは正直に、「戦術的に後退する」と言っても大丈夫ですね。敵前逃亡にはなりません。
ここでミソなのは、「当初の任務を"ほぼ"完了」これの、"ほぼ"なのです。
いや~ファジーな表現って素敵ですよね。大本営は良いことを言いましたね!
ギャンバインに乗ったハヤテなんて、推進剤が切れるまで無視するのが一番だと思うのです。先にこっちが切れたらシャレになんないけどさ……
っと、話が逸れましたね。
開発主任のエリオット・ラーム技術中佐が嬉々として、ながーくお喋り (本当に長かったのでラーム主任の台詞は粛清されました) して教えてくれた、MOX-06R-2S、この機体のスペックはというと、
ジェネレーター出力が従来から約4割増しの1390kw。ビームライフルは一応は試作品が使えるみたいですけど、小型化待ちですね。あんな大きいのはいらん。
推力は、なんでか知らないけど、1割ちょっとの微増で57,700kg。スラスターの数を増やさないと、推力を増やすのは現時点では技術的に厳しいのかな?
スペック厨の私にとっては、カタログスペックは大事なのです! うん、良いことを言ったな私は。
増設プロペラントタンクは4基。これで、稼働時間の短さも解消です。
それに、私専用にチューンアップしてあるから、運動性は抜群です。これは外観はゼナですけど、ゼナの皮を被った別のモックスみたいですね。
「ゼナの皮を被ったマッティーニ」とは、上手く言ったものですね。この言葉って、このMOX-06R-2のことを言ったんだっけ?
ぐふふ、このモックスならば、ハヤテが操縦するギャンバイン以外には無双できそうですね! はっきり言って、セカンド時代のハイゼッナよりも優秀な気がします。
我がイオンの技術は宇宙いちぃぃぃ!!」
ごほん、失礼いたしました。
私以外の、親衛隊第13独立遊撃モックス増強中隊のみんなも新型に乗り換えです。
MOX-06R-2 シーマ・イソベ中佐 クリス・アルフォンス大尉 ルーデル中尉
MOX-06R-1A 他のみなさん。
MOX-06R-1Aを優先的に回してくれたのは、、嬉しい誤算でしたね。まあ、親衛隊の権力なんでしょうけど。
みんな乗りこなせるかな? 訓練をすれば大丈夫っぽいけど、約数名は若干不安が残りますね。誰とは言いませんけど、誰とは。
史実では、MOX-06R-2は数えるほどしか生産されなかったはずですけど、私たちの部隊だけでも、私の専用機が1機と普通のR-2が予備機を入れて4機あります。
確かコンペで、リックダムに負けたんだよね? 値段が高いのと整備性が悪いのとか、その他諸々の理由だったような?
コンペは来月の予定みたいですけど、コンペでは史実通りに負けるんでしょうね。だって、これ量産機の枠に収まらない機体でしょ?
その、まだ試作機のはずである、MOX-06R-2が5機もあるのは、なぜでしょうかね? まあ、高性能機が部隊に配備されるのは嬉しいですけど、謎ですね。
もしかしたら、マッティーニの為のデータ取りも兼ねているのかも知れませんね。
外観は全然違いますけど、マッティーニってこの機体から派生したというか、この機体が元になっていたはずですから。
ちなみに、シーマ様たちが乗る方の、MOX-06R-2はビームライフルは使えません。MOX-06R-2Sの私の機体だけが使えるんですよ。えへん。
でも、ビームライムルが小型化できるのは早くても秋頃みたいなのです。その頃には既に、マッティーニが完成しているはずですので、この子は、お役ごめんになるのかなぁ?
といいますか、いくらイオン公国のモックス技術が、連邦よりも10年進んでいるとか言われてても、新型モックスの開発と実戦配備に掛かる時間が早すぎると感じるのは私だけかな?
第二次世界大戦での戦闘機の開発の歴史をみても、今年の残り半年に予定されているイオン公国での、兵器開発速度は異常だと思うのです。
まあ、時代も世界線も違いますから、スーパーコンピューターを使ったシミュレーションで、検証実験が簡素化できているのが大きいのかも知れませんが。
マッティーニとかの高性能機なんて、2年も3年も前から研究してないと完成させれない気がするんだけどなぁ。基礎がしっかりしているってことなのかな?
あとは、亡国の危機だからでしょうかね? ナチスドイツや大日本帝国の終盤戦での兵器開発も異常だった気もしますしね。
うん、考えても埒が明かないから、考えるのはやめよう。いまは、羊の皮を被ったこの子のテスト中だったのです。
「特務大尉、確かに我がイオンの技術は宇宙一だとは思いますけど、興奮しすぎですよ」
「こ、声に出てましたか?」
「ええ、ワンオフ、ワンオフって喜びの声もばっちりと」
おーのー! なんということでしょうか! これは、恥ずかしいから機体から降りたら、速攻で逃げなければ。
すたこらさっさです!