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Quartett  作者: AB
9/14

Achter Satz

久々の更新になってしまい申し訳ありません。

今後は毎月末に月一程度の更新を目指します。

 ある日のD女の昼休み、音楽室には管弦楽部の部員が自主的に集まりお弁当を食べたり個人練習をしたりする。その中にカルラ達四人も机を寄せ合ってお昼ごはんを食べていた。

「新世界のびよらって殆どトレモノ(同じ音を小刻みに震わせる奏法)ばっかりよね」

「そうだよ、全体の半分くらい(※作者注・天茉理の過剰表現です)はトレモノだよ。それが良いんじゃん!さすがヴィオラ弾きのドボルザークさん、分かってらっしゃる」

 十詩子と天茉理お弁当を食べながら新世界について語っている。

「カルラのソーセージ美味しそうだねー」

「Wurst?ママの手作りなのー美味しいよー」

 そう言ってカルラと留衣がお弁当をつつきあっている。四人が仲良くお弁当を食べていると

「カルラちゃん」

 と音楽室に入ってきた薫子が呼びかけ

「薫子~」

 と無邪気にカルラが返事をした。

「バカ、薫子先輩って言え」

 先輩である薫子をいつも呼び捨てにするカルラに慌てて十詩子が嗜める。

「うふふ、良いのよ、薫子で。ところでカルラちゃん、お願いがあるの」

「なーにー?」

「あのね、今日の放課後なんだけど今度の定演の宣伝に地元テレビの生放送に出てメンコンを演奏して欲しいんだけど……」

「えー!テレビ!!」

 薫子の発言に驚いた留衣が声を上げる。その声に呼応するように天茉理も薫子に質問を投げかけた。

「メンコンだったら実際に弾く薫子先輩が出た方が良くないですか?なんでこいつに……?」

「それがねぇ、本当は部長の私と副部長の金子さんと智子の三人で行くはずだったんだけど、今日になって急遽生徒会で秋の文化祭の会議があるからって部長と副部長が出席しなくちゃいけなくなっちゃって……それでこの前メンコンがスラスラ弾けたカルラちゃんに代わりに出て貰いたいなって思ったの」

「そうなんですか、カルラがテレビに……」

 少し悔しそうな十詩子。

「えーいーなー!あたしもテレビ出たい!」

 無邪気に留衣は羨ましがっている。

「そんな、テレビでメンコン全曲弾くんですか?」

 と冷静に天茉理が質問した。

「ううん、そんなことないわよ。宣伝は三十秒の枠しかないから、弾いてもらうのは冒頭の数小節だけね。元々は私が演奏して金子さんと智子が二人で宣伝を言う手筈だったの。そうだ!四人一緒にテレビに出てみる?」


 智子に連れられてカルラ達四人は地元のテレビ局にやってきた。応接室では担当者との打ち合わせが始まろうとしていて、応対するのは背の高い若い男性スタッフだ。

「初めまして、ADの小池と言います。今日はよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 智子がおっとりとした口調で挨拶を交わすが、カルラは十詩子にぴったりしがみついて小池とは目を合わそうとしない。

「えーと、そちらの方達は……」

「今日一緒に出てもらう今年入ったばかりの中学一年生の子達なんですよ」

「あぁ、そうなんですね。で、一番端の子は……」

 と言って小池がカルラに視線を向けると、カルラは十詩子のさらに後ろに隠れるようにしがみつく。

「こら、そんなにくっつくな」

 ぴったりとしがみつかれている十詩子がカルラを引き剥がそうとするがビクともしない。

「あらぁカルラちゃん、男の人はちょっと怖いのかしらねぇ?」

「はぁそうですか、これで本番大丈夫ですかね?」

 小池が心配そうに智子と話す。

「大丈夫ですよ、この子、ヴァイオリンはとっても上手なんですよぉ」

「分かりました、本日の流れですが皆さんには地元のイベントを紹介する【イベント発見コーナー】に出演して頂きます」

「あ!あたし見たことある!!」

 コーナーの名前を聞いて留衣が思わず声をあげた。

「見たことがあるなら大体分かると思いますが、皆さんには三十秒の間、自由にPRしてもらいます。PRの前には私達が簡単にみなさんのことを説明して【それではお願いします】と言いますので、それから演奏とPRを開始してください。PR終了後に皆さんに簡単な質問をアナウンサーから行います。これが質問です」

