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自閉  作者: クレヨン
3/13

3

 将太から、逃げるように放れた陽子は、居候達の後に行った。

 後ろのドアの所まで来ると、チェック票を一人の家族に渡した。

 「お疲れさま」

 その家族は、言った。

 ジャージにエプロンで、陽子とお揃いの姿だが、色気を妖艶に匂わせる家族である。

 化粧がやや濃く、掘りの深い顔立が私と同じ格好悪い服装しているなんてと今日も思ってしまった。

 陽子は、スタッフ証を見る。

 木村 美玲 と書かれてあった。

 「陽子さん何か?」

 ハスキーな声で、美玲は言う。

 「美玲さん、綺麗ですね。ここで看護士の仕事仲間として羨ましい」

 陽子は、嫉妬混じりに言った。

 「ありがとう、ダサい服装同士、仲良くしましょう」

 美玲ははぶらかすように、陽子に笑った。その顔も、陽子には無いものだ。

 ふぅ、と陽子は溜め息をつく。

 「?」

 美玲は、不思議そうな顔をした。

 「早く、家長を呼んで下さい」

 相変わらず陽子は、嫉妬混じりに言った。

 

 

 朝のチェックは、一階の食堂でおこなう。

 その後、あさの会があり、そして朝食となる。

 朝食はもちろん、食堂で食べる。

 そう言うことだ。

 陽子が美玲とのやりとりの最中に、士郎が居候といっしょに帰ってきた。

 「うーす、美玲ちゃん、今日も美人だね。さらに今日は、献身的なぁー……」

 ニタニタ笑いながら士郎は言うと、陽子を見ながら居候を連れて席に戻る。

 美玲が照れている横で、陽子は『うるさい』と中指を立て、空気相手に蹴りをいれていた。

 

 

 


 午前八時

 

 あさの会

 朝の勤務の家族達と、居候達は家長の話を待っていた。

 今日一日の予定を家長の挨拶を兼ねて行う。

 あさの会は家族達には、毎日のウザイ行事だが、自閉症を患う居候達には、とても重要な行事だ。

 自閉症者は今日の予定を事前に教えることで、安心感をあたえることになる。

 つまり、自閉症は急な予定に対応出来ない。

 それをしてしまうと、パニックを起こしてしまい手が付けられない事も多々ある。

 それを未然に防ぐため、大切な毎日の行事なのだ。

 「皆さーん、おはようございます!」

 正徳の大きな声が響く。

 陽子は、吹きそうになった。

 相変わらずの大袈裟なジェスチャーで、声のトーンも高い。

 これくらい派手な動きをしないと、居候達の視線を集められない、その理由は分かっている。

 強烈なインパクトは、居候達の心を掴むのだ。そうでないと、秩序が生まれない……

 「今日は、皆さん、四班に別れての、グループ作業でーす。

 まず、仕分け班

 ぐちゃぐちゃに入った、ゴミの塊をキレイに整理整頓して上げます。

 中には、汚いゴミもありますが、負けずにキレイにしましょう」

 正徳の声に、仕分け班の居候達は「はい」と返事をした。

 コンビニのゴミ箱を観察してほしい。

 ビンや缶、燃えるゴミなどの仕分があるが、実はあまり細かく分けていないのが実状である。

 その選別をする作業が、仕分け班だ。

 コンビニなどのゴミを、施設に運びキレイに仕分することで、社会の貢献と居候達の自立を促す。

 もちろん、出来る範囲でた。

 本当にこんな作業をしていたら、おそらく時間がいくらあっても足りなくなる。

 「陶芸班は、今日、お皿を作って色塗りして、出来たお皿を、小学校に差し上げます。

 可愛い子ども達が皆さんの、お皿を待ってます。心を込めて作りましょう」

 「ハーイ」

 陶芸班の居候達は、口々に返事をした。

 陶芸の目的は、それをすることによって感性を養い、作ることと想像することを教えていくことが目的だ。

 土は、空楽風土を使う。

 呼び方は、空楽風土クラフトと言い、焼かない陶芸をする。

 そう、焼かないのだ。

 特殊な土で焼かない皿を作り、絵を描きそれを使ってもらうと言う意味で捨てる……

 言い方に少しトゲがあるが、そうなってしまうのが現実であった。

 因みに、空楽風土が固まるまでは、二日間はかかるため、前の作り置きの色塗り、次のための陶芸作りと班でも二つに分かれるのが特徴だ。

 「パン工房の皆さんは、明日の朝ご飯のパンを焼いてもらいます。

 美味しいパンを、僕、期待してますから!」

 正徳はよだれん垂らす演技をしながら、居候達に言った。

 よくやる、陽子をはじめ家族みんなが、笑いをこらえる。

 「任せて」

 「お父さん、食いしん坊!」

 居候達は、笑顔で答える。

 パンを作る居候達は、比較的に軽症が多く、会話がかなり成り立つ。

 そのため、居候達の憧れでもあった。

 ここを目指して、居候達は頑張っていると言っても過言ではない。

 そのためか、ここの作業をする居候達には、自信と驕りが見えた。

 「最後に、ハウス班は、僕の家族といっしょに絵を描きます。

 ハウス班の皆さんは、いっしょにいる僕の家族と楽しいお絵描きをしてくださいね!」

 「……」

 ハウス班の反応はなかった。

 いや、反応が判らないのだ。

 ハウス班は、きずなの家の中で症状の重い、もしくは非常に重い居候達の作業で居候と家族一対一で行うのだ。

 つまり、一人で出来ない居候に、無理やりやらせているようにも見えてしまう。

 「今日のスケジュールは、以上でーす。それでは皆さん美味しい朝ご飯の始まりにしましょう。皆さんご飯を持って来て用意しましょう」

 正徳はそう言うと、真っ先に配膳されている朝食を取りに行った。

 正徳はここに居る居候達と、大概朝食を採る。 

 それが、日課だった。

 因みに、正徳が居ない時は、正徳の指示で指名された家族が食べることになる。

 

 よくやるわ……

 相変わらず陽子は、家長に頭が上がらない。

 もちろん、良い意味でた。

 「さて、出ましょうか」

 声をかけたのは美玲だ。

 「そうですね。事務室に集まりますか」

 陽子は、言った。

 そして、食堂を後にする。

 

 


 

 

 

 



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