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曇りなき曇天の世界で  作者: 勇者とんこつこと城
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違和感第二波

 7月中旬。午前7時。案の定、俺は窓際で目を覚ました。

 よほど不自然な姿勢で睡眠を享受していたのだろう。関節や首筋を含め、体のあちこちがキンキンと痛む。

 俺はなぜこんなところで眠りについていたんだ?などと疑問を抱くほど、俺の脳みそは無能ではなかった。突如謎の睡魔に襲われてブラックアウトした俺の視界。しかしながら、目と脳裏に焼き付いて離れない景色がある。

 窓越しに見えた7月の銀世界。それも、現実的な寒さを伴っていた。しかしたった今目覚め、眺めてみた限りでは、銀世界どころか一塊の雪すら見当たらない。7月という季節に妥当な、普通の朝の景色に戻っている。

 

 おいおい、こりゃ一体どうなってんだ。

 

 混乱する思考を一旦停止させる。ゆっくりのんびり思索にふけっていられるわけではないことに気が付いたのだ。学校に遅刻してしまうかもしれない。

 午前7時。校門が閉められるのはあと30分後だ。飯を一気にかきこめば、ギリギリ間に合うといったところか。

 

 俺の部屋は自宅の二階、階段を上がってすぐのところにあるのだが、どうやら母がすでに調理を終えているらしく、いかにも朝飯っぽい魚や味噌の匂いが階段に沿って俺の部屋まで登ってきていた。ルーティンワークで忙しく制服に着替え、一階に降りる。


「おはよう。今日は早いわね」

 あからさまに嫌みを吐くのは我が母の口である。毎度のことだがここはスルーを選択する。

「あれ、親父はもう出たのか」

「なんかやらなきゃいけない仕事があったみたいよ」

「へぇ」


 とりとめもない会話をしている間、俺は水などを飲んでいた。母の方はと言うと、口を動かしながらも着々と料理道具やら調味料やらを片付けていたわけだが、どこの母親もこんな感じだとするなら、世の中の家庭に一人は鉄人がいるってことになるな。まったくもって感服するぜ。

 そしてここまで、いつもどおりの朝だ。あの4時頃の雪景色を除いては。

 早く食べちゃってね片付かないから、と急かす母の声を背に、俺はせっせと鮭の切り身なんかを胃袋に放り込む。重ねて言うが、極めていつも通りだ。だが、どうしてもモヤッとした違和感が拭えなかった。あの雪景色を目にしたときと同じ、違和感だ。絶対にありえない、認められない状態であるのに、何故かそれを納得してしまう自分がいて、その違和感を違和感と捉えられなくなるような。

 早朝に目覚めてしまってからカーテンを開けるまで、七月であるにも関わらずめちゃくちゃ寒いという状況に、少しも疑問を抱かなかったということ。それはつまり、その寒さをどこか納得していたということだ。今考えてみると不可解で、不気味だ。

 そんな不可解さと不気味さが、家の中にじんわりと漂っているのだ。いつもどおりの朝だ、それは間違いない。だが何か少しだけ、そして大きく違っているような。そんな気がしてならないのだ。


「らしくないわねぇ、黙りこくって。いつもはもっとやかましいのに、寝ぼけてるの?」

 普段と変わらない、母の心遣いという名をとった罵倒が身に染み入る。だがあいにく、いつも通りの俺である。そして俺は普段からそこまでやかましくはないはずだ。言いがかりはよしてもらおうか。


「ああそうそう、食べ終わったら美時を起こしてあげて。あの子、今日も起きてこないんだから」

 またどうせ夜更かししてたんでしょうけど、と母は付け加えて、俺の正面に座って新聞を開いた。裏面の一番下のところにある今日の占いを盗み見ると、慌てなければなんとかなるさ、などといったあまりにも無責任な発言が、一つならず並べてある。参考にしようとも思わず、そっと脳の奥底にしまうことにする。


「あらまた値上げですって。嫌ねぇ、どうなっちゃうのかしら我が家は」


 確かにその値上げとやらが、我が家の家計にどれほどの影響を及ぼすのかは気になる事柄だ。決して裕福ではないからな。俺ですら値上げに関してそう思えるのだから、母からすればさらに大きな問題に見えることだろう。

 だが今はそれ以上に気になることがある。

 

 少しだけ反応が遅れたが言わせてもらおう。

 

 やい母よ。美時って誰だ。

 

 

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