 と言って小池は質問が書かれて紙を差し出し、それを智子が手にとって内容を確認する。

「えーと、演奏会の見所、練習で苦労したこと……」

「それではこれからリハーサルをしますので、付いてきてください」

 小池の言葉に促されて五人は応接室を出て行った。


「おー!!」

 小池に案内されて到着した場所は、テレビの収録スタジオだった。カルラ達四人にとって生まれて初めて見る複雑な機械が沢山あり、興味津々で見回している。

「【イベント発見コーナー】が始まる前に僕が合図を出すんで、それにあわせてこちらに並んで立ってください」

 小池の指示に従って五人がスタジオの一角に移動する。左から智子と留衣が定演のポスターを持って立ち中央にカルラがヴァイオリンを抱え、右側には天茉理と十詩子が連絡先の書かれた紙を持つ。若干緊張気味の五人に

「こんにちは!」

 と元気良く声をかけたのは、若い美人の女性アナウンサーだった。

「アナウンサーの吉田です。今日はよろしくね。実は私もD女管弦楽部のOGなのよ」

「あらぁ吉田さんは私達の先輩だったんですねぇ。楽器はなにをされていたんですかぁ?」

 智子がいつものおっとりとした口調で吉田に尋ねた。

「私はヴァイオリンだったのよ、あんまり上手くなかったけどね。今日はこの子がヴァイオリンを弾いてくれるのね、留学生かしら?」

 そう言って吉田はカルラに声をかけた。

「留学生じゃないよ、カルラは一年生なの」

 相手が女性だからか、カルラはいつもの調子に戻っていた。

「今日はメンコンを弾いてくれるのよね。それじゃ楽器にマイクを付けて良いかしら?」

「イヤ」

 カルラはプイと顔を背け、吉田は差し出そうとした小型マイクを手に困惑した表情になる。

「で、でもマイクを付けないと殆どヴァイオリンの音が聞こえないわよ?」

 そのやり取りを見て、天茉理と留衣と十詩子が顔を見合わせて少し可笑しそうな表情をして

「多分大丈夫ですよ、こいつの場合」

 と吉田に言った。

「そうねぇ、カルラちゃんならマイクなんて必要なさそうよねぇ」

 智子も続けて同意する。皆にそう言われて吉田は仕方なさそうに

「そう?それじゃ一度マイク無しで練習してみましょうか」

 と渋々承知してリハーサルが始まった。


……数分後……


 カルラがTutti(全員が弾き始める所)まで弾ききってしまうと、スタジオ内は水を打ったような静けさになっていた。

「次はいつ弾けばいいの?」

 カルラが楽器を下ろしてしまうまで、誰一人として喋る者はいなかった。そして

「パチ……パチパチ……」

 と誰ともなく拍手をし始めると、つられてスタジオ内のスタッフ全員が割れんばかりの拍手をし始めた。

「ね、マイクなんていらないでしょ?」

 留衣が得意気な顔をすると天茉理が

「なんでお前が威張るんだ?」

 と言って頭をパシっと叩く。

「カルラちゃんの演奏を初めて聞くと、みんな同じような反応すのねぇ」

 智子もスタジオ内の反応に少し驚いていた。一方、十詩子は心の中で呟く。

(普段音楽をしない人にもこいつの凄さって伝わるのか……)

 呆然としていた吉田が我に返って五人に堰を切ったように話しかける。

「あ、ありがとうございます。あの、この子はプロなの?」

「いーえぇ、うちの中学一年生の新入部員ですよぉ」

 そんな吉田とは裏腹に智子がおっとりと答えた。

「そ、そうなのね。ごめんなさい、本当は三十秒経ったら私から皆さんに声を掛けて、そしたら演奏を止めてもらうはずだったんだけど……思わずそのまま聞いてしまったわ。もう一度最初から段取りを確認するわね」

