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自閉  作者: クレヨン
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6

 陽子は建物奥にある、階段を目指してあるいていた。

 きずなの家では、一階が居候達の作業場と、家族達の事務所が中心であり、他に食堂、風呂等がある。

 二階は居候の居住スペースと、夜勤勤務の家族達の事務所がある。

 他に、娯楽室や、図書室などもある。

 居住している居候達は、四人部屋と二人部屋があり、居候達はそこで衣食住をすることになるのだか……

 二階まで来た陽子は、その上の階段を見た。

 コツン、コツン……

 誰かが、降りてくる。 

 「おはようございます」

 陽子は、足音の主に頭を下げる。

 誰かは、予測出来たからだ。

 「お疲れさまです」

 足音の主の声が声をかけた。

 陽子は、頭を上げる。

 そこには、背の高い細身の男がいる。

 家族の一人で、栄養士であり調理師でもある。調理出来ない、栄養士はいないが一応説明しておく。

 「麻衣子さんどうでしたか?」

 陽子は、細身の男に聞いた。

 細身の男は、大島 健と言った。

 「麻衣子さんではなく、姫ですよ。陽子!」

 健は言った。

 姫か……

 陽子はため息をついた。

 「気持ち判らなくないけど、それで行きましょう」

 健は、笑顔て言う。

 「麻衣……姫の相手、大変ね」

 「仕方ないです。ご指名ですから、これも仕事ですと割り切りますよ」

 健は、フゥーとため息をつきながら言った。

 「それじゃ」

 陽子は、階段を上がって行く。

 「では!」

 健は、降りていった。

 

 きずなの家、三階は居候の居住スペースで、個室がメインになっている。

 個室に入居出来る居候は、レベル1の最重度の自閉症者に加え重い精神遅滞があることが条件なのだが、それとは別に個室に入れる条件があった。

 陽子は三階に来ると、右手の廊下を歩き突き当たりの部屋はの前で足を止めた。

 ドアの横には、名前が書かれたボードがある。

 ボードには、甲斐川 麻衣子とあった。

 コンコン……

 ドアを叩く渇いた音が、湿っぽいきずなの家に響く。

 陽子は、ドアを開けた。

 部屋は洋風の彩色がなされている。

 もっと言えば、絵本に出てくるような王女様のような部屋で、部屋も広い。

 三階の右手の廊下には、この部屋しかドアがない。つまり、そのスペース全てがこの特候……特別居候のために作られたものだ。

 部屋には、必要以上に大きなベットが目に入る。

 北欧の値のつく代物らしく、格式や威厳が伝わってきそうだ。

 お姫様が眠るような造りの洋風ベットには、たくさんのウサギとクマのヌイグルミが無造作に横たわっている。

 しかし、そのことを死んでも、口には出来ない。

 横たわっているなんて間違って言うと、とんでもないことになる。

 そのベットの横に、白いテーブルがありそこで同じく、白い椅子に座る若い娘を陽子は確認した。

 少女は白いドレスを身に纏い、カチューシャで長い髪をとめている。

 食事の後のお茶をしているようで、銀製ポットから純白のカップに紅茶を注いでいた。

 「おはようございます。姫」

 陽子は、挨拶をする。

 個室に入れるもう一つの理由……

 それはズバリ、寄付金だった。

 居候の親達が、きずなの家に多額の寄付金をしてくれることが、条件となっている。

 社会福祉会のため、金はもちろん貰えるのだが、それ以上に寄付金を保護者に要求して、施設の運営を円滑に行うことにより、自閉症者に適した環境を整備していくための支援に協力的な保護者がいる居候ほど、いい条件がついてくる……

 姫の父親は、超大手グループ企業の会長だ。

 つまり、金の成木でもあり、粗末に扱うことは絶対には出来ない。

 「はーい、陽子」

 姫は、笑顔で応えた。

 機嫌は良いみたいね……

 少し、ホッとする。

 「今日、エリザベスとトーマスが、お体優れないからベットの上でねオネンネしてるの。

 それでね、ジュリエットとマークとアイビスとマサタカがね可哀想って言うから、いっしょにベットでねオネンネしてるのよ!えらいよね陽子!」

 姫はそう言うと、ベットの上の無造作に見えるヌイグルミを指差した。

 「はい、みんな優しいですね。」

 陽子は笑顔の言った。

 内心は何もしなくて良かったと、ヒヤヒヤではある。

 以前の職場の経験でこんなタイプはいたが、姫の場合はとても神経を使う。金持ちとはある意味面倒くさいと陽子は思った。

 「陽子は、どうしてここに来たの?」

 紅茶を口にしながら、姫は言った。

 美味しいとニコッとする笑顔は、まるでおとぎ話に出てくるお姫様そのものだ。

 可愛い、そして、綺麗な娘……

 陽子の第一印象は、今も変わらない。

 「前のお仕事で、色々あって……」

 陽子がそこまで言うと、姫は口を挟んだ。

 「捨てられたんでしょう?」

 「……」

 陽子は、言葉がなかった。

 「姫といっしょだね。姫、ママ様とパパにお家から、捨てられたの。

 姫が言うこと聞かない、悪い子だから。

 陽子も、悪い子だったの?」

 姫が、陽子に聞いた。

 「わかりません。わからない内に、ここへ来ています」

 陽子は、言い切る。

 「姫、はじめ、わからなかった。今は、わかる」

 姫は、ポットから紅茶のおかわりをする。

 姫は、自分で注ぐ。

 カップにいい具合で溜まり、ポットは空になった。

 「姫、ここ好き!家長お父さん面白いし、みんな姫の言うこと聞いてくれるし、ずっと居る。陽子も居なよ」

 「はい、姫、そのつもりです」

 陽子は、笑顔で言う

 「がんばろう」

 姫はとびきりの笑顔で、応えた。

 「それじゃ、姫、今日の具合を診ますね……」



 陽子は保健室に帰り、パソコンを開いていた。

 画面には、甲斐川 麻衣子こと、姫のデータがある。

 

 甲斐川 麻衣子

 自閉症スペクトラム

 高機能自閉症

 身体障害者手帳 発行されず

 

 

 傾向

 知的障害はない。

 会話も成り立つが、一方的な所がある。

 見た目は全く普通だが、こだわり、偏食、自慰行為などあり、一度感情を破裂させたら抑えられなくなる。

 感受性が非常に強く、今でも自分はお姫様で、いつしか王子様から求愛をされると思い込んでいる。


 「王子様からの求愛か……」

 別に姫に限ってではないわね……

 陽子は笑った。


 甲斐川家は華麗なる一族で、姫もその血を持っている。

 もちろん、寄付金も多額、大切にしないといけない。

 なお、依然は月替わりで、身の回りの世話人が何人か来てはいたが、姫の要望により今は全て家族が面倒を見ている。

 

 面倒……か 

 どこか、したくないような書き方に見えてしまう。

 ここまでパソコンを読むと、陽子はパソコンを閉じた。

 それと同時に、ドアから声が聞こえてきた。

 

  

 



 


 

 



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