ちょっくら直感を頼りに
「おうっす。元気してるか」
気晴らしにぶらつこうかと思い家を出た俺は、玄関口で斎藤と出くわした。
「変化」の規模がこの街レベルなのかそれともそれ以上かなのかは知らねぇが、とにもかくにも起こっちまった変化。そうだな、共通してあの早朝の雪のことを把握しているのは、今のところは俺と美時、そしてこの斎藤だけだ。
斎藤の頭上には、俺や美時と同じように、名前を記した文字が浮かび上がっている。
「今朝目覚めたら変な音声がよ、入力しろってうるさかったんだ。つい入力しちまったけど不安になってな、お前んとこに来てみたんだよ」
そういうと斎藤は俺の頭上に目を移し、すぐに下を向いてこらえるように吹き出した。
「ぶふっ、まあ、大丈夫だったみたいだな。いやある意味大丈夫じゃないのか。くはは、バカ兄貴って」
「うるせぇよ。名前入力はあんまりゲームでは気にしてなかったから、いざ決めようとしても決めらんなかったんだよ。だから妹に任せたんだ」
「へいへい分かったって。くふっ、バカ兄貴、バカ兄貴っておい。はははは」
「いい加減にしろよな」
「はははは、あぁすまんすまん。妹がつけてくれたのか。そうか妹が……あん?ちょっと待てよ」
すまんすまんと言ったあとも斎藤はにやついていたが、今度は急に真顔になって、眉をひそめた。
「お前、妹いたっけ?」
「いなかったさ。こないだまではな」
「あぁ、そういやそうだったな、忘れてたぜ。俺はいなくなった方だからさ」
「ああ……お前はそうだったな」
斎藤がうつむく。こいつの妹への愛情は半端なもんじゃなくて、少々過保護にも似てうざがられていたような覚えもあるが、何にしても妹思いであることは今も変わりなかろう。それがある朝突然、妹がいなくなってしまったわけだ。心配しないはずがない。
「まあ、なんとかしなくちゃ仕方がねぇ。バカ兄貴、お前に一つ提案があって来たんだよ」
「斎藤、お前はしっかり俺の本名覚えてるだろうが」
「くはは、いいじゃんかよ。せっかくの名前なんだし」
「あぁはいはい、わかったよ。そんで?提案ってのは?」
俺が問うと、斎藤はちょうど東の方向を指差した。
「このままボサァっとしてるのもなんだしよ、ちょっと色々見てみないか?」
「色々って、目星は付いてるのか?」
「だから、色々だよ」
「わかったよ」
変化は起きたが、それをどうすればいいのかがわからないのが現状だ。週末だし、何かしら行動するにはうってつけだろう。斎藤が指差した方角には、ちょうど俺と斎藤が通っていた小学校がある。まずはそこらをうろつくとしよう。
「斎藤、まずは小学校からでいいか?」
「おう、直感ってやつだぜ」
斎藤の直感ならばあまり信用に足るものではないが、今は直感でしか動けないから仕方がない。鍵やら携帯電話やらを持っているか一応確認して、俺と斎藤はぼちぼちと歩き出した。