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自閉  作者: クレヨン
9/13

9

 午後一時半

 陽子は保健室に戻るのだが、中が慌ただしくなっていることに、気付いた。

 廊下から、何人かの家族の声が聞こえてきたのだ。

 何事?

 陽子は、保健室に入る。

 保健室に入った陽子は、周りを見た。

 部屋の中には家族が三人、美玲、一、そして遅番で看護師 福田 陽太郎がいる。

 今ではあまり珍しくなくなった、男の看護師でもある陽太郎は、一と同じ位の体格をしているが非常に物静かで、あまり喋らない。

 歳はまだ二十代で、陽子ぐらいだ。

 ついさっきまで、三人の家族が一人の居候に、手を焼いていた。

 居候は、将太……だった。

 将太は、ベットで横たわっている。

 家族達が、それを介抱していたようだ。

 「遅い!陽子さん」

 陽太郎は、ぽつりと小声て言う。

 大きな体からは、考えられない小ささだ。

 「ゴメンナサイ、少し時間がかかったわ」

 陽子は、詫びる。

 「将太君、発作なの?」  

 続け様に、陽子は聞いた。

 「解らん、ほんの少し前まで、何もなかったのに、ここを通り過ぎようとしたら、急に暴れ出した。」

 一は、言った。

 「だけど、急に静になったの」

 美玲は、頭を捻る。

 「保健室を通った時? ここに何かあるの?」

 陽子も、頭を捻る。

 「だから、わかんねぇんだ!」

 一は、声を上げる。

 ベットでは将太が相変わらず、目を閉じていた。 

 寝てる?

 陽子が恐る恐る、覗いてみる。

 閉じられた目蓋から、液体が出ていた。

 涙だ。

 泣いているのだ。

 「何故?」

 陽子は将太が泣いていることを確認すると、皆に将太が泣いている理由を聞いた。

 美玲、一が考えている時、陽太郎がポツンと言う。

 「カツーンと、音がして、からだ……」

 「音?」

 陽子は、言う。

 「おっ、そう言われりゃあそうだ!」

 一も、同意した。

 「確か……」

 「玄関辺りからのかしら?」

 陽子は、言い切った。

 陽子は、これしか無いと、確信した。

 「そう言われてみれば……そうかも!」

 美玲も、言い切る。

 陽子は、将太の母親に会おうと、思った。 

 今回のこと、ポストのこと、そして先程黙った質問などを聞いて見たくなった。

 「あっ、ゴメンナサイ。透さんに少し呼ばれてました。すぐ、帰ってきますから……」

 陽子は、一度保健室を出た。 

 三人の家族達は、何事? と顔を見合わせ、陽子を見送った。


 「失礼します」

 陽子は、総務に顔を出す。

 「なんですか?」

 透は、書類のチェックをしている。

 笑子は、今回は何も食べていない。

 「渡辺夫妻は、中ですよね?」

 陽子は、恐る恐る透に聞く。

 「はい、そうですよ。それが何か?」

 不思議そうな顔で、透は陽子を見た。

 「いつ頃、終わりますか?実は、将太君のことでお話があります。

 今、保健室で将太君がいて、両親を待っています」

 陽子は、言い切った。

 先程保健室内で言っていた、透に呼ばれたは、嘘である。

 しかし、あの状況では、これが保健室を出やすかった。

 透は書類に目を通すと、陽子を見る。

 なんだか、怪訝そうだ。 

 「スミマセン、でも、将太君泣いてます。おそらく、将太君両親……詳しく言えば、お母さんが来てることを知っています」

 陽子は、透に言い切った。

 陽子の目には、間違いないの確信がある。

 しかし、透の顔は優れない。

 「将太君がここに、来た理由は知ってる?」

 透は言う。

 「あっ……」

 陽子は、思い出した。

 「家族の身の安全、ですよね?」

 陽子は、言う。

 「だったら、会うと思うかい?」

 透は違う書類に目を通しながら、答えた。

 陽子は、少し考えた。

 「……そうですね。止めます、失礼しました」

 ここは、あっさりと退こう。陽子は、背中を向けた。

 「陽子あまり、お節介はやめたほうがいい」

 背中越しに、透が言葉をかける。

 陽子は何も言わず、総務室を出た。


 

 

 陽子が保健室に戻ると、将太は居ない。

 一に連れられ、作業場に戻っていた。

 美玲は、姫の部屋に行っている。

 午後の回診は終わっていたが、急な呼び出しを受けたみたいだ。

 つまり、今、家族は陽太郎と二人だけだ。

 あまり時間は経っていないが、二人欠けていた。

 もしご両親が来た所で、すれ違いもいいところだ。

 何を私は、やりたかったのかしら……

 ため息を陽子はついた。

 グー!

 陽子のお腹がなった。

 そう言えば、お昼ご飯まだだ。

 陽太郎が、ニヤニヤしていた。

 音を聞いたの笑いだ。

 陽子は、陽太郎を睨む。

 どうぞ……と

 食堂辺りの方を、陽太郎は指差している。

「いいの?」

 陽子は、聞いた。

 陽太郎は、コクンと首をふり、笑顔を見せる。

 グー!

 陽子の腹の虫がまたなる。

 どうやら、待ってくれないようだ。

 陽子は、「お願い」とすると部屋を出る。

 陽太郎はいってらっしゃいと手を振って、ドンと扉を閉めた。

 それを見た陽子は、言いたいことは口にしな! と思いながら食堂に向かった。

 

 

 


 



 

  


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