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三話目

 さて……これからどうしたものか? 目の前にいる椅子ウサギはすっかり俺に懐いてくれたようで気持ちよさそうに喉を鳴らしている。人間よりも、こういう野生に近い生物の方が逆らったらまずい相手の判断がつくからやりやすい。

 カツ、カツ、カツ……。

「あいつら戻ってきやがったか……チッ! しょうがない。椅子ウサギ」

「グゥ?」

「俺を喰え」

「グウッ!?」

 そんなことできないと言わんばかりに首をブンブンと振る椅子ウサギ。ああ、良い奴だな、お前は。だけどな、これは必要なことなんだよ。

「いいから、やれ。頼む。お願いだ」

「グ……アア!」

 ためらいがちに口を開いたかと思うと、一気に俺の右手を喰らった。一拍遅れて噴水のように噴き出た赤い液体が周囲を染めていく。

「ぎゃあああああっ!」

 わざと外に聞こえるように大声で喚く。すると、外にいた兵士たちと思わしき話し声が扉越しに聞こえてきた。誰もが、椅子ウサギの拷問によるものだと思っているようで、歓声を上げている。

「やれ……もっとだ」

「ギュアッ!」

 今度は左足。次は腹。胸。頭。上半身――その度に死ぬほどの激痛が俺の体を駆け巡る。だが、死ねない。悲鳴を上げるたびに血の出がよくなって周囲を真っ赤に染め上げる。いつしか、血で水たまりができていた。

 椅子ウサギは終始辛そうな顔をして俺を喰らっていた。同胞を、心を通わせた仲間を喰らっているのだ。いくら合成獣とはいえ、心がある。きっと、本当なら今すぐにでもやめたいのだろう。

「ギ……?」

 さらに大きく口を開けたところで――椅子ウサギの動きがピタリと止まった。かと思うと、しばらくしてその体が収縮していき、いつの間にか元の椅子に姿を変えた。直後、それを見計らったかのように入り込んでくる兵士たち。全員が下卑た笑みを浮かべてちに伏す俺を見下していた。

「どうだった? こいつの拷問は?」

「も、もう嫌だ……もう二度とこいつとは会いたくない」

 いや、嘘だからな? 俺、お前のこと好きだぞ、椅子ウサギ。

 すると、怯えた様子を見せる俺を見ながら拷問官の男が告げる。

「そんなに気に入ったか。では、今日中にお前の部屋に入れてやる。せいぜい仲良くやるんだな」

 本当この拷問官の男は乗せやすい。やっぱり馬鹿だ。まぁ、そのおかげで可愛い同居人ができた。ここは素直に感謝してやることにしよう。

 ほっと息を吐いたのも束の間、老兵によって無理矢理立たされまた先ほどのように引きずられていく。チラリと後方を見れば、椅子モードの椅子ウサギも兵士たちによって運ばれていた。どうやらあの形態になるのには何かしらの条件が必要なのか、今のあいつは本当にただの椅子にしか見えなかった。


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