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自閉  作者: クレヨン
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7

 保健室のドアが開くと、そこには髪が乱れ、服の肩辺りを破かれ、エプロンとスタンガンを持った美玲がいた。

 そして美玲の後に、黒服の男が二名「休め」の格好をしている。

 この人達は、誰なの?

 いつも、陽子は疑問だった。

 とは言え、疲れて帰って来た美玲に労いの言葉くらいは、かけないと……

 「お疲れ様です。美玲さん」

 陽子は、深く頭を下げる。

 そしてきずなの家には、何があるのだろ?と今日も不安になった。

 「今日は、ひどかった……」

 美玲は陽子にそう言うと、

 「お二方、お疲れ様です」

と、言い黒服に頭を下げた。

 すると黒服は、姿勢を正し一礼して帰って行った。

 体格の良い黒服達と、スタンガン、そして毎日のように肩で息をしながら保健室に戻る家族……。

 「何……ですか?ここには、何があるんですか?」

 陽子は、美玲に聞いた。

 陽子の瞳に、不安と恐怖が今日も映る。そして、今日も質問する。

 そんな陽子に美玲は、「いずれ、本当にいずれ、わかりますから」と、笑顔にならない笑顔で応えた。

 スタンガンを戻し、更衣室にて新しい服をみにつけに、陽子は部屋を出た。

 保健室から、更衣室は近いので自力で歩いて行く。

 陽子は、それを見送った。 




 午前十時半

 保健室での仕事が終わり、少し手が空く時間になった。

 陽子達、看護師の仕事は、朝のチェック以外にクスリの請求、委託している専門医とのメールを使ってのやりとり、もちろん具合の悪くなった居候達の簡単な診断も行っている。

 しかし診断以外は少しの時間で終わり、後は時間を持て余す。

 この日も、時間が余ってしまった。

 ……よし!

 陽子は、保健室のパソコンを開いた。

 スタンガンを使わないといけない居候、それも特候らしきを調べる。

 「陽子さん、何しているの?」

 美玲は、陽子の行動に声をかけた。

 「スタンガンや黒服達が必要な、居候のデータが欲しいです。

 いずれは、私もしないと行けないから……」

 陽子は言った。

 美玲はインスタントコーヒーに、角砂糖三つ落とす。

 「なるほど、いい心がけ。」

 美玲は、インスタントコーヒーを口にしながら言った。

 「名前、教えて下さい。」

 陽子は、言った。

 「財前 猛」

 美玲は、答える。

 陽子は居候リストから、財前を探しカーソルをクリックした。

 

 

 財前 猛

 自閉症スペクトラム

 最重度自閉症

 精神遅滞最重度

 障害者手帳 ナシ


 えっ?

 陽子は、疑問を感じる。  

 いや、これを見た関係者は、全員に頭を捻るはずだ。

 陽子は、続きを読む。


 傾向

 最重度

 こだわり、癇癪、奇声、そして他人への傷害も行う。

 睡眠障害もあり、全く眠りに就かないこともある。

 最重度は、知能面はおろか運動面においても、明らかに健常者より劣るとされているが、当居候の場合、運動面に関しては野獣のようであり、腕力が人間離れしている。

 

 別名、美獣

 

 「美獣……ですか」

 陽子は、言った。

 「そう、見かけは……でも、中身は……」

 美玲は、消化不良のように、言葉を返す。

 陽子は、続き読み続ける。


 父親は、自由党、財前和夫

 現在、政党副幹事長で、後々内閣総理大臣に近い存在で、頭脳明晰で人望もあり。



 陽子は、最後の文章に目をひんむいた。

 そして、無言で美玲を見る。

 インスタントコーヒーを口にしながら、そう言うことよ! と言うジェスチャーをした。

 きずなの家って、何なの?

 陽子は、率直に思った。

 姫と言い、スタンガンと言い……

 お金と、権力と、一体?

 「陽子、深く考えない。考えても、答えは出ない。今を、自分の与えられた仕事をこなしましょ」

 陽子の心を見透かすように、美玲は言った。

 陽子は、美玲を見る。

 「淡々と……ですか?」

 陽子は、言う。

 美玲は、コクンと頷いた。

 廊下から、足音がする。

 足音は、保健室に近づいて来た。

 とっさに陽子は、データベースをログオフする。

 

 保健室の扉が開き、白髪の男が顔を見せた。

 透だった。

 「透さん、なんですか?」

 美玲は、聞いた。

 「二人の中で、手開いてる人いる?」

 透はそう言うと、二人を交互に見た。

 「何ですか?」

 陽子は、質問する。

 「お客様を迎えにいってほしい。その人達は駅前で待ってらっしゃる」

 透は、言った。

 透は今の時間、ここが暇になることを知っているのだ。

 さすがは、透さんねと陽子は思った。

 「判りました。私が迎えに行きます。」

 陽子は、言った。

 美玲を見て、行きますからと頷いた。

 美玲は、いってらっしゃいと笑う。

 「透さんは今から、お仕事ですか?」

 陽子は、聞いた。

 「はい、暫くは中勤です。そんなことより、総務にてクルマの手配をしますから、ご同行願います。」

 透はそう言うと、陽子に総務室に来るように促す。それを見た陽子は、席を立ち部屋を出た。

 時間は、午前十一時を少しまわっていた。



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