 吉田がそう言うと、スタジオ内は落ち着きを取り戻しリハーサルが再開された。


「今日の【イベント発見コーナー】はこちらの可愛らしいお嬢さん達がPRしてくれます、D女子学園管弦楽部の皆さんです。それではお願いします!」

 夕方の地方テレビのニュースの時間、吉田の掛け声と共に遂に本番が始まった。カルラが短調から始まる物悲しいメンコンの旋律を弾き始めると、まずは智子が喋りだす。

「私達D女子学園管弦楽部は5月○日の日曜日、アクタシティ中ホールで第**回定期演奏会を開催します」

 次に留衣が曲の紹介を行う。

「曲はショスタコーヴィチ作曲・祝典序曲、メンデルスゾーン作曲・ヴァイオリン協奏曲、ドボルザーク作曲・交響曲第九番【新世界より】です」

 留衣にとっては難しい作曲者名を噛まずに言えてホッとした様子だ。そしてカルラを挟んで天茉理がチケットの案内をする。

「チケットは全席自由席で五百円、アクタシティ・チケットセンター、Y楽器駅前店の他、D女子学園管弦楽部でも取り扱っています」

 最後に十詩子が連絡先を告げる。

「コンサートのお問い合わせ、ご案内はこちらのD女管弦楽部のフェイスブック、ツイッター、ホームページまでご連絡ください」

 と言って天茉理と二人で持っている案内板を指し示した。

「はい、ありがとうございます……?」

 吉田がそう言って五人に近づいてきたが、カルラは演奏を止める気配がない。

「バカ、もう演奏止めていいんだってば!」

 天茉理が隣で真剣な表情でメンコンをまだ弾いているカルラに話しかけるが、カルラはまだ気が付かずに演奏を止めようとしない。

「こら!止めろってば!」

 そう言ってカルラの体掴んで揺すると、ようやくカルラは気が付いたらしく演奏を止めて元のあどけない表情に戻った。

「もーいーのー?」

 段取りを全然覚えていないカルラは、少し不満そうに楽器を下ろした。ようやく演奏を止めたカルラにほっとした表情になった吉田が話しかけた。

「素晴らしい演奏でしたね、今の曲は何ていう曲ですか?」

 と問いかけてマイクをカルラに向けた。

「メンコンだよ」

 そう言い放ったカルラを天茉理が慌ててフォローする。

「えーと、メンデルスゾーンのヴァイオリンコンチェルトです」

「今度の定期演奏会で演奏する曲ですね、それでは演奏会の見所を教えてください」

 吉田はそう言って今度は智子にマイクを向けた。

「祝典序曲の金管楽器による迫力のある演奏、先ほどのヴァイオリンコンチェルトの素敵なメロディ、そして有名なドボルザークの新世界とどれも魅力的なプログラムになっています」

「練習で苦労した点などはありましたか?」

 次に十詩子にマイクが向けられた。

「こいつの暴走を抑えることです」

 とリハーサルとは違う十詩子の本音がポロっともれてしまうと、智子、留衣、天茉理が思わず笑い出してしまった。

「はい、ありがとうございました。皆さん是非聴きに来て下さいね。【イベント発見コーナー】でした」

 最後に吉田が苦笑いをしながらも上手く場を纏めてコーナーは終わりを告げた。

「みなさん、こちらに急いで来て下さい」

 と言って小池がカルラ達五人をカメラの入らない位置まで移動させた。

「はぁ~終わった~」

 緊張から開放された留衣が、その場でしゃがみこんで安堵の表情を浮かべた。

「緊張したな~」

 十詩子も持っていた案内板を握りしめながら全身の力を抜いた。

「みんなお疲れ様、大丈夫?」

 と相変わらず智子はおっとりとした口調で皆に話しかけた。そんな智子の様子を見て天茉理が

「智子先輩は緊張しなかったんですか?」

 と質問した。

「私だって緊張したわよぉ、カルラちゃんは?」

 黙々と楽器を拭いてケースに仕舞っていたカルラに智子が声をかけると

「もっと弾きたかった」

 と少し不満気に答えた。そこへ出番が終わった吉田がやってきた。

「みんな、お疲れ様でした。演奏、すっごく良かったわよ、ちょっとヒヤヒヤしたけど」

「すいませんでした、段取り通りいかないで……」

 と智子が全く気にしていないカルラの代わりに謝った。

「良いんですよ、素晴らしい演奏だったし。本番は私も見に行きますね」

 こうしてカルラ達のテレビ出演はなんとか無事に終わった。しかしこの放送の影響は、後々大変な事態を引き起こすことになる。

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