o( -_-)~=○☆)゜ロ゜)ドカ!
北校舎の一件と水道場での笑顔を目撃して以来、私は無意識のうちに桐山君を目で追うようになっていた。本当無意識のうちに。
「……藍?」
「………」
「藍?ねぇ、聞いてんの?」
「………」
「今私の手に箸が握られております。これを両手に一本ずつ持ち、前方にいる人物の目玉に向かって…」
「あああああれだよね!中学の頃実験でやったカエルの解剖がグロテスクだったっていう話だよね!」
「私が食事中にそんな話題を持ち出すようなデリカシーのない女だと言いたいのかな?」
「……ごめんなさい聞いてませんでした。」
「素直でよろしいけど許さない。」
はい、りなちゃんの様子から分かる通り、私は人に怒りを与えてしまうほど桐山少年を目で追っていたようです。……なんか改めて思うと自分が気色悪いや。
「本当さ、どうしたの最近?あんた今まで全くと言っていいほど男に興味なかったのに。どんなモテ男でもこれっぽっちも眼中になかったのに。なんで急に桐山君なんかを。」
「うーん……なーんでだろうね……」
「え…そこ否定するとこじゃないの?え?本当なの?」
興味って言われれば確かに興味だ。興味津々で仕方がない。でもそれは、他の女子が彼に対して抱く興味とは、少しズレている気がする。
「お、ついに同性愛者柿沼も唯斗に落ちたか。」
お弁当を食べている私達の横を通り過ぎようとしていたクラスメイトの男子が、なぜか会話に割り込んできた。
それより同性愛者とはなんだ同性愛者とは。
「こんにちは、桐山君の友人A。」
「なんだその影の薄そうな名前。」
「だって実際そうじゃないすか。ところで同性愛者とは誰に向けて言った言葉ですか?」
「柿沼藍さんに向けて言いました。お前他の女子みたいにキャーキャー騒いでるとこ見たことないから、陰でレズなんじゃないかって疑われてるぞ。」
「……そ、そんなこと言ったら、りなちゃんだってキャーキャー言わないからレズなんじゃないかな!?」
「ねぇ私を巻き込まないで。」
「三宅は彼氏がいるから騒がないんだろ。アリバイは揃ってる。」
「そうだったりなちゃんリア充だった…」
「ごめんなさいね、貴方の気持ちに応えられなくて。」
「だから私レズじゃないからぁ‼︎」
とんだ茶番をしていると、見慣れない女の子が教室の出入り口に立ち、クラスの友達に何か耳打ちしている光景が目に入った。
まぁ、もうその段階で次の展開な予想はできる。予想通り、耳打ちされた友達は桐山君のところへ行き、呼び出しの伝言を伝えた。当の桐山君は出入り口で待っている少女を一瞥すると、伝言役の子に向かってこう言った。
「滅んで下さいって伝えといて。」
うわーお、桐山君らしいことこのうえない。
そう言われた伝言役の子は戸惑いながらも出入り口の子の所まで戻り、今言われたことを女の子に伝えたようだ。伝えられた女の子はあからさまに悲しげな顔をし、とぼとぼと来た道を戻っていった。
何でだろ、入学してから何十回と見てきた光景なのに、今日は何だが複雑な気持ちになった。
「中学からずっとあんなだよ、あいつって。」
「桐山君のこと?」
「そう。俺唯斗と中学一緒だったんだけどさ、あいつ中1の頃からやけに女嫌いだったんだよ。最初は話しかけてくる女子に片っ端から無視決め込んでてさ。それでも女子の集りが収まらなくて、そのうち酷い暴言吐くようになったんだよなー。あー、何か懐かしい。」
「……そうなんだ。」
桐山君の女嫌いは昔からフル作動してたのね。もうなんか、清々しいくらい桐山君て感じだわ。
「でも、何でだろ……?」
「さぁ、それは俺もわかんねーわ。あ、でも俺一回聞いてみた事があんのね。」
「聞いてみた?何を?」
「唯斗が女嫌いな理由を。そしたらあいつ何て言ったと思う?」
「……何て言ったの?」
ごくりと唾を飲み込む。こんな貴重な情報が聞けるなんて願ったり叶ったりだ。じれったく間を空ける彼にもどかしさを感じていると、ようやく彼が口を開き、そしてこう言った。
「罪滅ぼし、だってさ。」
「……罪滅ぼし?」
「そう。俺も良くわかんないんだけど、あいつ過去に大切な人を傷付けたらしいんだよね。それでその人の為に罪滅ぼししてるって。意味不明な奴だよな。」
「………」
確かに意味不明だった。意味は不明だったけど、なぜか、なぜか共感に似た感覚を感じた。罪滅ぼしなんてした覚えはないのだけれど。何でだろう。
「あ、もう授業始まるわ。じゃ、唯斗に見惚れ過ぎて授業怠けるなよー。」
「真後ろ見ながら授業受ける勇気ないんで。」
「話終わったようだし、私も帰るね。」
「あ、うん。何かごめん。出番減らしちゃって。」
「悪気があるならもっと増やして貰いたいな。じゃね。」
「あはは、うん。」
皆席についたところで、午後の授業開始のチャイムが鳴った。後ろの椅子が引かれる音が聞こえる。
さっきの友人Aは、桐山君が罪滅ぼしのために女嫌いになったと言っていた。
正直いうと、誰かのためにそんな事まで出来る桐山君が羨ましいと思った。ほんの少しだけ。私は自分のためだけに防衛線を張ってるセコイ奴なので。そして同時に、桐山君の事についてもっと知りたいと思った。過去も、そして現在も。とにかく彼のことについて。
さて、この興味は一体どこに分類されるのでしょう。